誰かが亡くなったとき、その人が保有していた財産は遺族で分けることになり、どのように分けるかは法律で定められた相続人(法定相続人)が話し合って決めます。この話し合いを「遺産分割協議」、話し合いの結果を文書にしたものを「遺産分割協議書」といいます。

遺産分割協議で意見がまとまらず、争いになることは珍しくありません。相続争いが何年も続いたり、裁判所で調停や審判になったりすることもあります。こうしたトラブルを防ぐのに有効なのが「遺言書」です。相続手続きの中で遺言書が果たす役割について専門家が解説します。

エンディングノートは遺言書になる?

亡くなった人(被相続人)が遺言書を残していれば、遺産分割協議をしなくても、遺族はそれに従って遺産を分けることができます。遺言書と似た言葉に「遺書」がありますが、この2つは全く違うものです。「遺書」は亡くなった人が遺族などに残す手紙あるいはメッセージです。一方、「遺言書」は、自分が亡くなったあとの財産の分け方を指示したものです。

財産の分け方を示すことだけが遺言書の役割ではありません。被相続人の財産の処分、例えば銀行口座から預金を引き出したり、被相続人名義の不動産を相続した人の名義に書き換えたりするためには、遺産分割協議書か遺言書のどちらかが必要なのです。

遺産分割協議がまとまらず協議書が作成できない状態が続くと、その間は被相続人の遺産を処分することができませんが、遺言書があれば、被相続人が亡くなった後すぐに、遺産を分ける作業が行えます。

ただし、遺産の分割に必要な遺産分割協議書や遺言書は「法的に有効」なものでなければなりません。遺産分割協議書の場合は、相続人全員の署名と捺印があることが要件です。遺言書には、おもに公証役場で作成する公正証書遺言と、自分で手書きする自筆証書遺言の2つがあり、公正証書遺言はそれ自体が法的に有効ですが、自筆証書遺言は一定の要件を満たしていないと法的に有効とはみなされず、書かれた遺言は無効になってしまいます。

例えば、単なる書面やメモ書き、ビデオレター、動画などでも遺産の分け方を指示することはできますが、預金の引き出しや不動産の名義書き換えなどには使えません。昨今、終活の一環として書く人が増えているエンディングノートには、財産のリストや分割方法が書けるようになっているものもありますが、それも法的には有効ではないので注意してください。

「付言」に家族への想いを残す

遺言書には、遺産の分割方法以外に「付言」として、家族などへのメッセージを書くことができます。これには法律上の効果はありませんが、家族への感謝や、どうしてこのような遺産分割の方法を指示したのか、その理由などを書いておくと、遺族も納得がしやすく、遺産分割がスムーズになる効果があるといわれています。

遺言書が法的に有効だとしても、その内容が妥当であるとは限りません。遺言の内容によっては、かえってトラブルを引き起こす可能性があります。例えば、財産が特定できなかったり、内容が矛盾していたり、遺言書に記載されていない財産があったりすると、遺言書どおりに遺産を分けることができません。

また、法定相続人には、「遺留分」という最小限相続できる割合が法律で決められています。相続人の中に、遺言に従って遺産を分けると遺留分より少ない遺産しか受け取れない人がいる場合、その人は他の相続人に対して不足分を請求できるのですが、そうなると請求された相続人との間でトラブルになる恐れがあります。ですから、遺言書を書くときには、遺留分を侵害しないことが大切です。

公正証書遺言は、形式的には法的に有効でも、内容についてはチェックを受けないので、遺言内容でトラブルになることがないとはいえません。
特に自筆証書遺言の場合は、自分ひとりで書くことになるので、遺言の内容に問題があっても気づきにくいといえます。したがって、いずれの場合でも、遺言書を書くときは相続に詳しい税理士、司法書士、ファイナンシャルプランナーなどのアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、相続人全員が同意すれば、遺言書と異なる遺産分割方法をとってもかまいません。その場合は、自分たちで決めた分割方法を遺産分割協議書に記載します。

(記事は2019年9月1日時点の情報に基づいています)