印鑑証明書が必要な相続手続き 有効期限や注意点を解説
遺産相続手続きで、印鑑登録証明書(以下、印鑑証明書)が必要となるシーンは多くあります。遺産分割協議書にも実印で押印して印鑑証明書を添付する必要があります。この記事では印鑑証明書が必要な相続手続きや注意が必要なケース、印鑑証明書の有効期限などの重要事項を弁護士が解説します。
遺産相続手続きで、印鑑登録証明書(以下、印鑑証明書)が必要となるシーンは多くあります。遺産分割協議書にも実印で押印して印鑑証明書を添付する必要があります。この記事では印鑑証明書が必要な相続手続きや注意が必要なケース、印鑑証明書の有効期限などの重要事項を弁護士が解説します。
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印鑑証明書とは、自治体に登録した印鑑が、登録した本人の印鑑に間違いないことを証明するための書類です。正式には「印鑑登録証明書」といいます。不動産や自動車を購入するとき、公正証書を作成するときなど、特に本人の意思確認が必要な場合に使われます。
実印と、印鑑証明書を取得する際に必要になる印鑑登録証(印鑑登録カード)は非常に重要なものなので、その2つをどちらも持っているのであれば「本人に間違いない」と通常考えられます。
印鑑登録された印鑑でハンコを押してもらい、印鑑登録書を提出することで、登録した本人の意思によるものであると信用してもらうことができ、簡単かつ確実に本人によるものであると確認することができるのです。そのため実印と印鑑証明書は気軽に他人に渡してはいけません。
遺産分割に関する手続きは重要なものが多く、印鑑証明書の提出が求められる場面は多いです。印鑑証明書は発行する際に必要な枚数を取得しておくと便利です。以下、具体例を見ていきましょう。
遺産分割協議書を作成する際は、相続人全員の印鑑証明書が必要です。遺産分割後に、後述する様々な手続きの際に印鑑証明書の提出が求められるため、遺産分割協議書を作成する際に相続人全員分の印鑑証明書を用意しておきます。
預貯金の払い戻しの際には、どのような方法で相続したかによって、必要な印鑑証明書が分かれます。大きく分けると以下の3つです。
株式の名義変更の際にも、上記の預貯金の払い戻しの際と同じように、印鑑証明書が必要です。
遺産分割協議書によって、不動産の登記名義を変更する際は、相続人全員の印鑑証明書が必要です。
遺言がある場合や、家庭裁判所の調停調書や審判書がある場合は、印鑑証明書は必要ありません。
遺産分割協議書を作成している場合、相続税の申告の際にも相続人全員の印鑑証明書の提出が必要です。
なお、相続税の申告書類については、2021年4月から、捺印が不要になりました。
生命保険を契約していた場合には、受取人の本人確認のため、死亡保険金を受け取る際に受取人の印鑑証明書の提出が求められます。
他の相続人や第三者に、自身の持っている相続分を譲渡する場合や、自身が持っている相続分を放棄する場合にも、印鑑証明書が必要です。相続分譲渡証書や、相続分放棄書に、実印で捺印をすることになります。
家庭裁判所において、相続放棄をする場合には、印鑑証明書は不要です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す印鑑証明書自体には、特に有効期限が記載されているわけではありません。しかし、提出する先によって、発行から一定の期間内の印鑑証明書の提出を求められることがあります。
預貯金の払い戻しや株式の名義変更、死亡保険金の受け取りなどの際には、発行から3カ月以内のものを求められることが多いです。金融機関によっては、発行から6カ月以内でも可能というところもあります。提出先ごとにそれぞれで設定しているため、手続きの際には事前に期限の有無について確認しておくとよいでしょう。
遺産分割協議書と印鑑証明書で預貯金の払い戻しを受ける場合、遺産分割協議書を作成する段階で、金融機関が設定する有効期限を考慮して印鑑証明書を用意した方が、相続手続きがスムーズに進みます。
不動産の相続登記の際には、特に期限はありません。
相続手続きで印鑑証明書が必要な場面は多くあります。手続きで疑問や不安な事があれば、弁護士に相談するとよいでしょう。
日本に居住しておらず、国内に住所登録がない方は印鑑登録ができず、印鑑証明書を取得することができません。このような場合にはどのような手続きを踏めばよいのでしょうか。
相続人の中に海外に居住している人がいる場合、印鑑証明書に代わり、署名証明(サイン証明)を利用します。署名証明は、在外公館で発行するもので、海外に居住している人自身が在外公館へ出向き、その場で領事の面前で署名し、その署名が確実に本人のものだと証明してもらいます。具体的な手続きとしては、以下の通りです。
【署名証明のおおまかな流れ】
領事の面前で署名押印する必要があるため、遺産分割協議書等には事前に署名押印をせずに、持参します。
【署名証明に必要な書類】
詳細は、各国の日本国総領事館のホームページにも記載されているので、ご確認ください。
法律上、未成年者は1人では有効に法律行為をすることができず、法定代理人が行う必要があります。未成年者の法定代理人は、通常は親権者である親になります。
しかし、遺産分割においては、未成年者が相続人となる場合、親も相続人になることがあります。すると、親自身が自分にとって有利になるように、子に不利な内容で遺産分割をしてしまうおそれがあり、親と子で利害が対立してしまいます。
そこで、このような場合には、未成年の子のために特別代理人を選任してもらうよう家庭裁判所に申立て、親ではなく特別代理人が遺産分割の話し合いをすることになります。特別代理人は、通常、叔父や叔母など相続人ではない親族が選ばれることが多いですが、適切な人がいない場合には弁護士など専門家が選ばれることもあります。
このように、特別代理人が選任されて遺産分割協議書を作成した際には、特別代理人の印鑑証明書が必要となります。
相続人の1人が刑務所に収監されているケースもあります。この場合、刑務所に収監されている相続人は、実印も刑務所内で保管していませんし、印鑑証明書も取り寄せられません。
この場合には、その相続人にも遺産分割協議書に署名をしてもらったうえで、捺印の代わりに「指印」をし、その指印の横に刑務所長の奥書証明(刑務所長が、その指印が本人のものであることで間違いない旨証明したもの)をつけてもらうことで、実印による捺印、印鑑証明書の添付に代えることができます。
印鑑証明書の提出を拒む相続人がいる場合には、登記や金融機関の払い戻しができないので、遺産分割調停を申し立てる必要があります。裁判所で調停がまとまった場合や裁判所の審判が下された場合には、裁判所から調停調書や審判書が発行されますが、この場合、相手方の印鑑証明がなくても手続きが可能です。
印鑑登録の方法についても見ていきましょう。自分自身で行う場合と、代理人に依頼する場合の2つがあります。登録する場所は、住民登録をしている市区町村の役所です。2つの方法について解説します。
登録する本人が、以下を役所に持参すれば即日登録することが可能です。
本人がやむを得ず手続きできない場合には、委任状を作成して代理人にお願いして登録することも可能ですが、少し時間がかかります。
まず、代理人が以下を持参して手続きを行います。
すると後日、本人の自宅に回答書が届くので、本人が必要事項を記入したうえで、再度代理人が以下を役所へ持参すれば手続きは完了します。
1辺の長さが8ミリ以下もしくは25ミリ以上、ゴムや変形しやすい素材など登録できない印鑑も定められているので事前に確認しておきましょう。
なお、15歳未満の方は印鑑登録をすることができません。
印鑑証明書は、役所で取得する方法、コンビニで取得する方法があります。なお、印鑑証明書の発行手数料は、いずれの方法でも1通につき300円です。
住民登録した市区町村の窓口で取得できます。その際、印鑑登録をした際に受け取った印鑑登録証(印鑑登録カード)が必要です。なお、代理人が取得する場合でも、基本的には委任状は不要です。
マイナンバーカードを持っていれば、コンビニなどで印鑑証明書を発行することが可能です。年末年始を除き、午前6時30分から午後11時の間に取得することができるため、日中役所へ行くことが難しい方などは、マイナンバーカードを取得しておくことがおすすめです。
印鑑登録をしていたものの、実印を紛失してしまったという場合、悪用を防ぐためにも住民票がある役所で「登録印鑑亡失届出」と「印鑑の再登録」を行う必要があります。 登録印鑑亡失届出には以下が必要となります。
新しい印鑑を登録する場合は、「5. 印鑑登録の方法」と同じです。
何らかの事情で登録している実印を変更したい場合は、「印鑑登録廃止申請書」を役所に提出し、新しい実印を印鑑登録する必要があります。
印鑑登録廃止申請書には以下が必要となります。
以上のように、遺産相続の際には、印鑑証明書が必要となる場面が多数あります。いざ手続きをする際に慌てることのないように準備しておくとともに、もし相続手続きについて心配事があれば、悩む前に弁護士などに相談しましょう。
(記事は2023年8月1日時点の情報に基づいています)
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