公正証書遺言の効力が無効になる5つのケース トラブル対処方法も解説
公正証書遺言を正しく作成すると、遺言者の意思を実現できる効力が認められます。しかし、時には無効になるケースもあります。無効にならないために、公正証書遺言を有効に作成するための条件を把握しておきましょう。公正証書遺言の効力や無効になりやすいパターンや、トラブルへの対処方法を弁護士がわかりやすくお伝えします。
公正証書遺言を正しく作成すると、遺言者の意思を実現できる効力が認められます。しかし、時には無効になるケースもあります。無効にならないために、公正証書遺言を有効に作成するための条件を把握しておきましょう。公正証書遺言の効力や無効になりやすいパターンや、トラブルへの対処方法を弁護士がわかりやすくお伝えします。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
正しく作成された公正証書遺言があれば、遺言者の意思を実現することができます。具体的には、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、寄付、認知、保険金受取人の変更、特別受益の持ち戻し免除、推定相続人の廃除、遺言執行者の指定、祭祀承継者の指定などです。
ただし、相続人以外に遺贈を受ける者(受遺者)がいない場合、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割をすることも可能です。
なお、このような法律上の効力としては、自筆証書遺言と変わることはありません。
公正証書遺言は、自分で作成する自筆証書遺言と違い、公証役場で作成するものです。2人以上の証人の立ち会いのもと、公証人という法律の専門家が本人の意向を確認しながら作成してくれるため、書き方の誤りで無効になる恐れがありません。また、遺言書を公証役場で預かってもらえるため紛失のリスクもありません。
公正証書遺言の有効期限はありません。ただし、公証役場での保管には期限があります。
通常、公正証書の保存期間は20年ですが、例外的に公正証書遺言は原則として遺言者が120歳になるまで保存されているようです。
近時は遺言者に長寿化の傾向もあって、20年経過後に遺言者から公正証書遺言の正本等の再発行を求められた場合に対応できるようにするためです。
信頼性の高い公正証書遺言であっても、一定の相続人が最低限の遺産を受け取れる権利である「遺留分」を侵害する内容であった場合、遺留分の支払いを請求される可能性があります。遺留分は法律によって保障された権利であり、公正証書遺言によっても奪うことはできないためです。
なお、遺留分を請求をされたからといって遺言自体が無効になるわけではありません。遺言に沿って財産を取得したうえで、財産を取得した人が遺留分に相当する金銭を支払う形になります。
自筆証書遺言と比べ、無効になるリスクが少ない公正証書遺言ですが、絶対に大丈夫というわけではありません。次のような5つのケースは、無効になる可能性があります。
それぞれについて、詳しく説明します。
遺言者が有効な遺言をするには、遺言能力、すなわち遺言内容やその影響の範囲を理解できる能力が必要です。この遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。
「認知症の状態で、公正証書遺言をつくれるの?」と思う方もいると思いますが、公証人が遺言者に認知症かどうかの確認を常にするわけではありません。
実際、一部の相続人が遺言者は認知症であったなどと主張して、遺言能力が争われることは少なくありません。この場合、病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などのさまざまな資料を参考に当時の遺言能力を判断することになります。
公正証書遺言を作成する際には、証人2人以上の立会いが必要です(民法969条1号)。そして、この証人には、未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、推定相続人及び遺贈を受ける者の配偶者及び直系血族等はなることができません。そのため、これらの者を証人として作成された遺言は無効です。
公正証書遺言を作成する際、遺言者は、遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません(民法969条2号)。「口授」とは、口頭で述べるということです。
原則として動作によって伝えることは許されないため、病気などの理由で発話が困難になった遺言者の遺言を巡り、口授の有無が問題になることがあります。たとえば、遺言者が公証人の読み聞かせに単にうなずいたに過ぎない場合は口授があるといえず、遺言は無効となる可能性が高いでしょう。
なお、口がきけない人は、公証人の面前でその趣旨を自書(筆談)するか、通訳人の通訳を通じて申述する形で公証人に意思を伝えることで「口授」に代えることが可能です(民法969条の2第1号)。
詐欺、強迫、錯誤による遺言は、民法の一般原則に従い、取り消すことが可能です。
ただし、遺言者が生存中は、遺言を撤回したり新たに遺言を作成したりすることで対応できます。そのため、これらが問題になるのは遺言者の死後ですが、詐欺や強迫などをされた遺言者本人が亡くなっている以上、相続人などの第三者がこれらの事実を立証することは通常困難です。遺言能力が争われる場合などに予備的に主張することはあるものの、これらを主たる主張として争うことはあまりありません。
配偶者がいながら他の交際相手に全財産を遺贈する遺言などが典型的なケースで、公序良俗違反(民法90条)として遺言が無効になり得ます。
公正証書遺言の有効性を巡る争いを避けるためにも、基本的な要件について抑えておきましょう。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す訴訟になると時間も費用もかかりますので、交渉で決着するに越したことはありません。負担を軽減するため、いきなり訴訟で争うのではなく、交渉から開始するのが一般的です。法定の形式に違反している方式違背など誰にでもわかる形式的な不備がある場合には、交渉で決着することも期待できるでしょう。
もっとも、遺言が有効かどうかで、各人が取得できる財産に大きく差が生じる場合が多い点は注意が必要です。たとえば、全財産を特定の相続人に相続させる遺言などが代表例で、交渉で決着しない事例も多いのが実情です。
交渉で決着しなければ、遺言無効確認請求調停や訴訟を提起され、裁判所で決着をつけることになります。事前に交渉をしていた場合には、調停ではなくいきなり訴訟を提起されることが多いでしょう。
訴訟で遺言が無効という判決が確定した場合は、遺言がなかったものとして、相続人同士で遺産分割協議をすることになります。他方、遺言が有効という判決が確定した場合は、遺言に沿って財産を承継することになります。
公正証書遺言全体の総数から見れば稀です。公正証書遺言は法律のプロである公証人が遺言者の意思を確認するため、遺言能力がない状態で作成されることは少ないためです。
とはいえ、認知症を理由に遺言の有効性が争われるケースは多く、裁判において実際に無効と判断されるケースも少なくはありません。
そのため、すでに認知症と診断されているなど、将来的に遺言能力が争われる可能性がある場合は、事前に対策を講じておくべきです。具体的には、遺言当時の遺言者の様子を撮影した動画や医師の診断書などの証拠を残しておくとよいでしょう。
公正証書遺言は法律のプロである公証人が作成するため、方式の不備で無効になることはまずありませんし、遺言能力がない状態で作成されることも少ないです。そのため、自分で作成する自筆証書遺言と比べると、無効にするのは難しいといえます。
ただ、公正証書遺言といえども「遺言書が認知症にかかっていて遺言能力がなかった」「証人が不適格であった」「口授を欠いていた」「詐欺、強迫、錯誤があった」「公序良俗違反」にあてはまれば、無効できる可能性はあります。
遺言の無効を主張するためには、これを立証するための証拠を収集することが不可欠です。どのような証拠を収集すべきか、また、収集した証拠をもとにどのように交渉や訴訟を進めるべきかを判断するには専門的知識を要しますので、弁護士に相談することをおすすめします。
公正証書遺言であっても必ずしも効力が認められるとは限りません。また、効力が認められるとしても相続人間での紛争を招く内容になっていることも少なくありません。
そのため、万全を期すのであれば、弁護士に相談しながら作成すると良いでしょう。また、遺言者の死後、遺言の効力が争われた場合には、早めに弁護士に相談して話し合いや調停などの対応を進めることがおすすめです。
(記事は2023年11月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の弁護士検索サービスで