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遺贈寄付は「残りの人生をどう生きるか」を考えること

――日本対がん協会での主な活動内容を教えてください。また、遺贈寄付に限らず、寄付が活かされている活動はどのようなものでしょうか。

1958年の創立以来、60年以上にわたり「がんで悲しむ人や苦しむ人をなくしたい」という思いのもと、がん征圧活動を推進しています。活動の大きな柱の一つが、がん予防・がん検診の推進です。新型コロナウイルスの影響でがん検診を受ける方が大幅に減ってしまっている中、無料で検診が受けられるデジタルクーポンを発行するなど、受診率を上げて早期発見につなげる取り組みをしています。

今や日本人の2人に1人が一生のうちにがんと診断されるといわれています。がん患者さんやご家族の支援もとても大きな問題です。電話による無料相談や、チャリティ活動の「リレー・フォー・ライフ・ジャパン」、患者さんやご家族をサポートする組織の「がんサバイバークラブ」などを運営しています。

さらに、正しい知識の普及啓発にも力を入れており、乳がん検診の大切さを訴える「ピンクリボンフェスティバル」を毎年開催。子どもさんにもがんについて正しく知ってもらうことも重要だと考え、がん教育の副教材の作成・提供もしています。

私たち団体のこれらの活動の基盤は寄付金です。2021年度は総額約5億6350万円の寄付をいただきました。

主な使途は、がん検診の推進など全般的な活動の「がん征圧基金」のほか、乳がんに関わる活動を支える「ほほえみ基金」、子どもたちにがんの正しい知識を伝えるための活動の「がん教育基金」、子宮頸がんなどの婦人科がんの検診方法の調査・研究などの「婦人科がんなどから女性を守る基金」に使わせていただいています。もちろん、寄付する方からの寄付の使途に関してのご指定も承っています。

また、協会の活動として新たに、働く世代ががんに関する知識を高めることを通じて、健康全般の意識の向上、行動を変えることを目指したプロジェクト「がんリテラシー向上プロジェクト」も始めています。

――遺贈寄付は増えていますか。

年々増えているという実感があります。コロナ禍初期の緊急事態宣言下では、「死」を身近に感じた方が多かったようで、遺贈寄付に関するお問い合わせも増加しました。

しかし、これは「死」をネガティブに捉えたわけではなく、「これから残りの人生をどのように生きていくのか」を考えるきっかけになったということだと思います。相続人が誰もいない場合、遺産は最終的には国庫に行ってしまいますので「自分の死後、残した財産は社会課題の解決に向けて活動している団体を応援するために使いたい」「自分の想いをきちんと遺言書に書いて残そう」という意識を持っている方からのお問い合わせが寄せられています。

ピンクリボンフェスティバルは、乳がん検診の大切さを伝え、患者さんを支えていく活動を続けています(提供:日本対がん協会)

その人の想いが「生き続ける」のが遺贈寄付

――実際にあった遺贈寄付のケースで、寄付をした方の理由や想いを教えてください。

当協会にいただく遺贈寄付や相続財産からの寄付の多くは、亡くなった方ご自身、もしくはご家族・身近な方ががんで、その想いを私たちに託してくださるケースが多いです。

がんで入院して余命数カ月と告げられたAさんは、相続人の方がいらっしゃらない、いわゆる「おひとりさま」の方でした。ご本人の希望から、がんの制圧活動に取り組む当協会へ遺贈すると決めてくださり、病室でその旨の遺言書を書かれたそうです。

私もAさんに「もしよろしかったらお会いしたい」とお伝えしてご挨拶に伺う数日前に亡くなられて、お会いすることはかないませんでした。ただ、亡くなる直前、看護師さんに「託す先ができて安心したよ」とおっしゃっていたそうです。Aさんは、当協会の近くにあるお寺のお墓に眠っていらっしゃいます。今も私たちの活動を見守ってくださっている、私たちもそんな思いでいます。遺贈寄付は、故人の方の想いが生き続ける寄付の形です。

長年連れ添われたご主人をがんで亡くされたBさんは、「夫のようにがんで苦しむ人がいなくなるように、私の遺産を役立ててください」と遺言書に残し、ご自宅や預貯金などを遺贈してくださいました。ご主人の闘病生活に寄り添われる中、がんで苦しむ人を減らしたいと思い至って遺贈してくださったのだと思います。Bさんの遺言書の付言事項には「これまで充実した幸せな人生を過ごすことができました」とつづられており胸が熱くなりました。

無料で検診が受けられるデジタルクーポンを発行するなど、乳がん検診受診率の向上を目指しています(写真提供:公益財団法人ちば県民保健予防財団)

不動産の遺贈や少額の「のこりもの寄付」も可能

――日本対がん協会に「遺贈寄付をしたい」と問い合わせた場合、どのような案内をしていただけるのでしょうか。

まずは電話や対面でじっくりとお話を伺いながら、私たちのどの活動へのご寄付がフィットするかというご相談にのります。手続き面で迷われているところがあれば、解決のためのご提案もしますし、弁護士や司法書士などの専門家をご紹介することもあります。

事前相談で多いのは、不動産に関する問い合わせです。当協会は、金融資産だけでなく、土地・家屋などの不動産の遺贈もお受けしています(売却可能な物件のみ。山林や田畑など売却が難しいものは辞退する場合もある)。それに伴ってみなし譲渡として譲渡所得が発生する場合は、相続人にご迷惑がかからないように、当協会で税金を負担します。

ただ、生前に「対がん協会に遺贈したい」とご連絡をいただけることはまだまだ少なく、遺言執行者として信託銀行や弁護士などから「日本対がん協会に寄付したいと遺言書に書かれていたので受け取ってもらえますか」と、突然ご連絡が来るケースが多いです。

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事前にご連絡をくだされば、機関紙や活動報告をお送りして当協会の活動を知っていただいたり、セミナーやイベントなどにお誘いしたりすることもできます。亡くなってからだけではなく、「遺贈したい」と思った瞬間から“つながり”ができることも、遺贈寄付のいいところの一つだと思っています。

日本対がん協会の特定寄付担当マネジャー岸田浩美さんにお話を伺いました

――「自分はお金持ちではないから、遺贈寄付なんかできない」と思っている人も多いですが、いくらぐらいから寄付できるのでしょうか。

遺贈寄付はお金持ちがするものという印象があるかもしれませんが、そんなことはありません。つい先日、叔父様からの相続財産の一部を寄付したいという方から連絡をいただきました。

「ちょっとで申し訳ないですが、役に立ててもらえたらうれしいです」とお気持ちを伝えてくださって、数万円のご寄付をいただきました。遺贈寄付は金額の多寡ではなく、託された想いが大切だと感じています。さらに、遺贈寄付は「残ったものがあれば寄付する」という「のこりもの寄付」が可能です。

「老後資金がなくなってしまうのではないか」と心配して、遺贈寄付は無理と考える方もいらっしゃいますが、遺贈寄付は亡くなったあと、最終的に残った資産のなかから行ういわば「のこりもの寄付」です。遺言書に金額を書いたからといって、絶対にその金額を寄付しなければならないこともなく、老後資金への影響はほとんどありません。

“終活”をこの先の人生を前向きに考えるための活動と捉えていただいて、自分が亡くなった時のお金の行き先を決めておくことで、「誰かの役に立てる」と思いながら、残りの人生を豊かに過ごすことのできる遺贈寄付を検討していただけたらと思います。遺言書をつくったことで変わる未来があることを知っていただけたら幸いです。

日本対がん協会
東京都中央区に本部をおく公益財団法人。1958年の創立以来、「がん予防・がん検診の推進」「がん患者・家族の支援」「正しい知識の普及啓発」を活動の柱に様々な事業を行う。相続や遺言、終活などをテーマにオンラインセミナーを実施し、遺贈寄付の案内もしている。次回のオンラインセミナーは2023年3月に開催予定。

(記事は2023年1月1日現在の情報に基づきます)

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