海外に住んでいた夫の家を相続。ハワイのコンドミニアムにも日本の相続税はかかる?【相続税お悩み相談室】

税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は海外の不動産を相続したため、日本で相続税を申告する必要があるのか悩んでいます。
税理士の森田貴子さんが相続税にまつわる様々なお悩みにお答えします。今回の相談者は海外の不動産を相続したため、日本で相続税を申告する必要があるのか悩んでいます。
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夫が亡くなり、相続手続きを進めています。夫は生前、ハワイのコンドミニアムに居住しており、その物件を私が相続することになりました。私は現在日本に住んでいますが、海外にある不動産にも日本の相続税がかかるのでしょうか?税額がどの程度になるのか、手続きも含めて不安です。 (東京都在住・60歳女性)
近年では、日本国内だけでなく、海外に不動産を所有している方も増えており、「海外の不動産を相続したが、日本の相続税はどうなるのか」といったご質問をよくいただきます。
まず、相続税は、被相続人(亡くなった人)と相続人のそれぞれについて、国籍や住所、相続開始前10年以内の居住歴などの組み合わせにより、課税される財産の範囲が異なります。今回の相談者のように、日本に住所がある相続人は、税法上「無制限納税義務者」と区分されます。これは、国内外すべての財産に対して日本の相続税がかかることを意味します。つまり、日本に住んでいる人が、相続で海外不動産を相続した場合でも、それは日本で課税の対象になり、相続税の申告が必要になります。
「海外にある財産だから、日本の相続税とは関係ない」と考えるのは危険です。
ハワイのコンドミニアムについても、日本での相続税申告が必要になるのです。
国外にある不動産が日本の相続税の対象になると聞くと驚かれる方もいらっしゃいますが、実は、評価額を大きく減らすことができる「小規模宅地等の特例」という制度があります。
この制度は、被相続人(亡くなった人)が居住や事業に使っていた宅地等(その宅地の上に建物や構築物があることが条件です。所有権のある土地だけでなく、マンションの敷地利用権や借地権も含まれます)を、一定の親族が相続または遺贈により取得した場合に、その宅地等の評価額を50〜80%減額できるというものです(租税特別措置法第69条の4第1項)。たとえば、居住用宅地であれば330平方メートル(およそ100坪)までの部分について、相続税評価額を80%減額することが可能です。
相続税の節税策として知られる「小規模宅地等の特例」ですが、実は宅地の所在地に制限はなく、海外の不動産(たとえばハワイのコンドミニアム)にも適用されます。
今回のケースでは、亡くなった配偶者が生前に所有していたハワイのコンドミニアム(自宅用)を、配偶者である相談者が相続しました。
結論から言えば、このようなケースでも、配偶者が相続する場合で一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例を使って相続税評価額を大きく減らすことができます。
この「一定の要件」とは、主に以下のとおりです。
ここがポイントですが、実は、配偶者が相続する場合には、同居や居住の継続、保有期間などの追加的な生活実態要件は課されません。したがって、相談者が日本国外に居住している場合でも、ハワイのコンドミニアムについて相続税評価額の80%が減額されます。
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相続の相談が出来る税理士を探す小規模宅地等の特例は、被相続人の配偶者が相続する場合は、無条件で80%引きになりますが、他の親族、たとえば子どもが相続する場合には注意が必要です。
少なくとも相続税の申告期限まで引き続き居住、または事業を行うことが求められます。
居住継続、事業継続の要件を満たすことができない場合には、評価減の特例は適用することはできません。
被相続人と同居していた子どもなどが相続する場合には、以下の要件を満たすことで特例の適用が認められます。
一方で、被相続人と同居していなかった子どもなどが相続する場合には、被相続人に配偶者がいないことや、取得者の居住地や国籍に制限があるため、事前の確認が欠かせません。
「小規模宅地等の特例」は、要件を満たせば相続税を大幅に軽減できる制度です。特に相談者のような配偶者が相続するケースは、適用される可能性が高く、数百万円単位の節税につながることも少なくありません。
ただし、特例の適用には相続税申告期限(相続開始から10ヵ月)内の手続きが必要です。また、海外不動産を相続する場合には、日本の不動産とは異なる制度や慣習が関係してくるため、より慎重な対応が必要です。
たとえば、海外にある不動産を相続する場合、現地での相続手続き(プロベート)を経なければ名義の変更ができない国もあります。そのため、日本の相続税申告期限(原則10か月)とのスケジュール調整も含めて、早い段階からの対応が必要です。
こうしたケースでは、国際相続に詳しい税理士に早めに相談することが非常に重要です。税理士を通じて、現地の弁護士と連携しながらスムーズに手続きを進めることができます。
また、小規模宅地等の特例の適用要件の確認、評価方法の検討、必要書類の整備といった実務も、国際相続に精通した専門家であれば的確に対応してくれます。国内外の手続きが絡む相続では、早めの専門家のサポートが安心につながります。
(記事は2025年8月1日時点の情報に基づいています。質問は実際の相談内容をもとに再構成しています)
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