遺産分割は話し合いで決めるのが望ましい

遺産分割協議は、相続放棄などがない限りは必ず相続人全員で行う必要があります。被相続人(亡くなった方)の預金解約や、不動産の移転登記手続きを行うためには、遺産分割の内容を記した遺産分割協議書を金融機関・法務局に提出しなければなりません。

その際に金融機関等は、法定相続人が誰であるか、戸籍等をもとに確認します。そして法定相続人のうち1人でも遺産分割協議書への署名捺印が欠けていれば、金融機関等は預金解約や登記移転に応じてくれません。つまり、遺産分割協議には、法定相続人全員が参加し、全員で署名・捺印する必要があるのです。

遺産分割がまとまらない場合には、家庭裁判所での調停を経て、最終的には家庭裁判所の審判で裁判官が遺産分割の内容を決めることになります。

ただ、審判においても、裁判官は基本的には相続人の意思を尊重します。もちろん、審判では法定相続分をもとに公平に行われますが、具体的に誰がどの財産を相続するかについては、各相続人が何を相続したいと主張しているかをもとに決定するケースが多いです。

調停・審判となれば時間と費用が掛かりますので、できればそのような手続きをすることなく、話し合いで遺産分割できることが望ましいでしょう。

遺産分割を行うときのポイント

■遺産分割のポイント1:遺産内容をリストアップ
遺産分割を行うための大前提として、遺産にどのようなものがあるのかを相続人は正確に把握しておく必要があります。預金、不動産、株式等の各遺産を評価額とともにリストアップして、遺産分割の対象となる遺産の総額・内容を明確にするようにしましょう。

■遺産分割のポイント2:各相続人の主張をよく聞く
次に各相続人の主張をよく聞きましょう。各相続人が、遺産の中で何をどれくらい相続したいと言っているのかを冷静に聞いてみてください。

たとえば、「単純に平等に分けてほしい」と言っている場合や、「私が生前身の回りの世話をしていたのだから多く相続したい」(法律的には寄与分と言います)、「あなたは生前に贈与してもらっていたものがあるから私のほうが多く相続できるはずだ」(法律的には特別受益と言います)など、各自が何を求めているのかを冷静に聞く必要があります。

ここでは、「冷静に聞く」ことが大切です。相続に関する話し合いの場では、感情のもつれから話し合いがこじれることが多々あります。うまく遺産分割協議を成立させるためには、相手が何を言っているのかを冷静に理解する必要があるでしょう。話をよく聞けば誤解がとけ、話し合いがスムーズに進むケースもあります。

■遺産分割のポイント3:遺産分割の方法を考える
遺産の内容を確認し、各相続人の主張を聞いたら、それらを整理し、各相続人の法定相続分を踏まえて、各相続人が納得するような遺産分割案を提案しましょう。

弁護士に依頼することで解決することも

■弁護士は、調停前の遺産分割協議も対応できる
弁護士の業務は、調停などの裁判上の手続きだけではありません。調停前の話し合いにおいても、弁護士は代理人として各相続人と交渉できます。

相続税の相談を受けている税理士や、不動産登記について相談を受けている司法書士が相続に関してアドバイスをすることもありますが、ほかの相続人と交渉できるのは弁護士だけです。

特に相続人が多い事案では、交渉が必要になることも多いと思いますので、当事者同士ではまとまらないときは、弁護士にご相談ください。

■適切な遺産分割案を提案してもらえる
弁護士に相談すれば、遺産の内容、各相続人の主張を踏まえ、第三者の視点から分析し、調停・審判になったときの見込みを踏まえて適切な遺産分割案を提案してくれます。

不動産などの分割しにくい遺産がある場合でも、代償分割(相続人の1人が単独で不動産を相続し、その代わりに他の相続人に対して代償金を支払う方法)、換価分割(相続人全員で不動産を売却して清算する方法)・共有(相続人が不動産の持ち分割合を決めて相続する方法)など、事案に応じた適切な分割方法を提案してもらえるでしょう。

■弁護士が入ることで話し合いに応じてくれやすくなる
相続では、感情のもつれから揉めることも多くあります。お互いに相手への不満など言いたいことがたくさんある場合も多いでしょう。こうした場合でも、弁護士に依頼すれば、第三者的な視点で相手を説得してくれるほか、相手も第三者である弁護士の話なら聞き入れやすいといったメリットがあります。

実例を紹介

■ケース1:遺産内容が多岐にわたる場合
被相続人の遺産には、複数の預金口座、株式、実家不動産(土地・建物)がありました。相続人は、被相続人の子5人(兄弟姉妹)です。その相続人のうちの1人(長男)が生前に実家不動産の一部を被相続人から借り、事業用の倉庫として使用していました。

被相続人が亡くなったあと、長男は賃料を支払わずに倉庫の使用を継続し、不動産の単独相続を主張していました。これに対して、他の相続人4人は、相続人全員で平等に分割したいという意向を持っていましたが、感情のもつれもあり話し合いができず、遺産分割できないままの状態が続いていました。

この事案で、相続人4人の代理人についた弁護士から、長男に対して、被相続人死後の未払賃料の支払いと、その不動産に対するほかの相続人の相続分の買い取り(代償分割)を求めたところ、長男は、「そこまでして使用する意思はない」と退去しました。

最終的には、不動産を相続人全員で売却して売却額から未払賃料を清算し、預金、株式もすべて換価し、法定相続分通りに分配することを内容とする遺産分割が成立しました。本事例では、換価した金員を誰が受領し保管するかでも問題が起きそうでしたが、代理人である弁護士が預り金口座で保管するということで相続人全員が納得し、解決できました。

■ケース2:相続人の1人が代償金を支払って解決
被相続人の遺産に、被相続人が地方に所有する山林と、都市部に所有する土地があり、土地は駐車場として第三者に賃貸し、賃料収入がありました。相続人は、被相続人の妻と子3人(男兄弟)です。

妻は高齢のため老人介護施設に入っており、成年後見人(弁護士)がついていました。長男が生前の被相続人の世話をしていたことから、次男と三男は、長男がすべて相続することで納得していました。ただ、妻の成年後見人は、長男がすべて相続することは認められないとしていました。

この事案で長男の代理人となった弁護士は、遺産の不動産について、山林については固定資産税評価額、駐車場の土地については路線価をもとに評価額を算出し、妻の法定相続分に相当する金銭を、長男から妻(後見人)に支払うことを内容とする遺産分割を提案。1.長男が後見人に代償金を支払うこと、2.すべての財産を長男が相続することを内容とする遺産分割協議書を作成し、各相続人が署名捺印して、遺産分割協議が成立しました。

まとめ

相続人が多数いる場合、人数に比例し、遺産分割を話し合いでまとめるのが難しくなります。各相続人それぞれに主張があり、また、生前の関係性などの感情のもつれもあるでしょう。話し合いで解決するためには、遺産の内容を正確に把握し、冷静に相手の話を聞き、法定相続分をもとに適切な遺産分割案を提示する必要があります。

当事者同士の話し合いでは解決するのが難しいという場合は、弁護士にご相談ください。弁護士であれば第三者的な視点から適切な分割案を提案でき、各相続人との交渉もスムーズにいく可能性が高くなるでしょう。

(記事は2022年5月1日現在の情報に基づいています)