目次

  1. 1. 相続財産調査とは
    1. 1-1. 相続財産調査が大切な理由
    2. 1-2. 相続財産調査の期限
  2. 2. 相続財産の調査方法
    1. 2-1. 金融機関の預貯金の確認方法
    2. 2-2. 有価証券やその他の権利の確認方法
    3. 2-3. 不動産の確認方法
    4. 2-4. 貴金属や自動車などの確認方法
    5. 2-5. 負債についての確認方法
  3. 3. 相続財産調査は専門家に依頼することもできる
  4. 4. まとめ

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親などの親族が亡くなって相続人になった場合、気持ちが沈んで何も手につかないかもしれません。しかし、ゆっくりしている時間はないケースもあります。まず最初に進めたいことの一つが、相続財産調査です。

相続財産調査は、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も含めてすべての遺産の有無を調べ、それらの財産を適正に評価・査定することです。

相続が開始した場合、相続人はすべての財産を相続するのか(単純承認)、すべての財産を放棄するのか(相続放棄)、あるいはプラス財産の範囲内でマイナス財産も相続するのか(限定承認)のいずれかの相続方法を選択することになります。

正確な相続財産調査を行わないと、正しい選択をすることはとても難しくなります。どの選択をするとしても、相続財産の内容がわからなければ手続きを進めることができません。

遺言がなく、相続人が複数いて、財産を受け継ぐ場合は、一般的に相続人全員で遺産の分割について話し合う遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議をする際も、協議後に新たな財産が判明したり、あるはずの財産が存在しないことが発覚したりするなど、正確な財産を前提とせずに協議が行われた場合は、相続人間での疑心暗鬼につながる可能性があり、トラブルに発展する可能性が生まれます。

遺産分割の対象は、預貯金や土地などの積極財産であるとされており、負債は相続放棄などをしない限り、原則として相続分に応じて分割されます。相続放棄手続きをしなければ、思わぬ借金などを負ってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

また、相続税の申告にあたっても、申告書に記載しなかった財産が発覚し、結果として正しい相続税の計算ができず、申告漏れに伴うペナルティを受けることもあり得ます。

単純承認ではなく、相続放棄や限定承認を選ぶ場合には、原則として相続人になったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。このため、相続財産の調査にあたっては、スケジュールには余裕をもって調査を進めた方がよいでしょう。

また、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があります。相続税申告が必要か必要でないかを知るためも、相続財産の調査が欠かせません。相続税申告が必要な場合は、申告期限に間に合うように正確に調査をする必要があります。

相続財産の有無を調査する方法は、財産の種別によって異なります。代表的な財産の種別ごとに、一般的なケースを説明します。

●利用していた金融機関の特定
預貯金の調査については、第一に、被相続人がどの金融機関を利用していたかを特定することが必要です。通帳、キャッシュカード、金融機関からの被相続人宛の郵便物などが残っている場合は、取引があった可能性が高いと考えられるため、調査対象とすべきです。通帳を発行していない口座や、紛失した口座があることもあります。取引があった可能性が少しでもある金融機関は対象に含めたほうがよいでしょう。

●残高証明書の発行依頼
金融機関を特定したら、残高証明書の発行を依頼します。窓口だけでなく、一般的に郵送でも取得できます。なお、残高証明書の取得は相続人全員が共同して行う必要はなく、相続人の一人からでも請求できます。

状況によって必要な書類は異なりますが、少なくとも被相続人が亡くなったことが記録された戸籍(除籍)謄本、手続きをする人が相続人であることがわかる戸籍謄本は必ず求められます。事前に手続きをする金融機関に電話をして確認しておいたほうがよいでしょう。

●通帳の記帳
口座の存在が確認できた場合は、通帳の記帳も行うべきです。被相続人が亡くなるまで取引をしていた相手先が把握できるため、財産調査に役立ちます。例えば、貸金庫の使用料は一般的に通帳からの引き落としです。使用料の支払い記録があれば、貸金庫の中に被相続人の所有物が残っている可能性が高いといえます。同様に、気になる支払記録があった場合は、内容を確認したほうがよいでしょう。

●株券の会社の株主名簿を確認
株式などの有価証券も相続財産になります。また、仮想通貨や保険積立金、ゴルフ会員権なども相続対象です。

旧商法では、株式会社は原則として株券を発行する義務を負うと規定されていました。2004年(平成16年)の商法改正により、株券は原則不発行とし、定款で定めた場合のみ株券の発行できると改められました。株券には発行した会社名が記載されていますので、見つかった場合は、被相続人が株主名簿に記録されているか確認したほうがよいでしょう。

●ネット証券に注意
証券会社からの取引残高報告書などが見つかった場合は照会を行いましょう。ネット証券会社などで取引を行い、書類を電子交付で受け取っている場合は、郵便物が届かないケースもあるため、注意が必要です。被相続人の生前の行動などから、調査する範囲を定めるとよいでしょう。

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●固定資産税課税明細書を確認する
不動産を所有していれば通常、固定資産税の納付書が届きます。納付書には固定資産税課税明細書が同封されています。被相続人あてに届いた書類が残っていれば、不動産所有状況の調査はしやすいでしょう。

●固定資産評価証明書を取得する
ただし、不動産を所有していても、納付すべき税額が発生しない場合は、一般的に納付書などの書類は届きません。また、共有不動産については、通常、共有者を代表する一人に納付書などの書類が送付されます。従って、書類が見つからないからといって所有不動産がないとは限りません。

そうした場合は、被相続人名義の固定資産評価証明書を取得すると、非課税のものも含めた保有物件を確認できます。単独所有のもの、共同所有のものを漏れなく取得しましょう。固定資産評価証明書は不動産の所在する市区町村役場窓口で請求でき、郵送でも取得できます。複数の自治体に保有不動産がある場合は、各自治体で取得が必要です。

●貸金庫の中身を確認
相続税申告の実務においては、貴金属は原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することとされています。貴金属は現物が手元にあるほか、貸金庫等に入っていることがあります。預貯金等の調査において貸金庫の存在が確認された場合は、調査を漏らさないよう注意しましょう。

●リスト化と価格調査
なお、自動車や美術品など、ほかの動産も相続財産になります。換金価値のありそうなものはリスト化して記録することをおすすめします。取り扱い業者に鑑定評価を依頼するなどで、価額を調査しましょう。

●信用情報機関に開示請求
信用情報機関に信用情報の開示請求を行うと、加盟社における取引情報がわかります。個人の信用情報を取り扱う、全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構に対して、被相続人の信用情報を請求するとよいでしょう。郵送で手続きが可能ですので、各団体のウェブサイトを確認してください。

●個人間の貸し借りや保証債務は地道に調べるしかない
個人間の契約、金融業ではない法人からの借入などは、信用情報機関に情報が登録されないため、確実な調査方法はありません。被相続人の残した書類などをもとにして、地道に調べるしか方法がありませんので、相続開始後すぐ書類を破棄することはおすすめしません。

ほかにも、保証債務の調査は重要です。被相続人が保証人になっていた場合、保証債務も相続対象になることがあります。保証債務がありそうな場合も、被相続人の人間関係や残された資料を調査したほうがよいでしょう。

相続財産の調査は、時間をかければ相続人自身でできますが、弁護士や司法書士、税理士など各専門家に依頼することもできます。

費用は事情によりさまざまですが、20~50万円になる場合が多いでしょう。専門家により業務範囲が異なりますので、ケースに合わせて依頼先を検討しましょう。

以下は私個人の見解です。紛争が予想される場合は、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。紛争がなく、相続財産が基礎控除内に収まり、不動産登記を行う場合は司法書士に依頼すると、費用が比較的安く収まると思います。

相続税の申告は税理士に依頼する必要がありますが、不動産登記を伴う場合は司法書士に相続財産調査と不動産登記を依頼し、相続税の申告を税理士に依頼するとスムーズに手続きを進められるかもしれません。各士業は一般的に提携先がありますので、あまり難しく考えずに、事情に合わせて依頼先を検討することをおすすめします。

相続財産調査は、相続を進める上で最初に手を付けなくてはいけない重要な手続きです。

相続放棄や限定承認を選ぶならば、相続開始から3カ月という短い期間に、金融機関など多方面にさまざまな書類を提出しながら進めなくてはいけません。時間に余裕があれば、自分でできないことはありませんが、かなり煩雑な手続きとなります。一方で、弁護士や司法書士、税理士に依頼すれば、膨大な時間と労力を省いて、正確な調査を効率よく進めてもらうことができます。負担を少しでも減らすためにも、まずは専門家に相談してみるといいでしょう。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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