目次

  1. 1. 相続税とは
    1. 1-1. どのようなときに、誰に対してかかるのか
    2. 1-2. 税率
    3. 1-3. 非課税枠について
    4. 1-4. 特例や控除について
  2. 2. 贈与税とは
    1. 2-1. どのようなときに、誰に対してかかるのか
    2. 2-2. 税率
    3. 2-3. 非課税枠について
    4. 2-4. 相続時精算課税制度について
    5. 2-5. 特例や控除について
  3. 3. 相続税と贈与税を比較
    1. 3-1. 贈与税よりも相続税の方が得?
    2. 3-2. 生前贈与の効果
  4. 4. 生前贈与の注意点
    1. 4-1. 贈与から3年以内に亡くなった場合、相続財産に加算される
    2. 4-2. 「名義預金」に認定されるリスク
  5. 5. まとめ:生前贈与による節税対策はぜひ税理士にご相談を

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まずは、相続税の特徴から見ていきましょう。

相続税とは、被相続人(亡くなった人)から遺産を相続した場合に、その遺産を受け取った相続人や受遺者に対して課される税金をいいます。

相続の際に適用される相続税率は下表のとおりです。

相続税の税率と控除額
相続税の税率と控除額

「法定相続分に応ずる取得金額」であるため、正味の遺産総額(プラスの財産からマイナスの財産を控除したもの)から基礎控除額を控除した残額を、法定相続によって相続したものと仮定して相続税を計算します。

相続にあたっては、上述のとおり、正味の遺産総額から基礎控除額を控除した残額をもとに相続税額を計算するため、正味の遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税は発生しません。なお基礎控除額は以下の算式によって計算します。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

たとえば相続人が配偶者と子2人の計3人の場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3名)=4,800万円となり、正味の遺産総額が4,800万円以下であれば相続税はかかりません。

相続税の計算では、過度な税負担によって、その後の相続人の生活を圧迫することがないよう、特有の特例や控除が設けられています。

・小規模宅地等の特例
居住や事業、貸付の用に供されている宅地を相続した場合において、一定の条件に該当する場合には最大で評価額が8割減となる特例であり、節税効果が非常に高い制度です。

・配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者が遺産を相続する場合に適用可能な特例制度です。被相続人亡き後の生活負担を軽減するとともに、被相続人と年齢が近いケースも多く、立て続けに相続税が課されることを避ける目的として、配偶者の法定相続分または1億6,000万円までの相続であれば相続税がかからないものとする制度です。

・贈与税額控除、相続時精算課税制度による贈与税額の控除
相続開始前3年以内の生前贈与や、相続時精算課税制度により贈与した財産は、相続税の計算において相続財産に加算されます。このとき、贈与時に支払い済みの贈与税額がある場合には、それらを相続税額から控除することにより二重課税を防止します。

・その他の特例や控除
未成年の相続人がいる場合には「未成年の税額控除」、85歳未満の障害者の場合には「障害者の税額控除」、前回の相続から10年以内に再び相続が発生した場合には「相次相続控除」が適用可能となるなど、個々の背景に合わせ、相続税負担を軽減するための措置が設けられています。

次に、贈与税の特徴を見ていきましょう。

贈与税とは、個人(生きている人)から財産をもらったときにかかる税金です。「死亡」を発生原因とする相続税とは異なり、贈与税は贈与者と受贈者による「贈与契約の合意」に基因します。

暦年贈与の場合の贈与税率は下表のとおりです。

暦年課税制度の贈与税の計算
110万円を超えた場合の暦年課税制度の贈与税の計算

暦年贈与の場合、贈与税はその年の1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産額から、後述する基礎控除額を差し引いた「課税価格」を上表に当てはめて計算します。なお上表の左側は18歳以上の子や孫への贈与の場合に適用される「特例税率」であり、右側にあるそれ以外の贈与についてはさらに税率が高くなります。

暦年贈与における基礎控除額は年間110万円であるため、1年間でもらった財産が110万円以下であれば贈与税はかかりません。なお基礎控除額は受贈者ごとに適用されるため、贈与者側の人数によって基礎控除額が変動することはありません。

上述した暦年課税とは異なり、相続時精算課税制度を選択することによって、贈与財産の種類にかかわらず、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与については、累計で2,500万円まで贈与税が非課税となります。

ただし相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与には戻れず、毎年110万円の非課税枠を失うことや、贈与税は非課税でも相続発生時には相続財産に加算され、相続税の課税対象となりますのでご注意ください。

相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除新設へ

2023年度の税制改正大綱では相続に関連する課税ルールの大きな見直しがあり、相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が設けられることが決まりました。累計2500万円の特別控除とは別に、年間110万円以内なら非課税で申告不要となります。

また、この110万円の非課税枠は死亡直前でも相続財産への加算対象とはなりません。2024年1月1以降の贈与に適用されます。詳しくは以下の記事をご参照ください。

【関連記事】2023年度税制改正大綱を解説 相続時精算課税に年110万円の控除を新設 生前贈与の持ち戻し期間が7年に延長へ

贈与税の計算においても、婚姻期間が20年以上の夫婦間での居住用不動産等の贈与については最大2,000万円を控除できる「配偶者控除」や、父母や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合の「住宅取得資金贈与の特例」、教育資金の贈与を受けた場合に1,500万円まで非課税となる「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」など、独自の特例や控除制度が設けられています。

先述した相続税と贈与税の違いをもとに、以下では具体例を用いて実際の納税額を比較します。

【例】父親の財産1億円を子ども2人が受け取るケース(母親はすでに死去)

・相続する場合
相続によって財産を引き継ぐ場合、以下のとおり、基礎控除額を控除した残額を法定相続によって遺産分割したと仮定し、相続税を計算します。

1億円-【3,000万円+(600万円×2名)】=5,800万円
5,800万円×1/2=2,900万円(法定相続分に応ずる取得金額)
2,900万円×15%-50万円=385万円(子ども1人あたりの相続税額)
385万円×2名=770万円

したがって相続した場合には、全体で770万円の相続税が課されます。

・贈与する場合
仮に子ども2人が1年間で5,000万円ずつ生前贈与を受けた場合には、以下のように贈与税が計算されます。

5,000万円-110万円=4,890万円
4,890万円×55%-640万円=2,049.5万円(子ども1人あたりの贈与税額)
2,049.5万円×2名=4,099万円

したがって生前贈与の場合、全体の贈与税は4,099万円となり、相続税の770万円と比較すると3,329万円もの差が生じることとなります。

ただしこのシミュレーション結果から、「贈与税は相続税よりも高いから生前贈与は不要」という結論を導き出すことは正しくありません。

なぜなら生前において保有する財産のすべてを贈与することは、あまりにも非現実的であるからです。そもそも生前贈与は、将来の相続税の負担を減らすための節税策のひとつであり、相続税と贈与税のどちらか一方を選択するものではありません。

先ほどの例と同様に、1億円の財産を持つ父親が、生前のうちに20年間かけて子ども2人に100万円ずつ贈与を行ったと仮定します。この場合、「基礎控除額110万円>100万円」であるため、毎年の贈与税は発生しません。

その後相続が発生した場合、父親の財産は「1億円-(100万円×20年×2名)=6,000万円」まで減少しているため、相続税は以下のように計算されます。

6,000万円-【3,000万円+(600万円×2名)】=1,800万円
1,800万円×1/2=900万円(法定相続分に応ずる取得金額)
900万円×10%=90万円(子ども1人あたりの相続税額)
90万円×2名=180万円

このケースでは、20年にわたってコツコツと生前贈与を行ったことで、相続税を770万円から180万円まで減少させることができました。このように長年にわたって生前贈与を行うことにより、将来の相続財産を少しずつ減少させ、その結果として相続税の節税へと繋がるのです。

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最後に、生前贈与の注意点について見ていきましょう。

亡くなる直前に相続税を減らす目的で親族等へ贈与することを防止するため、相続開始前3年以内の贈与については、その贈与がなかったものとして相続財産に加算されます。慌てて生前贈与を行うのではなく、若く元気なうちから早めに取り組むことが大切です。

生前贈与加算の対象は3年から7年に延長へ

2023年度の税制改正大綱では、生前贈与加算の対象を死亡日前3年間から7年間に延長することが決まりました。2024年1月1日から適用されます。

贈与はあくまで「契約」であり、贈与契約の成立には贈与者の意思だけでなく、受贈者の受諾が必要となります。生前贈与のトラブルとして非常に多いのが「名義預金」です。

親から子名義の預金通帳へ毎年資金移動していても、子が「もらったこと」を認識していなければ、贈与は認められません。また贈与後も親が通帳や印鑑を管理しているようなケースでは、実際の所有者は親のままであり、贈与は無効と判断されてしまいます。

したがって生前贈与の際には、その都度、贈与契約書を作成し、贈与後の通帳や印鑑の管理は受贈者に任せるなど、「名義預金」と認定されないようにしましょう。

【関連記事】税務署が目を付けている名義預金。無用な相続税課税を避ける対策は?

生前贈与の有効性は、財産状況や家族構成によって異なります。先述のとおり、そもそも正味の遺産総額が相続税の基礎控除額を下回る場合には相続税がかからないため、節税目的での生前贈与は不要となります。

反対に多額の相続財産が存在する場合には、相続税の節税対策として、贈与税を支払ってでも生前贈与を実行すべきケースもあります。効果的な生前贈与を行いたいのであれば、税理士などの専門家へのご相談をおすすめします。

(記事は2023年2月1日時点の情報に基づいています)

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