目次

  1. 1. そもそも「結婚」ってなんだ
  2. 2. なんでLGBTには遺言が大事なのか
    1. 2-1. 同性婚の代替として養子縁組を選ぶ場合も
  3. 3. 遺言ができること
  4. 4. 遺言には「2種類」ある!
    1. 4-1. ①自筆証書遺言
    2. 4-2. ②公正証書遺言

「相続会議」の弁護士検索サービス

 前回の記事「いま考えたいLGBTの相続と終活 人生の安心から『遠ざけられている』人とは」では、この連載の定義や「LGBT」と表現される性的少数者の当事者やカップルが、いまの日本社会では法的な安心が得られにくい現状をおおまかに解説しました。今回は、そもそも論から始めたいと思います。

さて、私たちはなんのために婚姻するのでしょう。結婚するとなにが得られるのでしょう。私は結婚の「効用」(?)を、つぎのように考えています。

 ・パートナー関係に対する社会的な承認(公証)
 ・病気や老後のとき相手を世話する立場(代理権や身上監護権)
 ・亡くなったときの財産承継(相続)  

しかし、これらは合意や委任、贈与(遺贈)などの法律関係として整理することができます。相互に契約を交わし、それを書面等に残して第三者にも明示することで、実質、結婚しているのと同様の状態を実現することができるわけです。

とくに法定相続がない同性カップルの場合、財産承継のための遺言や死因贈与契約にかんする知識がとても大事です。私も自著で紹介するとともに、主宰するNPO「パープル・ハンズ」では、「老後と同性パートナーシップの確かな情報センター」を掲げて、こうした法制度に関する講座を開催しています。

NPO「パープル・ハンズ」主催の、性的マイノリティーの老後を考える講座の様子。中央奥が永易至文行政書士。
NPO「パープル・ハンズ」主催の、性的少数者の老後を考える講座の様子。中央奥が永易至文行政書士。(一般財団法人ゆうちょ財団助成事業。筆者提供で、画像の一部を加工)

不動産であれ動産であれ、所有者がいて、所有権があります。所有者が亡くなれば、所有権が宙に浮いてしまいます。また、人は他人に対する請求権(債権)だの、逆に負債だのを抱えてもいますが、それらの関係も宙に浮くことになります。それで民法は、人が死んだときの財産の承継先とその割合をつぎのように定めています。

 1)配偶者と子がいる場合 →配偶者が2分の1、子が2分の1を承継する
 2)配偶者がなく子がいる場合 →子がすべてを承継する
 3)配偶者や子がなく親がいる場合 →親がすべてを承継する
 4)配偶者・子・親もなく、きょうだいがいる場合 →きょうだいが承継する 
 5)子がなく、配偶者と親がいる場合 →配偶者が3分の2、親が3分の1を承継する
 6)子も親もなく、配偶者ときょうだいがいる場合 →配偶者が4分の3、きょうだいが4分の1を承継する
 

  ・おなじ立場の人の割合は平等
  ・子には養子を含む。きょうだいには、父母の一方を異にする半血きょうだいも含む(割合は2分の1)
  ・承継権利者が先に死亡している場合、親の親、子の子(孫)、きょうだいの子(甥姪)が権利をさらに承継する。  

 

いかがですか? さまざまな場合があるものです。ここにあげた承継法を法定相続といいます。ちなみにここに挙げた人が一人もいない場合、その財産は「国庫に収納」となります。

さて、法律婚ができない同性カップルでは、一方のパートナーは法的配偶者ではありませんから、子がいない場合は上記の3)か4)のケースとなります。本人が亡くなったとたん、疎遠だった親族(本人のきょうだい)が現れて、本人名義のマンションも貯金も持っていったという話は、ゲイバーなどでいまもよく聞かれます。
それを回避するために養子縁組で上記2)の状態を作ることが、同性婚のない日本でのバイパスとしてしばしば行なわれてきました。
養子縁組は、私もご相談のなかでカップルの状況によってお勧めすることがありますが、もう一つの財産承継方法として遺言を書くこともお勧めです。養子縁組であれ遺言であれ、法律制度の正確な理解は、性的少数者が「人生の安心」を得るために欠かせない知識と言えるでしょう。

法定相続のない同性カップルのために、遺言ができることはいろいろあります。

 ・財産の処分の指定(生命保険金の受取人の変更も含む)
 ・遺言執行人の指定(死んでいる自分に代わって遺言内容を実現してくれる)
 ・祭祀主宰者の指定(親族に先んじてお葬式やお墓の主導権をとれる)
 ・未成年後見人の指定(小さな子を残して死んだ場合に、いわば親権者を指定)

保険の受取人をパートナーにするためには、いまはまず保険会社と交渉することが近道かもしれません。一方、約款と見合わせて遺言で指定しておくこともできます。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

遺言は法律(民法)で方式が決っており、それに反したものは無効になります。民法には、まさに沈もうする船のなかでする遺言(難船危急時遺言)など特別の形式も規定されていますが、私たちが通常知っておきたい遺言は2種類----自筆証書遺言と公正証書遺言です。 

自筆証書遺言は原則全文を自分で手書きし、日付、氏名、押印する、が要件です。それだけで法律的に有効な遺言が作成できます。
メリットは、かんたん、無料、何度でも書き換えできること。しかし、デメリットは、本人の死亡後、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要なこと(相続人、つまり親族の立ち合いや委任状も必要)。検認を経ないと、その遺言状は名義の書換えなどに使えません。また、個人が作るので内容が不明確になったり、真偽が疑われたり紛失や発見されない場合もありうる、などが懸念されます。(なお自筆証書遺言については、今般の民法改正でいくつかの変更点があります。それらはいずれご紹介します。)

一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人という「公務員」に作成してもらう遺言で、公正証書は「公文書」とされます。メリットは、信頼度が高く、検認不要、そのまま登記や名義変更に使えること。原本は公証役場で保管され、本人には写し(正本、謄本)が渡されるので、紛失しても再発行可能、作成したことがわかっていれば死後も照会に応じてもらえます。

一方、デメリットとしては、作成手数料がかかる(財産の価額による)ほか、証人2名が必要、公証役場に何度か出向くなど煩雑なことがあります。弁護士や行政書士などに相談・仲介してもらえば、別にそのぶんの報酬も必要です。

以上、民法が定める遺言について、一般的なことをご紹介しました。では、性的少数者のために遺言を活用するうえで、どのような留意点があるでしょうか。次回はさらに一歩踏み込んで、性的少数者版「遺言の活用法」について考えてみます。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の弁護士検索サービス