相続登記はオンライン申請もできる 手順や注意点をいちから解説
相続で土地や建物の所有権が移転したときに行う所有権移転登記いわゆる「相続登記」の申請は、法務局に直接足を運ばずとも、インターネットを利用してオンラインで行うことが可能です。今回はオンラインで相続登記を申請する際の手順、注意点などを司法書士が解説します。
相続で土地や建物の所有権が移転したときに行う所有権移転登記いわゆる「相続登記」の申請は、法務局に直接足を運ばずとも、インターネットを利用してオンラインで行うことが可能です。今回はオンラインで相続登記を申請する際の手順、注意点などを司法書士が解説します。
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登記の申請方法には、下記の3つがあります。
相続登記においても、上記いずれかの方法を申請人が選択して申請することができます。今回は「オンライン申請」について解説します。
※本記事で解説するのは、申請情報と登記原因証明情報(相続関係説明図)をオンラインで送信し、戸籍謄本等の添付書面は別途法務局に持参または郵送する『特例方式』と呼ばれるオンライン申請方法です(半分はオンラインで、もう半分は書面で申請するため『半ライン申請』と呼ばれることもあります)。
日本全国にある法務局は不動産の所在地により管轄が決められているので、例えば亡くなった方が沖縄県那覇市に別荘を所有していた場合、東京で暮らしている相続人がその別荘を自分の名義にするためには那覇地方法務局に相続登記を申請する必要があります。
窓口で申請するとなると、登記申請のために時間と費用をかけて沖縄県まで行かなければなりません。このように管轄の法務局が遠方にある場合には、オンライン申請を利用することで相続登記に要する時間と費用を節約することが可能です。
また「法務局は自宅の近くにあるが、平日の日中に時間がとれない」という方にもオンライン申請がおすすめです。法務局の開庁時間は平日8時30分から17時15分までですが、オンライン申請システムの利用可能時間は平日8時30分から21時となっています。
オンライン申請なら、日中仕事をして帰宅後に申請することも可能です(ただし、17時15分を過ぎて送信された申請情報は、翌日(翌開庁日)の受付となります)。
なお、登記の専門家である司法書士のほとんどはオンライン申請に対応しているので、日本全国どこの不動産についても依頼を受けられます。
相続登記をオンラインで申請する際の大まかな手順は以下の通りです。詳細については、法務省「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと・供託ねっと)」のホームページを参照してください。
相続登記に必要な書類は、窓口申請、郵送申請、オンライン申請、いずれの方法を選択しても特に違いはありません。一般的な相続登記で必要となる書類は次のとおりです。
相続登記のオンライン申請の流れや準備するものは、次の通りです。
オンライン申請を行うためには、まずはパソコンの準備が必要です。パソコンのOSは、Windows11または10が推奨されています。
次に、「登記・供託オンライン申請システム(登記ねっと・供託ねっと)」のトップページから申請者情報の登録(申請者ID・パスワードの取得)を行い、使用するパソコンに申請用総合ソフトをインストールします。
また、オンライン申請では申請情報や添付情報への電子署名の付与と電子証明書の添付が必要になります。そのため、電子証明書入りのマイナンバーカードとICカードリーダライタの準備も必要です。マイナンバーカードを持っていない人は、住所地の市(区)役所で署名用電子証明書入りのマイナンバーカードの交付を受けましょう。
すでに交付を受けている人でマイナンバーカードに電子証明書が記録されていない場合には、市(区)役所で事後的に電子証明書を記録してもらうこともできます。ICカードリーダライタについては、マイナンバーカードに対応したものを準備します。
オンライン申請では、申請情報と電子データで作成された「登記原因証明情報」を送信する必要があります。相続登記における登記原因証明情報は、相続関係が明らかになる戸籍謄抄本や遺産分割協議書などが該当しますが、これらの書類をすべて電子データ化するのはかなり面倒な作業となります。そこで作成しておくと便利なのが「相続関係説明図」です。
相続関係説明図を作成し、これをPDFファイルにして申請情報とあわせて送信すれば、登記原因証明情報を提供したことになるので、戸籍謄抄本や遺産分割協議書などをスキャナで取り込んで署名付与を行う手間が省けます。
手順1で集めた戸籍謄抄本などをもとにWordやExcel(手書きでも可)で相続関係説明図を作成し、PDFファイルに変換しておきます。
次に、申請情報を入力します。流れは以下のようになります。
申請用総合ソフトにログインして、「申請書作成」ボタンをクリックします。申請様式の一覧が表示されるので、その中から「登記申請書(権利に関する登記)(4)所有権移転(相続)【署名要】」を選択し、申請情報の各項目を入力していきます。ただし、申請様式の一覧では「相続登記」という文言は出てこないのでご注意ください。
ここで入力した情報が登記記録(登記簿)に反映されるので、特に相続人の住所や氏名は間違いのないよう慎重に入力しましょう。不動産の表示を入力する方法は、(1)オンライン物件検索を利用する方法と(2)物件情報を直接入力する方法がありますが、入力ミスなどを防ぐためにも(1)の方法をおすすめします。
相続関係説明図のPDFファイルの添付は以下のような流れで進めます。
申請用総合ソフトの「ファイル添付」ボタンをクリックして、手順3で作成した相続関係説明図のPDFファイルを申請情報に添付します。次に「署名付与」ボタンをクリックして、申請情報に電子署名の付与を行います。
これで申請前の準備が完了になりますので、最後に申請情報をプレビュー表示にして入力内容に誤りがないか、また添付情報が間違いなく添付されているかを確認します。
申請情報や添付ファイルを確認したら、以下の流れで申請データを送信します。
申請用総合ソフトの「申請データ送信」ボタンをクリックして申請情報を送信します。法務局で申請が受け付けられると「受付確認」ボタンが表示され、このボタンをクリックすると受付年月日、受付番号、申請情報の内容が記載された「受付のお知らせ」(いわゆる受領証に相当するもの)が表示されます。
「受付のお知らせ」に記載された受付年月日と受付番号は、申請した案件を特定するために必要な情報になりますので、「受付のお知らせ」は印刷しておくことをおすすめします。
登録免許税の納付方法は次の3つです。
1の現金納付を選択する場合、法務局では現金を受け付けていないので、金融機関や税務署で登録免許税に相当する額を納付して領収証書を発行してもらう必要があります。発行された領収証書は、申請用総合ソフトから印刷した「登録免許税納付用紙」に貼付して法務局へ提出しなければなりません。
2の収入印紙による納付も同様で、「登録免許税納付用紙」に収入印紙を貼付して提出します。
3の電子納付を選択する場合は、申請日を含めて2日以内に申請用総合ソフトの「納付」ボタンから納付処理を行います。インターネットバンキングなどを利用した電子納付が認められるのは、オンライン申請を行った場合のみです。窓口申請や郵送申請の場合には、電子納付を行うことはできません。
申請情報の送信後、戸籍謄本等の添付書面を別途、法務局へ持参または郵送する必要があります。手順は以下の通りです。
手順1で集めた書類および手順3で作成した相続関係説明図を、申請の受付日から3日以内に法務局へ持参または郵送して提出します。郵送で提出する場合には書留郵便(簡易書留またはレターパックプラス)で発送するとよいでしょう。
具体的な送付の方法ですが、まずは申請用総合ソフトから「書面により提出した添付情報の内訳表」を印刷し、押印欄に印鑑(認印)を押します。次にこの内訳表を表紙にして、すべての書類をホッチキスやクリップなどでまとめます。このとき、原本を返却してもらいたい書類がある場合は忘れずに原本還付請求を行ってください。
また、登記が完了したあとに登記識別情報通知や原本還付された書類を郵送で受領したい方は、切手を貼付した返信用封筒(レターパックプラスでも可)もあわせて提出しましょう。
申請情報や添付書面に訂正や不備がなければ、申請から1~2週間で登記が完了します。申請日ごとのおおまかな完了予定日は法務局のホームページにも掲載されていますが、オンライン申請をした場合には、申請用総合ソフトで自分が申請した案件の処理状況を確認することができます。処理状況欄が「手続終了」となっていれば相続登記は無事完了です。
また、手順2における申請者情報の登録時に、処理状況に応じた案内メールを受信できるよう設定することも可能です。
オンライン申請をした場合でも、登記識別情報通知(12桁の数字と記号の組合せからなる符号で、従前の登記済権利証に代わるもの)と登記完了証については、書面で交付を受けることができます。
もちろん書面ではなくデータとしてオンラインで受領することも可能です。しかし登記識別情報は不動産の所有者であることを証明する非常に重要な情報なので、データのみで保存しておくことに不安や不便を感じる人も多いと思います。パソコンの故障などによりデータが消失してしまう可能性もあるので、登記識別情報通知については書面で交付を受けることをおすすめします。
手順8にも記載したように添付書面を法務局に提出する際に、返信用封筒をつけておくと登記識別情報通知、登記完了証、原本還付された書類を郵送で受領することができます。
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相続の相談が出来る司法書士を探す便利なオンライン申請ですが、以下のような注意点もあります。
上記手順でも記した通り、添付書面については申請の受付日から3日以内に法務局に送付または持参しなければなりません。また、登録免許税について電子納付を行う場合には申請日の翌日中に納付を完了しなければなりません。いずれも期限を過ぎてしまうと申請が却下されてしまう可能性があるので、添付書面の送付(持参)と登録免許税の電子納付はできるだけ速やかに行いましょう。
申請情報や添付書面に訂正や不備がある場合には、法務局から「補正のお知らせ」が届きます。申請情報の些細な入力ミスであっても法務局で訂正してもらえないので、申請人が補正情報を作成し、これに電子署名を付与して送信する必要があります。
また、提出した戸籍謄本などに不足がある場合や、遺産分割協議書に訂正が必要な場合にも補正のお知らせが届きます。その際は追加提出や差し替えを行うことになります。この補正にも期限が設けられているため、その期限内に補正をしないと申請が却下されてしまうこともあります。
申請が完了した後も申請用総合ソフトで処理状況を確認し、補正のお知らせが届いていたときには速やかに対応しましょう。事情があって期限内に補正ができない場合には、必ず法務局に連絡してその旨を相談してください。
オンライン申請では、申請情報とあわせて送信した登記原因証明情報(相続関係説明図)のPDFファイルの差し替えや再送信は認められません。つまり、相続関係説明図に誤りや記載漏れがあると、訂正(補正)は認められず、申請を一旦取り下げて、もう一度最初からやり直す必要があります。相続関係説明図は間違いのないように作成しましょう。
法務局に出向く必要がなく自宅から相続登記を申請することができるオンライン申請は便利な制度ですが、パソコン操作が苦手な人やシステム環境が整っていない人には少しハードルが高いかもしれません。そのような方は登記の専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。
「相続した不動産が遠方にあるのだけど、現地の司法書士を探したほうがいいですか」と質問を受けることがありますが、その必要はありません。現在ではほとんどの司法書士がオンライン申請に対応しているので、その司法書士の事務所がどこにあるかは関係なく、日本全国どこの不動産についても相続登記の依頼を受けることが可能です。相続登記でお困りの方はぜひお近くの司法書士に相談してみてください。
(記事は2023年4月1日時点の情報に基づいています。)
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