前編はこちら。兄の借金を親が肩代わり 妹の私が同額を生命保険で受け取ってもいい?

母の遺言の内容を兄は拒絶

父が亡くなった2年後、今度は母が87歳で亡くなりました。弁護士同席のもと、兄と私とで母の遺言書を開いて話し合うことになりました。

母の遺言には「遺産は兄と妹で半分に分けるように」と書かれていました。弁護士に相談し、遺産分割協議を行い、銀行預金と有価証券は半分に分けましたが、問題は都内にある二世帯住宅の土地と建物でした。1階に住んでいた母が亡くなった後は、2階に兄が1人で住んでいました。

母の遺言通りに遺産を分けると、土地と建物を売却したお金を半分ずつ分けることになります。そうなると、兄は家を出て行かなければなりません。兄は「死んだやつの言うことなんか聞く必要がない」と持論を展開し、不動産に関する遺産分割について同意しませんでした。兄は弁護士事務所で話し合っている途中で出て行ってしまいました。

生命保険の受取人を知って激怒

一方、母は、兄の借金(320万円)を弁済したのとほぼ同額の300万円の生命保険の受取人として、私を指定していました。私は母の死後、すぐに受け取るのも気が引けて保険会社への連絡をしていませんでした。

すると、保険会社から保険金の通知が母のもとに届きました。この通知を兄が開封してしまい、兄は自分がもらえると思っていた保険金の受取人が、私になっていることに激怒してしまい、ますます話し合いができない状況になりました。

結局、遺言通りに遺産を分けることができないうえ、きょうだい同士で話し合いができる状態でもありません。

実家には2階に兄が住み続けています。区分所有のため、電気代は兄が払っていますが、水道代、1階部分の電気代、NHKの受信料などは実家に住んでいない私が母に代わって払い続けています。固定資産税も半分ずつ払っています。

不動産の相続を子の代に先延ばしする検討も

現金や株を手にした兄は、無職でありながら株を売却したお金でスポーツカーを購入し、スキー用品なども新調しています。しかし、兄は無職のため相続した遺産はいずれなくなり、生活費に困窮するだろうと思います。一度、弁護士事務所で暴言をはいた兄を見た弁護士からは「不動産の相続を兄と私の子どもの代に持ち越してはどうか」と提案されました。私たちにはそれぞれ子ども2人の計4人います。

いとこ同士はひんぱんに会う関係ではありませんが、すでに独立していて連絡先を交換しています。すでにもめている兄と私ではなく、いっそのこと父母らにとっては孫にあたる子ども世代に先送りしたほうがいいのではないかと思うようになりました。

兄と私は60代です。私たちきょうだいで話し合いがまとまることはもはやないだろうと考えています。そこで、私たちきょうだい2人が亡くなるまで土地と建物はそのままで、亡くなった後に、お互いの子どもたち(いとこ同士)に引き継ぐことに問題はありませんでしょうか?

佐々木一夫弁護士のアドバイス

難しい二世帯住宅の分割

本件では、兄と妹で遺産を半分ずつ分けるようにとのお母様の遺言が残っています。
ですから基本的には、この遺言に従い分けることになります。

なお、本件特有の問題として、二世帯住宅の2階部分を相続人の1人(お兄様)が所有しており、かつそこに住んでいるという点があります。これはなかなか困難な問題であり、仮に土地や1階部分についての遺産分割ができたとしても、強制的に2階部分のお兄様を追い出したり、2世帯住宅を取り壊したりすることが難しいという問題があります。

これについては、様々な解決方法がありますが、考えられるのはある程度の立ち退き料を支払って立ち退いてもらう方法が考えられます。それでもどうしても同意してもらえない場合には、お兄様には地代を請求し、二世帯住宅の1階部分については、別途賃貸に出すなど活用することで収益を得る方法を考えつつ、解決の道を考えていくことになります。

もしも問題がここまで複雑化してしまった場合には、専門家の関与が必須かと思われますので、弁護士にご相談いただいたほうがよいかと思います。

相続の先延ばしで不動産を相続しづらくなる可能性も

今回のケースでは、きょうだいで分けやすい預貯金や有価証券は分割していますが、不動産に関する分割協議はできていません。その状態を放置してしまい、遺産分割ができないまま子どもの代になってしまうという事も相続においてはよくあることです。しかし、原則的には相続問題は相続が始まってからできる限り早く解決すべきで、子どもの代に決して持ち越すべきではありません。

その理由は、相続問題を解決しないまま放置すると、分割協議をする当事者がどんどん増えていってしまうことが大きな理由です。

最初の相続人が2人で、各相続人に2人ずつ子どもがいたとすれば、子の代では4人の間で遺産分割協議をしなくてはなりません。人はそれぞれ自分の意見があるものですから、2人で遺産分割協議をするよりも、4人で遺産分割協議をする方がまとまる可能性は少なくなってきます。

また、相続人の数が増えていくと、法的手続きをするにしても相続人の生死がわからないことや、住所が判然とせず書類の郵送などで思わぬ問題にぶつかることもあります。
相続人が4人であればまだ良いですが、もう一つ下の代まで持ち越すと相続人の数は8人ほどになります。私は相続人の数が17人の事件を担当したことがありますが、こうなってくると連絡をとるだけで一苦労です。

他にも、最初の相続人は、被相続人からの援助や、相続人間で合意に至ることのできない問題点がどんなことなのかを知っていても、子どもや孫の代はそれらの事情もわからなくなっていきます。ですから、子どもたちの代に遺産分割協議を引き継ぐ事はお勧めできません。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)