録音や動画は遺言書の代わりになる? 相続でもめないための対策とは
父親が病気で寝たきりになって文字を書く力がない、母親は目が見えず字を書けないなど、遺言者が手書きで遺言書を残せない場合があります。その際、遺言をボイスレコーダーなどに録音したり、ビデオカメラで録画したりして遺言としても問題ないのでしょうか。事例を挙げながら弁護士が解説します。
父親が病気で寝たきりになって文字を書く力がない、母親は目が見えず字を書けないなど、遺言者が手書きで遺言書を残せない場合があります。その際、遺言をボイスレコーダーなどに録音したり、ビデオカメラで録画したりして遺言としても問題ないのでしょうか。事例を挙げながら弁護士が解説します。
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遺言の方式として最も多いのが、遺言者が手書きで行う「自筆証書遺言」です。もっとも、下記のように、自筆証書遺言以外の方法で遺言を残すことが適当なケースがあります。
遺言書は高齢になってから書くことが一般的です。そのため、加齢に伴う手の震えなどから、手書きが難しい方は少なくありません。他人の添え手による補助を受けて書いた遺言は原則として無効と考えられているので、安易に添え手をすることもできません。この場合、自筆証書遺言以外の方法が望ましいでしょう。
病気で手の震えがあったり、事故で手が動かせなかったりして、手書きが難しいケース。この場合も、自筆証書遺言以外の方法が望ましいでしょう。
遺言書を作成する場合、内容に誤りがないように、また、誤字や脱字がないように、かなり気を使います。そのため、高齢であると、気力や体力の衰えから、書くのが面倒に思われる方もいます。この場合、自筆証書遺言以外の方法も検討に値するでしょう。
認知症であるからといって、必ずしも遺言書を書けなくなるわけではありません。ただし、後日、遺言者の遺言能力や意思能力の有無について、相続人間で紛争となる可能性が高いです。単に自筆証書遺言のみを作成することには慎重になるべきケースといえるでしょう。
ここで解説した四つの状況のように、自筆証書遺言以外の方法で遺言を残すことが適当なケースがあります。このような場合に、時々、録音や録画という形で遺言を残したいというニーズが出てきます。
結論から言うと、録音や録画等のデータは、法律で定められた遺言の形式のいずれにも当てはまりません。つまり、ボイスレコーダーやスマートフォンなどを通じた音声や動画は遺言としての法的な効力を持ちません。
ただし、法的な効力はないとしても、録音や録画等のデータを残しておくことに全く意味がないわけではありません。むしろ、録音や録画等のデータを残しておくことが「争族」を回避するために有効な一手といえるでしょう。
なぜなら、遺言者が、遺言書作成の経緯などを説明した録音や録画等のデータがあれば、別途作成した遺言書について、遺言能力があったことや偽造でないこと、誰かの言いなりで書いたのではないことなどを立証する証拠になるからです。また、書面と動画では、やはり与える印象が大きく異なりますので、遺言書の内容に不満を持つ相続人を説得する材料にもなります。そのため、将来、相続人間での紛争が見込まれる際は、遺言書の作成に加えて、録画等のデータも残しておくと良いでしょう。
なお、韓国など、国によっては、録音による遺言を認めていることもあるようです。日本でも法務局による自筆証書遺言保管制度が開始するなど、世間のニーズに合わせて遺言や相続に関する法律は変わってきています。そう遠くない未来に、日本でも録音や録画による遺言が法的に有効となる時代が来るかもしれません。
法的効力のある自筆証書遺言や「公正証書遺言」などの遺言書はなく、録音や録画による遺言だけが残っているというケースもあるでしょう。前記のとおり、録音や録画のデータ自体は、法的に有効な遺言ではありません。そのため、このケースでは相続人はその遺言に従う必要はありません。相続人間の話し合い、つまり遺産分割協議によって遺産の分配を決することになります。
ただし、録音や録画による遺言が法的に無効であっても、その遺言に従うことまで禁止されるわけではありません。録音や録画で残された遺言者の意思を尊重し、遺言の内容に沿った遺産分割を成立させることも可能です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す自筆証書遺言は手書きで作成する必要がありますので、点字で作成した場合は無効です。そのため、目が見えない方で手書きが難しい場合は、公正証書遺言を作成することをおすすめします。
なお、目の見えない方以外にも、口がきけない方や耳の聞こえない方も公正証書遺言を作成することが可能です。実際、公証人が、病院等に赴いて、これらの方々の遺言書を作成することも珍しくありません。
病気などの理由から手書きで遺言書を作成することが難しい場合は、公正証書遺言を作成することが最も有効な方法です。なぜなら、公正証書遺言の場合、遺言者が口授した内容を公証人が文章にまとめてくれるので、遺言者が手書きする必要はないからです。そのため、書くのが面倒という方にも、公正証書遺言は有効です。なお、公証人に、病院等に出張してもらうこともできます。
被相続人が認知症の場合でも、必ずしも自筆証書遺言が書けないわけではありません。
しかし、遺言者に認知症が疑われる場合には、のちに一部の相続人が「遺言者は遺言書を作成した時点で認知症であったことから遺言能力はなかった」と主張して争いになる可能性が高いので、注意が必要です。
そのため、認知症などで、遺言者の遺言能力や意思能力に疑問がある場合は、医師の診察を受け、遺言能力の有無の判断を仰いだ上で、遺言書を作成することがおすすめです。その際、診断書等の客観的な資料を残しておきましょう。また、遺言の方式としては、公正証書遺言にすべきです。併せて、録音や録画等のデータを残しておくことも有効です。
公正証書遺言の作成に併せて、遺言関連のサービスを利用することも有効です。弁護士や司法書士などでも、遺言書案作成に併せて、動画撮影サービスを提供している事務所があります。
また、ご家族に対するメッセージをスタジオ等で録音や録画の上、保存してくれる「ラスト生声遺言メッセージ」や、作成したメッセージを保存し、あらかじめ指定された受取人に受け渡してくれる「e遺言」など、遺言に関連する民間サービスもいくつか存在します。
繰り返し指摘してきたとおり、録音や録画等のデータは法的に有効な遺言とは認められません。法的効力という点で見れば、民間企業が展開する遺言サービスを利用するだけでは十分ではありません。ただし、遺言書の作成に付随して、これらのサービスを利用してメッセージを残しておくことは、将来の紛争を避ける意味でも有効といえます。
高齢になってくると、気力も体力も衰え、遺言書を書くことがおっくうになってきます。また、手の震えや認知症など、心身に不調を来す可能性も高まります。
そのため、将来の紛争を避けるためにも、一定の年齢になったら、健康なうちに、自筆証書遺言なり公正証書遺言なり、法的に認められた形で遺言書を作成しておくことが大切です。同時に、遺言書の作成と併せて、遺言関連のサービスも調べておくと良いでしょう。録音や録画は「争続」を抑止する働きもしてくれるはずです。
(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)
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