目次

  1. 1. 遺産の独り占めは「やり得」になる?
  2. 2. 遺産を独り占めした人の末路|法的な制裁と現実的なリスク
    1. 2-1. 超過取得分の返還を求められる
    2. 2-2. 遺留分侵害額請求を受ける
    3. 2-3. 調停や訴訟に発展する
    4. 2-4. 親族関係が深刻に悪化する
    5. 2-5. 刑事責任を問われる可能性もある
  3. 3. 遺産の独り占めが起こるケース|手口と心理
    1. 3-1. 被相続人と生前同居し、財産管理もしていた相続人がいる
    2. 3-2. 「長男に全部相続させる」などの遺言書が見つかった
    3. 3-3. 特定の相続人が、遺産分割協議の主導的な立場にある
    4. 3-4. 借金や失業でお金に困っている相続人がいる
  4. 4. 遺産を独り占めされたときの対処法
    1. 4-1. まずは相続人および財産状況を確認する
    2. 4-2. 独り占めの証拠を確保する
    3. 4-3. 遺産の返還や清算を求める
    4. 4-4. 遺留分侵害額請求を検討する
    5. 4-5. 家庭裁判所に調停を申し立てる
    6. 4-6. 訴訟を起こす
  5. 5. 遺産を独り占めされたときに弁護士に相談・依頼するメリット
  6. 6. 遺産の独り占めを予防する方法
  7. 7. 遺産を独り占めした人の末路に関して、よくある質問
  8. 8. まとめ 遺産の独り占めは大きなリスクを伴うため、適切な予防と早めの対応が必要

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基本的に、遺産の独り占めが「やり得」になることはありません。各相続人には、法定相続分(民法で定められた遺産の取り分)が定められており、特定の相続人が他の相続人の同意なしに遺産を独占することは法的に認められていません

一時的に独り占めできたように見えても、後から他の相続人が法的な手続きをとれば、返還を余儀なくされます。それどころか、他の相続人との信頼を損なうことに加え、裁判などの手続きに多大な時間と費用を費やすことになるため、リスクの方がはるかに大きいと言えます。

遺産を独り占めした場合、一時的には利益を得られたように見えるかもしれません。しかし、後から返還請求や遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、状況によっては調停や訴訟に発展することもあります。ここでは、遺産を独り占めした人に生じる主なリスクについて解説します。

他の相続人の同意を得ずに、被相続人(亡くなった人)の口座から勝手に預貯金を引き出したり、着服したりした場合、法律上、不当利得または不法行為にあたります。

この場合、他の相続人は、自分の相続分を侵害されたとして「不当利得返還請求」や「不法行為に基づく損害賠償請求」を行う権利を持ちます。独り占めした人は、使い込んで手元にお金が残っていなかったとしても返還しなければなりません

「全財産を長男に相続させる」といった内容の遺言書が存在し、長男がそれに従って遺産を独占した場合でも、安全ではありません。被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子ども、親など)には、最低限の遺産取得割合である遺留分が保障されています

遺留分を侵害された相続人は、遺産を独り占めした人に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます。遺留分の支払いは現金での一括払いが原則です。

つまり、不動産ばかりを独り占めした場合、独り占めした人は多額の現金を自分で用意して他の相続人に支払わなければならず、結果的に自分の家や相続した不動産を売却せざるを得ない事態に追い込まれることも少なくありません

遺留分侵害額請求の仕組みの図。遺産を独り占めした人に対して遺留分侵害額請求ができる
遺留分侵害額請求の仕組みの図。遺産を独り占めした人に対して遺留分侵害額請求ができる

遺産の分け方について話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用することになります。調停でも合意できなければ、「遺産分割審判」という手続きに移行し、最終的には裁判所が遺産の分け方を決定します

また、特定の相続人が遺産を勝手に使い込んでいた場合には、返還を求める訴訟に発展することがあります。「全財産を相続させる」といった遺言書がある場合でも、他の相続人から遺留分侵害額請求を受け、裁判になるケースも少なくありません。

調停や訴訟になると、解決までに数カ月から数年かかることもあります。その間、精神的な負担が大きくなるだけでなく、弁護士に依頼する場合は弁護士費用も必要になります。

遺産をめぐる紛争は、親族間の感情的な対立を生むことになります。これによって一度失われた親族間の信頼関係を元に戻すことは困難でしょう。

独り占めを強行した人は、兄弟姉妹や親戚から「強欲な人」などのレッテルを貼られ、冠婚葬祭などの親族の集まりにも呼ばれなくなる可能性があります。

遺産を自分のものではないと知りながら勝手に使い込んだ場合は、窃盗罪や横領罪などの犯罪に該当する可能性があります。また、遺言書を偽造したり、偽造した書類を使って預貯金を引き出したりした場合には、文書偽造に関する犯罪に問われることもあります。

実際には親族間の相続トラブルで刑事事件になるケースは多くありませんが、悪質な使い込みや書類の偽造があった場合には、刑事責任が問題となる可能性があります

もっとも、配偶者や親子など一定の親族間では、法律上の特例により処罰が免除される場合もあります。ただし、民事上の返還義務までなくなるわけではないため注意が必要です。

遺産の独り占めは、必ずしも悪意だけで起こるものではありません。「自分が被相続人の介護をしてきた」「生活に困っている」など、さまざまな事情や心理が背景にあることもあります。まずは、どのようなケースで遺産の独り占めが起こりやすいのかを説明します。

被相続人と生前同居していた相続人が、被相続人のキャッシュカードや通帳、印鑑を日常的に管理している場合、「自分だけが親の面倒を見た(介護した)のだから、遺産を多くもらう権利がある」と考えて、預貯金を引き出すケースなどがあり得ます

「全財産を特定の者(長男など)に相続させる」という公正証書遺言や自筆証書遺言がある場合、その相続人は、その遺言書を根拠に、すべての遺産が自分のものであるという旨を主張することなどがあり得ます

「自分が一族の長(リーダー)である」などと考えている相続人がいる場合、情報をコントロールしながら自分に有利な遺産分割協議書を作成し、署名押印を求めるケースなどがあり得ます。

自身のギャンブルによる借金、事業の失敗、失業などで生活が困窮している相続人が、「他の相続人は生活に困っていないのだから、自分が遺産を受け取るべきだ」などと考えて遺産に頼ろうとするケースなどがあり得ます。

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他の相続人による遺産の独り占めが疑われる場合は、感情的に責め立てるのではなく、事実関係や財産状況を確認しながら冷静に対応することが大切です。証拠を確保し、必要に応じて法的手続きを利用することで、適正な遺産分割を実現できる可能性があります。

遺産が独り占めされたときの対処法。説得・調停・裁判などいくつかの方法がある
遺産が独り占めされたときの対処法。説得・調停・裁判などいくつかの方法がある

遺産を独り占めされている疑いがある場合は、まず「誰が相続人なのか」と「どのような遺産があるのか」を確認しましょう。相続人を正確に把握するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せる必要があります。これにより、異母兄弟や異父兄弟など、自分が知らなかった相続人が見つかることもあります。

また、他の相続人が通帳や財産の資料を見せてくれない場合でも、相続人であれば自分で預貯金の残高や取引履歴を確認できることがあります。不動産についても、役所や法務局で調査が可能です。

さらに、被相続人が株式などの有価証券を保有していた可能性がある場合は、証券会社の口座の有無を調べる方法もあります。まずは相続人と財産の全体像を把握することが、適切な対応への第一歩です。

預貯金については、被相続人の預貯金口座から、いつ、いくら引き出されたのかを確認する必要があります。銀行から取引履歴の開示を受けることにより、これを確認することができます。

また、不動産については、不動産登記簿を確認することにより、遺産である不動産が売却などされていないかを確認できます

遺産の使い込みが発覚した場合は、遺産分割協議の際に「使い込まれた分を遺産に持ち戻して各相続人の取り分を計算し、清算する」という提案をするべきでしょう。相手が提案を認めない場合は、内容証明郵便を用いて不当利得返還請求を行うなど、毅然とした態度を示すとよいでしょう。

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「全財産を特定の者(長男など)に相続させる」といった遺言書によって、他の相続人の取り分がゼロ、または極端に少ない場合は、遺留分侵害額請求を行うべきです。

なお、遺留分侵害額請求は、相続開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に行わなければ、時効によって権利が消滅して請求できなくなってしまうので、注意が必要です。

【関連】遺留分侵害額請求とは? 手続きの流れ・やり方 費用・必要書類・時効も解説

有効な遺言書がない場合で、遺産の分割方法をめぐって当事者同士の話し合いが平行線をたどるときは、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てるべきです。

遺産分割調停では、裁判官1名と調停委員2名で構成される調停委員会が、中立の立場で間に入って話し合いを進めます。これにより、相続人は、お互いが直接顔を合わせて言い争う必要がなくなるため、冷静な話し合いが期待できます。

また、遺産を不当に独り占めする相続人に対しても、調停委員会が法的な観点から説得を行ってくれます。

相手が使い込んだ遺産の清算を頑なに認めない場合や遺留分侵害額請求に応じない場合などには、地方裁判所に不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するべきでしょう。

訴訟上で和解が成立することもありますが、和解による解決が困難な場合は、裁判所が支払いを命じるかどうかの判断を下します。

遺産をめぐるトラブルは親族間の感情的な対立が激しくなりやすく、当事者だけで解決するのが難しいケースも少なくありません。

弁護士に相談すれば、遺産の独り占めが法的に認められるのか、どのような対処を取るべきかについてアドバイスを受けることができます。また、依頼した場合は交渉窓口を弁護士に任せられるため、相手方と直接やり取りする精神的な負担を軽減できます

さらに、弁護士会照会(23条照会)を利用すれば、弁護士による財産調査や証拠収集が可能になるほか、調停や訴訟に発展した場合も適切な主張や証拠提出を行いながら対応してもらえます。相続トラブルを有利に解決するためにも、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

遺産の独り占めを防ぐためには、相続が発生する前から対策をしておくことが重要です。

まず、被相続人が元気なうちに家族で財産の内容や相続の方針について話し合い、情報を共有しておくとよいでしょう。財産の状況や分け方に対する認識のズレを減らすことで、相続トラブルの予防につながります。

また、法定相続分と異なる分け方を希望する場合は、公正証書遺言を作成しておくことをおすすめします。法律の専門家である公証人が作成に関与するため、遺言が無効になりにくい点がメリットです。

さらに、認知症などによって判断能力の低下が見られる場合は、成年後見制度の利用を検討しましょう。第三者が成年後見人として財産管理を行うことで、特定の親族による使い込みや独り占めを防ぎやすくなります。

Q. 遺産を独り占めしたら、因果応報でバチがあたる?

法的根拠なく遺産を独り占めする場合、不当利得返還請求などによって経済的な利益を失うだけでなく、親戚中から「お金に汚い人間」として信用を失いかねません。このような意味において、バチがあたる可能性はあるでしょう。

Q. 相続人の一人が被相続人の通帳や財産を隠している場合、どうすればいい?

自分で金融機関へ直接照会しましょう。被相続人が保有していた預貯金口座がどの銀行のどの支店のものであるか見当がついている場合は、被相続人の戸籍謄本と自分の戸籍謄本、印鑑登録証明書などを持参すれば、他の相続人の同意がなくても、単独で残高証明書や取引履歴明細の開示請求が可能です。

Q. 遺産を管理している親族と連絡が取れない場合、どうするべき?

相手の本籍地の役所で戸籍の附票を取得することで、現在の住所を把握できます。その住所宛てに、内容証明郵便などで遺産分割協議の申入れ等の用件を記載した書面を送付するとよいでしょう。遺産分割協議に応じない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることなどが考えられます。

Q. 遺産を管理していただけでも責任を問われることはある?

あります。相続人は、相続の承認や放棄をするまでの間、遺産を適切に管理する義務を負っています。そのため、遺産を管理していた人が通帳や現金の管理を怠った結果、使途不明金が発生したり財産が失われたりした場合には、他の相続人から責任を追及される可能性があります。

遺産の独り占めは、法的な問題だけでなく、親族関係の悪化や長期的なトラブルにつながるおそれがあります。他の相続人から不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を行われた場合、遺産を使い込んで手元にお金が残っていなかったとしても、返還しなければならないおそれがあります。

また、独り占めされた側も、適切な対応を取らなければ権利を十分に実現できない可能性があります。相続トラブルを防ぎ、円満な解決を目指すためにも、早めの対応と事前の対策を心がけることが大切です。

(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)

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