目次

  1. 1. 目的が明確なら経費にできる可能性大
    1. 1-1. 不動産以外にも財産を広く信託する場合は難しい
  2. 2. 遺言機能を盛り込み、初期費用を前払い

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家族信託の導入に関する費用(専門家へのコンサルティング報酬、信託契約公正証書を作成するための公証役場の手数料、信託登記に関する登記費用など)や、受託者や信託監督人等への報酬(設計次第では信託契約期間中に発生)は、不動産賃貸業の経費に計上できるのかという問題があります。

信託財産が賃貸不動産とそれに伴う敷金・修繕積立金相当の金銭のみであり、家族信託導入の目的が「賃貸経営の長期的安定化」のための認知症対策である場合には、家族信託の導入費用や受託者への信託報酬などは、家業たる不動産賃貸業を円滑に継続するために必要な経費として全額損金処理できる可能性は高いと考えます。

一方で、自宅や老後資金たる金銭など賃貸不動産以外の財産も含めて信託財産に入れ、認知症対策などを意図して家族信託を実行する場合は、賃貸経営の長期安定化だけが家族信託を実行する趣旨ではなくなります。

つまり、老親の全般的な財産管理・生活サポート(老後資金の確保や給付、資産凍結対策、成年後見制度の代用)という要素が入ってきますので、費用の全額を賃貸経営上の経費として損金処理することは難しいと考えます。ただ、すべてが経費計上できないという理屈も成り立たないと考えます。

最終的には、確定申告において、全額を経費計上できるか、全額が難しければいくら(何割)を経費計上をするか、税務署からの指摘リスクはどの程度かなどについて、税理士や税務署に事前に相談することをお勧めします。

遺言に基づく遺言執行者(弁護士・司法書士・行政書士等の法律専門職や信託銀行等)への報酬は通常遺産から支払われますが、この遺言執行報酬は、相続税の申告においては相続財産から控除されない費用(実質的に相続人が負担する費用)となります。

一方で、家族信託を設計・実行する際には、ある程度まとまった費用が発生しますが、将来老親に相続が発生した時には、家族信託の中で遺言の機能を盛り込んでおくことにより受託者となった子がスムーズに財産の承継手続きを行うことができますので、実質的に遺言執行の手間と外部に支払う費用の発生を極力抑えることができます。

つまり、家族信託の設計・実行にかかる初期費用は、親の相続発生時の遺言執行費用を親の財産から前払いする形になるともいえますので、ある意味節税効果も出てきます。
また、家族信託を実行することで成年後見制度の代用となり得るので、成年後見制度を利用する際に発生する後見開始の申立て費用や毎年の後見人(後見監督人)報酬の発生を回避することにもなります。

さらに、家族信託を数次相続に対応した設計(いわゆる“受益者連続型”)にした場合、二次相続以降の遺言執行の手間と費用も軽減でき得ることも踏まえれば、家族信託の導入時に支払う費用は、大局的・長期的に見て決して高額ではなく、むしろ家族信託の導入により未来における安心を得られるだけではなく総支出額も軽減できる可能性が高まります。

前回は、債務控除について解説しました。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年8月1日時点の情報に基づいています)

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