目次

  1. 1. 障がいのある子の親が不安を抱える「親なき後問題」
  2. 2. 生活基盤の安定、生活資金の確保に不安が残る
    1. 2-1. 本人の生活を支援する成年後見人の選任や、生活拠点の維持
    2. 2-2. 生活資金や財産管理と金銭トラブル
    3. 2-3. 親が亡くなった時の死後事務の対応
    4. 2-4. 財産が国庫に帰属する可能性
  3. 3. 親なき後問題、解決策は?
    1. 3-1. 成年後見制度を利用する
    2. 3-2. 遺言を利用する
    3. 3-3. 自治体や専門家の相談窓口を利用する
  4. 4. まとめ|公的な制度や支援の利用を

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「親なき後問題」は、社会全体の問題といっても過言ではありません。ここでは、親なき後も生活を送る障害のある子が抱える、不安の根源、問題点、問題の解決策などについて詳しくみていきます。

親が元気なうちは、親自身が障がいのある子の生活を支えることができます。しかし、親がいなくなってしまった後は、どうでしょうか。「いったい誰が、どのように、我が子の生活を支えてくれるのか」と、将来について考え出すと不安で仕方がないという親御さんは少なくありません。

親なき後問題の本質は「障がいのある子の将来に対する不安」です。
つまり親なき後問題の解決をはかるなら、不安を解消するために今何をするべきなのか、親子の生活の現状に焦点をあてて考えることで、予想される将来の問題が見えてくるでしょう。

そうして具体的な問題が明らかになってきたら、問題に応じた具体的な解決策を検討します。親なき後問題を解決するためには、親や家族が元気なうちに、現状に即した具体的な備えをしておくことが重要です。

親なき後の障がいのある子の生活について、親が不安に思う大きなポイントをシチュエーションごとに詳しく説明します。実際にどのような問題が生じうるのかをあらかじめ理解しておくことで、より有効かつ現実的な対策をとりやすくなります。

障がいのある子の生活を誰が支援してくれるのか、という疑問の一つの答えとして「成年後見制度」があります。

家庭裁判所が成年後見人を選任することで、選任以降は成年後見人が障がいのある子の生活支援や財産管理を担います。
もっとも望ましいのは、近くに住んでいる親族が成年後見人になることです。身近な親族であれば障がいに対する理解も深いので、成年後見人の最適な人選となります。身近に適した人物がいない場合は、弁護士や司法書士などの「第三者後見人」と呼ばれる第三者を成年後見人に選ぶ方法が一般的です。

また、障がいのある子の生活拠点の維持も大きな問題です。親以外に同居の親族がいない場合に、生活を支援してくれるサービスの利用や、施設への通所、入所が必要になる可能性もあるでしょう。

しかし、サービスや施設の利用には契約行為が必要です。重い障がいがある場合は、自分ひとりで契約を結ぶことはできません。そういった場合にも、やはり契約行為を代わりに行う成年後見人の選任が必要です。

生活資金の確保や財産管理も、親なき後問題で懸念される重要ポイントです。
食費、光熱費、通信費、交通費、家賃など生活に必要なお金は多岐にわたります。障がいのある子が施設や介護サービスを利用していくなら、その利用料も定期的に支払わなければならないでしょう。

生活資金や親が遺した財産を障がいのある子が管理することは、恐らく困難です。購入意欲を刺激し続けるメディアや広告、宣伝にあふれた現代社会で暮らしていては、浪費を重ねてしまう事態も考えられます。

また、精神障がいや知的障がいなどで判断能力が不十分な人を狙った、悪質な押し売りや詐欺行為などの被害に遭うおそれもあります。たとえば、高級な布団などを売りつけるといったケースが代表例です。障がいのある子の身にふりかかる金銭トラブルを予防するためにも、成年後見制度や信託の利用を強くお勧めします。

親が亡くなった時は、事務的な手続きや葬儀の手配などが発生します。
しかし、障がいのある子が親の死後のさまざまな手続きをおこなうことは現実的に難しいでしょう。その対応策として、親が、信頼できる親族や専門家と契約を結び、自身の死後の事務を予め依頼しておく「死後事務委任契約」の締結が安心です。

死後事務委任契約にかかる費用は、葬式の費用など死後事務の処理自体にかかる費用と、依頼した相手に対する報酬にわけられます。
依頼した相手への報酬は自由に決定でき、相手が納得さえすれば報酬ゼロも可能です。ただし、専門家と死後事務委任契約を結んだ場合は報酬がかかると考えておきましょう。なお、費用の支払い方法については、契約時に契約相手へ託しておくか、もしくは、遺産のなかから充当する方法から選べます。

障がいのある子に財産を多く遺したいからといって、親の金銭を子ども名義の口座へ移すことはおすすめできません。なぜなら、親も子も自由に使いきれないまま国庫に帰属するおそれがあるからです。

いったん金銭を子ども名義の口座に移すと、たとえ実質的には親の金銭であっても、親が自由に引き出したり活用したりできなくなります。なぜなら子ども名義の預金口座から親個人がお金を引き出そうとしても、銀行が認めないからです。そのようなケースで、子どもが重度の知的障害などにより判断能力が不十分な時は、成年後見人をつけて、子名義の預金を管理してもらうしかなくなります。

では親なき後、子ども名義にした金銭などの財産はどうなるのでしょうか。成年後見人を選任している場合は、財産は成年後見人と家庭裁判所の管理下におかれます。問題は、障がいのある子が亡くなった後の財産の行く末です。

子どもに相続人がいるなら、財産はその相続人に承継されます。しかし、相続人がいない場合には財産は原則として国のものになります。障がいのある子がお世話になった施設やお世話になった親族に渡したいと考える人は少なくないのではないでしょうか。財産処分の柔軟さや行く末を重視するなら、親のお金を安易に障害のある子名義の口座に移すのは避けましょう。

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ここからは、親なき後問題の解決策について紹介します。

先述の通り、親なき後問題は、成年後見制度の利用による解決が一般的です。

親が元気な間は、成年後見制度は必要ありません。しかし、あえて親が元気なうちから成年後見制度を利用し、身近な親族や信頼できる専門家等を後見人にしておくと心強いでしょう。ただし、誰が後見人になるかを決める権限は家庭裁判所にあるため、希望の人が選ばれない可能性があることには留意しておく必要があります。

また成年後見人なら、障害のある子が結んだ契約を後から取り消すことができるので、金銭トラブル防止の上でも非常に心強いといえます。

子どもが多い家庭で相続人の人数が多くなると、結果的に子ども一人ひとりに渡る財産が少なくなります。そこで解決策の一つとなるのが「遺言」です。遺言によって、障がいのある子に渡す財産を指定したり、相続させる財産の割合を自由に変更したりできます。

しかし、遺言は万能ではありません。たとえば死亡した親の相続財産が現金6000万円、相続人が障がいのある子Aを含めたABCの3人きょうだいであるとしましょう。
この場合に、親が「財産のすべてをAに相続させる」と遺言をのこしました。親としては障害のある子Aの将来を思ってのことでも、BCがこの遺言に納得していなければ、きょうだい間のもめごとに発展するおそれがあります。

なぜならBCには、一定の立場にある相続人が、法律上相続できると保証された最低限の財産「遺留分」があるからです。この場合、BとCにはそれぞれ1000万円の遺留分があり、2人はAに対して「遺留分である1000万円を渡せ」と請求できます。
なお、実際のところ、相続財産に対する遺留分の計算はより複雑であることが多いので、あくまで一例として考えてください。

遺留分が請求されることにより「Aにすべての財産を遺したい」という親の遺志はかなえられません。もちろん遺留分の請求がされないケースもあるでしょうが、遺言の内容や相続人同士の関係性によっては、「不公平感」が否めません。生前は良好な親族関係でも、不公平感のせいで余計なトラブルが生じる可能性もあります。

親なき後問題の解決のために遺言を作成する場合は、遺言で「できること」と「できないこと」をしっかり見極めたうえで、内容を検討する必要があります。

今まで紹介してきた解決策では心もとなかったり、実際に自身のケースについて相談したりしたい人は、「親なきあと問題」について相談に応じている法律の専門家らに相談してみるといいでしょう。相談だけでは解決できないことであったとしても、関係のある自治体の支援サービスや制度を紹介してくれる場合もあるので、問題解決の第一歩となるでしょう。

将来のことを考えると不安になることもあると思います。しかし、一つひとつの問題を切り離して「どうすれば良いのか」を検討し、具体的な行動に移していけば、少しずつでも不安を解消していけるでしょう。家族、親族、専門家の力を借り、公的な制度や支援を利用して、我が子が安心して生活を送れる将来を考えていきましょう。

(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)

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