「研究に役立てて」遺贈に最後の想いを込める患者や家族が医療機関に寄付
死んだ後、財産を役立ててほしい、と病院や学校などに寄付する「遺贈」が広がっています。病を患った人々から、最後の思いを受け取った2つの国立研究開発法人を取材しました。
死んだ後、財産を役立ててほしい、と病院や学校などに寄付する「遺贈」が広がっています。病を患った人々から、最後の思いを受け取った2つの国立研究開発法人を取材しました。
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健康診断を受けたり、病気やけがの治療だったりと、誰しも1度は医療機関にお世話になっていると思います。闘病生活が長ければ長いほど、医療従事者への感謝の気持ちは大きいでしょう。特定非営利活動法人の遺贈に関する意識調査で、死後の財産を人道支援や医療支援に役立てたいという回答が多かったのは、こうした経験があるからかもしれません。
小児・周産期医療を担う「国立成育医療研究センター」(東京都世田谷区)では、2017年度に約1億9,300万円の寄付がありました。ネット上で資金を募る「クラウドファンディング」も実施し、重症患者を搬送するための特殊な装置を備えた「ドクターカー」の購入に約1,700万円、免疫力が低下した小児がん患者らの感染症を防ぐ「無菌室」の整備に約3,100万円がそれぞれ集まりました。
これまでに遺贈は1件、相続人による相続財産の寄付は6件ありました(2019年9月時点)。遺贈をしたのは、お子さんを1歳のときに亡くした女性で「子どもの健康のために役立ててほしい」との思いを残したそうです。
寄付の使い道は、主に三つあります。内訳は、①診療報酬ではまかなえない患者の療養環境の整備や人材育成などに活用する「アイノカタチ寄金(成育基金)」②特定の研究や医療従事者、研究者の支援に充てる「研究基金」③人工呼吸器などの医療的ケアが自宅で必要な子どもや家族が宿泊できる施設に生かす「もみじの家基金」です。
宿泊施設「もみじの家」は、2016年4月に病院棟のそばで開設しました。9泊10日まで滞在でき、医療的ケアに加えて遊びや地域の交流などを通じて子どもたちの成長をサポートしています。2018年12月末までに延べ約1,600人が利用し、患者の保護者らからは「助かる」との声が寄せられています。この施設は、運営の経費も寄付なくしては成り立たないそうです。
国立成育医療研究センターの小児医療は世界でもトップレベルといわれ、他の病院からの患者を2日に1人のペースで受け入れています。ただ、最先端医療を提供し続けるには、設備投資や維持などに多くの費用がかかるため、診療報酬だけで病院を運営するのは難しいです。また、ストレスを抱えた子どもに愛情と安らぎを与えるよう専門的トレーニングを受けたファシリティードッグや、被ばく線量が少ないように開発された医療機器の導入など、環境の整備には寄付が不可欠です。
国立成育医療研究センターの病院棟には子どもが遊べるスペースやオブジェなどがありますが、遊園地のような欧米の小児病院と比べると、まだまだ「殺風景」だといいます。賀藤(かとう)均病院長は「病院は嫌なところというイメージがあるので、楽しく思ってもらえるものがたくさんあると、お子さんを連れてくる親御さんも安心すると思います」と説明し、「そういったものの購入に診療報酬を使えないので、寄付をいただけるとありがたいです」と協力を呼び掛けています。
一方、がんの早期発見や病態解明、新たな治療法の開発などを行う「国立がん研究センター」(東京都中央区)では、2018年度に988件、約4億1,000万円の寄付がありました。500万円以上の寄付は8件あり、このうち2件が遺贈でした。がん患者やその家族が、お世話になった診療科や国立がん研究センターの医療向上のために寄付するケースが多いのだそうです。
遺贈をしたのは国立がん研究センター中央病院で治療を受け、長年がんと闘ってきた男性患者です。死の直前、寄付担当者を病室に呼び、「がん研究に役立ててほしい」と約3,000万円の寄付を申し出ました。
寄付担当者は「ご家族に相談される方や、お一人で考え抜いて寄付を決意される方、様々でいらっしゃいます。我々は、そうした患者さんお一人お一人の思いを大切に受け止め、できる限りその思いにそえるよう、努めてまいります」と話します。思いとともに受け取った寄付金は、国立がん研究センターが重点を置くプロジェクトのほか、がん医療の推進や院内環境の整備などに役立てています。
このプロジェクトは①リハビリや就労・就学などの支援で患者の療養生活の質の向上につなげる「患者サポートセンター」②内視鏡機器の開発や医療従事者の育成などを進める「NEXT医療機器開発センター」③がんを早期に発見できる検査法や新規治療薬の開発などに取り組む「Endeavor(エンデバー)」④患者の遺伝子解析に基づいた医療を提供するための「SCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)」があります。
がんに関する情報をまとめた冊子やリーフレットを各地の公共図書館に届ける試みも進めています。目標は500館で、2019年9月時点で269館に達しました。理事長特任補佐の北波(きたば)孝氏は「医療の進展や研究の振興とともに、がんの知識を広めることに取り組んでいます」と説明します。
がんは2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるほど身近な病といわれ、3大死因の1つです。
研究センターは「がんの克服」という最終目標の達成に向け、山積する課題の解決に力を尽くしています。しかし、それには安定的な財源確保が不可欠で、ホームページでは「一人でも多くの患者さんを救うために、皆様からのご寄付が大きな支えになります」と記しています。
北波氏は「患者さんやご家族の思いを大切にしています」とした上で「患者さん以外にも関心を持っていただき、支援の輪を広げていきたい」と話しています。
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