預貯金は可分債権? 遺産分割の方法をわかりやすく解説
可分債権は、遺産分割の対象になりません。例えば、損害賠償請求権や賃料請求権などは、遺産分割協議をしなくても各相続人が法定相続分に応じて相続します。ただし、預貯金については他の可分債権とは異なり「遺産分割の対象になる」と考えられています。 今回は預貯金が他の可分債権と違ってどのように取り扱われるのか、改正民法における預貯金の取扱いも含めて解説します。
可分債権は、遺産分割の対象になりません。例えば、損害賠償請求権や賃料請求権などは、遺産分割協議をしなくても各相続人が法定相続分に応じて相続します。ただし、預貯金については他の可分債権とは異なり「遺産分割の対象になる」と考えられています。 今回は預貯金が他の可分債権と違ってどのように取り扱われるのか、改正民法における預貯金の取扱いも含めて解説します。
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遺産分割をするときには、被相続人(亡くなった人)の持っていた財産は、全て遺産分割の対象になると考えていませんか?大多数の人がそのように理解しているかもしれませんが、実は間違っています。
そもそも、“遺産分割の対象になる遺産”とは、相続人全員で遺産分割協議をしないと取得できない財産のことです。逆に、“遺産分割の対象にならない遺産”とは、遺産分割をしなくても各相続人が確定的に取得できる財産であるという意味です。遺産分割は、揉めてしまうと大変な長期間に及ぶこともあるので、遺産を取得するのに遺産分割がいるのか否かはとても重要な問題です。
被相続人の持っている財産といえば、土地建物、預貯金、株式、現金、貸金、売掛金、出資持分、絵画や高価な宝石など多岐にわたります。
「被相続人が持っていた財産は、全て遺産分割の対象になる」と思っている方も多いでしょう。そのイメージは大まかには合っています。不動産や現金を含む動産は遺産分割の対象であり、株式や投資信託も遺産分割の対象です。
しかし、貸金や被相続人の行っていた商売の売掛金などの「可分債権」は、遺産分割の対象にはならないと考えられています。ある遺産が「可分債権」に該当すれば、遺産分割をしなくても債権額を法定相続分で割って、各相続人が取得して良いとされています。
具体的には、例えば相続人が2人で法定相続分が各2分の1の場合に、被相続人が1000万円の売掛金を有していた場合には、その売掛金は遺産分割協議をしなくても、相続人の1人がその半分にあたる500万円を他の相続人の承諾がなくても勝手に回収してしまって良いということです。
相続の場面で、最もよく出てくる遺産は、言うまでもなく預貯金です。実は、この預貯金は、平成28年までは、最高裁の判例によって可分債権に該当すると考えられていました。平成28年までは、預貯金に遺産分割協議は必要なかったのです。つまり、各相続人は、遺産分割協議をしなくても、自分の法定相続分に対応する金額であれば、銀行に対して預貯金の払い戻しを請求することができたのです(なお、実は平成28年以前にも銀行は任意での払い戻しには応じていませんでしたが、訴訟をすれば払い戻していました)。
しかし、このように「預貯金は可分債権に当たる」と考える事は、様々な弊害がありました。例えば、預貯金は相続人間で公平を図るための調整要素として非常に便利ですが、先に引き出されてしまうことによりこの調整が難しくなる場合がありました。また、生前に被相続人から多額の援助を受けていた相続人が、預金については特別受益の考慮を受けることなく、法定相続分で取得してしまうことが可能だったため、抜け道的な行為が行われることもありました。
そこで、最高裁判所は、平成28年に判例を変更しました(最大決平成28年12月19日)。その結果、預貯金は可分債権に当たらず、遺産分割協議が必要であるということになったのです。
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相続の相談が出来る弁護士を探す平成28年の判例変更後にも、可分債権にあたるものはいくつか残っています。例えば、被相続人が他人に貸していた貸金債権、被相続人が交通事故で亡くなった場合の加害者に対する損害賠償請求権、被相続人が生前に商売を行っていた場合の売掛金等です。
これらの債権については、今でも各相続人が各自の相続分に従って遺産分割前に請求していくことが可能です。
なお、被相続人が収益不動産を所有していた場合、死亡後にも賃料が発生します。これは厳密には遺産ではありませんが、可分債権と同じように遺産分割をしなくても各相続人が相続分に応じてそのまま取得することが可能です。これは意外と知られていないので、覚えておくといいでしょう。
先ほど述べた平成28年の判例変更によって、遺産分割をするまで預貯金が引き出せないことになりました。
これには良い面もありましたが、遺産分割協議が長期化すると困ることもあります。それは、被相続人が亡くなった後に、当面必要になる費用の引き出しができないことです。被相続人の死後には、相続人の生活費を含め何かと物入りですが、預貯金が引き出せないと困ってしまいます。
このような需要に対応するために、平成31年の7月1日から新たな相続法が施行されました。新しい相続法では、それぞれの相続人が1金融機関あたり最大150万円の範囲で、遺産分割前に預貯金の払い戻しをすることが認められました。
この方法を活用すれば、比較的早期に、小口の資金需要には対応できるようになりました。ただし、銀行に行けば直ちに引き出しに応じてくれるわけではありません。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本やすべての相続人の戸籍謄本等、必要な書類が複数あります。被相続人の死亡後に当座の費用として預貯金の引き出しを考えている場合は、できるだけ早く書類集めに着手する必要があります。
さらに150万円を超えて資金が必要な場合には、新しい相続法はこれにも対応しています。「預貯金債権の仮分割の仮処分」と呼ばれるものです。要件はやや複雑で、相続財産の中から債務の弁済や生活費の支弁等のために預貯金引き出しの必要があり、他の相続人を害する恐れがない場合には、家庭裁判所に申し立てることにより、必要な額の引き出しが認められます。この申し立てをする場合には、必要な書類は先程の150万円までの引き出しとは比較にならないほど多くの書類と複雑な手続きが必要なため、早期に専門家に相談することをお勧めします。
遺産の中には、遺産分割を要しない遺産があります。それは可分債権と呼ばれるものです。昔は預貯金も可分債権とされていましたが、現在では預貯金は可分債権ではなく、遺産分割をしないと引き出すことができません。被相続人が亡くなった後に、できるだけ早く一定の預貯金を引き出したい場合には、手続きを行えば引き出すことが可能です。手続きの方法は、引き出す金額によって異なりますが、多くの書類を集めたり、裁判所に申し立てたりする必要があるため、一度、弁護士に相談してみてください。
(記事は2021年3月1日時点の情報に基づいています)
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