目次

  1. 1. 相続登記義務化の基礎知識
    1. 1-1. 相続登記が義務化された背景
    2. 1-2. 相続登記の期限と罰則について
    3. 1-3. 義務化より前に相続した不動産も対象になる
  2. 2. 義務化された相続登記を簡素化できる3つの制度
    1. 2-1. 相続人申告登記|2024年4月1日施行
    2. 2-2. 所有不動産記録証明制度(仮称)|2026年2月2日施行
    3. 2-3. 戸籍の広域交付制度|2024年3月1日施行
  3. 3. 手続きを簡素化できる制度を利用した相続登記の流れ
    1. 3-1. 【STEP1】「戸籍の広域交付制度」を使い相続人を調査する
    2. 3-2. 【STEP2】「所有不動産記録証明制度(仮称)」で不動産を調査する
    3. 3-3. 【STEP3】遺産分割の話し合いをする
    4. 3-4. 【STEP4】相続登記の申請書類を準備する
    5. 3-5. 【STEP5】法務局に書類を提出して登記申請を行う
    6. 3-6. 【STEP6】期限に間に合わない場合は「相続人申告登記」を申請
  4. 4. 相続登記義務化に伴う手続きの簡素化についてよくある質問
    1. Q. 相続登記を司法書士に依頼すると、手続きの手間は軽減される?
    2. Q. 相続人申告登記をした不動産は売却できる?
  5. 5. まとめ 相続登記の負担が大きいと感じたら、司法書士に相談を

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今回のテーマについて詳しい解説をする前に、相続登記義務化に至った背景とその概要について、簡潔に整理して説明します。

相続登記が義務化される前は、期限や罰則がなく、相続登記をするかしないかは相続人に委ねられていました。相続登記をしないと第三者に対して権利を主張できないため、それによる不利益を被らないためには相続登記をしたほうがいい、という趣旨でした。

ただ、相続登記には手間と費用がかかるため、登記されないまま放置される不動産も数多く存在していました。

相続登記していない不動産は、相続人全員の共有財産となります。そのまま長期間放置すると、不動産を共有している相続人が亡くなった際にさらなる相続が発生し、話し合いをするべき相続人の数はどんどん増えていきます。この状態が放置され続けたことにより、話し合いがされないまま所有者不明になってしまった不動産が全国で増えていきました。

この所有者不明土地問題による経済的損失も莫大な額になったため、法律を改正して相続登記を義務化することになったのです。

相続登記が義務化されたことにより、相続登記の期限は以下のように規定されました。

  • 不動産を相続した場合:相続で取得したことを知った日から3年以内
  • 遺産分割によって不動産を取得した場合:遺産分割が成立した日から3年以内

また、正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料という行政上のペナルティーの適用対象となります。

相続登記の義務化がスタートしたのは2024年(令和6年)4月1日です。ただし、義務化が適用されるのはこれ以降に相続が発生した場合だけではありません。2024年4月1日より前に相続した不動産で、相続登記がされていない場合も義務化の対象となります。その場合は、以下の2つのうちどちらか遅いほうが期限となります。

  • 不動産の取得を知った日から3年以内、または遺産分割協議の成立日から3年以内
  • 相続登記の施行日から3年以内(2027年3月31日まで)

なお、上記のいずれか遅い日から3年以内のため、施行前の相続については最長で2027年(令和9年)3月31日まで猶予期間があります。

相続登記の義務を課すなかで、登記手続きの負担をできるだけ軽くするために、手続きの制度化が進んでいます。3つの新しい制度をポイントとともに説明します。

相続登記をするにあたり、必ずしも期限内に申請できるケースばかりではありません。たとえば、遺産分割協議が長期化し、誰が不動産を相続するか決められないまま「3年」以内という期限を迎えてしまう場合などがあります。

このようなケースでペナルティーを回避するためには、従来の制度下では、とりあえず法定相続分どおりの持分で相続人全員の共有名義にする方法しかありませんでした。しかし、これではのちに遺産分割協議が成立した際にも相続登記をしなければならず、登記申請の際に納める登録免許税も2回分かかることになります。

そこで、相続登記の義務化と同時に施行されたのが「相続人申告登記制度」です。この制度は、遺産分割協議などが長引きそうな場合に、自分が不動産の登記名義人の相続人であることを法務局に申告しておくことで、ひとまず過料の対象を回避できるものです。

相続人申告登記は、もともとの不動産登記名義人である被相続人(以下、亡くなった人)と申告者である相続人が相続関係にあることを証明できる戸籍謄本、または除籍謄本や原戸籍謄本、そして申告者の住民票を用意すれば申請でき、相続登記と比較しても容易に進めることができます。また、申請書も手間をかけずに作成できるので、負担はそれほど大きくありません。

ただし、相続人申告登記は不動産の権利を証明する登記ではないため、相続人として当該不動産を売却することはできません。また、後日、遺産分割協議がまとまるなどして自分が正式に不動産を相続した際は、あらためて相続登記をする必要があります。

【関連】相続人申告登記とは?【4月スタート】 メリットとデメリット 必要書類、費用、やり方まで解説

相続登記をする前に、亡くなった人が所有していた不動産を漏れなく調査して把握しなければなりません。相続登記をしたあとで新たに相続不動産が見つかった場合、再び遺産分割協議をして、ほかの相続人全員から署名捺印をもらい直すことになります。

現行の制度のなかで、不動産を調査する最も簡単な方法は、管轄の市区町村役場から毎年送付される「固定資産納税通知書」に記載されている不動産を確認する方法です。ただし、不動産のなかには、公共性が高く不特定多数が利用している私道のように、固定資産税が課税されないものもあります。こうした非課税の不動産は、固定資産納税通知書では確認できません。

そのため、固定資産納税通知書と併せて「名寄帳(なよせちょう)」を請求して調査します。名寄帳とは、市区町村ごとにその人が所有する不動産を一覧としてまとめたものです。ただし、全国すべての市区町村役場に請求するのはほぼ不可能なので、不完全である点は否めません。

現在は、これらの方法と、自宅等に保管されている権利証を併せて確認し、極力漏れがないように調査しています。

しかし、相続登記が義務化された以上、もっと簡単で確実な調査方法が望まれます。そこで2026年2月2日より、日本全国に所有する不動産の一覧表を法務局で取得できる「所有不動産記録証明制度(仮称)」がスタートします。この制度がスタートすると、いくつもの方法を組み合わせる必要がなく、不動産調査を一本化できます。

ただし、登記記録上の住所や氏名が変更されたことがある場合には、変更後の住所や氏名で請求しても、それ以前の住所や氏名で登記されている不動産は一覧表に記載されませんので注意が必要です。その場合は、複数の住所や氏名で請求することになるでしょう。また、この制度を全国のどこの法務局でも利用できるかどうかは、まだ正式には発表されていません。

【関連】所有不動産記録証明制度とは【2026年2月施行】 制度の概要や注意点を解説

相続登記の申請には、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本を漏れなくそろえる必要があります。従来のやり方では、本籍地を何度か変更している場合は、死亡の記載がある戸籍謄本からそれ以前の本籍地を確認し、その管轄の市区町村役場に順に請求してたどっていく方法しかありませんでした。

しかし、2024年3月1日にスタートした戸籍の広域交付制度により、請求者の最寄りの市区町村役場に請求することで、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本を一括で取得できるようになりました。

この制度により、戸籍謄本を取り寄せる負担がかなり軽減されました。ただし、兄弟姉妹の戸籍謄本やコンピューター化されていない戸籍謄本は広域交付の対象とはなりませんので、従来どおり本籍地の市区町村役場で取得する必要があります。また、広域交付制度では、第三者に取得を委任することはできません。

戸籍の広域交付の仕組みを図解。複数あった本籍地から一括して戸籍全部事項証明書などを取り寄せることができる
戸籍の広域交付の仕組みを図解。複数あった本籍地から一括して戸籍全部事項証明書などを取り寄せることができる

【関連】戸籍の広域交付とは 「どこでも、まとめて申請!」 必要書類や注意点まで解説

新しい制度を活用しながら相続登記の準備を進めていく流れを、具体的な事例とともに解説します。

【事例】 父が死亡。相続人は配偶者、長男、次男で、不動産は自宅の土地、建物以外はないと認識している。長男が中心となって相続登記を準備している。

長男の居住地の最寄りの市区町村役場に行き、長男自身の戸籍謄本を利用して、父の出生から死亡までの戸籍謄本を取得します。日時を予約して、顔写真入りの本人確認書類を持参のうえ来庁します。

申請後の流れは役所によって異なります。即日交付される場合もあれば、後日あらためて受け取りに行く場合もあります。

なお、相続登記をする際、配偶者の戸籍謄本は、父の最後の戸籍謄本と同一であれば取得は不要です。長男が請求する場合、兄弟である次男の戸籍謄本は広域交付制度の対象とはならないため、別途、次男に取得を依頼するか、委任状をもらって次男の本籍地の市区町村役場に請求します。

法務局で所有不動産記録証明制度(仮称)を利用し、父の氏名と住所をもとに、父が所有していた不動産を調査します。最後の住所だけでなく、以前の住所などでも請求し、すべての不動産を把握します。

母、長男、次男の3人で遺産分割協議を行い、誰が不動産を取得するかを話し合います。今回のケースでは長男が不動産を相続することとします。

遺産分割協議がまとまった際には「遺産分割協議書」を作成して、全員が署名をし、実印で押印します。

遺産分割協議がまとまり、遺産分割協議書も作成できたら、登記申請書とその他の添付書類を用意します。遺産分割協議により長男が不動産を取得する場合の一般的な添付書類は以下のとおりです。

  • 父の出生から死亡までの戸籍謄本または除籍謄本、原戸籍謄本
  • 母、長男、次男それぞれの現在の戸籍謄本
  • 父の登記記録上の住所と最後の住所のつながりを証明する住民票の除票、戸籍の附票
  • 不動産を取得する長男の住民票または戸籍の附票
  • 遺産分割協議書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 納税通知書のコピーまたは不動産評価証明書のコピー

【関連】相続登記の必要書類を一覧表で紹介! 有効期限や取得方法、綴じ方も解説

不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。申請は直接窓口へ持ち込む方法のほか、郵送で申請する方法と、「登記・供託オンライン申請システム」からオンライン申請する方法があります。

話し合いがまとまらない場合や相続人調査などで期限内に相続登記が申請できない場合は、相続人申告登記をしておきます。

相続人申告登記は、複数の相続人が共同で申告することもできますし、それぞれが単独で申告することもできます。申告に必要な書類は以下のとおりです。

  • 相続人申告登記の申請書
  • 被相続人と申告者の相続関係が証明できる戸籍謄本
  • 申告者の住民票

相続人申告登記をしたあと、不動産の相続人が正式に決まったら、あらためて相続登記の申請を行います。

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司法書士は、依頼の範囲内で戸籍謄本などの職務上請求(職権請求)をすることが法律で認められており、相続登記の申請に必要な戸籍謄本などをすべて取得することができます。

職務上請求では広域交付制度は利用できないため、即日ですべての戸籍謄本をそろえるのは難しいですが、司法書士は相続登記の段取りに長けているため、かなりスピーディーに進められます。

また、相続人申告登記や所有不動産記録証明制度(仮称)については、司法書士が代理することができます。

相続人申告登記は、期限内に相続登記ができない場合のペナルティーを回避するための緊急措置です。権利を示す登記ではありませんので、不動産の売却はできません。

相続登記の義務化により、3年の期限内に登記申請がされない場合は原則としてペナルティーが科されます。しかし、相続登記は手続きが煩雑で時間がかかり、また遺産分割協議がまとまらないために、期限内に完了できない可能性があります。そこで、相続登記の手続きを簡素化する「相続人申告登記」「所有不動産記録証明制度(仮称)」「戸籍の広域交付制度」という3つの新制度が用意されました。

相続登記をかかえている場合には、これらの制度を積極的に利用して期限内に相続登記を完了するようにしましょう。自力での申請は負担が大きいと感じた場合には、日常業務として相続登記を行っている司法書士への相談も検討してください。

また、遺産分割協議がまとまらずに長期化しているケースでは、早めに弁護士に相談しましょう。

(記事は2024年9月1日時点の情報に基づいています)

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