目次

  1. 1. がん経験者や家族らがふらりと立ち寄れる「マギーズ東京」
  2. 2. iPS細胞の商用提供を担う京都大学iPS細胞研究財団

がんを経験した人やその家族、友人、医療者などが不安や孤独を抱えたとき、ふらりと寄れる場。心地よいソファでくつろぎ、庭や目の前の海を眺めてお茶を飲む。時には看護師らスタッフに話を聴いてもらう。それが「マギーズ東京」(東京都江東区)です。「お話をうかがい、ご自身がどうしたいのかという考えを整理して歩むためのお手伝いをしています。必死にはばたいてきた鳥が羽を休めて再び飛び立つ。ここはそんな、家でも病院でもない第3の居場所です」とセンター長の秋山正子さんは穏やかに話します。

マギーズ東京は、ゆったりと話ができる場だ(認定NPO法人マギーズ東京提供)
マギーズ東京は、ゆったりと話ができる場だ(認定NPO法人マギーズ東京提供)

2016年の開設以来、毎日20人ほど、延べ約25000人が利用しています。6割ががん経験者本人と家族です。年間7千万円ほどかかる運営費を支える柱は寄付。これまでに3件の遺贈寄付がありました。
いずれもマギーズを利用したことはない女性でしたが、がんを患っていました。死後、弁護士らによって遺贈されたのです。亡くなるとき、マギーズにと遺言された方もいれば、「がん患者のために使ってほしい」と友人に遺贈先を一任した結果、マギーズにという方もいました。コロナ禍でチャリティイベントが激減して収入が減った今年、遺贈寄付などのおかげでなんとか事業継続ができているといいます。

「大切な遺産を託してくださるということは、必要な活動だと認めていただけたのだと思います。託された思いを大切に受け止め、活かしていきたい」と秋山さんは言います。マギーズキャンサーケアリングセンターは英国発祥の活動で、英国では遺贈寄付が資金の中でも大きな割合を占めているといいます。マギーズ東京も2020年10月、ホームページをリニューアルして遺贈と相続財産からの寄付を受けていることを明示し、受け入れ態勢を整えました。

日本人の2人に1人が生涯にがんになります。全国各地の病院などで相談支援を行う人を対象にサポート力を高めるための研修会も開いています。「がんで見失いそうな自分を取り戻せるように」との思いが活動を支えています。

これまで治療が難しかった病気に対する「希望」の一つが「iPS細胞」です。京都大学iPS細胞研究所が研究開発を行っていることはよく知られていますが、2020年4月、研究所の一部が公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(山中伸弥理事長)として独立しました。一日も早く、良心的な価格で患者がiPS細胞による医療を受けられるよう、企業に「橋渡し」する活動をしています。

細胞調製施設内の様子(京都大学iPS細胞研究所提供)
細胞調製施設内の様子(京都大学iPS細胞研究所提供)

いくら研究所が細胞を開発しても、一般に普及しなければ元も子もありません。財団が費用を負担して企業に原材料となる細胞や基盤的な技術を安く提供すれば、ベンチャーも含め参入企業が増え、スピーディーにより安く必要な技術や再生医療製品の開発ができる可能性があります。研究所では、大学の制度上「橋渡し」実務を担う職員を安定して雇うことや、商用の細胞製造が難しいといった制約がありました。そこで、財団を設立したのです。

「あと2年で終わる国からの大型プロジェクト予算があります。その後は寄付がとても重要です。年間10数億円の予算のうち6億円は寄付によって活動資金を確保したいと考えています」と財団社会連携室室長の渡邉文隆さんは言います。遺贈寄付もその一つです。
財団では、遺贈寄付のために生命保険と信託の活用を図ります。三井住友海上プライマリー生命保険と提携して2020年7月、保険金の受取人として公益団体を指定できる「社会貢献特約」の対象団体として財団が加わることになりました。

10月にはオリックス銀行と「かんたん相続信託〈iPS財団遺贈寄附特約〉」を始めました。金銭を信託して生前は運用益を得ますが、亡くなった後はその金銭を財団に寄付します。遺言を作成する必要がなく、中途解約もできる便利さがあります。

埼玉県に住む80代男性は、この信託を使ってiPS財団への遺贈寄付を申し込みました。きっかけは2019年に妻をがんで亡くしたことでした。男性は「私が生きているうちには間に合わなくても、将来、医療がもう少し発展すれば、がんで亡くなる人も減るかもしれない。少しでも世の中に役立ててほしい」との思いから、遺贈寄付の申し込みを決めました。2人の子どもに遺贈寄付の意思を告げると、「親父が自分で決めたことなんだから、任せるよ」といって背中を押してくれました。

男性は現役時代には銀行で働き、定年後も社会福祉法人で障がいのある人の自立支援に関わっています。「あと何年生きるかわからないけれど、いくつになっても社会とつながっていたいという思いがあります。遺贈寄付を申し込んだことが、これからの余生を送るうえでの張り合いにもなりそうです」といいます。

出荷用のiPS細胞を製造する(京都大学iPS細胞研究所提供)
出荷用のiPS細胞を製造する(京都大学iPS細胞研究所提供)

iPS財団にもすでに遺贈寄付に関する問い合わせがあるほか、毎月寄付金を寄せてくれる寄付者もこの4月からの間で600人を超えているといいます。渡邉さんは「医療の技術開発に市民が寄付で参加する意義は大きいと思います。なんとなくサポートしたい、と寄付を始めてくださった方に対して、興味をもってより深く活動について知っていただけるよう努力したいと思います」と話しています。

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(記事は2020年12月1日時点の情報に基づいています)