目次

  1. 1. 遺産分割調停の取り下げとは「初めからなかったことにする」
  2. 2. 取り下げ以外の終了原因
    1. 2-1. 調停の成立
    2. 2-2. 調停の不成立
    3. 2-3. 調停に代わる審判
    4. 2-4. 調停をしない措置
  3. 3. よくある取り下げ理由
    1. 3-1. 遺言書の有効性に争いがある
    2. 3-2. 遺産の範囲に争いがある
    3. 3-3. 相続人の範囲に争いがある
    4. 3-4. 合意できないが、これ以上もめごとを続けたくないという申し立て人の意向
  4. 4. 取り下げた場合の弁護士費用
  5. 5. 取り下げる場合の注意点
    1. 5-1. 取り下げると解決にならない
    2. 5-2. 取り下げと不成立は違う
  6. 6. 取り下げたあとの対処方法
  7. 7. まとめ

取り下げとは、調停を終わらせて「初めから行われなかったこと」にする手続きです。取り下げは調停が終了するまでの間、いつでもできます(家事事件手続法273条1項)。取り下げに理由はいりませんし、相手方の同意も不要です。

取り下げをするには、書面(調停期日であれば口頭でも可能)で家庭裁判所に取り下げの意向を伝えましょう。取り下げ後は、再び申し立てをすることもできますし、相手方が申し立てをすることも可能です。

当事者間の合意が成立し、その内容が調停調書に記載されると調停が成立します(家事事件手続法268条)。調停調書には確定した審判と同様の効力があるため、これを根拠に強制執行することも可能です。

当事者間に合意の成立する見込みがない場合は、調停は不成立となります(家事事件手続法272条1項)。遺産分割調停が不成立で終了した場合には、自動的に審判手続きに移行します(同条4項)。あらためて審判の申し立てをする必要はありません。

上記のとおり、調停が不成立になると審判手続きに移行しますが、審判手続きではしっかりした主張と立証が必要となるため、より一層の時間や手間がかかってしまいます。

そこで、家庭裁判所が相当と認める場合には、当事者双方のためにこう平を含む一切の事情を考慮して、事件の解決のため必要な審判をすることができるとされています。これを「調停に代わる審判」といいます(家事事件手続法284条1項)。たとえば、相手方が感情的になって調停への出席を拒否・無視している場合や合意にほぼ達していてわずかな意見の相違があるに過ぎない場合などに、裁判所が遺産の分け方を決めてくれます。

事件が性質上調停を行うのに適当でない場合(濫用的な申し立てなど)や当事者が不当な目的でみだりに調停の申し立てをした場合(無断で欠席を繰り返して調停手続きを進行させる意欲がないなど)には、家庭裁判所は調停を終了させることができます。これを「調停をしない措置」(家事事件手続法271条)といいます。

ほかにも、遺産分割の前提となる法律関係(遺言の有効性など)に争いがあって家庭裁判所から勧告をしてもなお申し立て人が取り下げを拒む場合などにも、調停をしない措置がなされます。なお、調停をしない措置がなされた場合は審判手続きには移行しません。

よくある取り下げ理由は遺産分割の前提となる法律関係に争いがあることです。遺産分割の前提となる法律関係は訴訟で確定を図るべきことから、いったん調停を取り下げて、別途訴訟を提起することになります。

たとえば、一部の相続人が「遺言書作成当時、遺言者は認知症で判断能力がなかったから遺言書は無効である」などと主張して争うケースです。この場合、遺言無効確認請求訴訟を提起して遺言の有効性を確定することが必要です。

たとえば、一部の相続人が、相続人名義の預金について「お金を出したのは被相続人であるから遺産である」「口座を開設したのは被相続人であり、通帳や印鑑も被相続人が普段から管理していたから遺産である」などと主張して争うケースです。この場合、遺産確認の訴えを提起して遺産の範囲を確定することが望ましいでしょう。

たとえば、一部の相続人が「養子縁組は無効であるから養子は相続人ではない」などと主張して争うケースです。この場合、養子縁組無効確認請求訴訟を提起して養子縁組の有効性を確定することが望ましいでしょう。

調停は、時間的にも経済的にも精神的にも負担が少なくありません。調停は半年~1年ほど続くのが一般的ですから、これらの負担に耐えられないといった理由で取り下げる場合もあります。

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取り下げた場合にかかる弁護士費用は、弁護士との契約内容次第ですが、一般的には取り下げた時期や理由によって異なります。

たとえば、調停が始まって早々に取り下げたような場合は、追加の弁護士費用は発生しないのが通常です。他方、調停成立間際まで進んでいたにもかかわらず申し立て人の都合で取り下げた場合や報酬金が発生することを前提に着手金を低く抑えていた場合などには、追加の弁護士費用が発生することもあるでしょう。

また、調停を取り下げて、別の訴訟(遺言無効確認請求訴訟など)を提起することになった場合には、その訴訟に関する弁護士費用が別途発生するのが通常です。

将来的に取り下げも想定しているのであれば、契約前に、取り下げた場合にかかる弁護士費用を担当弁護士に確認しておきましょう。また、調停を取り下げたいと考えた際にも、その意向を担当弁護士に伝えるとともにかかる弁護士費用を確認しておくと良いでしょう。

遺産分割調停を取り下げても問題は解決しません。相手方からあらためて調停を申し立てられて、結局紛争が蒸し返されてしまうこともあります。

取り下げと違って不成立の場合は、審判手続きに自動的に移行します。審判手続きでは当事者双方が主張や立証をした上で、最終的には家事審判官(裁判官)が遺産の分け方を決めてくれます。遺産分割に関する問題を解決したいのであれば、取り下げるのではなく不成立にして審判手続きに移行してもらいましょう。

遺産分割調停を取り下げたあとは、当事者間で遺産分割協議を行うか、あらためて遺産分割調停を申し立てるかの2択です。ただし、遺産分割の前提となる法律関係に争いがある場合は、訴訟などでその法律関係を確定させたうえで協議や調停を行うことになります。

なお、相続手続きを放置するといろいろなデメリットがありますから、それだけは避けるようにしましょう。

遺産分割調停を取り下げても問題は解決しません。きちんと遺産分割するなら調停は不成立にして審判手続に移行してもらうのが良いでしょう。遺産分割の進め方に不安がある場合は、早めに相続問題に詳しい弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)