遺産分割協議の期限は10年? 3年? 10カ月? 早めに対応すべき理由を弁護士が解説
法律上、遺産分割協議自体には期限がありません。しかし、相続開始後10年が経つと、特別受益や寄与分の主張ができなくなります。また、相続登記にも3年の期限が設けられ、相続税の申告納税期限は10カ月となっています。遺産分割協議が10年以内と言われている理由や期限を過ぎた場合のリスク、早期に対応すべき理由について、弁護士が解説します。
法律上、遺産分割協議自体には期限がありません。しかし、相続開始後10年が経つと、特別受益や寄与分の主張ができなくなります。また、相続登記にも3年の期限が設けられ、相続税の申告納税期限は10カ月となっています。遺産分割協議が10年以内と言われている理由や期限を過ぎた場合のリスク、早期に対応すべき理由について、弁護士が解説します。
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2021年4月、民法が改正され、相続開始後10年が経つと、被相続人(亡くなった人)から一部の相続人だけが生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益である特別受益や、相続財産の維持・増加への貢献度に応じて認められる相続分の増額分である寄与分について主張できなくなりました。そのため、「遺産分割協議は10年以内にする必要がある」と言われるようになりました。
実は、遺産分割協議には法律上の期限はありません。相続開始後何十年経っていても、遺産分割協議は可能です。
しかし、遺産分割がされないまま長期間が経つと、たとえば誰のものかわからない所有者不明土地が生まれてしまうおそれがあります。土地を購入したい人がいても、誰から購入すればいいかわからず、結果として土地を活用できない、という事態にもつながります。
そこで、早く遺産分割協議をするよう促すため、特別受益や寄与分の主張に期間制限が設けられました。
相続開始後10年以内に主張が制限されたのは、特別受益と寄与分です。
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前に財産を受け取っていた場合、すでに財産を受け取った相続人が相続する財産を、法定相続分より少なくする制度です。
一方、寄与分とは、被相続人が財産を維持・形成したことに貢献した相続人がいる場合、財産の維持形成に貢献した相続人が相続する財産を、法定相続分より多くする制度です。
このように、特別受益や寄与分を考慮することで、公平に財産を相続させることにつながります。
期限を過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分に従って財産を分けることになります。そのため、特別受益や寄与分を主張すれば多くの遺産を相続できたはずの相続人にとっては、取得する財産が少なくなってしまいます。
なお、相続人全員が同意すれば、法定相続分とは異なる割合で財産を分けることもできます。しかし、話し合いが折り合わなければ、裁判所は特別受益や寄与分は無視して、法定相続分に従って財産を相続させるよう審判を下すことになります。
改正民法は2023年4月1日から施行されています。
2023年4月1日以前に発生した相続にも適用されますが、施行日から5年以内に期限が来る場合は、猶予期間として施行日から5年以内であれば特別受益や寄与分を主張できる、とされています。
民法改正と併せて不動産登記法が改正され、相続登記についても3年の期間制限が設けられました。
相続登記(相続した不動産の名義変更)の義務化は2024年4月1日から始まっています。
相続が発生し、不動産の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に不動産の相続登記をすることが義務づけられました。また、遺産分割協議が成立したときは、成立した日から3年以内に相続登記をすることが義務づけられています。
これらの義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となります。施行日以前に相続した不動産についても適用されるので、注意しましょう。
3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合、上記のルールに従えば、いったん3年以内に法定相続分に従った内容で相続登記をして、遺産分割がまとまったあとに再度遺産分割の内容に従った内容で所有権移転登記をする必要があります。しかし、2度も登記手続きを行うのは手間も費用もかかります。
そこで、遺産分割がまとまらずに速やかに相続登記ができない場合、相続人であることを法務局の登記官に申告すれば、相続発生後3年以内の相続登記の義務を果たした扱いとなります(相続人申告登記制度)。この制度では、各相続人が単独で申告できるだけでなく、法定相続登記に比べて必要書類も少なく、かつ押印や電子署名も求められないことから、相続人にとって手続きの負担が軽いです。すぐに相続登記ができない場合はこの相続人申告登記制度を利用しましょう。
相続税の申告が必要な場合、相続が発生したことを知った日から10カ月以内に申告し、納税しなければいけません。申告期限内に申告をしないと、無申告加算税や延滞税が課されてしまいます。
また、10カ月以内に遺産分割協議がまとまらない場合、配偶者控除の特例や小規模宅地の特例など相続税額を低くする特例が使えなくなることがあります。相続税申告時に「3年以内の分割見込書」を提出すれば、その後遺産分割が成立した際に更正請求を行うことで、特例の適用を受けて納めすぎた金額の還付を受けることはできます。ただし、更正請求の手間が増える、相続税申告時の納税額が高くなり納税資金を確保する必要が生じる、といったデメリットがあります。
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相続の相談が出来る弁護士を探すこれらの期限内に遺産分割を進めようとしても、相続に関する知識がなければ話を進めることができません。スムーズに進めるには、弁護士や司法書士、税理士など専門家へ相談しましょう。
また、遺産分割協議が折り合わず、相続人間でもめそうな場合には、弁護士に依頼して代理人として遺産分割協議を任せることもできます。
その他、相続の前提となる相続人調査(戸籍の収集)や財産調査といった手間がかかる調査についても専門家に依頼するとスムーズです。
遺産分割協議自体には法律上の期限はありませんが、特別受益や寄与分の主張が制限される期限、相続登記期限、相続税申告期限、といった期限があります。
これらの期限の直前に慌てることのないように、できるだけ早めに専門家に相談し、期限内に遺産部分割協議がまとまるようにすることをお勧めします。
(記事は2024年6月1日時点の情報に基づいています)
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