実家の相続1 吹き飛んだ屋根で被害が出たら誰が責任を負うのか
青森県八戸市で事務所を開く公認会計士・税理士・司法書士・行政書士資格を持つ元新聞記者が、実際相談を受けたことから、相続で問題になりやすい事例を解説します。
青森県八戸市で事務所を開く公認会計士・税理士・司法書士・行政書士資格を持つ元新聞記者が、実際相談を受けたことから、相続で問題になりやすい事例を解説します。
「相続会議」の司法書士検索サービスで
青森県全域を台風が通過した翌日、さいたま市に住む男性会社員(45)宅の電話が鳴りました。
「おたくの屋根のトタンが破れてウチに飛んできています。早く片付けてください」
青森県八戸市にある父の生家。両親は既に亡くなり、男性自身は幼少期に訪れたきりで場所を覚えていません。電話越しに老齢の女性がしきりに不安を訴えてきます。今にも家が倒壊しそうであること――、近所で空き家の火事があったこと――。近隣を訪ね歩き、ようやく男性の連絡先を知ったといいます。
男性は「とにかく何とかします」と答えて電話を切ったものの、動悸がしばらく治まりませんでした
この事例は、フィクションです。
ただ、このような相談は増加する一方です。
私は青森県八戸市で公認会計士・税理士・司法書士・行政書士事務所である、「石動総合会計法務事務所」を経営しています。
青森県八戸市は太平洋沿いに位置する人口約23万の都市で、製造業や農業、漁業が中心産業。多くの若者が高校卒業と同時に進学や就職で町を離れます。都会で職や家庭を得て、そのまま戻らないケースも多いです。
実は私も、独立を機に4年前にUターンしたばかりです。
似たような都市は全国に多数あるでしょう。
幼少期と比較すると、市内には目立って空き家が増えています。
長期間人の出入りがないと、まず庭が荒れ放題になります。その後、窓が割れたり、カーポートが崩れたりして、徐々に家の崩壊が始まっていきます。住宅街を歩くと、明らかに空き家とわかる家がすぐに見つかります。不動産業者の連絡先が掲示してあるなど、売りに出ているものは一部で、多くは放置されたままの状態です。
当事務所は、私と事務員だけの小規模のため、相続案件の受任は年間数十件です。それでも、冒頭のような相談は年に4、5件はあります。
空き家を含む不動産の管理責任については、民法第717条1項に以下のとおり規定されています。
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」
空き家に占有者(住んでいる人)はいないため、所有者が責任を負うことになります。
この責任は相続登記が終わっているかどうかは関係がありません。
相続放棄をすればいい、と思った人はいないでしょうか。
たとえ相続放棄をしても、管理責任から逃れられない場合があります。
確かに、民法第918条1項によると、相続放棄によって財産管理責任を免れることになっています。
「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない」
一方で、民法第940条には以下のような規定があります。
「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」
すべての法定相続人が相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか。
民法第951条に規定があります。
「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする」
相続財産法人に関する手続きは民法第952条に規定されています。
「前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない」
つまり、いくら相続放棄をしようと考えていても、裁判所に選任された相続財産管理人に財産を引き継ぐまでは、空き家の管理義務を負わなければならない可能性があるのです。
ここまで読んで、心配になった人も多いのではないでしょうか。
使う予定のない不動産を相続してしまった、又は相続予定の場合、どうしたらよいでしょうか。
答えは一つ。次回は対策について解説します。
(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)