高まる死後事務委任契約のニーズ

死後事務委任契約とは、読んで字のごとく「死後の事務」について第三者に「委任する契約」です。人が亡くなると、病院等からの遺体搬送から始まり、役所への死亡届、火葬・葬儀・埋葬の手配、各種届出や遺品整理など多くの手続きが必要になります。配偶者や子供など頼れる親族がいれば、その方が死後事務の手続きをされると思いますが、そうでない場合には、生前に第三者と死後事務委任契約を締結しておくことで、親族に代わって将来の手続きを任せておくことができます。死後事務委任契約を利用されるのは、どのような方でしょうか。
・配偶者や子供がいない
・子供に知的障害がある
・親族とは疎遠
・頼れる親族がいない
・親しい人に手間をかけたくない
などさまざまな理由で利用されています。65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、「単身世帯」と「夫婦のみ世帯」の合計が60%近くを占めており、子供と同居していない人の増加とともに、死後事務委任契約のニーズも高まってきています。

その一方で、認知症となる方の割合も増えています。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されており(厚生労働省の新オレンジプラン)、85歳以上では55%以上の方が認知症になるという研究もあります。したがって、単身高齢者(配偶者のいる単身予備軍も含む)が今後もお一人で生活し、終活を考える際には、死後事務委任契約だけでなく、いくつかの制度やサービスを組み合わせて対応する必要があります。単身高齢者のライフステージは、「心身とも健全」「意思判断能力の減退」「意思判断能力の喪失」「相続発生後」の4段階に分けて考えることができます。それぞれのステージにおいて検討すべき制度やサービスは以下のようになります。

相続発生後のステージでは、死後事務委任契約の他に、遺言や信託契約があります。信託は財産の管理等に関する契約、遺言は財産配分や身分事項等に関する指定などができるのに対し、死後事務委任契約は事務手続きに関する契約ですので、守備範囲が異なります。ご自身の健康状態や財産の状況、相続人の構成や親族に頼れそうな程度など、事情は人それぞれですので、ご自身に必要なサービスを選択して契約を検討されると良いでしょう。

死後事務委任契約の具体的内容

人が亡くなったときに、どのような手続きが必要になり、死後事務委任契約によって具体的に何をしてもらえるのか、死亡後の時間の流れに沿って見てみましょう。

死亡当日
・病院からの退院手続き
病院からの連絡により遺体搬送の手配をして、葬儀社へ遺体を引き渡します。医師から死亡診断書を受領します。病院内にある私物を引き取り、入院費の精算をします。
・死亡届の提出
死亡診断書と用紙がセットになっている死亡届を市区町村役場に提出します。同時に、火葬許可申請を行います。

死亡から数日内
・火葬や葬儀の代行手続き、知人への死亡通知
役場から受領した火葬許可証は葬儀社を通じて火葬場に渡します。火葬済証付の火葬許可証は埋葬許可証となり、遺骨とともに引き渡されます。生前の希望にあった方法で葬儀を執り行います。葬儀に参列される方には死亡通知の手続きをします。
・埋葬や散骨の代行手続き
生前に定めた方法(永代供養墓・納骨堂・樹木葬・散骨など)により埋葬等を行います。

死亡から数週間程度
・健康保険や公的年金の資格抹消申請
国民健康保険証や介護保険証、障害者手帳などを役場の窓口へ返却します。運転免許証やパスポートなども返却する場合もあります。国民年金や厚生年金について、年金受給権者死亡届を年金事務所へ提出します。
・住民税や固定資産税の納付
未払いの住民税や固定資産税、自動車税などがある場合に納付します。
・住居の明け渡しや賃料精算
賃貸住宅が自宅の場合には、賃貸借契約の解約や部屋の明け渡し、家賃や原状回復費用の精算を行います。
・住居内の遺品整理
専門の清掃業者を手配し、作業に立ち会って、形見分けするものと廃棄物を選別します。
・公共料金の解約と精算
電気、ガス、水道、電話、携帯電話、ネット契約、新聞、雑誌購読、各種会費、各種サブスクリプションなどの契約を解約し、精算します。
・パソコンや携帯電話の情報抹消
プライベートな情報やデータなどのデジタル遺品を消去した上で、物理的に廃棄します。
・SNSやメールアカウントの削除
SNSやメールアカウントを削除します。フォロワーや友人への死亡通知を行います。
・生命保険の請求
生命保険会社へ死亡保険金を請求します。
・ペットの引き渡し
生前に依頼しておいた方へペットを引き渡します。引き渡しまでの期間のお世話をします。
・相続財産管理人の選任申立
相続人不存在(相続人が誰もいない)の場合に、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任を申立します。

死後事務委任契約を結ぶ流れと費用

死後事務はどのような人に委任すれば良いのでしょうか。死後事務委任契約の受任者に、特に資格などは必要ありません。友人に頼んでも構わないのですが、通常は親族が行う手続きですので、手続窓口で円滑に進めてもらうためには弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に依頼すると良いでしょう。また、弁護士法人や司法書士法人や葬儀社が母体となって設立した専門の一般社団法人も取り扱っています。前述の財産管理等委任契約、見守り契約、任意後見契約、身元引受契約、遺言なども取り扱っている場合がありますので、併せて相談するのも良いと思います。

死後事務委任契約の相談から契約締結、手続き執行までの流れは以下のとおりです。
1 事前相談
必要な死後事務やその内容、葬儀や埋葬の希望などについて相談します。
2 委任内容の確認と費用の見積もり
委任する死後事務の内容を確認し、費用や実費の見積もりをします。
3 執行費用の確保
受任者により、預託金方式・保険契約方式・遺産精算方式などがあります。
4 死後事務委任契約の締結
公正証書で作成するケースが多いようです。
5 死後事務委任契約の執行
死亡後に契約内容に従い、事務を執行します。

死後事務委任契約の費用は、受任者や事務内容によりさまざまですが、代表的な事務での費用例は次のとおりです(別途実費が必要)。

定額課金サービス(サブスクリプション)にも注意

ご自身の死後の手続きを安心して任せられるための注意点について考えてみます。死後事務委任契約の料金体系のとおり、セットメニューというよりもアラカルトメニューのようなイメージです。ご自身にとって必要な事務だけをピックアップして契約すれば良いので、事前相談の時に必要なものと不要なものを整理して提案してもらえる受任者は信頼できそうです。複数の受任者に見積もりしてもらい、執行費用の妥当性を検証しても良いでしょう。

執行費用の支払方法にも注意が必要です。預託金方式・保険契約方式・遺産精算方式があるとお伝えしましたが、預託金方式は費用を生前に受任者に預けておきますので、受任者がどのように預託金を管理(信託で分別管理など)するのかチェックすべきです。保険契約方式の場合は、健康状態によって保険に入れるのかの問題や受取人に法人を指定できる保険が限られている問題もあります。遺産精算方式は、相続財産から執行費用を支払うものですが、遺言書を同時に作成する必要があり、その手間とコストがかかります。それぞれ一長一短がありますので、事前相談の時によく確認しましょう。

最後に、最近よく利用されている定額課金サービス(サブスクリプション)についての注意です。利用規約に相続による利用停止の規定が無いのか、死亡のエビデンスを提示しても解約に応じてもらえないケースが多いようです。現実的には、本人に代わってIDとパスワードで解約するのが早いのですが、生前に受任者にID等を伝えるのは良くないので、その保管場所だけを伝えておくと良いでしょう。

(記事は2021年1月1日時点の情報に基づいています)