目次

  1. 1. 相続放棄しても空き家の保存義務(管理義務)は残る? 相続財産清算人とは
  2. 2. 相続財産清算人の選任申立てにかかる費用と相場
  3. 3. 相続財産清算人の予納金は誰が払う?
  4. 4. 相続財産清算人の予納金を支払うタイミングは? 払えないとどうなる?
  5. 5. 相続財産清算人の予納金をすぐに用意できない場合の対処法
  6. 6. 相続財産清算人の選任申立てと選任後の流れ
  7. 7. 相続財産清算人について弁護士に相談や依頼をするメリット
  8. 8. 相続財産清算人と予納金に関連してよくある質問
  9. 9. まとめ 相続財産清算人選任の申立てを検討する際は弁護士に相談を

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相続放棄しても保存義務や管理義務が残る場合とはどのようなケースなのか、さらには相続財産清算人とはどのような役割を担う存在なのかについて説明します。

1-1. 相続放棄しても保存義務が残る場合がある

相続放棄をした場合、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、原則として亡くなった人の空き家などを管理する義務はありません

ただし、例外として、下記の条文のとおり、相続放棄をしても「現に占有している」財産については保存義務(管理責任)を負います

【民法940条1項】 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

この保存義務を免れるには、その財産を相続財産清算人などに引き渡さなければなりません。

1-2. 相続財産清算人(相続財産管理人)の役割

相続財産清算人とは、戸籍上相続人がいない、または相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなったなど、亡くなった人に相続人がいるかどうかが明らかでない場合に、相続財産を管理したり清算したりして、最終的に残った財産を国庫に帰属させる職務を行う人のことです。国庫に帰属させるとは、言い換えれば国に引き渡すことを指します。

相続財産清算人は、亡くなった人の債権者(お金を貸していた人)や受遺者(遺言書によって財産を譲り受ける人)、特別縁故者(亡くなった人と生計をともにするなど特別に深い関わりがあったことを理由に、相続人がいないときに遺産を取得できる人)といった利害関係人などが家庭裁判所に申し立てることで選任されます。

相続財産清算人は多数の法的問題に対応しなければなりません。そのため、利害関係のない、申立て先の家庭裁判所の地元の弁護士が選任されるケースが多いです。

なお、かつては「相続財産管理人」と呼ばれていましたが、2023年4月1日施行の法改正によって「相続財産清算人」に名称が変更されました。

1-3. 相続財産清算人の選任が必要となるケース

一つは、相続放棄をしたものの「現に占有」しているとして保存義務を負っていることから、これを免れるために相続財産清算人の選任が必要となるケースです。

そのほか、亡くなった人に対してお金を貸していた債権者が相続財産から当該貸金を回収したい場合にも選任申立てがなされます。近年は、マンションの管理組合が滞納された管理費や修繕積立金などの回収を目的として相続財産清算人を頼る事例も多くなっています。

また、亡くなった人と生計を同じくしていた内縁の配偶者や療養看護に努めていた親族などが特別縁故者として財産分与を受けたい場合にも、相続財産清算人の選任が必要です。

【関連】相続放棄しても空き家の管理義務は残る?いつまで? 免れるための対処法

相続財産清算人の選任申立てをするにあたってはさまざまな費用がかかります。

2-1. 収入印紙、郵便切手、官報公告費用

相続財産清算人の選任申立てに際しては、まず以下の費用がかかります。

  • 収入印紙:800円分
  • 連絡用の郵便切手:1000円~2000円程度(裁判所によって異なる)
  • 官報公告費用:5582円

2-2. 予納金|数十万円〜100万円前後

多額となる可能性があるのが予納金です。

予納金とは、裁判所が申立人に対して事前に納付を求めるお金のことです。相続財産の内容からして、相続財産清算人に対する報酬を含め、相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用に不足が出る可能性がある場合に必要になります。

予納金の金額は数十万円から100万円前後になることが一般的で、裁判所によっても異なります。たとえば、各裁判所の公式ページで公開されている資料によると、大阪家庭裁判所ではおおむね100万円程度、名古屋家庭裁判所では70万円程度が目安とされています。また、これらの裁判所では、予納金の額は、申立て後、選任直前に決定することから、申立て検討段階や申立て時に問い合わせをされても回答できないとされています。

予納金の金額は相続財産の内容や管理状況など事案の内容によっても増減します。たとえば、相続財産を管理するために必要な費用を上回る多額の預貯金がある場合は、予納金の納付を求められないこともあります。

不動産の売却などによって相続財産から費用を支払えた場合、残った予納金は最終的に申立人に返還されます

一方、相続財産から費用を支払えない場合は予納金から支払うことになり、予納金は返還されません。

そのため、予納金が返還されない可能性があることを踏まえ、費用対効果を十分に検討したうえで相続財産清算人選任の申立てをするかを検討することが大切です。筆者も弁護士として、これまで相続財産清算人申立ての相談を多数受けてきましたが、この予納金が障害となって申立てを躊躇するケースは少なくありません。

2-3. その他の費用

申立ての際の添付書類を集めるための費用もかかります。たとえば、戸籍謄本は1通450円、除籍謄本や改製原戸籍謄本は1通750円、住民票除票や戸籍附票が1通300円程度です。

また、相続財産清算人選任申立ての手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合、その費用がかかります。相場は20万円から40万円程度です。

相続財産清算人の予納金は、申立人が納付しなければなりません。なお、申立てができるのは、利害関係人および検察官です。利害関係人とは、相続財産について法律上の利害関係を持つ人間を指します。利害関係人の一例は以下のとおりです。

  • 受遺者(ただし、全部包括受遺者は除く)
  • 亡くなった人の債権者
  • 特別縁故者
  • 事務管理者

なお、「亡くなった人の債権者」には、被相続人の医療費や固定資産税などの債務を立て替えていた場合も含まれます。たとえば、占有していない空き家を相続放棄し管理義務からは免れたものの、「放置するのは近隣の迷惑にかかるのが申し訳ない」との思いがある場合、亡くなった人の債権者という立場で相続財産清算人の申し立てることもできます。ただし、予納金を支払う必要はあるので、慎重に検討する必要があります。

予納金は申立て後に納付することになるため、申立て時には必要ありません。

具体的には、相続財産清算人の申立てをしたあと、家庭裁判所が申立書の内容を精査して、相続財産清算人の報酬を含め、相続財産を管理するために必要な費用に不足が出る可能性がある場合に、申立人に予納金の納付を求めます。予納金をこのタイミングで納付できない場合には相続財産清算人は選任されません。

相続財産に預貯金などの流動資産がある場合は、費用は相続財産から支出できる旨の上申書を裁判所に提出するなどして予納金の納付を不要とするように求める方法が考えられます。

前記のとおり、予納金は相続財産の管理に必要な費用に不足が出そうな場合に納付を求められますので、相続財産で足りることを裁判所に説得的に説明することができれば、予納金の納付なしで相続財産清算人が選任されることもあります。

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相続財産清算人の選任申立て後の流れは下記のとおりです。

6-1. 【STEP1】家庭裁判所への選任申立て

相続財産清算人を選任してもらうには、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書や財産目録、相続関係図、添付書類などを提出します。一般的な添付書類は下記のとおりです。相続放棄をした相続人がいる場合は相続放棄申述受理証明書なども必要になります。

  • 亡くなった人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 亡くなった人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 亡くなった人の子およびその代襲者で死亡している人がいる場合、その子およびその代襲者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 亡くなった人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 亡くなった人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
  • 代襲者としての甥または姪で死亡している人がいる場合、その甥または姪の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 不動産登記事項証明書や通帳写など、相続財産を証する資料
  • 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料
  • 相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票または戸籍附票

6-2. 【STEP2】家庭裁判所の審理と予納金の納付

家庭裁判所が申立書一式の内容を精査し、必要に応じて予納金の納付を求めます。求めに応じて、申立人が予納金を納付します。

6-3. 【STEP3】相続財産清算人の選任と公告

家庭裁判所が相続財産清算人を選任するとともに、すみやかに相続財産清算人を選任したことおよび相続人があるならば6カ月以上という一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告します(民法952条2項)。公告期間内に相続人が現れなければ相続人がいないことが確定します。

6-4. 【STEP4】相続財産の管理と換価

相続財産清算人は申立人と面談するなどして、申立人などが所持する亡くなった人の現金や預貯金通帳、鍵などの引渡しを受けます。この引渡しによって、申立人は相続放棄後の保存義務(民法940条1項)を免れることができます

また、不動産については、相続財産法人が成立したことを公示するため、相続財産法人名義への登記名義人の表示変更登記を行います。

そのほか、相続財産の内容や方針に応じて、相続財産の管理や処分を行います。たとえば、不動産や株式などは換価するケースが多いです。なお、相続財産清算人の権限は民法103条が定める範囲内の保存行為などに限られ、不動産や株式の売却などの権限外行為をするには家庭裁判所の許可が必要です。

6-5. 【STEP5】相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告

相続財産清算人は、すべての相続債権者や受遺者に対し、2カ月以上という一定期間内にその請求の申出をすべき旨を公告します(民法957条1項)。また、公告と並行して、把握している債権者や受遺者に対して各別に申出の催告をします(同条2項・927条3項)。

6-6. 【STEP6】相続債権者や受遺者に対する弁済

請求申出の期間満了後には、一定の順位と手続きに従って弁済をします。

6-7. 【STEP7】特別縁故者に対する財産分与の申立て

特別縁故者は、STEP1記載の民法952条2項の公告期間満了後の3カ月以内に、家庭裁判所に対して財産分与の申立てをすることが可能です(民法958条の3)。家庭裁判所によって分与の審判がなされた場合、相続財産清算人はその内容に従い、特別縁故者に相続財産を分与します。

6-8. 【STEP8】報酬付与の申立て

相続財産清算人が家庭裁判所に対し、報酬付与のために申立てをします。なお、資産より負債が多い債務超過の場合は、弁済前に報酬付与の申立てをします。

相続財産清算人は、付与された報酬を相続財産または予納金から得ます。

6-9. 【STEP9】相続財産の国庫への帰属

最終的に残った財産は、国庫に帰属、つまり国に引き取られます(民法959条)。そのため、相続財産清算人は、財産の内容に応じて、国庫に帰属させるための手続きをします。なお、不動産の共有持分やその他の財産権の共有持分権は、国庫ではなくほかの共有者に引き渡されます(民法255条)。

6-10. 【STEP10】相続財産清算人による管理の終了

残余財産がすべて国庫に帰属すると管理すべき相続財産がなくなるため、相続財産清算人の職務は終了です。予納金が余った場合は申立人に返還されます。

相続財産清算人に関して弁護士に相談や依頼をするメリットは主に3つあります。

  • 相続財産清算人選任申立てをすべきかどうかアドバイスを受けられる
  • 選任申立ての手続きを代行してもらえる
  • 事前対策についても相談できる

7-1. 相続財産清算人選任申立てをすべきかどうかアドバイスを受けられる

法改正によって相続財産を「現に占有」している場合に保存義務を負うことになったものの、実際の事案で保存義務を負っているのか不安になることもあるでしょう。弁護士に相談すれば、保存義務を負うかどうか、どのような対応が望ましいかなどのアドバイスを受けられます。ただし、改正されたばかりで裁判例の蓄積がないため、弁護士であっても判断が難しいケースもあります。

また、すでに裁判手続きが進行している場合などは、相続財産清算人ではなく特別代理人を選任してもらうことでカバーすることも考えられます。このようにほかの制度の利用についても相談できます。

7-2. 選任申立ての手続きを代行してもらえる

選任申立てを進めるには、裁判所に提出する書面の作成や必要書類の準備、裁判所とのやりとりなど、多くの手続きが必要です。選任後にも清算人とのやりとりが必要になります。これらの対応には法的知識や多くの労力を要するものの、弁護士に依頼した場合はこれらの手続き全般を任せることができるため、負担が大きく軽減されます

7-3. 事前対策についても相談できる

生前に相続人となる人がいないことがわかっている場合、遺言書の作成など事前に対策を講じておく選択肢もあります。

たとえば、内縁の妻や療養看護に努めた親族などは特別縁故者として財産分与を受けられる可能性がありますが、相続財産清算人選任を申し立てる手間や費用がかかるうえ、確実に分与を受けられるわけではありません。このような場合、事前に内縁の妻や親族に財産を遺贈する内容の遺言書を作成し、遺言執行者も指定しておくことでスムーズに財産を承継させられます。

Q. 相続財産清算人の予納金が追加で必要になることもある?

予納金では必要な費用に不足するとして、さらに追加の納付を求められることは基本的にありません。

Q. 相続財産清算人の予納金が余った場合、いつ返還される?

原則として相続財産清算人による業務終了後です。

Q. 相続財産清算人が選任されたら、もう実家に関して何もしなくていい?

実家が相続財産に含まれる場合、基本的に管理は相続財産清算人に任せて問題ありません。

ただし、実家について「現に占有」しているとして保存義務を負う場合、相続財産清算人に引き渡すまでは対応が必要です。また、実家の占有者は別途民法717条に基づく管理責任も負っており、実家が倒壊するなどして第三者に損害を与えた場合にはその損害を賠償する責任を負う可能性があるため、この観点からも対応が必要です。

相続財産清算人に引渡しをして占有者でなくなったあとは、何もしなくて大丈夫です。

Q. 相続財産清算人の申立てをしないで、実家を放置し続けたらどうなる?

誰も家庭裁判所に申立てをしなければ、相続財産清算人は選任されません。そのため、亡くなった人の相続財産は放置されることになります。

放置された結果、実家や第三者に損害が生じたとき、保存義務や管理責任を負っている人は損害賠償責任を負う可能性があります。

また、相続財産である土地にごみの不法投棄がなされていたり、建物が倒壊しそうになったりして問題が生じた場合には、近隣住民や自治体などが申立てを検討する事態になることも考えられます。

亡くなった人の相続財産に利害関係があるものの、そもそも相続人がいなかったり、相続人全員に相続放棄をされたりした場合には、相続財産清算人選任の申立てを検討しましょう。相続財産清算人が、相続財産を管理したり、清算したりする複雑な対応を引き受けてくれます。

ただし、申立て後に数十万円から100万円程度の予納金の納付を求められ、このお金は最終的に返還されない可能性もあるため、費用対効果を慎重に検討したうえで申し立てることが大切です。まずは、相続財産清算人を選任してもらうことによるメリットやデメリットなどについて、相続財産清算人に関する経験がある弁護士に相談することをお勧めします。

(記事は2026年5月1日時点の情報に基づいています)

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