目次

  1. 1. 配偶者居住権は安心して暮らせる権利
  2. 2. 相続税が軽減される仕組みとは
  3. 3. 子の持ち家の有無が節税効果を左右
  4. 4. 配偶者居住権は遺言書に記載可能

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――配偶者居住権のポイントを教えてください。

(清三津さん)

配偶者居住権は、夫に先立たれた妻などが自宅に住み続けられるよう、居住する権利を法的に設定する、というものです。例えば、夫が所有していた自宅を子どもが相続しても、配偶者居住権を設定すれば、所有権がない妻でも安心して住み続けることができます。

配偶者居住権とは

――配偶者居住権には相続税の節税効果がある、という点が注目されています。

(清三津さん)

最初に申し上げておきたいのは、配偶者居住権が創設された主旨や目的は、遺された配偶者が安心して暮らしていけるようにするためです。節税のために創設されたわけではありません。

財産を保有している夫が、妻を遺して亡くなる場合を想定して話を進めましょう。一昔前では、同居していた妻が金融資産の一部と自宅を相続してそこに住み続け、独立した子どもは金融資産の一部を相続する、というのが一般的でした。

しかし、高齢化が進み、夫が70代や80代前半で亡くなった後、妻は10年以上、一人で老後の生活が必要となることも珍しくなくなりました。そうなると、妻にも長い老後を生活するためのお金が必要です。これまで以上に、金融資産を相続し、子どもはその替わりに自宅(全部または持分)を相続、というケースも増えることが考えられます。

母親が住んでいる家を、子どもが取り上げるのは考えにくいと思うかもしれません。しかし、様々な理由から自宅を売りたい、と思うようになる可能性もゼロではありません。そこで、配偶者居住権を設定することで、所有権がなくても妻が安心して住み続けるようにしておく、というわけです。

――では、配偶者居住権を設定すると相続税の負担が軽減されると言われているのはなぜですか。

(清三津さん)

ケースによっては、配偶者居住権を設定することで相続税が軽減されることはたしかです。その仕組みについて説明します。

配偶者居住権を設定すると、自宅は「所有権の価値」と「配偶者居住権の価値」に分けて評価されます。例えば、評価額が10の自宅に配偶者居住権を設定すると、配偶者居住権の評価額が3、所有権の評価額が7といったように、元々の評価額を2つに分けるイメージです。いずれも相続税の対象となります。

ちなみに配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢に応じた平均余命によって異なり、妻が若いほど高くなります。年齢が若いと居住する期間が長くなると考えられるためです。

――妻が死亡すると、配偶者居住権はどうなりますか。

(清三津さん)

将来、妻が亡くなると配偶者居住権は法律上消滅します。そのため、配偶者居住権は2次相続における課税対象となりません。この点が相続税に大きく関係します。つまり、配偶者居住権を持った妻が亡くなると、所有権を持っている子どもは相続税を負担することなく、自宅を自由に利用できるようになる、というわけです。

実際にどのような効果があるか、見ていきましょう。こちらの図(山田&パートナーズの資料を元に作成)は夫が死亡し、妻と、別居している子(持ち家あり)が自宅などを相続するケースについて、1次相続と2次相続の税額を試算したものです。

自宅の「所有権」を妻が得た場合
※一定の条件を満たすと330㎡までの土地の評価額が80%減になる「小規模宅地等の特例」や、配偶者の税額軽減なども考慮しています
自宅の「所有権」を長男、「配偶者居住権」を妻が得た場合
※一定の条件を満たすと330㎡までの土地の評価額が80%減になる「小規模宅地等の特例」や、配偶者の税額軽減なども考慮しています

夫の死亡時(1次相続)に自宅を妻が相続し、妻の死亡時(2次相続)に長男が相続した場合と、1次相続で自宅を長男が取得して配偶者居住権を設定した場合を比較してみると、今回の例では後者の方が、相続税の負担が3432万4千円も軽減されるのが分かります。

「配偶者居住権」と節税

――それでは、配偶者居住権を利用した方が有利ということですか。

(伊藤さん)

いいえ、話はそう単純ではないのです。さきほどのケースでは、長男は持ち家がありますが、長男に持ち家がない場合は事情が違ってきます。

自宅の相続には、土地の評価額が80%減額される(330㎡までの部分)、「小規模宅地等の特例」という制度があり、評価額が下がる分、税額も軽減されます。この特例の適用は、同居していることなどが条件で、別居している長男が自宅を相続しても1次相続では適用されません。しかし2次相続については、別居であっても、持ち家がない子どもなら、特例として適用を受けることができます。

そのため、長男は1次相続で相続するより、2次相続で小規模宅地の特例を使って相続した方が有利、ということになります。つまり、配偶者居住権に節税効果があるかどうかは、小規模宅地等の特例が使えるかどうかによっても異なる、というわけです。

――必ずしも配偶者居住権が節税になる、というわけではないのですね。

(清三津さん)

そのとおりです。ほかにも、妻自身が保有する資産の額などによっても、判断が分かれます。少し難しい話ですが、妻の保有財産額によって、1次相続と2次相続のどちらが税負担が重いのかが異なります。税負担の少ない相続で、自宅を子どもに渡す方が有利となります。

(伊藤さん)
配偶者居住権を設定した方がいいかどうかは非常に複雑で、個々の状況によって判断が分かれますので、専門家への相談が得策だと思います。

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――配偶者居住権を設定した場合、固定資産税は誰が負担することになりますか。

(清三津さん)

固定資産税は土地や建物の所有者に納付義務があるため、手続き上、納税通知書は所有権を相続した子どもに届くものと考えられます。ただし実質的には、固定資産税や現状維持にかかる費用は「通常の必要費」とされ、住んでいる配偶者が負担するのが基本的な考え方です。実際に誰が負担するかは双方で話し合い、前もって決めておくことが大切です。

そのほか、不慮の風水害によって家屋が損傷した場合の修繕費などは、「臨時の必要費」として所有者が負担するのが基本です。

――遺言書に配偶者居住権を盛り込むことはできますか。

(清三津さん)

2020年4月1日以降に作成する遺言書に記載できます。前述のとおり、配偶者居住権は相続税にも影響しますから、事前に専門家に相談したうえで、検討するのが望ましいと思います。

配偶者がいて自宅を保有している人は、全員が配偶者居住権について検討すべきだと考えます。配偶者居住権を使うかどうかは、「節税」よりも「遺された配偶者が安心して住み続けられる制度」という視点で考えてみてください。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)

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