目次

  1. 1. 信託設計上の留意点
    1. 1-1. 家族・親族が納得のできる仕組み作り
    2. 1-2. 監督機能を持たせる
    3. 1-3. 受託者の働きを見極める
    4. 1-4. 予備的に次の受託者を決めておく
    5. 1-5. 成年後見制度との併用も視野に入れる
    6. 1-6. 仕組みを極力シンプルにする
    7. 1-7. 定期的なメンテナンス

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 家族信託は、所有者たる親(委託者)の“想い”を実現し、長期にわたり多額の財産を管理・承継していく仕組みのため、後々の親族間の紛争や確執を起こさないような工夫や、“想い”をきちんと実現できるような仕組みが必要です。

 次にそのためのポイントをあげて説明します。

 推定相続人全員の利害と委託者の“想い”は、必ずしも同じ方向を向いているとは限らないため、よかれと思って設定した信託契約(または遺言による信託)が、結局遺産争いを誘発することになっては本末転倒です。家族や親族、特に推定相続人の全員にとって納得のいく信託の仕組みを構築することが理想といえます。

 遺言書で信託を設定する場合、家族に内緒で行うこともできますが、相続発生時には遺留分の問題も出てくるので、遺留分の確保も考慮に入れた信託設計が望まれます。遺言であっても、家族とも話し合いのうえ作成するのが理想的です。

 家族信託の場合、大切な財産を託す相手(=受託者)は家族などの一般人ですから、財産管理がずさんだったり、資産を消費・横領したり、詐欺的金融商品に手を出してしまう事態が発生する可能性はゼロではありません。

 そこで、受託者が暴走しないように、あるいは受託者が判断を迷ったときにサポートできるように、受託者の業務に複数の人が関わり続けるような仕組みが設計できると、より安心です。

 たとえば、受託者を1人ではなく複数にすることで、受託者同士が相談したり相互にチェックできますし、また、重要な判断には受託者が共同でしなければならないと規定することも可能です(受託者が多いと財産管理が紛糾しかねないため、通常は1人から2人程度がよい)。

 また「信託監督人」を置くという選択肢もあります。信託監督人は、成年後見制度でいうところの「後見監督人」的立場として、受益者のために受託者が信託目的に沿って、適正に財産管理を行っているかをチェックする機能を果たします。

 それ以外にも「同意権者」や「指図権者」「信託事務代行者」「受益者代理人」を置くことで、受託者が単独で信託事務を遂行できないように制度設計することも可能です。

 信頼できる相手だからこそ、受託者として自分の財産を託すわけですが、受託者としての働きぶりを見極めることができれば、より安心です。つまり、認知症対策であっても、契約と同時に信託を発動させ、今から生前の財産管理を受託者に任せる方が、委託者としてはその働きぶりが分かるので安心です。

 なお、そもそも家族・親族はいても、受託者となるべき適任者がいない場合は、これから適任者を育てる方策や、親族で一般社団法人を立ち上げて受託者の受け皿を作る方策、あるいは商事信託を活用する方策などを検討する必要があります。

 受託者が法人であれば別ですが、親族個人が受託者となる場合は、受託者の死亡や病気等による信託事務の遂行不能となる事態を想定しておくことも大切です。

 現在の受託者が死亡等した場合において、信託行為(信託契約や遺言)の中に後継受託者に関する定めがないときや、信託行為に定めた後継受託者が受託者を引き受けなかったときなどには、委託者および受益者は新たな受託者を選任することができます(信託法62条1項)。

 しかし、受益者が高齢者や障害者の場合もあるため、簡単に次の受託者の選任ができるとは限りません。そのため、万が一に備えてあらかじめ次の受託者(第二次受託者・第三次受託者)を決めておくと安心です。

 高齢の配偶者や障害のある子を受益者として家族信託を利用する場合、成年後見制度に代えて家族信託という仕組みで財産を管理することは可能です。しかし、もし受益者が入院・転院したり、施設に入所することになった場合、受託者には“身上監護権”がないため、費用の支払いはできても、受託者という立場で入院契約や入所契約を結ぶことができません。

 その場合は、やはり身上監護の権限のある成年後見人を選任する必要が出てくるかもしれません。

 信託の受託者と成年後見人との間で利害が大きく相反するような状況でなければ、受託者が成年後見人を兼ねることも可能なため、信託契約だけでなく任意後見契約を交わすことも含めて検討すべきです。

 長期にわたる財産管理の仕組みですから、将来における不測の事態(受益者や受託者の死亡、受益者の離婚・出産・養子縁組等)を想定しておくことも大切です。

 ただし、あまり色々と考えると信託の設計自体が複雑になり、委託者も受託者もよく分からなくなってしまうことがあります。現時点ですべてが万全・完璧な信託の仕組みを実行するのは困難ですし、せっかくの仕組みも受益者家族の事情の変化等で、見直さなければならないことも十分あり得ます。

 後々、信託契約の変更や遺言書の書き替えで内容を変更することは可能なため、予期せぬ親族関係の変化が起こった場合はその都度見直すつもりで、なるべくシンプルな仕組みを設定するようにしましょう。

 前記1-6. の通り、信託の設計は極力シンプルにしたうえで、定期的な信託内容の見直しを心がけることの方が大切なため、定期あるいは不定期に法律専門家に見てもらえるような体制作りが理想です。

 家族信託の実務に精通した専門家を信託監督人に据え、定期的に接点を持つ機会を設けることもお勧めします。

この記事は、「相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本」(近代セールス社)から転載しました。

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