事業承継に適用できる遺留分の特例とは? 適用条件や利用の手順を弁護士が解説
事業承継の際は、1人の後継者へ遺産を集中させると、死後に、他の相続人から一定の遺産の取り分が法律上保障されている遺留分侵害額請求をされるおそれがあります。そのため、遺留分トラブルには十分な注意が必要です。遺留分に関する民法の特例を利用すると、トラブルを防いでスムーズに事業承継しやすくなります。事業承継において遺留分トラブルを防ぐ方法を、弁護士が解説します。
事業承継の際は、1人の後継者へ遺産を集中させると、死後に、他の相続人から一定の遺産の取り分が法律上保障されている遺留分侵害額請求をされるおそれがあります。そのため、遺留分トラブルには十分な注意が必要です。遺留分に関する民法の特例を利用すると、トラブルを防いでスムーズに事業承継しやすくなります。事業承継において遺留分トラブルを防ぐ方法を、弁護士が解説します。
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遺産の相続人のうち、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」という一定程度の遺産の取り分が法律上保障されています。もし遺言で特定の相続人に遺産をすべて相続させることになっていたとしても、この遺留分にあたる遺産の取り分は支払いを受けることができるという制度です。
また、遺産だけではなく、一定の生前贈与(相続開始からさかのぼって、相続人に対して行われたものは10年間、相続人以外に対して行われたものは1年間)についても、遺産を構成する財産として、遺留分の計算の対象となります。
たとえば、先代の経営者である父が後継者である長男に自社株や事業用資産を集中させて、会社や個人事業の経営を承継させようとしていたとします。
しかし、父が亡くなり、長男に父の自社株式や事業用資産を集中させようとしても、次男、三男、長女など長男以外の相続人が複数いる場合、長男以外の相続人には「遺留分」があります。そのため、長男は遺留分を侵害された他の相続人から遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求められる可能性があります。
遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求められた結果、長男は自社株式や事業用資産を処分せざるを得なくなり、円滑な事業承継が妨げられるおそれがあります。
特に自社株式については、父が亡くなった際、価値が上昇し想定外の遺留分の支払いを請求されるということも考えられます。また、遺留分の事前放棄は一定の要件を満たす必要があり、裁判所の許可も必要となるため利用がしにくいのが現状です。
事業承継を円滑に進めるため、経営承継円滑化法において「遺留分に関する民法の特例」が設けられています。
民法特例では、会社または個人事業の経営を承継する際、この民法特例を活用することで、先代経営者の推定相続人(先代経営者が亡くなる前において、先代経営者の相続人であると推定される人のこと)である全員(ただし、遺留分を有する者に限る)の合意のうえで、先代経営者から後継者に贈与等された自社株式・事業用資産の価額について、下記の法的手段をとることができます。
①除外合意
会社:自社株式の価額について、遺留分を算定するための財産の価額から除外できます。
個人事業者:事業用資産(土地、建物、機械などの減価償却資産)の価額について、遺留分を算定するための財産の価額から除外できます。
②固定合意
会社:自社株式の価額について、遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定できます。
除外合意は、先代経営者が贈与等によって後継者が取得した自社株式や事業用資産の価額について、他の相続人は遺留分の請求ができなくなりますので、遺留分トラブルを抑えることができます。
また、固定合意は、会社の自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないので、相続時までに株式の価額が上昇したとしても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがないというメリットがあります。
なお、固定合意については、会社の自社株式の場合のみ利用が可能です。また、固定する合意時の時価は、合意のときにおける相当な価額であるとの税理士、公認会計士、弁護士等による証明が必要となります。
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相続の相談が出来る弁護士を探す①会社:中小企業であること、合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
②先代経営者:過去または合意時点において会社の代表者であること
③後継者:合意時点において会社の代表者であること、先代経営者からの贈与等により株式を取得したことにより会社の議決権の過半数を保有していること。
※推定相続人以外の人間も対象となります。
①先代経営者:合意時点において3年以上継続して事業を行っている個人事業者であること、後継者に事業の用に供している事業用のすべてを贈与したこと
②後継者:中小企業者、合意時点において個人事業者であること、先代経営者からの贈与等により「事業用資産」を取得したこと
合意書の作成
先代経営者の推定相続人全員(遺留分を有する者に限る)と後継者が合意し、合意書を作成します。
経済産業大臣の確認
合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請する必要があります。
家庭裁判所の許可
経済産業大臣の「確認書」の交付を受けた後継者は、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所(先代経営者の住所地を管轄する家庭裁判所)に「申立書」に必要書類を添付して申立てをし、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
推定相続人全員の合意が得られないなど民法特例を適用できない場合、以下の方法で遺留分トラブルのリスクを減らすことができます。
弁護士に相談すると、民法特例の要件を満たしたり法的に判断してもらえたりするだけでなく、合意書を作成するなど複雑な手続きを代わりに行ってもらえます。税理士と連携している弁護士も多いので、事業承継全体をサポートしてもらうこともできます。
また、民法特例が適用できない場合であっても最適な遺留分トラブルの対策方法を提案してもらえますし、万一、相続トラブルが発生したときにも対応してもらうことができます。そのため、将来の相続トラブルを予防するためにも早期に弁護士に相談することが有効です。
事業承継の際には、遺留分の問題をはじめとしてさまざまな対策が必要です。遺言書の作成や税金対策もしなければならないので、専門家によるサポートが必須です。税理士と提携している弁護士も多いので、早めに弁護士に相談し、円滑な事業承継を実現しましょう。
(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)
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