広がる遺贈寄付 社会貢献の現状を解説
遺贈寄付が、少しずつ広がっています。社会貢献を続ける団体にも、徐々に寄付が集まっています。専門家が現状を伝えます。
遺贈寄付が、少しずつ広がっています。社会貢献を続ける団体にも、徐々に寄付が集まっています。専門家が現状を伝えます。
日本では年間、どれぐらいの遺贈寄付があるのでしょう?相続財産全体の規模は試算によって幅がありますが、年37兆~63兆円ほどとみられます。
認定NPO法人「シーズ」が国税庁に開示請求したデータによると、2017年の公益法人などへの遺贈は49億円、相続人が遺産から寄付した額は約289億円でした。税控除の対象ではない団体への寄付など、統計に反映されない寄付もあるので、これが遺贈寄付のすべてではありません。とはいえ、相続財産全体からみれば、まだまだ小規模なことは否定できません。
でも、将来はより多くの人が遺贈寄付をするようになると思われます。少し数字が続きますが、お付き合いください。
認定NPO法人「国境なき医師団日本」が1200人を対象にしたインターネット調査(2018年実施)では、全体のうち、「ぜひ遺贈したい」(5.2%)と「遺贈したい」(9.4%)を合わせると、計14.6%が遺贈をしたいと考えており、「してもよい」という回答まで含めると約5割の人が遺贈に前向きでした。
遺贈寄付サポートセンターという相談窓口を16年4月に開いた「日本財団」によると、センターへの問い合わせ件数は16年度1442件だったものが、18年度には1650件になりました。遺贈寄付と相続財産からの寄付件数も16年度の4件、計約4600万円から、18年度には8件、計約1億800万円に増えました。
もっと、はっきりと「動き」をみている団体もあります。公益財団法人「日本盲導犬協会」は、01年度から5年ごとに、寄せられた遺贈について分析しています。それによると、01~05年度は年平均5.6件の遺贈があり、遺贈額は年平均1億1千万円でした。それが06~10年度には6.4件、1億3400万円に、11~15年度は14.5件、3億9500万円に増えました。16~18年度の3年間の平均は年に23.0件、4億7400万円です。はっきりと、遺贈が増えている傾向がわかります。
遺贈寄付の現状は、わずかしか水が入っていないコップをみて、「これしかない」と思うか「まだこれだけ入る余地がある」とみるかです。私は将来の可能性が大きいと考えます。
そう言い切るのは、一つには社会の変化があるからです。急速な少子高齢化とともに、一人暮らし世帯が増え続けています。50歳までに一度も結婚しない割合(生涯未婚率)は現状、男性のほぼ4人に1人、女性はほぼ6人に1人で、今後も増え続けることが予測されています。相続人がいない可能性のある人が増えていきます。
相続人がおらず遺言もない故人の財産は、ほとんどが国庫に納められます。その額は年々、増える傾向にあり17年度は約525億円。12年度と比べると約1.4倍になりました。「おひとりさま」の増加に伴い、「国に納めるよりも」と遺贈を考える人は増えるでしょう。
これだけが根拠ではありません。寄付市場の広がりもあります。
東日本大震災を機に、日本では寄付が広がりました。「寄付白書2017」(日本ファンドレイジング協会編)によると、2010年の個人寄付総額は4874億円でしたが、16年は7756億円になっています。震災のあった11年は10182億円と突出しています。
寄付が社会をよい方向に変えたり、困っている人を助けたりするチカラがあることを実感する人が増えているのです。人生の最後に突然、遺贈寄付をするのはハードルが高いかもしれません。でも、日常の寄付体験はハードルが下がる方向に働くでしょう。
それに、遺贈される側ばかりでなく、寄付する人にとっても「よい」ことがあり、そのことがメディアなどを通じて知られるようになってきました。遺贈寄付すると決めた人や遺族らの取材をして感じることがあります。「思い」を次世代に託し、生きた証を残すことで、深い満足感を得ています。それが、自身の歩んできた人生を肯定することにつながるのです。具体的な事例は、おいおい書いていきます。
遺贈寄付には課題もあります。通常の寄付と違い、本人が亡くなってから実施されるため、自分では、その「成果」を見られません。だから、信頼できる寄付先をどう選ぶか、遺言をきちんと執行してくれる人をみつけられるかどうかが大切です。また、不動産などを遺贈寄付する際の壁になっている「みなし譲渡所得課税」という税制の課題もあります。こうしたこともあらためて説明していきます。
次回は遺贈寄付の寄付先の選び方についてです。
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(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)