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1. 相続放棄とは?実家だけ相続放棄できる?
まず、相続放棄とは何か、相続放棄をしたら実家はどのような扱いになるのかなどについて説明します。
1-1. 相続放棄とは
「相続放棄」とは、被相続人(以下、亡くなった人)の資産や負債を一切引き継がずに放棄するという意思表示であり、必要書類を準備して管轄の家庭裁判所に提出してその効果が出ます。
相続放棄をすると、その相続に関しては、最初から相続人ではなかったものとみなされます。相続人ではなくなるため、亡くなった人の資産は一切相続できず、また借金などの債務も引き継ぎません。
相続放棄は家庭裁判所に申立てをする必要があります。相続人らによって話し合う遺産分割協議で財産を受け取らない意思を表明するだけでは相続放棄にはなりませんし、そのような場合は債務の引き継ぎも拒めないため注意が必要です。
1-2. 相続放棄をしたら、実家はどうなる?
相続放棄は亡くなった人の財産を一切引き継がない手続きです。そのため、実家を相続する権利も失います。また、2023年4月の民法改正により、実家を「現に占有」している場合のみ、財産の現状を維持する「保存義務」が生じるようになりました。つまり、実家を現に占有していない場合であれば、ほかの相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまでの間も保存義務は生じません。
なお、「相続財産清算人」とは、相続人がいない場合に相続財産の管理や清算事務を行う人のことを言います。
1-3. 実家だけの相続放棄はできない|プラスの財産も相続できない
亡くなった人の遺産に預貯金など価値のある財産がある場合、預貯金を相続し、実家の権利を放棄したいと考えたくなるケースもあるでしょう。
しかし、相続放棄は、遺産全体についての相続権を放棄する手続きです。そのため、財産の一部である実家だけの相続放棄はできません。
2. 相続放棄のメリット
相続放棄には、いくつかのメリットがあります。
まず、実家など扱いに困難を伴う遺産を相続しなくて済むため、その処分や管理をする必要がなくなります。
また、借金などの債務も相続せずに済みます。亡くなった人にどれだけ多額の借金があっても、その借り入れ先からの請求を拒否できます。
そして、相続人ではなくなるので、遺産分割協議などにも参加不要となり、相続トラブルに巻き込まれずに済みます。
遺産がそれほど多くはないケースであれば、遺産分割協議や相続の手続きにかかる労力や時間を考慮し、思い切って相続放棄するのも選択肢として考えてもよいでしょう。
3. 相続放棄のデメリット
相続放棄における最大のデメリットは、資産を相続できない点です。
相続においては、財産も負債もすべてを受け取るか、すべてを放棄するかの二択しかありません。実家の権利は放棄するが賃貸物件の権利や預貯金は相続したい、という考えは通用しません。
また、第1順位の相続人である亡くなった人の子が相続放棄をすると、相続権は亡くなった人の両親へ、両親が亡くなっている場合や相続放棄をした場合は亡くなった人の兄弟姉妹へと移ります。実家の管理や借金などをほかの相続人に押しつけるかたちになるため、親族間トラブルの原因になり得ます。
4. 実家を含めて相続放棄をする際の注意点
相続放棄をする際には、以下の点に注意する必要があります。
4-1. 相続放棄の撤回と取り消しについて
家庭裁判所で相続放棄の申立てが受理されたあとは、心境の変化などを理由とした相続放棄の撤回は認められないため注意が必要です。ただし、以下のような場合には、例外的に相続放棄の取り消しが可能となります。
- 未成年者が法定代理人の同意を得ずに単独で相続放棄をした場合
- 常に判断能力が欠けている状態であり、原則として単独で法律行為ができない「成年被後見人」が相続放棄をした場合
- 判断能力が著しく低下した「被保佐人」が、サポート役を務める保佐人の同意を得ずに相続放棄をした場合
- 「多額の借金がある」と思い込んで放棄をしたが、実際にはプラスの資産があり、その事実を誤認(錯誤)していた場合(※ただし、単なる調査不足ではなく、重大な過失がなかったと認められるなど、要件はきわめて厳格です)
- 詐欺や強迫によって相続放棄をした場合
- 後見人の業務を監督する「後見監督人」がいるにもかかわらず、被後見人や後見人がその同意を得ずに相続放棄をした場合
4-2. 放棄したいのであれば、「法定単純承認」に注意
相続放棄を検討しているのであれば、相続財産の全部または一部を処分したり、隠したり、使ってしまったりすると、「相続する意思がある」とみなされるため(法定単純承認)注意が必要です。
たとえば、遺産の一部を売却したり、実家を解体したりすると「法定単純承認」と判断され、相続放棄ができなくなってしまいます。葬儀費用のように一定の処分が許されている財産もあるため、もし迷ったら弁護士に相談してください。
4-3. 相続放棄をしても「現に占有」する財産の保存義務は残る
【改正前と改正後の比較】
2023年4月の民法改正により、相続放棄後の義務に関する条文が変更されました。改正前は「相続放棄をした人は、その放棄によって相続人となった人が相続財産の管理を始めるまで自己の財産におけるものと同じように注意を払ってその財産の管理を継続しなければならない」という内容でした。
しかし、改正後は「相続放棄をした人は、放棄した財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるものと同じように注意を払ってその財産を保存しなければならない」という内容に変更されました。
【誰が義務を負うのか】
以前の法律では、相続放棄をした人にも、一定期間は財産の管理義務がありました。ただし、相続人が複数いる場合にはその全員が財産の管理義務を負うため、誰が財産の管理をすべきなのか、責任の所在が不明確でした。また、郷里を離れている人にも管理義務を負担させるなど、非現実的な規定となっていました。
改正法によって、相続放棄時に財産を「現に占有している人」のみが保存義務を負うように変更がなされました。この改正によって義務を負う人の範囲が限定され、誰が保存責任を負うかが明確になりました。
なお、「現に占有」とは、実家などの財産を実際に管理している場合を指します。具体的には、実家の中に自分の財産や家財道具が置いてあり、鍵も持っている場合などが該当します。
実家の鍵を持っているだけの場合は「現に占有」には該当しないと考えられます。ただし、占有者に該当するかどうかの判断は、個別具体の事案ごとに、さまざまな事情から判断されるので注意が必要です。
【義務内容の軽減】
改正前の法律では、相続放棄をした人も一定期間は管理義務を負いましたが、改正によって「保存義務」になり、義務が軽減されました。保存義務とは、現状を変更したり、財産を滅失や損壊する行為をしたりしてはならない、という意味です。
改正前の「管理」には、財産の現状を維持するための修繕なども含まれる可能性がありましたが、改正後の「保存」は、現状を維持するための最低限の対応をすればよい、という意味合いになっています。
【義務を負う期間】
法改正前は「次の相続人が管理可能になった時点まで」とされており、「管理可能」というわかりづらい表現が使われていました。
法改正後は「相続人または相続財産清算人への引渡し完了時点」へと文言が変更になり、「引き渡し完了時点」とタイミングが明確になりました。
なお、相続人の全員が相続を放棄した場合は、次の相続人がいないために引き渡しができず、いつまでも保存義務がなくなりません。その場合は、裁判所に相続財産清算人を選んでもらい、実家を相続財産清算人に引き渡したタイミングで保存責任が免除となります。
「相続財産清算人」とは相続人のいない遺産を管理する役割を担う人で、裁判所に選任申立てをして選んでもらいます。選任の申立てをする際には100万円程度の予納金を納付する必要があります。
財産の保存義務について表にまとめると次のとおりになります。
【法改正に伴う財産の保存義務の変更点】
|
改正前 |
改正後 |
| 対象者 |
相続放棄をした人すべて |
相続放棄時に財産を現に占有している人 |
| 義務の内容 |
管理義務 |
保存義務 |
| 義務の終了時点 |
次の相続人が管理可能となった時点 |
相続人または相続財産清算人への引渡しが完了した時点 |
【保存義務を怠った場合のリスク】
相続放棄をした時点で「現に占有していた」実家が老朽化し、瓦が落ちたり、塀が倒れたりして通行人がけがをしたような場合、その占有者は賠償請求をされるリスクがあります。
また、空き家になっている不動産を放置していると、自治体から取り壊して環境の改善を図るべきだと判断されて「特定空き家」に指定される可能性があります。この場合、自治体が取り壊しや原状復帰を行い、その代金を請求される可能性がありますので注意が必要です。
5. 実家を相続放棄すべきかどうか迷ったときの判断基準
相続放棄は、亡くなった人の財産や債務を引き継ぐかどうかという遺産全体の問題です。遺産のなかに住む予定のない実家がある場合でも、ほかに価値のある遺産があれば、全体のプラスとマイナスを比較したうえで相続放棄をするかどうか判断する必要があります。
そのため、亡くなった人にどれだけの資産と負債があるのかを把握する必要があります。以下のポイントについては特に注意してください。
5-1. 不動産の売却金額などを調査する
まずは遺産のなかに不動産があるのかを調査します。亡くなった人が不動産を所有していそうな市町村から、所有者が管内に持つすべての固定資産を一覧にまとめた「名寄帳(なよせちょう)」を取り寄せると、遺産不動産の有無が判明します。
次に、その不動産が売却可能かどうか、可能であればどの程度の価額になりそうかを調べます。土地の価額は国税庁の路線価が発表されていますが、実勢相場ではないので注意が必要です。売却可能かどうか、価額がどの程度かを簡単に知るには、不動産業者の査定を利用するのがお勧めです。複数の不動産業者に査定してもらうと、ほぼ間違いない金額が把握できます。
5-2. 預貯金を調査する
亡くなった人の預貯金の額を把握するには、金融機関で残高証明書や取引履歴を取り寄せます。ここでは、亡くなった人の生前にその人の口座からの多額の引き出しがあるかどうかをチェックする必要があります。
もし、不可解な多額の出金が多数存在する場合は、ほかの相続人が亡くなった人に無断で預貯金を引き出している可能性があります。その際は、無断で引き出した人に返還の請求が可能な場合があります。
ただし、相続放棄をしていると返還の請求ができなくなります。亡くなった人の口座から多額の出金がある場合は、弁護士への相談をお勧めします。
5-3. 保証債務(借金)を調査する
借金があるかどうかの確認も必要です。金融機関やクレジットカード会社、消費者金融などへの借金の有無は、信用情報機関での照会が可能です。「信用情報機関」とは、個人のローンやクレジットの利用履歴を収集および管理している専門機関で、その人がどこから、どのぐらい借り入れをしているかを詳細に把握しています。ただし、信用情報機関では個人からの借金や保証債務は照会できません。
亡くなった人が会社の経営者であれば、会社の債務の保証人になっているケースもあります。会社が破産した場合には保証債務の履行を迫られるケースも多く、時には何億円という莫大な借金を支払わざるを得なくなる場合もありますので注意が必要です。
5-4. 資産より借金ほうが明らかに多ければ、相続放棄を検討
遺産調査の結果、資産よりも借金のほうが明らかに多い場合は、相続放棄を検討したほうがよいでしょう。悩ましいのは、調査した限りでは負債を上回る資産があるものの、今後、借金が発覚する可能性が高いケースです。
たとえば、亡くなった人が手広く商売をしており、複数の不動産を持っている一方で多額の借金があるような場合は個人的な借金が発覚する可能性もあり、判断に迷います。
相続放棄には「相続人になったと知ったときから3カ月以内」という期限があるため、亡くなった人の借金について詳しく調査できる時間は長くありません。あらかじめ裁判所に放棄期間延長の申立てをする方法もあり、財産調査が必要と判断されれば3カ月程度の期間延長が認められる可能性があります。
それでも期間内に調査が完了しない可能性がある場合や、個人的な借金が発覚するかどうかはっきりとしない場合は、リスクを考えて相続放棄を決断するしかないでしょう。
5-5. 相続放棄を回避して約1800万円を獲得したケース
筆者の弁護士事務所で扱ったケースのなかに、面識のない亡くなった人の相続について相続放棄をするかどうか判断しかねている、という相談がありました。
亡くなった人は依頼者の夫のおじであり、依頼者の夫もすでに亡くなっており、 依頼者は一度も会ったことがなく、名前すら知らないというケースでした。その亡くなった人の妻や子はすでに相続放棄をしており、通常であれば依頼者も相続放棄をするべき案件でした。
ただし、遺産調査をした結果、亡くなった人は不動産を複数人で共同所有していて共有持ち分を持っており、死亡してから10年ほどが経過していたため、たとえ故人が亡くなった時点で負債を抱えていたとしても、時効によって消滅していた可能性が高い状況でした。
そのため、相続放棄を回避して不動産の共有持ち分を相続するよう勧め、依頼者は最終的に1800万円あまりを獲得しました。
6. 実家を相続放棄する手続きの流れ
相続放棄の流れを図解。家庭裁判所に相続放棄の申立書を提出して行う
6-1. 家庭裁判所に対する申立
手続きとしては、家庭裁判所に相続放棄の申立書を提出して行います。
相続放棄に必要な書類は以下のとおりです。
- 相続放棄の申述書
- 亡くなった人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本
- 亡くなった人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければなりません。この期間が経過すると、裁判所は相続放棄の受付をしてくれません。
人が亡くなると、葬儀やその後の法事などであわただしく時間が経過していきます。3カ月間の期間を忘れないようにしましょう。間に合わない場合は、前述のように裁判所に延長申請をしてください。
6-2. 家庭裁判所からの照会と回答
相続放棄があった場合、裁判所は申立をした相続人の真意に基づくものかを確認するために、相続放棄の照会書を送ってきます。
回答書を返送しなかったり、不適切な内容を記載したりすると、相続放棄が認められなくなるおそれがあるため、注意が必要です。
6-3. 相続放棄申述受理通知書の送達
家庭裁判所が相続放棄の申立てに問題がないと判断すると、「相続放棄受理通知書」が送付されます。これで正式に相続放棄が成立します。
6-4. 債権者への通達
亡くなった人に借金があった場合、銀行や消費者金融などの債権者にはこの受理通知書を提示し、自身に相続債務を支払う義務がない旨を通達してください。
筆者の弁護士事務所では、相続放棄受理通知書とは別に、相続放棄の受理を証明する公的書類である「相続放棄受理証明書」を裁判所から入手します。相続放棄受理通知書ではなく相続放棄受理証明書の提示を求める債権者もいるためです。
債権者から相続放棄受理証明書を請求された場合には、裁判所に請求する手続きをとってください。受理証明書が手元に届いたら債権者に郵送し、通常はこれで借金の請求は止まります。
ただし、債権者が闇金などの違法業者である場合は、それでも借金の返済を請求してくる可能性があります。亡くなった人が違法業者から借金をしていた可能性がある場合は、初期段階から弁護士に案件の処理を依頼するのがお勧めです。
6-5. 次順位の相続人への通達
相続放棄をすると、次順位の相続人に相続が発生します。その際は、次順位の相続人に対して相続放棄した旨を伝えるようにしましょう。
亡くなった人に借金があった場合には、次順位の相続人から「借金を押しつけるのか」と激しい怒りを買う可能性もあります。次順位の相続人との間でトラブルが発生する可能性がある場合には、初期段階から弁護士に相続放棄の手続きを依頼するのがお勧めです。
7. 実家の相続放棄について、弁護士に相談や依頼をするメリット
実家の相続放棄について弁護士に相談や依頼をすると、以下のようなメリットが得られます。
7-1. 相続財産の調査を依頼できる
相続放棄について弁護士に依頼する際、相続財産の調査もあわせて依頼すると、預貯金や価値のある不動産など、プラスの財産が発見される可能性があります。
相続財産の調査は手続きが煩雑であるため、専門知識のない人が行った場合は、調査漏れでプラスの財産を見落とすケースも少なくありません。弁護士への調査依頼によってプラスの財産が見つかり、相続放棄が不要になるケースもあります。
7-2. 遺産分割協議の交渉依頼が可能
相続放棄が不要と判断した場合において、亡くなった人が遺言書を作成していない場合は、相続人間での遺産分割協議が必要となります。
弁護士に依頼をしていた場合は、プラスの財産が発見された段階でそのまま遺産分割協議の交渉依頼に移行できます。
7-3. 弁護士に依頼する場合の注意点
弁護士に依頼をする場合は、その弁護士がどこまで対応してくれるのかを確認する必要があります。また、相続放棄を弁護士に依頼する場合、その費用は弁護士によって異なります。以下のような部分を確認したうえで、自分の希望に見合う弁護士に依頼するようにしてください。
- 資産や負債の調査はしてくれるのか
- 調査をしてくれる場合はどこまでしてくれるのか
- 実家がある場合はそれが売却可能かどうかを調査してくれるのか
- 売れるとすればどの程度になるのかを調査してくれるのか
- 債権者や後順位の相続人に対する対応までしてくれるのか
- 結論として相続放棄をするべきかどうかのアドバイスをしてくれるのか、あるいは裁判所に放棄の申立書を出すだけなのか
弁護士に依頼をする場合は、弁護士費用の金額だけでなく、対応してくれる作業内容もよく確認する必要があります。すべてを任せられる弁護士もいれば、そうではない弁護士もいますので、よく確かめてから依頼してください。
8. 相続放棄以外に、不要となった実家を手放す方法は?
多額の資産があるため相続放棄はしたくないが、相続放棄をしなければ実家も相続しなければならない、という場合には、相続放棄以外の以下のような手法で実家の処分を検討します。
8-1. 近隣の方に購入を打診する
隣家や近隣の方に購入を打診する方法がまず考えられます。
筆者の弁護士事務所で扱ったケースとして、依頼者は実家の売却を希望していたものの、不動産業者に査定をとっても「売却は難しい」という回答しか返ってきませんでした。
ただし、隣家の家族がUターンで帰郷し、住居が必要だという情報を聞き、隣家の方に打診をして購入していただきました。相場からはかなり低い値段での売却となったものの、不要な実家を長年、持ち続ける苦労を考えるとやむを得ない解決でした。
8-2. 不動産を売却可能な状態になるよう整える
これも筆者の弁護士事務所で扱ったケースで、依頼者は相続遺産である実家の売却を希望していたものの、いつまで経っても売却の話が具体化しなかったため、筆者が売却に向けた手配を進めていきました。
この不動産は土地の境界が不明瞭だったため、まずは隣地との境界を確認しました。また、土地上の建物を解体して更地にするなど、売却できる前提条件を整えたうえで業者に売却手配をしたところ、2カ月ほどで売却が完了しました。
8-3. 相続土地国庫帰属制度を利用する
2023年4月に「相続土地国庫帰属制度」が施行されました。これは、相続などで取得した不要な土地を手放し、国に土地を引き取ってもらう制度です。
ただ、引き取ってもらうには境界を明示する必要があるなど要件が厳しく、遺産不動産の売却に多く関与している筆者の弁護士事務所でも、この制度はまだ利用していません。当事務所の周囲でも、この制度を利用したという話は聞いていません。
たとえば相続した土地が山林である場合、境界を定めるのは非常に難しいと言えます。筆者の弁護士事務所で扱った事案にも、遺産のなかに山林があり、相続人の誰も相続したがらないというケースがありました。このときは知り合いの鑑定士が設立した不動産会社に無償で譲渡し、しかるべき費用として数十万円を支払って山林を手放しました。
このような解決策を探る場合は、引き取ってくれる相手が信頼できる業者かどうかを確認してから進めるようにしてください。
9. 後順位の相続人への配慮
相続の第一順位は配偶者と子です。配偶者や子の全員が相続放棄をした場合には亡くなった人の両親が、その両親が死亡している場合は亡くなった人の兄弟が相続人になります。
配偶者にとっては義理の家族、子にとっては年輩の親族になります。これらの人は突然、相続人になり、しかも借金を押しつけられたとなると、困惑し、時には怒りの感情を持つケースもあります。親族間の感情的な対立を回避する意味でも、第一順位の相続者全員が相続放棄する場合は、その旨を後順位の相続人となる親族の方たちに連絡しておきましょう。
筆者の弁護士事務所が扱う案件では、相続放棄が完了した段階で、後順位の相続人となる親族に相続放棄をした旨を必ず連絡します。なかには、相続放棄をした相続人が、後順位の相続人が相続放棄をするための弁護士費用を立て替えると申し出て親族とのつながりを維持した例もありました。当事務所では、これらの申し出や後順位の相続人となる親族との交渉も業務として担当します。
10. 離婚別居した父の相続放棄は要注意
両親が離婚し、別居していた父親が亡くなった際には、相続放棄すべきかどうか十分に検討する必要があります。
10-1. 離婚して別居していた父の相続
相続放棄に関する相談で意外に多いのが、両親が離婚し、母親に養育されていた子からの、離婚後に別居していた父親が亡くなったのだが、相続放棄をするべきか、という相談です。この種の相談では、相続人は父親とは長年にわたって別居しており、父親の遺産の内容はほとんど把握していないのが一般的です。
筆者の弁護士事務所ではこのような相談を受けた際、不動産や預貯金、債務の調査をするだけではなく、父親が借金をしがちであったか、浪費癖があったかなどを元妻である母親から聞いたうえで、相続放棄をするかどうかのアドバイスをしています。
10-2. 後妻からの相続放棄の勧めは要注意
父親と離婚別居しているケースで特に問題なのは、父親が再婚しており、その後妻(ごさい)から「父親は死亡した。財産がないので私は相続放棄をする。あなたも相続放棄をしなさい」といった趣旨の連絡が来るケースです。
このような場合には、父親の生前に後妻が財産を不正に取り込んでいる可能性があります。場合によっては銀行などの取引履歴を取り寄せ、不正出金がなかったかを調査する必要があります。
ただし、後妻が相続放棄をした場合にどこまで取り戻しができるのかという法的問題があります。その点は弁護士と相談してください。
11. 実家と相続放棄に関してよくある質問
Q. 相続放棄をする場合、実家の中にある遺品や家財道具は勝手に処分してもいい?
相続財産について処分行為があった場合は、亡くなった人の財産を引き継ぐ選択をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなります。そのため、実家にある遺品や家財道具は勝手に処分せず、ほかの相続人や相続財産清算人に任せたほうがよいでしょう。
ただし、筆者の弁護士事務所では、腐敗するおそれのある生ものやゴミについては、財産的価値がないため、場合によっては廃棄もやむを得ないとアドバイスをするケースがあります。その場合は、廃棄したものの写真などを可能な限り撮影しておくよう勧めています。
Q. 相続人全員が相続放棄をしたら実家はどうなる?
法律上は、実家は最終的には国庫に帰属する、つまり、所有権が国に移って国の財産になります。ただし、実家の購入を希望する人がいる場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申立て、選任された清算人から買い受けます。
筆者の弁護士事務所で過去に扱ったケースのなかには、相続放棄をした人が実家を買い取ったケースがありました。亡くなった人に多額の借金があったため、相続人の全員がいったん相続放棄をしたうえで、相続人の1人が相続財産清算人から実家を買い取りました。
依頼者は清算人選任のために裁判所に予納金100万円を、実家の買い取り費用として数百万円を支払いましたが、買い取り費用が抵当権の被担保債権の支払いに充てられたため、債務は1円も支払いをせず、抵当権が抹消された実家を取り戻せたケースでした。
なお、買い主がいない場合、実家は相続財産清算人による清算手続きが終了した時点で国庫に帰属します。
Q. 実家が遠方の場合、近くの裁判所でも相続放棄の手続きはできる?
相続放棄は、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に申立てをする必要があります。郵送による申立ても可能であるため、実家が遠方の場合は郵送をお勧めします。
Q. 親が亡くなって3カ月が過ぎてから借金や実家の問題に気づいたらどうなる?
正当な理由があれば、3カ月を過ぎたあとでも相続放棄が認められる場合があります。ただし、その段階で遺産不動産の登記をしたり、その他の遺産を売却していたりすると、相続放棄ができなくなります。
いずれにせよ、期間経過後の相続放棄申立ては、必ず弁護士に相談するようにしてください。
筆者の弁護士事務所が扱った案件で、亡くなった人が会社債務の保証人をしており、亡くなった約10年後に会社が倒産し、亡くなった人の保証債務が相続人に請求されたケースがありました。
この件では、依頼者に判断能力上の問題があった旨や遺産はまったく受け取っていない旨、亡くなった人に保証債務があったとはまったく知らなかった旨などを申立書に記載し、最終的には裁判官と面談をしたうえで相続放棄の申請を受理してもらいました。
Q. 実家がゴミ屋敷でも相続放棄はできる?
実家がゴミ屋敷であろうとなかろうと、相続放棄はできます。
12. まとめ 家の相続放棄で悩みがある場合は弁護士へのすみやかな相談を
相続放棄をすると亡くなった人の資産を一切相続できなくなるため、実家も相続する必要はなくなります。相続放棄をすれば実家の処分や管理をする必要がなくなり、借金の返済義務や親族同士の相続トラブルも回避できます。
ただし、実家だけの相続放棄はできません。また、後順位の相続人に相続権が移るため、実家の管理や借金を押しつけるかたちになり、怒りを買う可能性もあります。相続放棄をしたのちに亡くなった人に多額の遺産があると判明した場合でも、相続放棄の取り消しはできないため注意が必要です。
相続放棄を検討するには、亡くなった人にどれだけの遺産と借金があるのかを調査し、相続した場合、相続放棄した場合それぞれのメリットとデメリットを検討する必要があります。「相続になったと知ったときから3カ月以内」という時間制限もあるため、弁護士に依頼をしたうえで相続放棄の是非を検討するのがお勧めです。
(記事は2026年8月1日時点の情報に基づいています)
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