事業承継促進は税制以外のアプローチで

――今回検討されていた、第三者への事業承継に関する税優遇策とはどのようなものだったのでしょうか。

会社の売買を促進するための政策です。経営者年齢が60歳以上の企業の5割以上が後継者不在というデータもあります。こういった会社の事業継続をしやすくするため、親族らへの贈与や相続ではなく、第三者へ株を売買する際の優遇税制の創設が求められていました。

経営者が株を売ると、売却益に対して所得税と住民税を合わせて約20%の税金がかかります。これを10%に軽減したり、個人で持つ上場株の損失を差し引きしたりして、手元に残るお金を増やすような支援が検討されていたようです。老後資金を確保し、将来の収入への不安を少しでも解消して、早めに持ち株を売っても大丈夫というメッセージを出したかったとみられます。

――見送られた背景について、どう分析していますか。

第三者への事業承継を促進させるアプローチは税制ではないという結論に至ったのでしょう。親族以外に会社を渡す場合、手元にお金を残したいからというケースはあまりないと思います。オーナーの気持ちに左右される部分が大きいです。

税理士の北澤淳さん。税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2009年慶応義塾大学経済学部卒。2011年税理士法人山田&パートナーズ入所。
2016年10月中小企業庁事業環境部財務課(税制専門官)。事業承継税制(平成29年度、平成30年度税制改正)の改正、個人版事業承継税制の草案の作成、事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の政省令改正、マニュアル作成等を行う。2018年10月から現職。
税理士の北沢淳さん。税理士法人山田&パートナーズ マネージャー。2009年慶応義塾大学経済学部卒。2011年税理士法人山田&パートナーズ入所。 2016年10月中小企業庁事業環境部財務課(税制専門官)。事業承継税制(平成29年度、平成30年度税制改正)の改正、個人版事業承継税制の草案の作成、事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の政省令改正、マニュアル作成等を行う。2018年10月から現職。

最近、大手企業による第三者への株式譲渡が話題になることもあります。どうしても「身売り」と報道され、「あの会社は経営が良くなかったのでは」というネガティブなイメージにとらえがちです。まだM&Aに抵抗感を持つ経営者も多いのではないでしょうか。

第三者への事業承継税制は2年前にも要望がありました。ただ、税優遇を目当てとして、事業継承ではなく、投機目的で売る企業も出てくるのではという懸念が、その時からありました。

会社の相続、家族間以上に重要

――後継ぎに経営権を渡す場合、事業に使う土地や建物などの資産譲渡にかかる相続税や贈与税の支払いを、一定の条件の下で猶予する事業承継税制改正が、18年度は法人向け、19年度は個人事業者向けに行われました。その効果はどうでしょうか。

個人事業主はこれからですが、法人向けの税制は優遇を受けるために必要な承継計画書の申請が増えています。また、この改正により、後継者が経営者に対して、事業承継の話がしやすくなったという声もあります。

以前は承継について経営者に話すと「引退しろというのか」と言われるので、切り出しにくかった面があります。最近は経営者側から事業承継の話をするケースも増えています。

――家族間の相続は生前贈与や遺言書を残すことが大切とされています。事業承継も同じことが言えますか。

税理士の北沢淳さん

会社の相続の方が、よりしっかりと考えるべき問題です。個人が所有する不動産等は現金化して分配することで遺産分割をまとめることができますが、会社は家族だけでなく従業員の問題もあります。簡単に売却して現金化することは出来ないケースもありますので、経営者が一生現役だと考えず、後継者育成を視野に入れながら、継ぎたいと思ってもらえる会社にしていくことが大切です。

小規模事業者は公的機関の活用も

――相続人への株の分配をめぐって「争続」になるケースもあります。

複数の相続人がいても、株は出来るだけ1人が集中して承継する方が望ましいです。この場合、株式を承継する後継者が取得する財産の割合が高くなり、他の相続人の遺留分を侵害してしまう事案も考えられます。そういった場合には、「遺留分に関する民法の特例」を適用することをお勧めしております。

民法の特例では、相続人全員が同意すれば、現経営者から後継者に贈与された自社株式は遺留分の算定基礎財産から除くことも可能です。経営者が存命のうちに、こうした特例の活用なども子どもらと話し合っておくべきです。

――中小企業の後継者不足は深刻です。第三者への事業承継を進めるには、どのような支援が必要ですか。

売り手と買い手の情報が簡単に見られるようなデータベースの構築が考えられます。経営者と話していると、近くにある企業が行った事例には親近感がわくんですね。第三者へのM&Aを行った件数が増えれば、オーナーの気持ちも変わるのではないでしょうか。

後継者がいない小規模事業者の中には、自社が第三者に売れると思っておらず、廃業しか考えていない人もいます。税理士や金融機関がサポートして、事業引き継ぎ支援センターなど公的機関の活用を促すことも必要です。

(記事は2019年12月13日時点の情報に基づいています)