小規模宅地等の特例が使える「家なき子」とは?条件や考え方、必要書類を解説
相続が発生した場合において、被相続人の配偶者や同居親族が自宅の土地などを取得した際には、一定の要件の下で「小規模宅地等の特例」を適用できます。この特例を受けると相続税の大幅な減額を期待でき、被相続人と同居していない親族が相続した場合にも、「家なき子特例」に該当すれば小規模宅地等の特例を受けることができます。そこで、この「家なき子特例」について、適用要件や申告時の必要書類について解説していきましょう。
相続が発生した場合において、被相続人の配偶者や同居親族が自宅の土地などを取得した際には、一定の要件の下で「小規模宅地等の特例」を適用できます。この特例を受けると相続税の大幅な減額を期待でき、被相続人と同居していない親族が相続した場合にも、「家なき子特例」に該当すれば小規模宅地等の特例を受けることができます。そこで、この「家なき子特例」について、適用要件や申告時の必要書類について解説していきましょう。
目次
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被相続人の同居親族が自宅の土地を相続したケースなどに適用できる制度として「小規模宅地等の特例」があります。自宅の土地の場合、この特例を適用することで評価額を最大で80%減額することができるため、たとえば評価額が1000万円の土地が200万円へ減額されるなど、相続税の節税効果が非常に大きい制度です。
原則として、被相続人の配偶者や同居親族が自宅の土地を相続することが要件となりますが、被相続人と同居していない場合でも、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができ、この特例は、「家なき子特例」と呼ばれています。
なお、この家なき子特例を受けるためには、「被相続人」と「取得者」について、それぞれの適用要件を満たす必要があります。
家なき子特例を受けるためには、被相続人は以下2つの要件を満たさなければなりません。
つまり、被相続人に配偶者や同居相続人がいるのであれば、それらの人々が承継することが適切であり、その場合には「小規模宅地等の特例」の適用が可能となるため、家なき子特例は適用対象外とされています。
1.老人ホームに入居していた場合
近年では、被相続人が亡くなる直前において老人ホーム等に入居するケースも少なくありません。このような場合でも、以下の要件を満たせば、家なき子特例の対象となります。
したがって要介護認定等を受けていない場合など、上記要件を満たさずに老人ホームへ入居してしまうと、家なき子特例の適用を受けることができなくなってしまうので、ご注意ください。
2.相続人でない孫と同居していた場合
被相続人が孫と同居しているケースにおいても、その孫が相続人に該当しない場合には、先述した「配偶者や同居相続人がいない」という要件に合致するため、非同居の相続人が家なき子特例の適用を受けることは可能です。
3.別居していた配偶者がいた場合
家なき子特例を受けるためには、被相続人に「配偶者がいないこと」が要件であり、配偶者に関しては同居の事実は問いません。したがって別居でも配偶者が存在する場合には、家なき子特例の適用は不可となります。
家なき子特例の適用を受けるためには、取得者は以下の要件をすべて満たさなくてはなりません。
したがって現行制度においては、主に「3年以上に渡って第三者の所有する家屋に住んでいた被相続人の親族」が特例の対象となります。
家なき子特例の適用を受けるためには、上記のとおり取得者は複雑な要件を満たす必要がありますが、平成30年度の税制改正前は上記1~3の要件に加え、「相続開始前3年以内に、その取得者やその取得者の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと」の4点のみでした。
しかし、税制改正前の旧要件の下では、子の持ち家を親や孫名義へと変更することで意図的に“家なき子”の状態を作り出すなど、特例を受けるための租税回避行為が横行しており、そのような状況を是正するためにこのような税制改正が行われました。
税制改正後も、経過措置によって令和2年3月31日までの相続や遺贈に関しては、一定の要件の下、旧要件による家なき子特例の適用が可能でしたが、同年4月1日以降の相続または遺贈に関しては改正後の要件が適用されます。
1.被相続人である親名義の家に住んでいた
平成30年度税制改正前は、「相続開始前3年以内に、その取得者やその取得者の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと」が要件とされており、被相続人である親名義の家に住んでいた場合には家なき子特例の適用を受けることができました。
しかし、税制改正によって設けられた新要件では、「相続開始前3年以内に、その取得者やその取得者の配偶者、その取得者の3親等内の親族またはその取得者と特別の関係にある法人が所有する家屋に居住したことがないこと」へ変更されており、親名義の家は「3親等内の親族が所有する家屋」に該当するため、家なき子特例の適用を受けることはできません。
2.賃貸暮らしだが、別途収益不動産を所有している
取得者が収益不動産を所有していたとしても、相続開始前3年以内に自らがその不動産に住んだことがないのであれば、家なき子特例の適用が可能となります。
この考え方を応用すれば、家なき子特例の適用を受けるために持ち家を第三者に賃貸し、自らは別の賃貸物件を借りることで、3年経過後には家なき子特例の適用要件を満たす状況を作り出すことが可能です。
ただしそれら一連の行為に合理性がなく、租税回避行為と認められた場合には、特例適用を否認されるリスクも考えられますのでご注意ください。
3.相続開始後、申告期限までに賃貸物件とした場合
家なき子特例では、「申告期限まで所有し続けること」が要件とされていますが、その間の使用方法については制限がされていないため、賃貸物件として貸付の用に供した場合でも適用対象となります。一方で申告期限までに売却した場合には上記の所有要件から外れてしまうため、家なき子特例の適用は不可となります。
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相続の相談が出来る税理士を探す先述したとおり、家なき子特例は「小規模宅地等の特例」の1つであるため、作成する申告書類に関しても小規模宅地等の特例と同様となります。一方で申告書への添付書類については、要件を満たすことを証するものが必要となります。
1.戸籍の附票の写し
過去の住所変遷が記載された書類です。
2.「相続開始前3年以内に、その取得者やその取得者の配偶者、その取得者の3親等内の親族またはその取得者と特別の関係にある法人が所有する家屋に居住したことがないこと」を証明する書類。具体的には、取得者の賃貸借契約書及び3年以内に取得者が居住していた家屋の履歴事項全部証明書などが想定されます。
3.「相続開始時に、その取得者が居住している家屋をその取得者が過去に所有したことがないこと」を証明する書類。上記2と同様、賃貸借契約書や履歴事項全部証明書などが想定されます。
税制改正によって適用要件は一層複雑なものとなっており、相続発生前の生活実態に基因する要件も多いことから、相続が発生したときにはすでに適用可否が決まってしまうケースが大半です。したがって、家なき子特例など「小規模宅地等の特例」の適用を検討する場合には、相続が発生する前の生前対策の段階で、税理士などの専門家に相談することを検討してみてください。
(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)