目次

  1. 1. 制度の適用を受けるための要件をチェックしよう
  2. 2. 贈与時・相続時の現金負担はゼロで株式承継を行うことができる特例措置
    1. 2-1. 対象株式等の拡充
    2. 2-2. 対象者の拡充
    3. 2-3. 雇用維持要件の緩和
    4. 2-4. 経営環境の変化に応じた差額の免除
  3. 3. メリット・デメリットを理解し、ほかの事業承継手法と比較検討が必要
    1. 3-1. 後継者(2代目)から更なる後継者(3代目)に事業承継税制を使わずに株式等を贈与する場合
    2. 3-2. 後継者(2代目)の更なる後継者(3代目)が不在であるため、M&Aをした場合

事業承継を考えると、何から手を付ければいいのか、迷ってしまう人もいると思います。大事なポイントの一つは、相続税などを納める必要性が出てきた時の対策です。自社株式に係る贈与税・相続税が猶予及び免除される制度(事業承継税制)が設けられています。その内容を解説します。

中小企業経営者の高齢化が進み、多くの事業者が経営交代を行う「大事業承継時代」が到来している今、円滑な事業承継は重要な課題となっています。

その中で、2018年度の税制改正により創設された事業承継税制(特例措置)は、10年間限定ではあるものの、従来の措置(一般措置)を大幅に拡充したものとなっており、株式贈与時・相続時の税負担なく承継することができるものとなりました。

事業承継税制は、贈与税の納税猶予制度及び相続税の納税猶予制度、みなし相続にかかる相続税の納税猶予制度の総称で、後継者が、贈与又は相続等により取得した非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者がさらに次世代の後継者に当該非上場株式等を承継した場合等に、その猶予された税額が免除される制度です。

この制度の適用を受けるためには、
「先代経営者が贈与時において代表者を退任していること」
「後継者が贈与時において代表者であること」
「贈与後において、後継者が同族で過半数の株式を保有し、かつ、同族内で筆頭の株主であること」
「対象となる会社が中小企業であること」等
の要件を満たしている必要があります。

また、2023年3月末までに「特例承継計画(※1)」を都道府県庁に提出し、2027年12月末までに株式等の承継を行う必要があります。

注※1 特例承継計画……先代経営者及び後継者(最大3名まで)の氏名及び、「先代経営者が有する株式等を後継者が取得するまでの期間における経営の計画」や「後継者が株式等を取得した後5年間の経営計画」を記載します。

※(編集部注)なお、2024年度(令和6年度)の税制改正により、「特例承継計画」の提出期限は2026年(令和8年)3月31日まで延長されています。

特例措置は、主に以下の4点が一般措置に比べて拡充されています。

一般措置においては、納税猶予の対象となるのは発行済み株式総数の2/3に達する部分までであり、かつ、相続税の納税猶予制度における猶予割合は80%となっていました。そのため、事業承継税制を適用したとしても、最大でも約53%(2/3×80%)しか猶予の対象となりませんでした。

これが特例措置においては、発行済株式の全株式(無議決権株式等を除きます。)が納税猶予の対象となり、かつ、相続税の猶予割合も100%に引き上げられました。これにより、贈与時・相続時の現金負担はゼロで株式承継を行うことができるようになりました。

一般措置においては、一人の経営者から一人の後継者への贈与・相続のみが対象となっていました。
特例措置においては、複数の株主から最大3人の後継者までの贈与・相続が対象となりました。これによって、会社の経営状態に応じた柔軟な事業承継を行うことができるようになりました。

事業承継税制においては、事業承継後5年間80%の雇用維持が求められています。一般措置においては、80%の雇用維持が出来なかった場合には、猶予された税額の全部を納税する必要があり、これから事業を営む後継者にとっては心理的な負担となっていました。
 特例措置においては雇用維持が出来なかったとしても、引き続き猶予を受け続けることが出来ることとされました。
 しかし、雇用確保は日本経済にとって重要ですので、5年平均8割を下回った場合には、その下回った理由等を記載した実績報告書を認定経営革新等支援機関の確認を受けたうえで、都道府県庁に提出する必要があります。

特例措置においては、経営承継期間(その後継者が最初に事業承継税制の適用を受ける贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間)以後に、事業継続が困難で廃業した場合や第三者へM&A(企業の合併・買収)で会社を売却した場合などで、経営環境が変化した場合、一定の理由(※2)に該当するときは、その廃業時の株価やM&Aの売却価額等で承継したものとして猶予税額の再計算をし、当初猶予税額との差額については免除を受けることができます。つまり、最初から低い株価で贈与・相続を受けたものと考えて、低い株価に対応する贈与税・相続税だけを納税すれば良いことになります。

注※2 経営環境が変化した場合として一定の理由とは、下記のいずれかに該当する場合をいいます。
1 直前3事業年度のうち2事業年度以上において赤字となっていること
2 直前3事業年度のうち2事業年度以上において売上高が減少していること
3 直前事業年度末において、有利子負債の額が売上高の6月分相当額以上であること
4 業種平均株価が前年の業種平均株価を下回ること
5 後継者が心身の故障等の事由により業務に従事することができなくなったこと

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事業承継税制は、その適用後、常に要件を充足し続ける必要があります。また、下記のような場合には猶予が打ち切りとなり、納税する必要があります。

事業承継税制の適用を受けた後継者(2代目)について、猶予された税額が免除されるためには「後継者(2代目)が更なる後継者(3代目)に株式等を贈与し、更なる後継者(3代目)が事業承継税制の適用を受けること」が必要です。
そのため、少しずつ株式等を贈与していく等の事業承継税制の適用を受けない贈与をした場合には、猶予された税額を納税する必要があります。
なお、後継者が株式等を贈与せずに(株式等を保有していたまま)相続が発生した場合には、更なる後継者(3代目)が事業承継税制の適用を受けるかどうかにかかわらず、後継者(2代目)について猶予されていた税額は免除されます。

更なる後継者(3代目)不在のため株式等をM&Aにより第三者に譲渡する場合も、猶予された税額を納税する必要があります。そのため、事業承継税制の適用を受ける場合には、更なる後継者(3代目)となる見込みがある者がいるかどうかも重要です。
なお、M&Aにより第三者に譲渡する場合にあっては、2.特例措置のポイント「⑷経営環境の変化に応じた差額の免除」でご紹介した差額免除の適用を受けることができます。

事業承継税制(特例措置)が創設され丸2年以上が経過しました。事業承継時の現金負担ゼロ円で承継できる等のメリットが大幅に拡充されたことから、特例措置の前提となる特例承継計画は2年間で6,000件以上提出されています。一方で、猶予期間(免除されるまでの期間)が長期になりやすく、また、取り消し事由に該当した場合には猶予された税額に加えて利子税を支払う必要があるなど、リスク(デメリット)も大きい措置になっています。メリット・デメリットを正確に理解し、ほかの事業承継手法と比較検討したうえで意思決定することが望ましいと思います。
また複雑な制度であるため、適用する場合には税理士等の専門家に相談のうえ、適用することをお勧め致します。

(記事は2020年6月1日現在の情報に基づきます)