目次

  1. 1. 数次相続とは?
  2. 2. 数次相続の具体例と相続分の計算方法
  3. 3. 数次相続と代襲相続の違いは?
  4. 4. 数次相続の手続きの流れ
    1. 4-1. 【STEP1】遺言書の有無の確認
    2. 4-2. 【STEP2】相続人と相続財産の調査
    3. 4-3. 【STEP3】相続するのか、相続放棄するのかを判断する
    4. 4-4. 【STEP4】遺産分割協議、調停、審判
    5. 4-5. 【STEP5】遺産の名義変更
    6. 4-6. 【STEP6】相続税の申告と納付
  5. 5. 数次相続の遺産分割協議書の書き方と記載例
    1. 5-1. 1通にまとめるか、別々に作成するか
    2. 5-2. 「相続人兼被相続人」という肩書を使う
    3. 5-3. 【記載例】数次相続の遺産分割協議書
  6. 6. 数次相続の相続税について
    1. 6-1. 基礎控除額の計算方法|法定相続人の数は増えない
    2. 6-2. 【計算例】祖父の相続人が父、父の兄だった場合
    3. 6-3. 二重課税を防ぐ「相次相続控除」の適用を受けられる場合がある
    4. 6-4. 亡くなった人の代わりに、その相続人が申告義務を負う
    5. 6-5. 申告期限が延長される特例がある
  7. 7. 数次相続を長期間放置するリスク
    1. 7-1. 相続人が雪だるま式に増える
    2. 7-2. 認知症や行方不明の相続人が出てくる
    3. 7-3. 相続登記の義務化による過料リスクがある
    4. 7-4. 不動産の売却や活用ができない
    5. 7-5. 固定資産税や管理費用の負担問題が発生する
    6. 7-6. 証拠資料が散逸する
  8. 8. 複雑な数次相続の手続きは、誰に相談すればいい?
    1. 8-1. 他士業と連携している専門家への依頼がおすすめ
  9. 9. 数次相続に関してよくある質問
  10. 10. まとめ 数次相続が発生した場合は相続専門の事務所に早めに相談を

「相続会議」の弁護士検索サービス

「数次相続」とは、ある人の遺産分割が終わる前に相続人が亡くなり、新たな相続が発生した状態のことです。たとえば、祖父が亡くなったあと、父とその他の相続人で遺産分割協議をしている途中で父も亡くなったケースがこれに該当します。

この場合、最初に亡くなった祖父を「一次相続人」、その祖父の遺産相続を「一次相続」と呼び、父の相続は「二次相続」と呼びます。そして、一次相続と二次相続が同時進行になります。

さらに、二次相続の遺産分割が完了する前に二次相続の相続人が亡くなった場合は「三次相続」となり、相続が連鎖していきます。長期間にわたって相続手続きを放置しているうちに三次相続、四次相続まで発生するケースも珍しくありません。

筆者の弁護士事務所にも「祖父が10年前に亡くなったときに名義変更をしないままにしていたら、のちに父も亡くなり、さらに兄も亡くなって、誰が何を相続するのかわからなくなった」という相談が寄せられます。放置した期間が長くなるほど関係者が増え、解決までの期間も費用も大きく膨らんでいきます

数次相続の一例を図解。二次相続の遺産分割が完了する前に、二次相続の相続人が亡くなった場合は「三次相続」となり、相続が連鎖していく
数次相続の一例を図解。二次相続の遺産分割が完了する前に、二次相続の相続人が亡くなった場合は「三次相続」となり、相続が連鎖していく

数次相続が起きると、遺産の取り分である「相続分(そうぞくぶん)」の計算がやや複雑になります。祖父、父が相次いで亡くなったケースを具体例に挙げて見てみましょう。

家族構成は、一次相続について、祖父、父、父の兄です。父の相続人は、母、長男、長女の3人とします。祖父名義の預貯金が6000万円あり、その遺産分割協議をしている最中に父が亡くなったとし、父がもともと持っていた財産はないものとします。父と父の兄それぞれ譲り受ける法定相続分は以下の表のとおりです。

【一次相続における父の遺産の法定相続分】
相続人  法定相続分  取得額
父  2分の1  3000万円
父の兄  2分の1  3000万円

ここで父が亡くなると、父が祖父から相続するはずだった3000万円の権利は二次相続となり、父の相続人である母、長男と長女に引き継がれます。父には長男と長女以外に相続人がいないため、母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつ取得します。母、長男、長女の最終的な遺産の取得額は以下の表のとおりです。

【最終的な取得額】
相続人  内訳  最終取得額
母  父の相続分の2分の1  1500万円
長男  父の相続分の4分の1  750万円
長女  父の相続分の4分の1  750万円

ただし、これはあくまで法定相続分どおりに分けた場合の計算です。相続人全員の合意があれば、これとは異なる分け方も可能です。

数次相続と混同されやすいものに「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」があります。両者の決定的な違いは、相続人が亡くなったタイミングにあります。

  • 代襲相続:被相続人(亡くなった人)より先に本来の相続人が亡くなったケース
  • 数次相続:被相続人よりあとに相続人が亡くなったケース

たとえば、祖父が亡くなったときにその子がすでに亡くなっている場合、孫にあたる人物が子に代わって祖父の遺産を相続します。これが代襲相続です。

これに対し、祖父が亡くなったあと、遺産分割協議が終わらないうちに子が亡くなった場合は、子の相続人にあたる人物がその地位を引き継いで相続に関与します。これが数次相続です。

両者の違いを表で整理すると次のとおりです。

【代襲相続と数次相続の違い】
項目 代襲相続 数次相続
亡くなる順序  相続人が被相続人より先に死亡 相続人が被相続人よりあとに死亡
相続する人  亡くなった相続人の子や孫などの直系卑属(亡くなった相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合は相続人の子のみ)  亡くなった相続人の相続人全員(配偶者を含む)
相続放棄の影響  代襲相続が発生する要件には当てはまらず、放棄者の子は相続できない  各相続について別々に放棄するかどうかを判断できる
配偶者の関与  代襲相続人にはならない  亡くなった相続人の配偶者も新たに相続人となる

特に注意したいのは、数次相続では「亡くなった相続人の配偶者」が相続関係に登場してくる点です。これにより、本来は無関係だった義理の家族との間でも遺産分割協議をしなければならなくなり、感情的にも実務的にも難しい局面が生じやすくなります。

数次相続が発生した場合の手続きは、おおむね次の6段階で進めていきます。

  1. 遺言書の有無の確認
  2. 相続人と相続財産の調査
  3. 相続するのか、相続放棄するのかを判断する
  4. 遺産分割協議、調停、審判
  5. 遺産の名義変更
  6. 相続税の申告、納付

まず、亡くなったすべての人について、遺言書が残されていないかを確認します。以下を確認するのが一般的です。

  • 自宅の金庫やタンス
  • 貸金庫
  • 公証役場
  • 法務局

公証役場には遺言者の意思に基づいて公証人が作成した「公正証書遺言」、法務局には遺言者が全文を自書して押印した「自筆証書遺言」が保管されている可能性があります。

遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って遺産を分けます。遺言書がないと思い込んで自分たちで勝手に遺産を処分し、あとから遺言書が見つかった際には大きなトラブルになる可能性があります。必ず最初に遺言書の有無を確認しましょう。

数次相続では、発生しているすべての相続について相続人を確定させる必要があります。一次相続の被相続人だけでなく、のちに亡くなった二次相続や三次相続の被相続人についても、それぞれ出生から死亡までの戸籍謄本類を集め、相続人を漏れなく調べなければなりません。

相続財産については、次のような方法で調査します。

  • 預貯金:通帳、キャッシュカード、郵便物などから金融機関を特定し、各金融機関に残高証明書を請求
  • 不動産:固定資産税の納税通知書、登記簿謄本、市区町村が発行する名寄帳(なよせちょう)で確認
  • 有価証券:証券会社からの取引報告書、証券保管振替機構(ほふり)への開示請求
  • 負債:全国銀行個人信用情報センター(KSC)や株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)といった信用情報機関への開示請求、督促状などの郵便物の確認

数次相続では、戸籍をたどる範囲が一気に広がります。筆者の弁護士事務所が過去に扱った案件でも、数回の相続が繰り返されて最終的に相続人が30人を超え、戸籍謄本などの書類だけで数十通が必要になったケースがありました。

見慣れない戦前の戸籍まで読み込まなければならないケースも珍しくはありません。全く面識のない遠縁の親族と連絡をとらなければならないケースもあります。こうした状況により、相続人本人での対応が現実的に困難な場合も少なくありません。

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「相続放棄」とは、被相続人のプラスの財産も、借金などマイナスの財産も一切引き継がないと家庭裁判所に申述する手続きです。相続放棄の期限は、原則として「自分が相続人になったと知った日から3カ月以内」とされています。

数次相続で押さえておきたいのは、一次相続(祖父の相続)を相続放棄できるかどうかが、「亡くなった一次相続の相続人(ここでは父)が、一次相続をすでに承認していたかどうか」によって変わるという点です。

パターン1:父が一次相続を承認する前に亡くなった場合

父が、祖父の相続を承認するか放棄するかを決めないうちに亡くなったケースです。このような相続は「再転相続(さいてんそうぞく)」とも呼ばれます。

この場合、父の相続人である母、長男、長女は、一次相続(祖父の相続)と二次相続(父の相続)のそれぞれについて、承認するか放棄するかを個別に判断できます。たとえば「借金が多い祖父の相続は放棄するが、遺産を受け取れる父の相続は受け入れる」といった選択も可能です。

ただし、パターン1であっても、承認と放棄の組み合わせには制限があります。具体的には、「二次相続(父の相続)を放棄したうえで、一次相続(祖父の相続)だけを承認する」ことはできません。父の相続を放棄すると父の相続人ではなくなり、父を通じて引き継いだ「祖父の相続を承認・放棄する権利」も失ってしまうためです。一次相続を承認したい場合は、二次相続も承認しておく必要があります。

パターン2:父が一次相続を承認した後に亡くなった場合

父が、祖父の相続を承認したあと(父が遺産分割協議に加わっていた場合などを含みます)に亡くなったケースです。この場合、父の相続人である母、長男、長女は「祖父の相続を承認した父の立場」をそのまま引き継ぐことになるため、あらためて一次相続(祖父の相続)だけを相続放棄することは、原則としてできません。

また、いずれのパターンでも共通して、相続放棄を検討している段階で相続財産を処分すると「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなるため注意が必要です。単純承認とは、プラスの財産も借金などのマイナスの財産もすべて無条件で引き継ぐことを言います。

相続するか放棄するかは、いったん選択すると原則としてやり直しができません。特に数次相続では、判断の順序や組み合わせによって結論が大きく変わるため、迷ったら早めに専門家に相談することをお勧めします。

なお、再転相続の場合、一次相続を相続放棄するかどうかを判断する「3カ月」の起算点は、原則として「二次相続の発生によって自分が一次相続の相続人の地位を引き継いだと知ったとき」とされています(民法916条、最高裁令和元年8月9日判決)。疎遠などの理由で再転相続人になったことを知らなかった場合は、3カ月を過ぎていても放棄が認められる余地があります。

相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。数次相続では一次相続の相続人と二次相続の相続人が重複しているケースも多く、複数の相続を一つの協議のなかでまとめて解決する方法と、それぞれ別々に協議する方法があります。

どちらが適切かは、相続人の構成、財産の内容、税務上の影響などによって変わります。たとえば、配偶者が相続で取得した財産のうち1億6000万円までは課税されない「配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)」を最大限に活用したい場合は、一次相続の分け方をのちの相続まで見据えて決める必要があるなど、専門的な判断が求められる場面が多々あります。

協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停でも合意できなければ審判に移行し、裁判官が法定相続分などを基準に分割方法を決定します

筆者の経験上、数次相続の相談においては「兄が亡くなり、面識のない兄嫁と協議をしなければならなくなった」「祖父母の子らの、そのまた子らと遺産分割協議をしなければならなくなった」というケースは非常に多いです。

関係性が薄いうえに利害が真っ向から対立する相手と直接交渉するのは精神的負担が非常に大きいため、早い段階で弁護士に相談し、間に入ってもらうのがお勧めです。

【関連】遺産分割協議とは  話し合いの準備や進め方、まとまらなかった際の対処法

遺産分割の内容が決まったら、預貯金の解約や払い戻し、不動産の相続登記、株式の名義変更など、各財産の名義変更を行います。

数次相続における不動産の相続登記については、原則として亡くなった順序どおりに相続登記をしていく「順次登記」が必要です。たとえば、祖父→父の順で亡くなった場合は、まず祖父から父への登記、次に父から父の相続人への登記と、2回の登記申請が必要になります。

もっとも、遺産分割協議の内容次第では登記を1回で済ませ、費用を大幅に節約できるケースもありますので、専門家への相談をお勧めします。

なお、2024年4月1日から、相続登記が義務化されています。相続によって不動産を取得したと知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になる可能性があるため注意が必要です。

相続税は、各相続について個別に計算し、申告と納付をする必要があります。一次相続には一次相続の、二次相続には二次相続の申告がそれぞれ必要です。

相続税申告の期限は、原則として「相続の開始があったと知った日の翌日から10カ月以内」ですが、後述するように数次相続では特例があります

数次相続では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の使い方によって、トータルの税額が数百万円単位で変わる可能性があります。適切なかたちで申告と納付をするためにも、相続税に詳しい税理士への相談をお勧めします。

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数次相続の遺産分割協議書には、通常の協議書とは異なる書き方のポイントがいくつかあります。

一次相続と二次相続の協議書は、1通にまとめての作成、別々での作成のどちらも可能です。実務上は、相続人が重複していて内容も連動している場合は1通にまとめるほうがシンプルです。

一方、相続人の構成が大きく異なる場合や、不動産の相続登記で書類を分ける必要がある場合など、別々に作成したほうがよいケースもあります。

数次相続の協議書で特徴的なのが、亡くなった相続人について「相続人兼被相続人」という肩書をつける点です。一次相続では相続人の立場でありながら、のちに亡くなって二次相続では被相続人になっている、という二重の立場を明確にするためです。

また、亡くなった相続人の権利を引き継いだ二次相続の相続人については、「相続人兼◯◯の相続人」という肩書をつけて、誰のどの立場の相続人なのかを明示します。

遺産分割協議書は、主に以下のような内容を記載します。

遺産分割協議書


被相続人A(令和○年○月○日死亡)
最後の住所:○○県○○市○○町○丁目○○
最後の本籍:○○県○○市○○町○丁目○番地

被相続人Aの相続が開始したため、相続人全員で協議を行ったところ、後記のとおり遺産分割協議が成立した。なお、相続人の1人である妻Bについては、令和○年○月○日に死亡したため、Bの相続人であるC、Dがその地位を承継し、協議に参加した。

第1条 被相続人Aの有する下記不動産については、Cが相続する。

~略~

以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証するために本書を作成し、署名捺印する。

令和○年○月○日

相続人:○○県○○市○○町○丁目○○ C
相続人:○○県○○市○○町○丁目○○ D

実際の協議書は、相続財産の内容や相続人の構成に応じて記載すべき事項が変わります。記載に不備があると、登記が通らない、金融機関で受理されないといったトラブルが起こり得ます。

こうしたトラブルを回避するためにも、専門家による確認を依頼するのがお勧めです。

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数次相続の相続税には、知らないと損をするポイントがいくつもあります。ここでは特に重要な点について解説します。

相続税には「3000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があります。数次相続では関係する人が増えるため、「法定相続人の数も増えるのではないか」と思いがちですが、そうではありません。

一次相続の基礎控除額を計算する際の「法定相続人の数」は、一次相続発生時点における法定相続人の数で固定されます。その後、相続人が亡くなって二次相続が発生し、相続関係者が増えても、一次相続の基礎控除額は変わりません。

【関連】遺産相続の税金はいくらかかる? 相続税の計算方法や手続きを紹介

祖父が亡くなって一次相続が発生した場合、基礎控除額は「3000万円+600万円×2人=4200万円」となります。

その後、父が亡くなって父の権利を母、長男、長女が引き継ぐと、その時点での相続人の数は「のべ4人」になりますが、一次相続の基礎控除額は4200万円のままで、5400万円にはなりません。

なお、父が亡くなった際の二次相続については、父の法定相続人である母、長男、長女の3人を基準に計算するため、基礎控除額は「3000万円+600万円×3人=4800万円」となります。

短期間に相続が連続すると、同じ財産に対して何度も相続税が課される事態が起こり得ます。これを緩和するのが「相次相続(そうじそうぞく)控除」です。

相次相続控除の主な要件としては、以下が挙げられます。

  • 二次相続の被相続人が、一次相続から10年以内に亡くなった
  • 二次相続の被相続人が、一次相続で相続税を納付している
  • 二次相続で財産を取得した人が、二次相続の被相続人の法定相続人である

控除額は、一次相続から二次相続までの経過年数に応じて1年につき10%ずつ減っていく仕組みです。経過年数が短いほど控除額が大きくなります。

また、適用には所定の計算と申告が必要です。「相次相続控除を使えるはずだったのに、知らずに使わなかった」というケースが少なくないため、必ず税理士に確認してもらいましょう。

一次相続の相続人が相続税を申告しないまま亡くなった場合は、亡くなった相続人の代わりに、二次相続の相続人が一次相続の申告義務を引き継ぎます。

たとえば、祖父の相続税を父が申告する前に父が亡くなった場合、父が負っていた一次相続の申告義務は、父の相続人となり得る母と子(二次相続人)に承継されます。ただし、二次相続人が二次相続で相続放棄をした場合は、一次相続の申告義務も放棄されます。

一次相続の相続人が申告期限内に申告をしないまま亡くなった場合、その亡くなった相続人の相続人、つまり二次相続の相続人に限り、一次相続の申告期限が「二次相続の発生を知った日の翌日から10カ月」まで延長されます。

ただし、申告期限が延長されるのは、亡くなった相続人の地位を引き継いだ人だけです。一次相続のほかの相続人の申告期限は、通常どおり「相続の開始があったと知った日の翌日から10カ月」のままとなります。

三次相続以降も同様の取り扱いとなりますが、延長の対象は限定的なので、誰がいつまでに申告するのかを早めに整理する必要があります。

また、数次相続では申告手続きを期限内に終わらせるだけではなく、全体的な税負担を考慮して、遺産分割の方法を決めるようにしてください。

数次相続では、一次相続と二次相続をトータルで見つつ、税負担が最も小さくなる分け方を検討する必要があります。

たとえば、一次相続で配偶者の税額軽減を最大限に使えば、一次相続の税額は抑えられます。しかし、それによって配偶者の財産が増えると、近い将来、発生する二次相続で課税対象となる財産の額が増え、結果的にトータルの税額が増える可能性があります。

また、自宅の土地を80%評価減できる「小規模宅地等の特例」なども、誰がどの不動産を相続するかによって適用可否や効果が変わります。

弁護士と税理士として数多くの相続案件を見てきた筆者の経験上、限られた期間内に当該案件の事情を考慮して税負担の最適化することは、相続税に強い税理士でなければきわめて困難です。相続発生前、そのあとを含めて最適な戦略を取るためには、弁護士と税理士が連携して遺産分割の交渉と税務シミュレーションを並行して進め、相続人が得る財産を最大化する必要があります。

数次相続を放置すると、時間の経過とともに以下のような深刻な問題が発生します。

  • 相続人が雪だるま式に増える
  • 認知症や行方不明の相続人が出てくる
  • 相続登記の義務化による過料リスクがある
  • 不動産の売却や活用ができない
  • 固定資産税や管理費用の負担問題が発生する
  • 証拠資料が散逸する

放置している間に相続人が次々と亡くなれば、その配偶者や子、孫が新たな相続人として加わり、関係者が雪だるま式に増えていきます。

最終的に、面識のない遠縁の親族までを含めた数十人と遺産分割協議をしなければならない、という事態にもなりかねません。

時間が経つと、相続人のなかには認知症などで判断能力が低下した人や、行方がわからない人が出てくる可能性が高まります。

こうなると、判断能力の低下した人に代わって財産管理や契約手続きなどを行う成年後見人や、行方がわからない人に代わってその人の財産を管理する不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。成年後見人や不在者財産管理人が介在すると手続きが格段に複雑になり、時間も費用もかかります。

また、最近では海外に住所を移す人も増えており、これも相続手続きが困難になる要因になっています。

2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得したと知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。

相続登記の義務は、施行日より前に発生していた相続も対象に含まれている点に注意が必要です。

相続登記を済ませないと、不動産の売却や担保提供ができません。空き家として放置している間も、固定資産税は所有者である相続人に課され続けます。

分割協議が成立しないまま不動産が共有状態になっていると、固定資産税やマンションの管理費、修繕積立金を誰がどう負担するかで争いに発展するケースが多発します。

相続人のうちの1人がこれらを立て替え、ほかの相続人から回収できないまま負担が積み上がっていくケースもあり得ます。

時間が経てば経つほど、預貯金の履歴や不動産の権利関係を示す書類、被相続人の意思を裏づける資料などが散逸し、本来取得できたはずの財産を取り戻せなくなる可能性があります。

数次相続のような複雑な相続案件は、相談したい内容によって適切に対応できる専門家が異なります。それぞれの役割と得意分野を以下の表に整理しました。

【数次相続について相談すべき専門家と対応できる主な業務】
専門家  相談に向いているケース  対応できる主な業務
弁護士  ・相続人同士で意見が対立している、あるいは対立しそう
・面識のない相続人との交渉が必要 
代理交渉、遺産分割調停や審判、遺留分侵害額請求、訴訟対応、遺産分割協議書の作成
税理士  ・相続税の申告が必要
・節税の余地を検討したい 
相続税の申告と納付、相次相続控除や配偶者の税額軽減等の特例適用、税務シミュレーション
司法書士  ・相続人間で争いがなく、不動産の名義変更が中心  相続登記、簡易な遺産分割協議書作成(争いがない案件に限る)
行政書士  ・争いも税務もなく、戸籍収集や協議書作成のみが必要  戸籍謄本の収集、相続関係説明図の作成、簡易な遺産分割協議書作成

数次相続は、交渉、税務、登記のすべてが複雑にからみ合うため、各士業が個別に動いていると効率が悪く、依頼者側の負担も大きくなります。

弁護士、税理士、司法書士が連携できる事務所であれば、窓口を一本化したまま交渉から相続税申告、不動産の名義変更までワンストップで進められます。

筆者の弁護士事務所では、代表が弁護士と税理士の双方の資格を持っているほか、社内に税理士や社会福祉士の資格を持つパートナー弁護士も在籍しており、提携司法書士と連携してワンストップでの解決をめざしています。

複雑な数次相続の場合は、士業同士の連携体制のある事務所に初動の段階で相談するのが、結果的に最も早く、費用を抑えて解決できる道だと考えられます。

Q. 数次相続の手続きでは誰の戸籍謄本を集める必要がある?

発生しているすべての相続について相続人を確定する必要があるため、亡くなった人それぞれの「出生から死亡までの連続した戸籍謄本類」が必要です。さらに、現在の相続人全員の戸籍も必要になります。

数次相続では、取得すべき戸籍が数十通に及ぶケースも珍しくありません。また、本籍地を移動している場合は複数の市区町村に請求しなければならず、さらに手間と時間がかかります。専門家に依頼するか、「法定相続情報証明制度」を活用するのが現実的です。

「法定相続情報証明制度」とは、相続人と被相続人の関係を証明する戸籍一式や関係図式を法務局に提出し、認証を受けて発行された「法定相続情報一覧図」を戸籍一式の代わりに利用できる制度です。

Q. 遺言書があった場合、数次相続の手続きはどうなる?

遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って遺産を分けます。

ただし、遺言書で分け方が指定されていない財産があったり、一部の相続について遺言書がなかったりする場合は、その部分についての遺産分割協議が必要になります。

また、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求の問題が別途発生します。

Q. 借金の多い一次相続を相続放棄し、二次相続の財産だけを相続できる?

一次相続の際の相続人(父)がまた一次相続を承認していなかった場合であれば可能です。一次相続と二次相続は別々の相続であるため、それぞれについて相続放棄するかどうかを判断できます。

「借金が多い祖父の相続は放棄して、父の相続は引き継ぐ」という選択も認められます。

ただし、二次相続を放棄すると、亡くなった相続人の地位そのものを引き継がなくなるため、結果として一次相続にも関与できなくなります。順序や組み合わせには十分注意が必要です。相続人が相続するか放棄するかを考えられる期間は原則3カ月間しかありません。期限を過ぎて手遅れになる前に、早めに専門家に相談しましょう。

Q. 祖父母の代から何年も放置して数次相続が重なっている場合でも手続きは可能?

可能です。ただし、相続人の調査だけでも膨大な作業になり、面識のない遠縁の方々と連絡をとり、協議をまとめなければなりません。なかには相続放棄をしたい人や、所在不明の人が含まれている場合もあり、対応の難易度は格段に上がります

筆者の弁護士事務所でも、3代、4代にわたって放置されていた相続案件を引き受けるケースがあります。長期化した案件でも解決の道筋はあるため、諦める前に一度、専門家に相談するようにしてください。

家族が亡くなり、遺産分割協議を進めている間に他の相続人が亡くなって新たな相続が発生した状態を「数次相続」と言います。数次相続は、相続人の数が増え、遺産分割協議書の書き方や相続放棄の判断、相続税の申告など、通常の相続にはない特殊なルールが多く存在します。

特に、相次相続控除や申告期限の延長といった税務上の特例は、知らずに見過ごすと多額の税負担につながります。また、放置すれば放置するほど関係者が増え、解決が困難になるという悪循環に陥ります。

数次相続が発生し、何から手をつければよいのかわからないと感じたら、できるだけ早い段階で弁護士、税理士、司法書士が連携できる相続専門の事務所に相談してください。早期の対応がストレスや費用負担の軽減につながるでしょう。

(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)

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