目次

  1. 1. 公正証書遺言の効力
  2. 2. 公正証書遺言が無効になる場合
    1. 2-1. 公正証書遺言が有効となる要件
    2. 2-2. 公正証書遺言と遺留分侵害額請求の関係
    3. 2-3. 公正証書遺言の有効期限
  3. 3. 公正証書遺言の効力が争われたときの対処方法
    1. 3-1. まずは交渉、しかし交渉で決着しないことも多い
    2. 3-2. 交渉で決着しなかったら
  4. 4. まとめ

正しく作成された公正証書遺言があれば、遺言者の意思を実現することができます。具体的には、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、寄付、認知、保険金受取人の変更、特別受益の持ち戻し免除、推定相続人の廃除、遺言執行者の指定、祭祀承継者の指定などです。

ただし、相続人以外に遺贈を受ける者(受遺者)がいない場合、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割をすることも可能です。

では、どのような場合に公正証書遺言が無効になってしまうのでしょうか。代表的なケースをいくつか解説します。

・遺言能力がなかった

遺言者が有効な遺言をするには、遺言能力、すなわち遺言内容やその影響の範囲を理解できる能力が必要です。この遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。

たとえば、一部の相続人が、遺言者は認知症であったなどと主張して遺言能力が争われることは少なくありません。この場合、病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などのさまざまな資料を参考に当時の遺言能力を判断することになります。

・証人が不適格であった

公正証書遺言を作成する際には、証人2人以上の立会いが必要です(民法969条1号)。そして、この証人には、未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、推定相続人及び遺贈を受ける者の配偶者及び直系血族等はなることができません。そのため、これらの者を証人として作成された遺言は無効です。

・口授を欠いていた

公正証書遺言を作成する際、遺言者は、遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません(民法969条2号)。「口授」とは、口頭で述べるということです。

原則として動作によって伝えることは許されないため、病気などの理由で発話が困難になった遺言者の遺言に関し、口授の有無が問題になることがあります。たとえば、遺言者が公証人の読み聞かせに単にうなずいたに過ぎない場合は口授があるといえず、遺言は無効となる可能性が高いでしょう。

なお、口がきけない人は、公証人の面前でその趣旨を自書(筆談)するか、通訳人の通訳を通じて申述する形で公証人に意思を伝えることで「口授」に代えることが可能です(民法969条の2第1号)。

・詐欺、強迫、錯誤があった

詐欺、強迫、錯誤による遺言は、民法の一般原則に従い、取り消すことが可能です。

ただし、遺言者が生存中は、遺言を撤回したり新たに遺言を作成したりすることで対応できます。そのため、これらが問題になるのは遺言者の死後ですが、詐欺や強迫などをされた遺言者本人が亡くなっている以上、相続人などの第三者がこれらの事実を立証することは通常困難です。遺言能力が争われる場合などに予備的に主張することはあるものの、これらを主たる主張として争うことはあまりありません。

・公序良俗違反

配偶者がいながら他の交際相手に全財産を遺贈する遺言などが典型的なケースで、公序良俗違反(民法90条)として遺言が無効になり得ます。

公正証書遺言の基本的な要件は下記のとおりです。

  • 遺言能力がある
  • 遺言者の年齢が15歳以上(民法961条)
  • 証人2人以上の立会い(民法969条1号)
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(同条2号)
  • 公証人による口授の筆記と公証人から遺言者・証人に対する筆記した内容の読み聞かせ・閲覧(同条3号)
  • 遺言者・証人が筆記の正確なことを承認し、各自署名・押印すること(同条4号)
  • 公証人が前各号に掲げる方式に従って作ったものであることを付記し、署名押印すること(同条5号)

遺留分侵害額請求とは、被相続人(亡くなった人)が遺留分を侵害するような遺贈や贈与をした場合に、財産をもらった者に対して自己の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。

公正証書遺言であっても、上記の遺留分侵害額請求を防ぐことはできません。そのため、相続人の遺留分を侵害する内容の公正証書遺言を作成した場合、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をする可能性は否定できません。

なお、遺留分侵害額請求をされたからといって遺言自体が無効になるわけではありません。遺言に沿って財産を取得したうえで、財産を取得した人が遺留分に相当する金銭を支払う形になります。

公正証書遺言の原本は公証役場で厳重に保管され、持ち出しは原則として禁止されています。通常公正証書の保存期間は20年ですが、例外的に公正証書遺言は原則として遺言者が120歳になるまで保存されているようです。

近時は遺言者に長寿化の傾向もあって、20年経過後に遺言者から公正証書遺言の正本等の再発行を求められた場合に対応できるようにするためです。

訴訟になると時間も費用もかかりますので、交渉で決着することに越したことはありません。負担を軽減するため、いきなり訴訟で争うのではなく、交渉から開始するのが一般的です。法定の形式に違反している方式違背など誰にでもわかる形式的な不備がある場合には、交渉で決着することも期待できるでしょう。

もっとも、遺言が有効かどうかで、各人が取得できる財産に大きく差が生じる場合が多い点は注意が必要です。たとえば、全財産を特定の相続人に相続させる遺言などが代表例で、交渉で決着しない事例も多いのが実情です。

交渉で決着しなければ、遺言無効確認請求調停や訴訟を提起され、裁判所で決着をつけることになります。事前に交渉をしていた場合には、調停ではなくいきなり訴訟を提起されることが多いでしょう。

訴訟で遺言が無効という判決が確定した場合は、遺言がなかったものとして、相続人同士で遺産分割協議をすることになります。他方、遺言が有効という判決が確定した場合は、遺言に沿って財産を承継することになります。

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公正証書遺言であっても必ずしも効力が認められるとは限りません。また、効力が認められるとしても相続人間での紛争を招く内容になっていることも少なくありません。

そのため、万全を期すのであれば、弁護士に相談しながら作成すると良いでしょう。また、遺言者の死後、遺言の効力が争われた場合には、早めに弁護士に相談して話し合いや調停などの対応を進めることがおすすめです。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)