目次

  1. 1. 遺言と違い、死因贈与は「双方の合意」が必要
  2. 2. 死因贈与は「一対一」の関係
    1. 2-1. 死因贈与は「口頭」もOKだが、できれば書面で
  3. 3. 遺言と死因贈与契約は、実際どう使い分ける?
    1. 3-1. 財産だけ、不動産だけ、など明確なケースは死因贈与
  4. 4. 「相続」時の税金や、契約を撤回したくなったら
    1. 4-1. 税金について
    2. 4-2. 撤回について

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まだ結婚制度がない日本の同性パートナー間で、互いに財産を継承する方法については、これまで遺言の執筆生命保険の活用についてご紹介してきました。きょうは「死因贈与契約」という選択肢について、遺言と比較しながらご紹介してみましょう。

死因贈与契約って、聞いたことありますか? 「自分が死んだら○○をあなたにあげます」という約束(契約)をパートナーとすることができます。
その契約には遺贈(遺言)に関する民法の規定が適用され(民法554条)、パートナー間での死後の財産承継について、遺言とおなじような使い方ができます。

とはいっても、遺言と少し違うところもあります。
遺言は「単独行為」といい、自分一人の自由意思でするものです。パートナーに秘密にして遺言を書くこともできます。

それに対して死因贈与契約は贈与契約の一種、つまり自分と相手の双方の合意に基づくものです。民法は贈与の成立条件を、本人が「ある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすること」(民法549条)と定めています。

遺贈や死因贈与契約は、本人の死亡時に有効となる仕組みです。このとき単独行為である遺言では、場合によってパートナーは財産の受け取りを拒むことができます。
それに対して死因贈与契約は双方が合意しているので、拒むことはできません。本人の死後、調べてみたら借金しか残っていなかったという場合でも、遺贈の場合はいわゆる「相続放棄(正しくは遺贈の放棄)」をすることができますが、死因贈与ではそれができないので注意してください。

そのほか両者には、どんな違いがあるでしょうか。

遺言では、不動産とA銀行の通帳はパートナーに、B銀行の通帳は甥に、などと複数の人に財産を配分することができます。
それに対して死因贈与契約は基本、一対一のものですから、全財産もしくは特定の財産といったあらかじめ取り決めた資産をパートナー(契約の相手方)だけに渡すことになります。

また、遺言では財産の遺贈以外に、葬儀やお墓についての祭祀主宰者の指定、生命保険受取人の変更の指定、小さな子がいる場合の未成年後見人(親権者にかわる人)の指定、さらに必要があれば子の認知もできます。
それに対し死因贈与契約は財産贈与にかんする契約だけで、遺言のように資産以外をあれこれ決めるようなことはできません。例えば生命保険金についても、すでに指定されている受取人の固有の財産であるので、贈与の対象とはできません(受取人変更の指定はできない)。

ただ、不動産について、死因贈与契約を理由として所有権移転の仮登記をすることができます。「いまの所有者(自分)が死んだらつぎはこの人(パートナー)が所有者です」ということを、登記証明書にも表示することができるわけです。
パートナーが心変わりして内緒で家を売りほかの人にあげようとしても、登記につぎの所有者の名前が記載されていれば、それもできません。

遺言を公正証書で作成する場合は証人が2名必要で、自筆証書遺言の場合は死後に家庭裁判所で検認手続きが必要です。公正証書作成には当然、公証役場での手数料が必要ですが、遺産の総額が1億円未満の場合は遺言加算といって、手数料にさらに11,000円が加算されます。

死因贈与契約の場合は、証人や死後の検認は不要ですし、贈与は法律上、口頭でも有効とされています。お二人のライフプランのためには第三者にも提示できるよう書面で、できれば公正証書で作成することが望ましいですが、公正証書でする場合でも、贈与財産額について遺言のような加算規定はありません。

さて、実際の作成現場では、遺言と死因贈与契約とを、どう使い分ければいいでしょう。

まずはパートナー同士でご相談する際は、「どちらかが亡くなったときになにが懸念されるのか、なにに備えておきたいか。財産内容はなにがあるか、それをだれにどう配分したいか、カミングアウトなど親族との関係はどうか」といったことをよく話し合うことが大切です。

そのうえで士業者に依頼する場合、私ならどうするでしょうか。
例えば、高齢の方で「それなりの財産があり、配分先もパートナーを含む複数の相手を考えており、遺贈以外にもいろいろ考慮することがある」というケースでは、遺言をおすすめすることが多いと思います。
一方、50代ぐらいの働き盛りの方で「まだ本格的な終活には少し遠いけれど、万一急に亡くなったら全財産を相手に渡してあげたい」とか、「二人でローンを払っている家だけは相手の名義にしたい、祭祀主宰など財産以外のことは親族の理解もとれている」といった場合は、死因贈与契約で十分でしょう。

死因贈与契約はそれ単独でつくることもできます。ですが私は、お二人のこの先の生活に備え、まず共同生活にかんする宣言や病院での療養看護の委任などパートナーシップに関する合意契約書をつくり、そこに必要な死因贈与契約を付加する公正証書の作成をご紹介しています。

また公正証書は、「一度作ったら作りっぱなしにせず、保険の見直し同様、10年、20年といった時期に内容を見直してみてください」、ともアドバイスしています。

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一方が亡くなっていざ実際に死因贈与契約が発効して財産が移転するとき、遺言による遺贈であれ、遺贈の規定が準用される死因贈与契約であれ、どちらも相続税の規定が適用されます。贈与税ではありません。
ただし、同性パートナーは法的な親族ではないので第三者への遺贈となり、親族への相続のような控除や優遇がありません(前回の生命保険金と同様)。

遺言は、相手の意向にかかわりなく新しい遺言を書くことで自由に撤回することが可能です(民法1022条)。また、死因贈与契約について、書面でされた贈与契約は撤回できないのが原則ですが、死因贈与は遺贈(遺言)の規定が準用されるので、贈与者側からの撤回が可能です。

とはいえ、私の連載で紹介する遺言や死因贈与契約は、同性カップルのライフプランニングで結婚にかわる方法として紹介するものですから、単独行為の遺言であっても二人でよく話し合い、相手も納得したうえで作成することが原則です。
また、死因贈与契約も撤回しないことが前提です。私は、パートナーシップ契約が解除されないかぎり死因贈与も一方的に取り消すことはできない旨の文言も入れています。

くわしくはお二人の事情を安心して話せる専門家にぜひご相談ください。

(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)

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