遺族年金の受給資格とは 受け取れる遺族の条件をチャートで解説
夫や妻、あるいは子どもが亡くなった際、国から支払われる遺族年金。遺族年金受給資格はどのようなケースで認められるのでしょうか? 遺族年金は2種類あり、それぞれ受給要件が異なります。遺族基礎年金と遺族厚生年金の遺族年金受給資格を社会保険労務士がわかりやすく解説します。
夫や妻、あるいは子どもが亡くなった際、国から支払われる遺族年金。遺族年金受給資格はどのようなケースで認められるのでしょうか? 遺族年金は2種類あり、それぞれ受給要件が異なります。遺族基礎年金と遺族厚生年金の遺族年金受給資格を社会保険労務士がわかりやすく解説します。
目次
「相続会議」の税理士検索サービスで
公的年金である遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。「遺族基礎年金」は国民年金に加入している人が対象で、「遺族厚生年金」は厚生年金に加入している人を対象としています。
国民年金は原則として20歳以上60歳未満の日本在住の人は国民年金に加入していなければならない皆年金(かいねんきん)です。よって、学生、自営業者、会社員や公務員(以下会社員等とする。)、会社員等の配偶者、無職の人など、誰もが加入する必要がある年金制度です。
一方、厚生年金は会社員等、法人等に勤務している人が加入対象となります。つまり、会社員等は国民年金と厚生年金の両方に加入していることになります。
万が一、あなたの家族に何かあったとき、あなたが支給を受けられる遺族年金はどちらになるでしょうか。そのあたりを詳しく内容を見ていきましょう。
遺族基礎年金は国民年金の制度であり、皆年金です。よって、ほとんどの人は加入している、もしくは加入していたと想定できます。
ただし、亡くなった人が国民年金に加入していたからといって、誰でも遺族基礎年金を受給できるわけではありません。対象となる家族は限定されおり、「一定の要件を満たした子を持つ配偶者」と「子」のみに限定されています。亡くなった人の父母や祖父母、孫などその他の家族には遺族基礎年金は支給されません。
また、遺族基礎年金も国の公的年金とはいえ保険ですから、保険料の滞納があると支給されないことがあります。
一方、遺族厚生年金は亡くなった人が厚生年金に加入している、もしくは加入していたことが条件になります。よって、亡くなる以前に厚生年金に加入したことのない自営業者や無職の人が亡くなった場合には支給されません。
受給できる遺族の範囲も遺族基礎年金とは異なり、配偶者や子にとどまらず、父母、祖父母、孫と広がります。なお、遺族基礎年金と同様に保険料の滞納がある場合は支給されない場合があります。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る税理士を探す遺族基礎年金の要件にある「国民年金の被保険者である」「3分の2以上保険料を納めている」とは、死亡日に国民年金の被保険者であり、保険料を納付しなければならない期間(20歳~亡くなるまでの期間)のうち、3分の1以上保険料を滞納していないことを意味します。この場合、保険料免除期間については保険料を納付した期間としてみなされます。
皆さんの誕生月に日本年金機構から届く年金定期便で保険料納付期間や免除期間について確認してみてください。3分の1以上の滞納期間はありませんか? なお、令和8年4月1日前に死亡日があり、死亡当時65歳未満の方については保険料納付要件に特例が設けられています。
続いて、遺族基礎年金の受給資格者となる遺族の要件についても詳細を確認してみましょう。
受給資格者の第一要件として、死亡当時、亡くなった人によって生計を維持されていなければなりません。あなたは以下の要件を満たしているでしょうか?
■ 同居している
※別居していても仕送りをしている場合や、健康保険の扶養親族であれば認められます。
■ 前年の収入が850万円未満(所得が655万5000円未満)であること
先ほどのチャートで確認したとおり、死亡日において亡くなった人の「子のある配偶者」もしくは「子」のみが受給資格者となります。
子の要件は以下のとおりです。つまり、保障を受けられるのは高校を卒業する年齢までの子、もしくは未成年の障害を持つ子がいる場合に限られます。
■ 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
■ 20歳未満で障害等級1級または2級の子
なお、亡くなった人に配偶者がいる場合は、配偶者が受給します。一方、配偶者がいない場合は子が受給資格者となり、子が複数人いる場合は遺族基礎年金額を子の数で除した額をそれぞれの子が受給します。さらに、再婚した妻および婚姻した子については、その後支給を受けることができません。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る税理士を探すこのように、遺族基礎年金は一定条件を満たした配偶者および子がいなければ支給されません。では、国民年金の保険料は無駄になってしまうのでしょうか?
ここでは、子のいない配偶者やその他の遺族であっても受け取れる可能性のある国民年金独自の年金や一時金について確認しておきましょう。
寡婦年金(かふねんきん)は、死亡日の前日において自営業者、学生、無職の者(会社員等以外)として保険料を納めた期間および国民年金の保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻に対して、その妻が60歳から65歳になるまでの間支給されるものです。つまり、寡婦という名のとおり妻にのみ支給され、夫や子、その他の遺族には支給されません。
また、寡婦年金はいわゆる自営業者、学生、無職(=1号被保険者)として国民年金を納めた期間のみを対象として10年以上の期間があるかという判断のもとに年金額が決定され、会社員等(=第2号被保険者)として納付した期間については対象とされません。つまり、国民年金独自の給付です。
寡婦年金支給額:夫の第1号被保険者期間だけを計算した老齢基礎年金額の4分の3
※平成29年7月31日以前の死亡の場合、25年以上の期間が必要です。
※令和3年3月31日以前の死亡の場合、亡くなった夫が障害基礎年金の受給権者であったとき、または老齢基礎年金を受けたことがあるときは支給されません。
死亡一時金は、死亡日の前日において自営業者、学生、無職の者(会社員等以外)として保険料を納めた月数が36月以上ある人が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなったとき、その人によって生計を同じくしていた遺族(1・配偶者、2・子、3・父母、4・孫、5・祖父母、6・兄弟姉妹の中で優先順位の高い人)に支給されます。
死亡一時金も寡婦年金と同様に保険料の掛け捨て防止の目的を持っていますから、遺族が遺族基礎年金の支給を受けられるときは支給されません。また、寡婦年金を受けられる場合は、どちらか一方を選択します。死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年となっています。
以下のチャートに沿って、遺族厚生年金についてもあなたが受給資格者となり得るかどうか確認してみましょう
続いて、遺族厚生年金についても亡くなった人の要件について詳細を確認してみましょう。
遺族厚生年金の要件である「死亡日に厚生年金の被保険者である」とは、会社員や公務員として勤務し、かつ厚生年金保険料を給与控除等により支払っている人に限定されます。たとえ会社員でも、パートやアルバイトで厚生年金に加入していない人は対象とはなりません。
一方、遺族厚生年金では、すでに退職して被保険者ではないが被保険者期間中の傷病が原因で死亡し、その傷病について初めて医師または歯科医師の診察を受けた日から5年以内に死亡した場合も被保険者と認めています。
また、遺族基礎年金と同様に保険料を滞納していない人に限られます。「保険料は給与から天引きされるから滞納期間があるはずがない」と思われる人もいるかもしれません。
しかしながら、遺族厚生年金の保険料納付要件についても遺族基礎年金と同様に、老齢基礎年金(国民年金)の保険料を納付しなければならない期間(20歳~亡くなるまでの期間)のうち、3分の2以上保険料を納付しているかどうかで判断されますから注意が必要です。ご自分の給与明細や年金定期便を確認してみましょう。あなたは3分の2以上の保険料を納めているでしょうか?
さらに、「老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者」、「1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者」が死亡したときについても遺族厚生年金が支給されます。
老齢厚生年金の受給資格期間とは=老齢基礎年金受給資格期間が25年以上、かつ厚生年金被保険者期間がある
※公的年金は「2階建て年金」ですから、老齢厚生年金の受給資格は老齢基礎年金の加入年数をもとに判断されます。
※この25年には年金額に反映されない保険料免除期間等も含まれます。
※老齢基礎年金については平成29年8月1日の改正により10年の受給資格期間で年金を受給できますが、遺族厚生年金は改正前と同じく25年必要です。
遺族厚生年金受給資格者の要件について詳細を確認してみましょう。まず、生計維持要件については遺族基礎年金と同様の条件となります。
■ 同居している
※別居していても仕送りをしている場合や、健康保険の扶養親族であれば認められます。
■ 前年の収入が850万円未満(所得が655万5千円未満)であること
紺色のチャートで確認したとおり、死亡日において亡くなった配偶者、子、父母、祖父母が受給資格者となります。遺族厚生年金では、配偶者でも妻と夫で要件が変わってくる点に注意が必要です。それぞれの続柄ごとに年齢や支給開始年齢を確認してみましょう。
① 妻:年齢に関係なく遺族厚生年金を受給可能
※ただし、子のない30歳未満の妻は5年間の有期給付となります。
※事実婚関係にある者(いわゆる内縁関係)については、事実婚関係の認定を行ったうえで、次に生計維持関係等の認定が行われる二段階認定により判断され、認定された場合にのみ支給を受けることができます。当然に届出による婚姻関係が優先されます。
② 子・孫:年齢・受給期間制限あり
遺族基礎年金同様、高校卒業までの子もしくは、未成年の障害を持つ子がいる場合に限定して保障されます。
■ 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
■ 20歳未満で障害等級1級または2級の子
③ 夫、父母、祖父母: 年齢・受給期間・受給開始時期制限あり
亡くなった人の夫、父母、祖父母で死亡当時55歳以上の者については遺族厚生年金が支給されます。しかし、死亡当時から受給できるわけではありません。実際に遺族厚生年金が受給できるのは60歳以降となります。つまり、現役世代である60歳までは保障を得られないということです。
ただし、夫は遺族基礎年金を受給する場合に限り60歳前でも遺族厚生年金を受給できます。遺族基礎年金を受給できるということは子がある場合ですから、その場合は手厚く保障を受けることができるということになります。
なお、遺族厚生年金の受給権は以下の順位によって優先順位が決定されます。
「子のある妻、子のある55歳以上の夫」→「子」→「子のいない妻」→「55歳以上の夫」→「55歳以上の父母」→「孫」→「55歳以上の祖父母」
つまり、優先順位の高い遺族がいる場合、次順位の遺族は受給することができません。
遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取るためには、年金の請求手続きが必要です。以下のとおり、届出先と必要書類を確認してみましょう。
ここでは大まかな内容を紹介してきましたが、遺族年金は亡くなった人の時期や職業などによってその内容が大きく変わってきます。
誕生月に年金事務所から届く年金定期便などを参考に、ご自身やご家族の年金の状況を確認されるとともに、不明な点や実際に不測の事態が生じた場合は年金事務所や専門家である社会保険労務士へ相談することをおすすめします。
(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の税理士検索サービスで