遺族年金とは「2階建て」 受給資格や金額、期間をわかりやすく解説
万が一、自分の身に何かあったら、配偶者を含む残された家族の生活はどうなるのか……そうした不安を拭ってくれるのが公的制度の遺族年金です。遺族基礎年金と遺族厚生年金という2種類の年金額や支給要件などを、社会保険労務士が詳説します。
万が一、自分の身に何かあったら、配偶者を含む残された家族の生活はどうなるのか……そうした不安を拭ってくれるのが公的制度の遺族年金です。遺族基礎年金と遺族厚生年金という2種類の年金額や支給要件などを、社会保険労務士が詳説します。
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遺族年金とは、国民年金および厚生年金の被保険者(加入している人)、もしくは被保険者であった人(加入していた人)が亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた遺族に対して、生活を保障する目的で支給される公的年金のことです。
ただし、遺族年金の受給に関しては一定の要件を満たしている必要があります。また、亡くなった人の職業、加入期間、報酬、さらに遺族年金を受給する遺族である受給資格者の年齢、続柄、状況等によってその内容が大きく変わってきます。
日本の公的年金制度は「2階建て」といわれますが、遺族年金についても例外ではありません。
遺族年金についても、1階部分となる国民年金「遺族基礎年金」と2階部分となる厚生年金「遺族厚生年金」があります。いわゆる会社員や公務員(以下会社員等とする)は2階建ての年金制度に加入していることになるため、一定条件を満たせば「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の両方を受給できる可能性があります。
遺族基礎年金は、文字どおり遺族年金の基礎となる1階部分の年金です。国民年金に加入し、または加入していた人で一定の要件を満たしている人が亡くなられた場合に支給されます。
国民年金は皆年金(かいねんきん)ですから、会社員等であろうと個人経営者であろうと国民皆が加入しなければならない保険です。「私の夫は国民年金の保険料を払っていないから、遺族基礎年金はもらえないのでしょうか?」と質問されることがありますが、会社員等の給与から控除されている厚生年金保険料には国民年金の保険料が含まれています。したがって、会社員等は原則国民年金に加入していることになります。
遺族基礎年金の受給資格者は配偶者もしくは子に限られます。一方、以下のとおり条件を満たす子がいなければ配偶者も受給することはできません。
また、たとえ一定条件に該当する子がいたとしても保険料の滞納などにより受給できないこともあります。
遺族厚生年金は、遺族年金の2階部分にあたる年金で、会社員等、もしくは会社員等であった人で一定条件を満たしている場合や、亡くなった人が1級または2級の障害厚生年金を受給していた場合に支給されます。
厚生年金は会社員等のみが加入し、個人経営者は加入することができません。ただし、個人経営者であっても、過去に会社員等であった場合、条件を満たしていれば遺族厚生年金の受給が可能となるケースがあります。
遺族厚生年金の受給資格者は、以下のとおり遺族基礎年金とは大きく異なり範囲が広がります。ただし、妻以外の遺族については、夫も含め年齢制限等の条件があります。
遺族基礎年金の額は、前述のとおり、一定条件に該当する子の数のみで決定し、それぞれの支給額は「定額」となります。
遺族基礎年金と遺族厚生年金との大きな違いは受給資格を持つ遺族だけではありません。支給額の決定も全く異なります。
遺族基礎年金が亡くなった人の加入年数や報酬にかかわらず、定額+子の人数による加算額によって決定するのに対し、遺族厚生年金は亡くなった人の加入期間や給与額を基に計算されます。つまり、納めた保険料が高額な人や25年を超えて保険料を納めている人の年金額は高くなり、大きく個人差が出ることになります。
以下、年金額の計算方法を詳しく見ていきましょう。
では、具体的に支給される年金額を見ていきましょう。ただし、これまで見てきたように遺族年金は受給資格者(遺族年金を受給する遺族)の年齢、続柄、状況等によってその内容が大きく変わってきます。そのため、今回はターゲットを絞って被保険者および受給資格者共に30歳代とし、遺族年金額を確認してみましょう。
【花子さんが受給する遺族基礎年金の額】 ☜1階部分の遺族年金
二郎君も18歳到達年度の末日(3月31日)を経過した場合は、遺族基礎年金の支給そのものがなくなります。その代わりとして、65歳までの間、遺族厚生年金において中高齢寡婦加算58万5700円が加算されます。
【花子さんが受給する遺族厚生年金の額】 ☜2階部分の遺族年金
【太郎さんの死亡当時、花子さんが受け取る遺族年金】
前述のとおり、花子さんが受給できる遺族年金の額を確認しました。では花子さんはいつまで遺族年金を受給できるのでしょうか?
遺族基礎年金については、息子である一郎君と二郎君が18歳の年度末(3月31日)を経過した時点で支給停止となることは確認しました。では厚生年金はどうでしょうか?
日本の公的年金制度は、「一人一年金」の原則で成り立っています。そのため、遺族年金を受給している人が65歳に達し、自己の老齢年金を受給できることになった場合は、原則として自己の老齢年金を受給することになります。つまり、遺族年金は一部もしくは全部が支給停止となり、遺族年金と老齢年金を両方満額受給することはできません。
たとえば、太郎さんの死亡前に花子さんが仕事をしていた場合や、太郎さんが亡くなったあと、新たに仕事をして厚生年金に加入した場合は、65歳以降、花子さんは自身の老齢厚生年金を受けることができるようになります。その場合、花子さん本人の老齢厚生年金が太郎さんの老齢厚生年金の3/4(=遺族厚生年金)の額より高額である場合、遺族厚生年金の受給はできなくなります。その詳細は、次の項目で確認しましょう。
花子さんが、65歳に達した場合で厚生年金の加入期間がある際は、自分自身が納めた保険料を年金額に反映させるため、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止になります。つまり、遺族厚生年金の額は65歳以降も保障されるということです。
これまで、花子さんが受給できる遺族厚生年金は太郎さんの老齢厚生年金の3/4でしたが、65歳以上では、以下のいずれか多いほうの額が支給されます。
1.太郎さんの老齢厚生年金額の3/4 (=65歳まで受給してきた遺族厚生年金)
2.太郎さんの老齢厚生年金額の1/2 + 花子さんの老齢厚生年金額の1/2
つまり、単に太郎さんの死亡時に計算された遺族厚生年金額のみで判断されるのではなく、花子さんが働いた分の厚生年金保険料が完全な掛け捨てにならないよう配慮されています。
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相続の相談が出来る税理士を探すこれまで見てきたとおり、公的な遺族年金だけで残された遺族が生計を立てるのは現実的には困難です。公的年金はあくまで最低限度の生活の補助的役割を担うにすぎません。
そのため、大黒柱となる人や、家族の生計に大きな役割を持つ人が亡くなった場合の備えが重要です。生命保険や貯蓄はもちろんのこと、必要であれば相続税対策として生前贈与や遺言書の作成なども視野に入れ準備を進めましょう。
ここでは、30歳代のご夫婦を例に話を進めてきましたが、遺族厚生年金は亡くなった人の職業、受給権者の年齢や続柄によって内容が大きく変わってきます。誕生月に年金事務所から届く年金定期便などを参考に、ご自身の年金の状況を確認されるとともに、不明な点や実際に不測の事態になった場合は年金事務所や専門家である社会保険労務士へ相談することをおすすめします。
(記事は2021年4月1日時点の情報に基づいています)
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