目次

  1. 1. 信託のメリットとは
    1. 1-1. 成年後見制度に代わる柔軟な財産管理の実現……(A)
    2. 1-2. 民法ではできなかった二次相続以降の承継者まで指定可……(B)
    3. 1-3. 共有不動産や相続による不動産共有化の問題回避……(A)+(B)
    4. 1-4. 財産の受取人側の事情に応じた財産給付……(A)+(B)
    5. 1-5. 生前の遺産分割機能と撤回不能機能による争族回避……(B)

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 ここでは、信託の機能がどのような場面でどんなメリットをもたらすかについて説明します(以下、各見出しの(A)は「生前の管理」におけるメリット、(B)は、「相続後の資産承継・財産管理」におけるメリットであることを表す)。

信託機能の活用場面
図表1-5 信託機能の活用場面

 従来の所有者Aが信託契約を交わし、Aがそのまま受益者となった場合(Aが委託者兼受益者:自益信託)、信託財産は、元々の所有者Aの所有権財産から独立した別の財産という性質を持ちます。この独立した信託財産は、原則として信託契約に定められた目的・管理方針に従ってのみ存続するので、他の一般財産とは隔離されます。

 この機能は、所有者本人が認知症等で判断能力・財産管理能力を喪失した場合に、大きな効果を発揮します。本人に判断能力がなければ、原則後見人が本人に代わって財産管理や法律行為を行うことになりますが、後見人は、家庭裁判所の直接または間接的な監督下に置かれ、財産の管理・処分には制約を受けることになります。ところが、本人が元気なうちに信託契約を締結し、保有資産のうち信託財産として受託者に託した財産については、受託者がその目的に従って財産を管理・処分しますので、実質的に後見人をつけなくても財産管理に支障はありません。

 また、もし後見人をつけたとしても、すでに受託者に託しておいた財産の管理・処分方針には直接影響を及ぼさないため、後見制度利用後でも柔軟な財産管理はある程度可能となります。つまり、何かと負担と制約の多い成年後見制度の代替手段になるというメリットに加え、後見制度を併用せざるを得なくなっても、後見人が直接管理する一般財産とは隔離されるなかで、積極的な資産管理や相続税対策など本人および家族が望む柔軟な財産管理が遂行できるというメリットもあります。

 14.および15.で説明していますが、信託が持つ機能として「受益者連続」の機能があります。これにより、民法では認められていなかった二次相続以降の資産の承継先を指定できるので、個人事業主・会社経営者・地主・医院経営者である医師などが持つ事業承継の悩み・希望に的確に応えられる可能性があります。

 所有者は、所有権としての価値(財産権)と、それを自分で自由に使用収益処分できる権限を合わせ持っています。言い替えれば、所有権は、財産権と管理処分権限が表裏一体となっているといえます。一方、信託財産は、財産権と管理処分権限が分離されるという性質を持っています。信託受益権という資産(財産権)は、「受益者」に帰属しますが、それを管理処分する権限を持っているのは「受託者」となるのです。

 この財産権と管理処分権限の分離機能が、様々な場面で活用できます。たとえば不動産の共有問題です。不動産を持分3分の1ずつ持ち合っている3兄弟がいたとして、通常、3人で共有をしていると処分するには3人の意見の一致が必要です。3人の関係が悪化したり、兄弟の1人が海外にいて連絡が取りづらくなったり、行方不明になったり、あるいは兄弟の1人が亡くなりその配偶者や子供の間で遺産争いが発生している場合には、共有者全員の意見が一致せず(共有者全員の実印押印が揃わず)、最悪の場合、共有財産は塩漬けになる可能性があります。

 この問題を未然に防ぐ方策として信託が活用できます。3兄弟が円満なうちに信託契約を交わし、財産管理は受託者となる長男1人に託し、他の兄弟は受益者の1人として信託受益権という財産を3人で準共有することが考えられます。つまり、受益権という財産権を3分の1ずつ平等に保有するが、管理処分権限は、長男1人に集約し、管理の手間の合理化、財産管理に関する判断の機動力を向上させるとともに、資産の塩漬け対策になるのです。

 同様に、会社の事業承継における株式譲渡の際にもこの機能が役立ちます。株式を信託財産とする信託受益権という財産権を持つ受益者とその株式の管理処分権限(具体的には議決権)を持つ受託者(または指図権者)とに分離することで、円満円滑な事業承継を図ることができます。

 受託者は、受益者のために財産の管理・処分・給付をしますが、その方針や実際の給付作業は、信託契約の定めに従うことが原則です。たとえば、浪費家の息子のために信託を設定する場合、受益者である息子が一括で信託財産の給付を要求しても、委託者たる親が信託契約で毎月10万円の給付と規定したなら、受託者はそれに従うことになります。

 通常の贈与や相続では、受贈者や相続人は財産を一括して受け取るのが大原則ですが、このように本人に一括で渡したくないというニーズに応え、信託では財産の受渡方法(時期・回数など)を自由に設計できます。

 また、すでに判断能力のない配偶者に遺産を遺しても、自己管理できず後見人が必要となりますが、信託では、後見人に代え受託者による財産の管理と給付の仕組みとして配慮ある遺し方も可能となります。

 父親本人が存命中に、父親亡き後の財産分割について推定相続人が合意しても法律上無効です。そこで、一般的には父親にその合意内容を反映した遺言書を作成してもらうことで、実質的に家族の合意を形に残しているケースはあります。

 しかし、遺言はいつでも書き替え・撤回ができるという点で、必ずしも将来の遺産分割が確定したとはいえません。また、亡くなる直前に遺言の書き替え合戦が繰り広げられる可能性も排除できません。そこで、次のように信託を活用することで、実質的に生前の遺産分割協議を有効に確定させることが可能となります。

 まず、今から発動する信託契約で父親亡き後の資産承継について指定しておきます(遺言代用機能)。そして、この信託契約の変更・解約に一定の制限を加え、父親一人の意思では内容の変更ができない旨、あるいは遺言代用部分の条項のみ変更・撤回不能とする旨を定めておけば、将来の相続に向けて遺産分割内容を確定することができます。

次回の記事では、信託することのデメリットについて解説します。

この記事は、「相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本」(近代セールス社)から転載しました。

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