家の相続税を計算する 控除を使って節税に
かつては「お金持ちのための税金」というイメージの強かった相続税ですが、税制改正によって近年では、一般的な実家の相続でも十分に課税されうる「身近な税金」となりました。そこでこの記事では、これから実家を相続する人に向け、実家の評価方法のほか、適用可能な節税策についても解説します。
かつては「お金持ちのための税金」というイメージの強かった相続税ですが、税制改正によって近年では、一般的な実家の相続でも十分に課税されうる「身近な税金」となりました。そこでこの記事では、これから実家を相続する人に向け、実家の評価方法のほか、適用可能な節税策についても解説します。
目次
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相続税とは、被相続人の財産を相続した人が支払う税金をいいます。ここでいう財産とは、現預金や不動産をはじめ、有価証券・車両・貴金属など、換金価値のあるものを指します。
相続税の計算においては、相続した財産の額が大きいほど税率も上がり、納税額が大きくなる仕組みとなっています。なお相続税では、後述する基礎控除や小規模宅地等の特例をはじめとするさまざまな控除制度が設けられており、それらによって申告納税額がゼロとなった場合には、相続税は課税されません。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内とされており、相続税の納税についても申告期限内に行う必要があります。亡くなってから10ヵ月の猶予があるといっても、葬儀や相続財産の精査、評価額の算定など、時間を要する手続きも多いことから、決して長い期間とはいえません。
そのため、できる限り生前のうちから財産をきちんと把握し、遺言書を作成するなどの準備をしておくことが望ましいでしょう。実際に相続が発生した場合の流れとしては、相続財産の評価を行ったうえで、遺言書があれば原則としてその遺言書の内容に従って遺産分割を行います。
遺言書がない場合には、遺産分割協議によって各相続人が相続する財産を確定させ、これらの遺産分割の内容に基づいて相続税額を計算し、税務署へ申告します。相続税の計算に誤りがあると、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課される可能性もあるため、相続税は正確に算出しなければなりません。
実家を相続した場合、相続税額を計算するためには、まず実家の相続税評価額を算出する必要があります。不動産を評価する場合には、家屋と土地は別々に計算します。
まず、家屋の相続税評価額は「固定資産税評価額×1.0」で計算され、相続税評価額は固定資産税評価額と同額になります。なお固定資産税評価額とは、固定資産税を算出するうえで基準となる土地や家屋の評価額をいい、毎年市町村から送付される固定資産税課税明細書で確認できます。
課税明細書が手元にない場合には、市区町村の役所にて固定資産税課税証明書を取得する方法や、市区町村に備え付けられた固定資産課税台帳を閲覧して確認する方法があります。マンションやアパートの場合における建物の相続税評価額についても、戸建てと同様に固定資産税評価額と同額となります。
また、貸家を保有している場合には「固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)」によって家屋部分を評価します。借家権割合は全国一律で30%に設定されています。賃貸割合とは賃貸部分の合計面積のうち、相続時点において実際に賃貸している部分の面積です。たとえば、床面積20平方メートルの居室8戸からなるアパートのうち6戸に入居者がいる場合、賃貸割合は(6戸×20平方メートル)/(8戸×20平方メートル)=75%となります。
土地の相続税評価額を計算する方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2通りあります。
これらは納税者が任意で選択するものではなく、路線価が付された土地であれば「路線価方式」、それ以外であれば「倍率方式」により評価します。評価方法にて用いる路線価図や倍率表は、国税庁ホームページにて確認してください。
路線価とは、特定の地域の路線(道路など)に面した標準的な土地1平方メートルあたりの評価額のことをいいます。相続税や贈与税計算において用いられる指標として毎年7月に国税庁から公表され、一般的には時価の8割程度の価額に設定されています。
路線価方式によって相続税評価額を計算する場合には、「路線価×その土地の面積(地積)」によって算出します。複数の路線に面している宅地や、土地の形状がいびつで使い勝手の悪い宅地などの場合には、路線価を加減算する場合があります。
倍率方式では、「固定資産税評価額×特定の倍率」によって計算します。特定の倍率は、その土地が所在する地域や用途によって設定されており、国税庁の倍率表に基づいて適用します。
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相続の相談が出来る税理士を探す相続税では個々の遺産ごとに税額を算出するのではなく、被相続人が所有していたすべての財産(債務を含む)に基づいて税額を計算します。実家を相続する場合には、以下の順序で相続税の計算を行います。
以下の事例をもとに、相続税を計算してみましょう。
【事例】
相続財産1億円から基礎控除額4,800万円を差し引いた5,200万円を、法定相続によって各相続人が取得したものとして以下のように按分します。
これに基づいて相続税の総額を計算します。
なお相続税額は、以下の速算表を用いて算出することができます。
よって相続税の総額は、340万円+(145万円×子ども2名)=630万円となります。そして、算出した相続税の総額を、実際に取得する財産額に応じて各相続人へ配分することとなりますが、この事例では法定相続によって遺産分割を行うため、以下のように配分します。
なお後述しますが、配偶者に関しては法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額までは相続税がかからないため、上記相続税額315万円はゼロとなり、最終的な納税額は子どもの相続税として157.5万円×2名分=315万円となります。
実家などを含む相続税の計算は、控除や特例を活用できます。税理士に相談・依頼すると、間違いのない節税につながります。考えている方は、一度、連絡してみてください。
相続税では遺産総額から基礎控除額を差し引くことができるため、遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税は発生しません。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」によって計算し、先ほどの【事例】では、3,000万円+600万円×3名=4,800万円となります。
詳しくは、相続税の基礎控除とは 遺産総額いくらまでなら申告不要?覚えておきたい計算式で解説しています。
先述のとおり、配偶者の場合には法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかかりません。たとえば先ほどの【事例】において、配偶者の相続分を家屋2,000万円及び土地4,000万円、預貯金2,000万円の合計8,000万円(子どもは1,000万円ずつ)とした場合には、相続税総額630万円を以下のように配分します。
よって全体の相続税額を63万円×2名=126万円まで圧縮できます。配偶者の相続分を増やすことで相続税の負担を減少できることがわかります。ただし配偶者の取得割合を増やせば、2次相続(この場合は配偶者が亡くなったときの相続)での相続税が増加する可能性も高まるため、将来の相続も含めて節税効果の判断をしましょう。
詳しくは、相続税の配偶者控除 1.6億までor法定相続分は無税!で解説しています。
相次相続とは、10年以内の短い期間で2次相続が発生することをいい、そのような場合には1次相続で支払った相続税の一部を控除することができます。相次相続控除では、2次相続の被相続人が、1次相続において相続税を支払っていることが前提となります。
したがって先ほどの【事例】の配偶者のように、1次相続で配偶者の税額軽減などにより納税額がゼロであった場合には適用できません。相次相続控除額は以下の算式によって計算します。
相次相続控除額=A×C/(B-A)×D/C×(10-E)/10
(※C/(B―A)>1のときは1とする)
たとえば【事例】の子どもの1人が7年後に亡くなった場合において、その遺産が1,500万円、相次相続控除を受ける相続人が2次相続で取得する財産が1,000万円と仮定します。
この場合、相次相続控除額は以下のように計算されます。
157.5万円×1,500万円/(2,500万円―157.5万円)×1,000万円/1,500万円×(10-7)/10≒20.1万円
したがって相次相続控除によって、相続税が約20万円減少することとなります。
詳しくは、10年以内に相続が相次いだら控除できる「相次相続控除」で解説しています。
おしどり贈与は「贈与税の配偶者控除」の通称であり、婚姻期間が20年以上の夫婦間で住宅または住宅取得資金の贈与を行った場合に、基礎控除額110万円に加えて最大2,000万円まで非課税とする制度です。生前贈与の特例制度であるため、相続税計算上の控除ではありませんが、あらかじめ配偶者へ財産を移転することで相続税対策として活用できます。
相続税の配偶者控除と比較した記事「贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者控除は、どちらを利用すべき?」も参考にしてみてください。
小規模宅地等の特例とは、住居や事業、貸付の用途に供される宅地を相続する場合に、その評価額を最大で8割引きとする非常に節税効果の高い制度です。
住居の場合に特例の対象となるのは、原則として当該建物に同居していた相続人です。同居していない場合でも、相続人に持ち家がないケースなど一定の要件を満たす場合には「家なき子特例」によって適用できる可能性もあるため、実家を相続する場合には適用可否を必ずチェックしましょう。
小規模宅地等の特例を取り上げた記事は、相続税の軽減措置「小規模宅地等の特例」を受けるには 同居の有無などポイント紹介で読むことができます。
配偶者居住権とは、令和2年4月1日より適用開始となった制度であり、配偶者が被相続人の死亡時に住んでいた建物に一定期間無償で住むことができる権利をいいます。たとえば夫に先立たれた妻ではなく、別居する長男が自宅を相続した場合、配偶者居住権を設定することで、所有権がない妻でも安心して自宅に住み続けることができるのです。
この配偶者居住権は相続財産となることから、土地全体を「所有権」と「配偶者居住権」に分けて相続することとなります。また配偶者居住権は、その権利を持つ配偶者が死亡した時点で消滅するため、2次相続まで加味すると相続税の節税へ繋がる可能性があります。
ただ配偶者居住権を設定することが常に節税になるとは限らず、上述した「小規模宅地等の特例」の適用可否も含めて慎重に検討する必要があります。
配偶者居住権が節税となる場合とそうでない場合については別記事で解説していますので、ぜひ以下のリンクをご参照ください。
先述のとおり、実家を相続した場合、必ずしも相続税が課税されるとは限りません。しかし、相続税が発生しなかったとしても不動産登記は必要となるため、必ず登記手続きを行ってください。公平性を保つために不動産を複数の相続人で共有名義とする場合もありますが、共有名義の場合には、次の世代へ相続されるたびに雪だるま式に所有者が増加するため、注意しましょう。
相続税のシミュレーションや実際の申告手続きについては、税理士などの専門家へ依頼することによって一気通貫で任せることができます。自分で手続きすることに不安がある場合には、専門家へご相談ください。
(記事は2021年8月1日時点の情報に基づいています)