目次

  1. 1.「相続させたくない」と言っても、相続権は容易に奪えない
    1. 1-1. 相続人には相続権がある
    2. 1-2. 親、子ども、配偶者の「遺留分」は侵害できない
  2. 2. 相続させたくない相続人がいる場合の5つの対処法
    1. 2-1. 生前贈与をして財産を減らす
    2. 2-2. 遺言をする
    3. 2-3. 第三者に遺贈や死因贈与をする
    4. 2-4. 相続権を廃除する
    5. 2-5. 相続欠格者には相続されない
  3. 3. 相続させたくない相続人がいるなら弁護士に相談を

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民法では、被相続人(亡くなった人)の財産を相続できる人が定められています。この相続権を持つ人を「法定相続人」と言います。

配偶者、子ども、親、兄弟姉妹が法定相続人と定められています。配偶者は常に相続人となり、それ以外の法定相続人には順位があります。もっとも優先されるのは子ども、2番目が親、3番目が兄弟姉妹となっています。

相続権には、法定相続人の生活保障という面もあるので、被相続人であっても容易に奪えるものではありません。

例えば、被相続人が長男に相続財産を一円も相続させたくないと考えたとしても、それは困難となります。

なぜなら、一定の相続人には「遺留分」が認められるからです。遺留分とは「最低限の遺産割合をもらえる権利」です。従って、配偶者や子どもに「相続させない」という旨の遺言書を作成しても、配偶者や子どもらに「遺留分侵害額請求」をされたら、遺留分に相当するお金を取り戻されてしまうのです。

なお、故人の兄弟姉妹には遺留分がありません。兄弟姉妹に相続させたくない場合には、遺言書によって「兄弟姉妹に遺産を相続させない」と書いておけばそれで足ります。

上述のように相続権を奪うことは容易ではありませんが、特定の相続人に相続させなかったり、渡る遺産を減らしたりできる5つの方法があります。なお、どの方法が適しているかの判断や、手続きを自分で行うにはハードルが高いので、弁護士など専門家と相談しながら進めることも検討して下さい。

1つ目は、生前贈与によって財産を減らす方法です。たとえば次男に遺産を渡したくない場合、生前に配偶者や長男にできるだけ多くの遺産を生前贈与しておけば、次男に渡る財産を減らせます。ただし法定相続人への相続開始前10年間の生前贈与については遺留分侵害額請求の対象になるので、完璧な対処方法にはなりません。

また、生前贈与すると受贈者(贈与を受けた人)に「特別受益」が発生し、得た利益を他の相続人へ返さねばならない可能性があります。これを「特別受益の持ち戻し計算」といいます。特別受益の持ち戻し計算を免除するには、被相続人が遺言書などの書類で「特別受益の持ち戻し計算はしない」とはっきり指定しておかねばならないので、注意しましょう。

2つ目は遺言です。遺言があれば、基本的に遺言通りに遺産を分けることになります。

例えば、被相続人が生前に世話をしてくれた長男にすべての財産を残し、次男には相続させたくないと考え、「長男すべてに相続させる」といった遺言内容を作成したとします。

この遺言に対し、次男が納得するなら問題はありません。ただし、忘れてはいけないのは、次男には遺留分があることです。

遺言によっても遺留分までは侵害できないので、死後に次男が「遺留分侵害額請求」をすれば、長男は次男へ遺留分に相当するお金を渡さねばなりません。この意味で、遺言は完全な対策方法ではなく、遺留分を侵害する遺言書はトラブルを引き起こす恐れもあると言えるでしょう。

それでも、遺言書は特定の相続人に渡る遺産を減らすことができるという点では有効です。遺留分は、遺産の分け方の目安となる「法定相続分」よりも低い金額です。従って、遺留分に見合う最低金額だけを相続させることを遺言書に記せば、特定の相続人の遺産相続額をトラブルなく少なくすることができます

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3つ目は、第三者に遺贈や死因贈与をすることです。遺贈や贈与は、法定相続人以外の人へもできます。たとえば孫や長男の嫁、甥や姪、お世話になった人へ遺贈したり死因贈与すると、財産を法定相続人以外の人へ受け継がせられます。ただ遺贈や死因贈与も遺留分侵害額請求の対象になるので、完全な対処方法とはいえません。

4つ目の方法は「相続人廃除」です。相続人廃除とは、非行のあった相続人から相続権を奪う手続きです。廃除が認められればその人には相続権がなくなるので、遺産を一切相続させずに済みます。廃除された相続人には遺留分も認められないので、遺留分侵害額請求をされる心配もいりません。

相続人廃除が認められるのは、以下のようなケースです。

  • 相続人が被相続人を虐待したとき
  • 相続人が被相続人に重大な侮辱を与えたとき
  • 相続人に著しい非行があったとき

上記の要件はかなり厳格に判断され、簡単には認められません。「被相続人の会社を乗っ取った」「何度も借金の肩代わりをさせた」「犯罪を犯した」など、重大な事情が必要です。単に「親子仲、兄弟仲が悪い」という程度では廃除してもらえないので、注意しましょう。

相続人の廃除は、被相続人の居住する場所を管轄する家庭裁判所で申請します。以下の書類を用意しましょう。

  • 申立書
  • 廃除される人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本
  • 遺言によって申し立てるときには遺言書

相続人廃除を申し立てる人は「被相続人」です。基本的には生前に被相続人自身が家庭裁判所で申し立てなければなりません。また「遺言」によっても相続人を廃除できます。遺言書で「〇〇を相続人廃除する」と書いておけば、対象者の廃除ができるのです。その場合には「遺言執行者」が申立手続きを行います。

関連記事:相続廃除とは? 制度の内容に加え、生前と遺言で異なる手続きを解説

相続に関する法律を犯す行為をした場合などには、相続人の相続権が奪われます。「相続人廃除」との違いは「廃除」は被相続人の意思表示によって相続権が剝奪されますが、「欠格」は被相続人の意思は関係ないことです。

なお、相続欠格の事由は以下の5つです。

  • 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  • 被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  • 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  • 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  • 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

上記に抵触する事実があれば、「欠格者」となり、財産権は奪われます。仮に遺言があったとして、相続財産を受けとることはできません。

配偶者や子どもなどの法定相続人に認められる権利は、非常に強固です。遺言をしても相続権を奪うのは簡単ではありません。相続人廃除できれば良いのですが、認められるケースは少ないのが現状です。相続させたくない相続人がいる場合には、早期の段階における生前贈与や遺言書の作成など、いろいろな方法を組み合わせて対策しましょう。

また、相続人廃除が認められない場合、子どもなどの法定相続人から完全に相続権を奪うのは困難です。なるべく相続額を減らすのがベストな対処方法となるでしょう。

自分たちだけでは最適な対策法を選択しにくいケースが多いので、弁護士などの専門家に相談しながら進めるのが得策です。早めに相談するとより良い選択ができるので、少しでも気になることがあるなら一度、アドバイスを受けてみてください。

(記事は2022年11月1日時点の情報に基づいています)

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