目次

  1. 1. 戸籍の広域交付とは? 令和6年スタート
    1. 1-1. 近くの市区町村窓口なら「どこでも」、全国各地の戸籍を「まとめて」申請
    2. 1-2. 戸籍の広域交付のメリット
    3. 1-3. 広域交付の対象となる戸籍と費用
  2. 2. 戸籍広域交付の注意点
    1. 2-1. 兄弟姉妹の戸籍は請求できない
    2. 2-2. 郵送や第三者による請求はできない
    3. 2-3. 対象外の戸籍もある
  3. 3. 戸籍の広域交付の申請から発行までの流れ
  4. 4. 戸籍の広域交付の必要書類
  5. 5. 戸籍の広域交付に関してよくある質問
  6. 6. まとめ|相続手続きは司法書士に相談するのが得策

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2024年(令和6年)3月1日、最寄りの市区町村役場において、ほかの市区町村役場の戸籍謄本であっても、一括して取得することができる制度が始まりました。戸籍を管轄する法務省の戸籍情報連携システムを利用した仕組みで、これを「広域交付制度」と言います。

相続や結婚などの手続きを行う際には戸籍謄本を取得する必要があります。戸籍謄本は「本籍地」を管轄する市区町村役場に請求し取得するのですが、本籍地は必ずしも住民票のある市区町村に置いていない場合もあるため、これまでは最寄りの市区町村役場に請求しても取得できないケースがありました。そのため、インターネットなどで本籍地のある市区町村役場のホームページから申請書をダウンロードし、必要書類及び郵便局で購入する定額小為替、返信用封筒を同封のうえ、郵送にて取り寄せをする必要がありました。

相続手続きの場合には、原則として被相続人(以下、亡くなった人)の出生時から死亡時までの戸籍をすべて集めなくてはなりません。出生時の本籍地から結婚や転籍などを経て本籍地を数回変更しているケースも多々あるため、郵送で取り寄せる場合には、取り寄せた戸籍謄本の記載を確認してまた別の市区町村役場に請求するという手順を出生時から死亡時のものがすべてそろうまで繰り返すことになります。

日常業務としてこのような作業を行っている法律専門家は別として、一般の人にとってこの手続きは非常に負担のかかるものでした。この負担を軽減するために、他管轄の戸籍謄本であっても最寄りの市区町村役場でまとめて請求できるようにした制度が「広域交付制度」です。

上述のように、本籍地が遠方であっても、自身の住所地など最寄りの市区町村役場で手続きに必要な戸籍謄本をすべて取得できる制度によって、かなり負担が軽減されることになります。

これまでは、亡くなった人が出生時から本籍地を何度も変更している場合、最後の本籍地にまず死亡時の戸籍謄本を請求して、取り寄せた戸籍謄本からその本籍地の前はどこに本籍地を置いていたかを確認して、その本籍地が遠方であれば、さらに郵送でその管轄の役所に請求する流れでした。そのようにして出生時の戸籍謄本を取得できるまで同じ作業を繰り返さなければなりませんでした。郵送であれば戻ってくるまでに時間もかかりますし、ほとんどの場合、1回では終わらないため、かなりの時間と労力がかかるケースが少なくありませんでした。

一方、最寄りの役所の窓口で一括請求できる制度の導入によって、取り寄せた戸籍謄本の記載を確認し何度もさかのぼって請求していく作業を行う時間や労力がなくなりました。原則的には最寄りの役所に1回出向くことにより、相続手続きに必要な戸籍謄本がそろうことになります。ただし、戸籍謄本が即日交付されない場合は最寄りの役所に2回、足を運ぶ必要があります。

戸籍の広域交付の仕組みを図解。複数あった本籍地から一括して戸籍全部事項証明書などを取り寄せることができます
戸籍の広域交付の仕組みを図解。複数あった本籍地から一括して戸籍全部事項証明書などを取り寄せることができます

広域交付制度を利用して取得できる戸籍謄本の種類と手数料は以下のとおりです。

戸籍全部事項証明書(戸籍謄本):1通450円
一般に「戸籍謄本」とは、戸籍に関する証明書の総称として用いる場合が多い語ですが、正式には「戸籍全部事項証明書」と呼びます。まだその戸籍に存命の人の戸籍情報がすべて記載されている「現に効力がある戸籍」の証明書が戸籍全部事項証明書、つまり戸籍謄本です。

除籍全部事項証明書(除籍謄本):1通750円
記載されていた人が死亡や転籍、結婚を原因として一人もいなくなったため、閉じられた戸籍の写しを除籍全部事項証明書(除籍謄本)と呼びます。

改製原戸籍謄本:1通750円
法律が改正されることによって、戸籍謄本の様式などが変更されることがあります。この新しい様式に変更(バージョンアップ)されると、前の様式は閉じられるのですが、バージョンアップされる前の戸籍謄本のことを改製原戸籍謄本と呼びます。たとえば、1994年(平成6年)の法改正では、縦書きから横書きのコンピューター様式に変更されました。

すでに述べたように、この戸籍の広域交付制度は非常に便利で負担が軽減されたものですが、すべての戸籍請求が対象となっているわけではありません。特に以下の3点に注意が必要です。

  • 兄弟姉妹の戸籍は請求できない
  • 郵送や第三者による請求はできない
  • 対象外の戸籍もある

戸籍の広域交付制度利用して請求できるのは、本人、配偶者、父母や祖父母などの直系尊属、子や孫などの直系卑属に限られています。つまり、兄弟姉妹、またはおじやおばなどの戸籍謄本を請求することはできません。

郵送請求の方法を利用して戸籍の広域交付制度を利用することはできません。この制度を利用する場合には、必ず請求者本人が市区町村役場に直接出向く必要があります。

また、通常の手続きでは、委任状を用意して第三者に請求を委託することもできますが、戸籍の広域交付制度を利用する場合は、請求者本人が窓口に出向く必要があり委任状による請求はできません。さらに、弁護士や司法書士などの法律専門家には職務上請求により、依頼者の戸籍謄本などを依頼内容に必要な範囲で職権請求することが許されていますが、戸籍の広域交付制度を利用した職務上請求は認められていません。

そのほか、以下で説明する戸籍関連書類については広域交付制度を利用して請求することはできません。戸籍抄本や除籍抄本、戸籍の附票、コンピューター化されていない戸籍に関しては、従来どおり、別途本籍地を管轄する市区町村役場に郵送または出向いて請求する必要があります。

対象外の戸籍1:戸籍抄本や除籍抄本
「抄本」とは、一部の人だけの記載事項を証明するものです。戸籍抄本や除籍抄本とは、戸籍謄本や除籍謄本に記載されているなかの1人の記載事項だけを抽出した証明書のことを指します。これらは、戸籍の広域交付制度を利用して取得することができません。

対象外の戸籍2:戸籍の附票
戸籍の附票とは、その本籍地に本籍を置いている間に登録していた住所地の変遷が記載されているもので、取得にあたって戸籍の広域交付制度は利用できません。住所の記録だけであれば、住民票(亡くなった人は住民票除票)で証明することができますが、住民票や住民票除票では前住所表記までしか記載されません。一方、戸籍の附票を取得すると、証明できる範囲が広くなります。

相続登記においては、亡くなった人の不動産の登記簿(登記記録)上の住所と最後の住所のつながりを証明する書面を添付しなくてはなりません。これは登記簿の人物と亡くなった人の同一性を書面で証明するためです。

住民票の除票では前住所までしか記載されないため、もし登記簿上の住所から亡くなるまでに2回以上住所を移転している場合には、住民票除票ではつながりが証明できず、戸籍の附票を取得する必要があります。したがって、戸籍の広域交付制度が利用できない戸籍の附票を取得しなければならない場合には、従来どおり戸籍の附票は別途本籍地を管轄する市区町村役場に郵送または出向いて請求する流れとなります。

対象外の戸籍3:コンピューター化されていない戸籍
現存する戸籍謄本の多くはコンピューター化により、手書きで作成されていた時代のものを含めてデータとして管理されています。しかし、一部何らかの事情によりコンピューター化されておらず、データとしてのやりとりができないものが存在しています。

戸籍の広域交付制度はコンピューターのデータを利用した制度であるため、データ化がされていない戸籍謄本についてはこの制度を利用して取得することができません。該当するケースは少ないものの、注意が必要です。

戸籍広域交付申請の流れは、市区町村役場によっても多少の違いはありますが、おおむね以下のような流れになります。

ステップ1:インターネットや電話で来庁予約をする
予約を必須としていない役所もあるようですが、待ち時間を短縮するためにも予約してから出向くのがよいでしょう。

ステップ2:予約した日時に役所を訪れ、申請書と必要書類を提出する
最寄りの役所にて申請書を作成し、必要書類を提出したら、戸籍の広域交付の申請が受け付けられます。

ステップ3:請求した証明書を受け取る
ステップ2からステップ3の期間を1週間程度と設定している役所もあれば、複雑でないものなどについては、ステップ2の受付日に即日交付してくれる役所もあるようです。

申請の際には、顔写真入りの本人確認書類を持参します。

具体的には、運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、運転経歴証明書、障害者手帳、在留カードなどの官公署発行のもの1点を持参します。顔写真のない健康保険証などでの申請はできません。 

そのほか、本籍地など請求の手がかりとなる情報をメモしていくなどするとよいでしょう。また、最近では申請書に捺印を求めない役所も多いですが、念のため認印を持参することをお勧めします。

Q. 戸籍の広域交付の申請から発行までにかかる期間は?

市区町村役場の取り扱いによって異なりますが、1週間程度を原則的に設定している役所もあれば、複雑でない場合などには即日交付が可能とする役所もあります。各役所のホームページに記載されている情報をもとに、予約時などに確認するとよいでしょう。

Q. 戸籍の広域交付の申請書にはどんなことを記入するのですか?

申請書の記載事項は、市区町村役場ごとに多少異なりますが、主に以下のような事項を記載します。
・請求者の情報、証明対象者との関係(続柄)
・対象者の氏名、生年月日、本籍地、戸籍の筆頭者
・必要な戸籍の範囲(出生から死亡までの分など)
・用途(相続手続きなど)
・必要な証明書の種類と通数(戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本)

Q. 戸籍の広域交付はオンラインで申請できますか?

戸籍の広域交付制度を利用した戸籍謄本の請求は、必ず請求者本人が窓口で申請をする必要があるため、オンラインでの申請はできません。なお、窓口受付の予約については、ほとんどの役所がオンラインで対応しています。

戸籍の広域交付制度を利用することによって、相続に関する手続きの書類収集にかかる手間や時間がかなり軽減されることになります。

ただし、相続手続きにおいて戸籍謄本などの収集は手続きの入り口にすぎません。相続関係が複雑な場合や複数の相続財産がある場合などは特にその後のスムーズな手続きが必要となります。

司法書士などの専門家であれば、戸籍謄本の収集はもちろん、その先の遺産分割協議書の作成、相続登記、銀行口座解約などの遺産承継業務に至るまでノンストップで依頼することができます。広域交付制度を実際に自分で利用して戸籍を集めたとしても、相続関係の手続きに関しては、司法書士をはじめとする専門家に相談しながらスムーズに進めることをお勧めします。

(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)

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