目次

  1. 1. はじめに
  2. 2. 賃借権は相続される
    1. 2-1. 賃料は全員に請求される
    2. 2-2. 家賃は法定相続分に応じて負担する
  3. 3. 住み続ける場合の手続は?
    1. 3-1. 遺産分割協議で相続人を決める
  4. 4. 誰も住み続けない場合はどうする?
    1. 4-1. 賃貸借契約を解約する
    2. 4-2. 相続放棄する
  5. 5. 内縁の配偶者が死亡した場合
    1. 5-1. 相続人がいなければ内縁の配偶者に居住権が認められる
    2. 5-2. 相続人がいれば内縁の配偶者は賃借権を援用できる
    3. 5-3. 裁判例上、内縁の配偶者は保護される傾向にある
  6. 6. まとめ

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賃貸アパートやマンションに住んでいる方が亡くなったとき、賃借権も相続されるのでしょうか。実は、法律上、賃借権も相続の対象です。相続人が住み続ける場合は、遺産分割協議をして相続する人を決め、家主に伝えましょう。一方、もし誰も住み続けないのであれば、解約の手続をしなければなりません。

今回は、賃借人が亡くなったときの賃借権の相続関係について解説しますので、相続人の立場になった方はぜひ参考にしてください。

相続というと、不動産や銀行預金などの相続を想像される方が多いかもしれませんが、実は、賃借権のような権利も相続の対象になります。

そのため、賃借人が亡くなると、賃借権は相続人が法定相続分に応じて共有(準共有)することになり、相続人全員が賃借人になります(権利を共有することを「準共有」といいます)。

では、相続人が家主から家賃を請求された場合、それぞれの相続人は家賃全額を支払う必要があるのでしょうか。

この場合、相続人は、家主に対しては家賃全額を支払う義務があります。これは、借りている部屋を使うという権利を相続人の間で明確に分けることができない以上、その対価である家賃を支払う義務も分けることができないという考えからです。

相続人の誰かが家主に家賃全額を支払ったときには、当然ですが、他の相続人は家主にそれ以上の家賃を払う必要はありません。また、全額の家賃を払った相続人は、その法定相続分に応じて他の相続人に、負担すべき家賃分を請求することが可能です。

例えば、3兄弟の長男が亡くなり、相続人が次男と三男の2人だったとします(法定相続分は各2分の1)。このとき、次男が、長男の住んでいた家の家賃10万円を家主に支払った場合、次男は三男に対して、三男が負担するべき5万円(10万円の2分の1)を支払うよう請求することができます。

なお、生前に滞納していた家賃は扱いが異なります。生前の滞納家賃は、各相続人は家主に家賃全額を支払う必要はなく、それぞれの法定相続分割合に応じた金額を家主に支払えば、問題ありません。

相続人の誰かが住み続ける場合には、遺産分割協議をすることで、賃借権を引き継ぐことが可能です。

賃借権は相続の対象となるため、相続人の間で遺産分割協議をして、誰が相続するかを話し合って決めることができます。誰が相続するかが決まったら、新たな賃借人を家主に伝えましょう。その後は、賃借権を相続した相続人が単独で住むことができ、一方で家賃を全額支払うことになります。

なお、相続する人を決める際、家主の同意や承諾料の支払いは不要です。また、誰が相続したかを明確にしておくため、遺産分割協議書を作っておくとよいでしょう。

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誰も住む必要がなかったとしても、何もしなければ、賃貸借契約はそのまま効力を持ち続けるため、家賃を支払い続けなければなりません。

そのため、誰も住む必要がないのであれば、すぐに賃貸借契約を解約しましょう。

多くの賃貸借契約では賃貸期間が決められていますが、「1カ月前に申し出ることで契約期間中でも解約ができる」などのような中途解約条項が入っていることが一般的です。この契約内容に従って、契約の解約手続きを行いましょう。

相続放棄をすれば、相続人ではなくなるため、賃借権を相続することはありません。そのため、相続放棄をすれば、家賃を支払ったり、賃貸借契約を解約する必要はありません。

しかし、相続放棄した人でも、他の相続人が財産を管理するまでは、相続財産を適切に管理する義務があります。そのため、相続放棄をしたとしても、物件を放置し、周囲に迷惑をかけてしまうと、損害賠償責任を問われる可能性もあります。相続人となる人に相続放棄をしたことを連絡したり、場合によっては相続財産管理人を選任するよう裁判所に求めるなどして、物件の管理に問題が生じないように注意しましょう。

住み続けるかどうかで、相続人がするべきことも変わります
住み続けるかどうかで、相続人がするべきことも変わります

内縁関係の場合、戸籍上は夫婦ではないので、相続人ではありません。
しかし、その場合でも、内縁の配偶者が賃借権を引き継ぐことができる場合があります。

賃借人に相続人がいない場合には、賃借人の内縁の配偶者は、賃借権を引き継ぐことができます(借地借家法36条)。賃借人が亡くなった途端に内縁の配偶者が追い出されることのないように、相続人でなくても賃借権を引き継ぐことができるよう法律で保護されています。もちろん、賃借人となる以上、内縁の配偶者は、家主に対して、家賃を支払う義務を負うことになります。

一方、賃借人に相続人がいる場合は、相続人が賃借権を引き継ぐことになるので、内縁の配偶者が賃借権を引き継ぐことはできません。

しかし、その場合でも、内縁の配偶者が追い出されることのないよう、明確に法律は規定されてはいないものの、裁判例上、内縁の配偶者は、相続人が持っている賃借権を援用するという形で、物件に住み続けることができるとされています。賃借権を持っているのは相続人ですが、内縁の配偶者にもこの権利を主張することが認められていて、家主から追い出されることがないように手当てがなされています。

なお、過去の裁判例では、家主と相続人が賃貸借契約を終了する方向で合意したとしても、基本的には内縁の配偶者は物件に住み続けることができると判断したものもあり、裁判例上では内縁の配偶者が住み続ける権利を保護する傾向にあります。

それでも、相続人が家賃を支払わないので家主から賃貸借契約を解除すると言われたような場合には、内縁の配偶者が追い出されてしまう可能性はあります。そのような場合は、内縁の配偶者が利害関係人として相続人に代わって家賃を支払って、賃貸借契約を解除されないようにするとよいでしょう。

以上のように、賃借権の相続は意外と複雑です。誰かが住み続けるのか、誰も住まないのか、それぞれどういった手続をすればいいのかなど、状況に応じて対処する必要があります。対処を間違えると家主とのトラブルにもなりやすいので、もし迷ったら弁護士に相談しながら、解決していきましょう。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)

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