目次

  1. 1. 家督相続とは 遺産相続との違い
    1. 1-1. 戦前の法律の取り決め 長男が全財産を相続
    2. 1-2. 家督相続はいつまで? 戦後廃止になった家督相続制度
    3. 1-3. 今なお「俺は長男だから」 家督相続を訴えるケースも
  2. 2. 家督相続は今も「先祖代々の土地の相続登記」に適用される可能性
  3. 3. 家督相続に近い相続を実現する方法
    1. 3-1. 遺言書を作成する
    2. 3-2. 遺留分の侵害には注意する
  4. 4. 家督相続を主張された場合の対処法
    1. 4-1. 遺言書があるか確認する
    2. 4-2. 遺言書通りに分割したらほとんど長男が相続してしまった場合
    3. 4-3. 話し合いがまとまらない場合には遺産分割調停で
  5. 5. まとめ 長男が家督相続を主張したら、弁護士に相談を

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家督相続(かとくそうぞく)とは、明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで施行されていた旧民法の遺産相続の方法で、「戸主(こしゅ)」が隠居や死亡をした際、長男がすべての財産、および戸主の地位を相続していました

戦前に存在した制度である戸主とは、家族の中の統率者、支配者を意味し、いわば父親を殿様として、ほかの家族を家臣と見立てるようなイメージのものです。戸主以外の人が結婚するためには戸主の承諾が必要でしたし、逆に戸主は家族の扶養義務を負っていました。そして、戸主が隠居や死亡をした際には、戸主の地位を継ぐ長男が戸主の財産をすべて相続します。戦前には、法律にこのような定めがあり「家督相続」と呼んでいたのです。

ちなみに、「隠居」という言葉は時代劇などで見たことがあると思います。これは、戸主がまだ死亡していなくても、戸主自身の意思で「隠居」をすることにより家督相続人に戸主の財産を家督相続させることができる制度です。このように、戦前の「戸主」制度の元では、江戸時代までの封建制度をそのまま民法に取り込んだような制度が様々に残されており、その一つが家督相続でした。この頃は、財産は個人の財産と言うよりも、家の財産として扱われていたのです。

なお、女性であっても戸主となることができ、家督相続を受けることもできましたが、女性が戸主の場合は、その「入り婿」が原則として家督相続し、新戸主になるとの規定が民法で定められていました(旧民法第964条)。

戦後に入り、家督相続の制度は廃止されました。戦後は個人の尊重や法の下の平等といった理念が重要視されるため、家のために個人が犠牲になるような制度は、それらの理念に反するものとされたのです。現在では、すべての相続人に法定相続分が認められ、また遺留分も認められています。

法定相続分は以下の配分にしたがってそれぞれ分配されることになります。

法定相続分の配分
法定相続分の配分の一覧図。直系尊属とは、父母や祖父母など自分より前の世代の直系の親族を指します

このように、家督相続が廃止されたあとの法定相続では、配偶者に常に2分の1以上の法定相続分が認められ、ほかの相続人についても一定の相続分が法律で認められています。

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現在では、長男がすべての財産を相続すると言う事は相続人の全員の合意なくしてはできません。また、遺言があっても、遺留分を侵害するような遺言をした場合には、遺留分侵害額請求をすれば遺留分額の支払いをしなければなりません。

しかし、「すべての財産は長男が相続するものだ」と考える慣習がいまだに根強く残っている地方もあります。

あまり法律に詳しくない長男などが、ほかの相続人に一切の遺産を渡さないと主張する場合があったとしても、それは法律を勘違いしているに過ぎませんから、しっかりと法定相続人分または遺留分に従った相続を主張しましょう。

すでに廃止された家督相続が現代で実際に問題になるケースは少ないのですが、昭和22年5月2日(1947年5月2日)までに開始した相続については、家督相続制度が適用されます。70年以上前に開始した相続についても、いまだに遺産分割がなされていないケースや登記がなされていないケースも存在するため、現在でも問題になるケースはないわけではありません。

たとえば、1947年5月2日以前に亡くなった何代も前の祖父が持っていた土地の遺産分割がいまだにできておらず、相続登記が未完了の場合には、まず祖父の相続については、家督相続制度の適用があるため、遺言がなくても家督相続人がまず遺産を承継することになります。現代の民法では、妻や子供には、一定の割合で法定相続分が認められていますから、この点で大きな違いが生まれます。

また、不動産登記の実務においては、いつ相続が発生したのかによって、どのような相続割合で、また登記原因で登記していくのかが異なってきます。もし、あなたが家督相続制度の絡む遺産相続の問題に直面した場合には、弁護士や司法書士などの専門家の力を借りずに正しい解決をするのは非常に困難でしょう。

現在でも、特定の相続人に財産の多くを相続させたいという需要は存在します。そのような場合にでも、家督相続とまではいきませんが、家督相続に近いような相続を実現する方法がないわけではありません。それは遺言を書くことです。

現代において、遺言がない場合には法定相続分に従って妻や子ども、子どもがいない場合には親や兄弟姉妹に、一定の割合で相続がなされます。しかし、遺言がある場合には、法定相続分は関係がありません。きちんとどの遺産が誰に相続されるのかを記載しておきさえすれば、相続が始まった時(遺言者=被相続人が死亡した時)に、遺言の記載内容に従って、遺産が分割されたものとされるのです。

例えば、会社を経営していて、ほとんどすべての株式を持っている被相続人が、長男に会社の経営権を相続させたいとしましょう。このような場合に、「被相続人の遺産は、すべて長男に相続させる」という遺言を残していた場合には、会社の株式も含めて、すべての遺産を長男に相続させることが可能です。このように遺言によって株式さえ長男が相続してしまえば、会社の経営権は長男に安心して任せることが可能です。

ここで注意しなければならないのは、「遺留分」についてです。。仮に「すべての遺産を長男に相続させる」という遺言を被相続人が書いていたとしても、他の相続人にも一定の取り分が認められる制度です。ほかの相続人が自分の取り分を主張することを「遺留分侵害額請求」といいます。

この遺留分侵害額請求は、少し前までは、遺留分減殺請求と呼ばれる制度でした。しかし、近年法律が改正され、2019年7月1日以降に発生した(=死亡した)相続においては、遺留分侵害額請求という制度に変わり、簡単にいえば、全遺産を相続した長男に対してお金を請求できると言う制度に変わりました。逆にいえば、株式や不動産の持分などのお金以外のものについては請求することができません。

この法改正によって、何が変わったかというと、遺留分減殺請求であれば、長男以外の相続人は、長男に対して株式を譲り渡すように請求できたのですが、新しい遺留分侵害額請求であれば、長男に対して株式に代わるお金を支払うように請求できるにとどまる点です。この違いは少しわかりにくいかもしれませんが、会社の株を渡さなければならないのと、お金を払うだけなのとはまったく違います。

先ほどの例でいうと、遺留分侵害学請求であれば、長男は株式を相続することにより会社の経営権は確実に確保することができ、その一方で、株を式が必要ないほかの相続人からしてみれば、株式ではなくその分のお金をもらえると言う意味で、遺留分が保障されるようになっています。

なお、この遺留分侵害額請求については、相続があったことを知った時、または慰留分を侵害する贈与等があったことを知った時から1年間しか行使できませんから、遺言等によって遺留分を侵害されているのではないかと思われる方については、早めに専門家に相談をされるのがよいでしょう。また、会社の後継者をしっかりと決めておきたい経営者の方なども、遺言の書き方をきちんと相談しておくのが良いと思います。

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家督相続はすでに廃止されている制度ですが、遺産分割で揉めた場合、長男が「遺産はすべて長男が相続すべきだ。うちは先祖代々長男がすべて相続することになっている」などと、慣習や風習を主張してくるケースがあります。

ここでは、親族のなかで家督相続を主張する者が現れた場合の対処法について、現在の相続制度も踏まえながら解説していきます。

まずは、遺言書が残されていないか確認するところからはじめましょう。遺言書が残されているのであれば、遺言書どおりに遺産を分割することになります。

遺言書が存在しない場合は、相続人同志の話し合いにより解決を目指すことになります。「なぜ家督相続を主張しているのか」「法定相続分通り遺産を分割することについてどう思うのか」など、現代の相続制度を根拠にこちらの主張をしていく必要があるでしょう。

遺言書に「すべての遺産は長男が相続する」と書かれていたため、家督相続に近い形で相続が行われてしまった場合でも、ほかの相続人は一定の遺留分を請求することができます。

また、長年被相続人の介護をしてきた場合や、被相続人の仕事を引き継いで業績を飛躍的に伸ばした場合など、相続財産の維持・増加について特に貢献した相続人については、相続人間の公平を図る観点から、ほかの相続人よりも相続財産の取り分を多く主張することが認められています。

この通常の相続分よりも多くもらえる部分のことを「寄与分」と呼びますが、もし寄与分をもらえるような理由があれば、家督相続を主張してきた相続人に対しても自分の寄与分を主張することができます。

相続人同士では話がまとまらない場合、調停や審判、あるいは裁判で解決を図ることになるでしょう。

遺産分割調停は、家庭裁判所の裁判官と調停委員が、中立的な立場に立ち当事者に具体的な解決策を提案し、遺産分割について、話し合いで円満に解決できるよう斡旋する手続きです。

裁判所を通す手続きとなると、相続に関する法律の知識を使って相手に主張する必要性も高まることから、弁護士に依頼することをおすすめします。

話し合いだけではどうしようもない場合には、法的な手段を取ることも考えてみてはいかがでしょうか。

家督相続はすでに廃止されているため、あまりかかわることがない制度かもしれません。

しかし、先祖代々相続している土地の登記や、兄弟間で遺産分割に揉めた際に長男が主張してくる場合など、いまだに家督相続が問題になるケースがあります。

現在の相続制度を理解するのと同様に、家督相続についても理解しておくことは、遺産分割協議をスムーズに進めることに非常に有用です。

もしも、遺産分割で「長男がすべて相続すべきだ」と主張してきた場合には、交渉の専門家である弁護士に相談し、現代の法律の根拠にもとづいて交渉を進めてもらうことをおすすめします。

(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)

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