口頭で「財産をあげる」という遺言は無効? 口約束を実現する方法とは
口頭でのこした遺言は有効になるのでしょうか?生前に「財産をあげる」と約束していても、遺言書が遺されていないケースは少なくありません。そのような場合、「遺産分割協議」や「贈与」によって希望を叶えられる可能性は皆無ではないものの、財産を引き継ぐことができない恐れが大きくなってしまいます。今回は口頭の遺言の効果や遺言書が遺されていなかった場合の対処方法を弁護士が説明します。
口頭でのこした遺言は有効になるのでしょうか?生前に「財産をあげる」と約束していても、遺言書が遺されていないケースは少なくありません。そのような場合、「遺産分割協議」や「贈与」によって希望を叶えられる可能性は皆無ではないものの、財産を引き継ぐことができない恐れが大きくなってしまいます。今回は口頭の遺言の効果や遺言書が遺されていなかった場合の対処方法を弁護士が説明します。
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遺言は、要式行為といって、法令で定められた方式ですることが必要な行為です。つまり、法律が定める方式に従って作成されていない遺言は、無効になってしまうのです。
遺言書には大きく分けて、普通方式の遺言と特別方式の遺言があります。普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの種類があります。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自分で書き、捺印することが必要です。なお、先の民法の改正で財産目録は自書でなくてもよいこととされましたが、その代わりすべてのページに署名・捺印が必要となるなど新たな要件も加わりましたので、注意が必要です。作成した遺言書は、法務局で預かってもらうことができます。
秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくない場合に作成するものです。遺言者が遺言書を作成(パソコン等で作成しても構いません。)して署名捺印し、それを封筒に入れて遺言書と同じ印鑑で封印します。これを公証人1名、証人2名以上の前に提出して、自分の遺言であることと氏名・住所を伝えると、公証人は、提出の日付と遺言者の述べたことを封紙に記載します。この封紙に遺言者、公証人、証人が署名捺印したら完成です。ただし、法務局や公証役場で保管してもらうことはできません。
このように、自筆証書遺言は財産目録以外は自分で書かなければなりませんし、秘密証書遺言も署名は自分でしなければなりません。
しかし、病気等で字が書けない方もいます。その場合でも、作成できる遺言があります。
1つは、公正証書遺言です。これは、遺言者が口頭で伝えた遺言の内容を公証人が文章にまとめ、遺言者と証人2名がその内容が正確であること確認し、それぞれ署名捺印して作成するものです。遺言者が、署名できない状況の場合は、公証人がそのことを記載して、代署することで作成することもできます。作成された遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
もう1つは、特別方式の遺言の一つである一般危急時遺言です(厳密にはもう1つ難船危急時遺言がありますが、今回は割愛します)。一般危急時遺言は、遺言者に生命の危険が迫っていて、自分で遺言書を書けない状況の時に作成するものです。証人3人以上が立会い、遺言者が遺言の内容を証人の1人に口頭で伝え、証人がそれを筆記します。筆記した証人が、遺言者と残りの証人に遺言書を読み聞かせ又は閲覧させて、筆記が正確であることを承認したら、証人が署名捺印して完成です。なお、この遺言は、遺言の日から20日以内にその遺言書を家庭裁判所に提出して「確認」という手続きを経る必要があります。
この2つの遺言なら、署名ができなくでも作成することが可能です。なお、遺言の内容を口頭で伝えると説明しましたが、いずれの遺言も手話通訳等で伝えることでも構いません。
以上のとおり、遺言はいずれも、書面を作成することが必要で、かつ厳格な要件を満たさなければなりませんので、口約束だけの遺言は無効となってしまうのです。
では、「財産をあげる」という口約束は、全く意味がなくなってしまうかというと、そうとは限りません。
財産をあげると言われていた人が故人の相続人の場合、他の相続人が故人の意思を尊重して、故人が言い残したとおりに遺産分割の合意をすれば、故人から財産をあげると言われていた人が財産を受け取ることができます。しかし、財産を受け取る人が相続人でなければ、そもそも遺産分割協議に参加することさえできません。
故人が生前に、「私が死んだら、あなたに財産をあげる。」と言っていた場合は、死因贈与契約が成立していたと認められる場合があります。死因贈与とは、贈与者の死亡を原因として効力が生ずる贈与契約です。
しかし、相続人全員が死因贈与の成立を認めてくれなければ、裁判で決着をつけるしかありません。しかも、贈与契約書等の書面がない場合、その立証は容易ではありません。
故人が、生前に、「あなたに財産をあげる。」と言っていた場合は、生前にすでに贈与がなされていた、と考えることも可能です。しかし、これも贈与契約書等の書面がなければ、相続人全員の承認が必要で、1人でも認めない人がいれば裁判をしなければならないこと、その場合の立証が難しいことは、死因贈与の場合と同じです。
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相続の相談が出来る弁護士を探す口頭の約束だけでは、有効な遺言とは言えず、財産を引き継ぎたいと思っていても、その思いが叶えられない恐れが大きいだけでなく、かえって親族間の紛争の火種となってしまうことすらあります。
もし、大事な財産を引き継ぎたい、守っていきたいとお考えなら、そして、揉めない円満な相続を望むなら、生前にきちんと公正証書遺言を作成してもらうとよいでしょう。
残念ながら遺言書が作成されておらず、口約束だけの場合、その内容を実現することは難しく、協議であっても、裁判であっても、専門的な知識と適切な対応が必要です。
大切な方を亡くした悲しみの中、一人で対応するのは困難かと思われますので、そのようなときは、ぜひ一度、弁護士に相談してみてください。
(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)
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