家の名義を亡くなった人のままで放置はNG! 事例付きで解説
2024年(令和6年)4月1日に相続登記が義務化されるまで、相続した家の名義変更をしなくてもペナルティーはありませんでした。そのため、現在でも長年にわたって亡くなった人の名義のまま放置されているケースが多く見られます。相続登記が放置されたままの不動産の手続きや相続登記を放置するデメリットなどを司法書士が解説します。
2024年(令和6年)4月1日に相続登記が義務化されるまで、相続した家の名義変更をしなくてもペナルティーはありませんでした。そのため、現在でも長年にわたって亡くなった人の名義のまま放置されているケースが多く見られます。相続登記が放置されたままの不動産の手続きや相続登記を放置するデメリットなどを司法書士が解説します。
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父が亡くなり、実家の名義変更をしようと法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得してみると、他界したばかりの父の名義ではなく、もっと前に亡くなっていた祖父の名義のままだったという相談もあります。
このように名義変更が放置されていた場合、たとえ父が実家を引き継いだつもりになっていたとしても、相続人全員の共有財産という扱いになります。祖父の子の代、つまり相談者の父とその兄弟姉妹が不動産を共有で所有していることになるのです。
今回、父が亡くなったので、相談者が共有者に加わったかたちになります。今後、父の兄弟姉妹も亡くなれば、その子ども(祖父からみての孫)たちも相続人になります。こうなると、孫の代を含めた相続人全員でこの相続問題を解決しなければならない事態に直面します。
相談者がすべての相続人の連絡先を知っていて、相続の話し合いができる関係性であれば、ある程度スムーズに事を進められるかもしれません。しかし、人数が多いと連絡先を知らない相続人や会ったこともない相続人が含まれてきます。
このような関係性のなかで相談者が祖父名義の不動産を自分の名義にするには、主に以下の4つの手順を踏む必要があります。
被相続人、このケースでは相談者の祖父の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本をすべて集めるところからスタートします。相続人のなかにすでに死亡している人がいれば、さらにその人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本を集めなければなりません。
そのようにして現在の相続人が判明したら、その人の現在の戸籍謄本を請求します。実際にこのようなケースですべての相続人を調査するには、かなりの分量の戸籍謄本を取り寄せることになります。
なお、原則として傍系(ぼうけい)の親族、つまり兄弟姉妹、おじ、おば、従兄弟、従姉妹の戸籍謄本は取得することができません。請求に際して、請求者と対象者がともに相続人であり相続手続きに必要であることなど、正当な理由を証明する必要があります。
相続人の現在の本籍地が判明したら、戸籍謄本を請求する際に、戸籍の附票を一緒に請求しておくと、その相続人の現在住民登録がされている住所を知ることができます。戸籍の附票とは、その戸籍に登録されている間の住所の変遷が記載されている証明書です。つまり、現在の本籍地がわかれば、その本籍地で戸籍の附票を請求することで現在の住所がわかります。
ほかの相続人の現在の住所地がわかれば、その住所に手紙を送ります。ただし、いきなり「あなたが相続人になっている不動産があり、私の名義に相続登記をしたいので協力してください」といったストレートな内容では気分を損ねる可能性が高いため、文面には十分注意しなくてはなりません。
そもそも、相手にとっては勝手に住所を調べられていた状況だけでも、かなり心情的にマイナスからのスタートです。正当な理由を証明して住所を調べたとしても、相手の気持ちを考慮した文面を心がけましょう。
相続人に手紙を送って、電話などの反応があった場合には、事情を説明して交渉をします。もっとも、全員が手紙に反応してくれるとは限りません。また、住所登録している場所に必ずしも居住しているわけではなく、手紙自体を本人が読んでいないケースもあります。
全員から連絡があった場合には、事情を説明して自分の名義にするための相続登記に協力してもらうように依頼します。ただし、その反応は相続人によってさまざまです。問題なく協力してくれる人もいれば、不動産の相続分に相当する金銭を要求してくる人もいるでしょう。
相続人全員と話ができて協力を得られることが決まれば、遺産分割協議書を作成して、そこに署名と捺印(実印)をもらいます。その際に印鑑証明書を用意してもらう必要があります。
署名捺印がされた遺産分割協議書と印鑑証明書がすべて届き、いずれも不備がなければ、申請書を作成し、そのほかの書類と一緒に管轄の法務局に登記申請を行います。
「ほかの相続人を把握する」「ほかの相続人へ連絡する」「ほかの相続人との交渉する」「登記手続きをする」という煩雑な作業を、個人で対応するのは現実的ではありません。今回のように「父名義だと思っていた不動産が、亡くなった祖父の名義のままになっていて、戸籍を調査してみると相続人が15人以上になっていた」といったケースでは、不動産登記を得意とする専門家である司法書士を頼るのが賢明です。
司法書士に依頼すれば、複雑な相続人調査に加え、各相続人への手紙の送付、あるいは遺産分割協議書の作成と送付などを一任できます。
ただし、手紙に対する反応がない場合や遺産分割に合意できずに紛争になる場合には、司法書士だけで解決することはできません。そうしたケースは、司法書士に連携している弁護士を紹介してもらい、適切な手続きを依頼することで解決に向かう道を探ります。
家の名義が先代、先々代のままで相続登記を放置していたような場合には、主に以下の4つのデメリットが浮上します。
2024年(令和6年)4月1日に相続登記が義務化されました。この新しい法律では、期限内に相続登記、あるいは相続人申告登記をしないと10万円以下の過料が科せられる規定があります。期限は不動産の取得を知った日、遺産分割により不動産を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年です。
相続登記の義務化が施行される前に相続が発生している不動産も対象となるため、2024年4月1日以前に死亡した人の名義のままになっている場合であっても、期限内に相続登記をしなければペナルティーがかかります。
不動産を売却する場合、不動産売買の契約者の名義にしておかなければなりません。死者名義のままでは売買をすることができないため、売却にあたっては相続登記をしてあることが前提となります。
相続した不動産を担保に融資を受ける場合にも、死者名義のままでは契約することができません。家を担保にローンを組む際も、前提として相続登記をしてある必要があります。
遺産分割協議をして相続登記をする前に、相続人の債権者から、自身が債務者となっている持分を差押えられる可能性があります。
たとえば、長男と長女、次女が3分の1ずつ不動産を相続するとします。このとき、長男が借金を負っており、その返済が滞っている場合、お金を貸している債権者は長男の借金を回収するために、競売を前提として長男の持分のみを差し押えることができます。
その後、差し押えられた持分が競売にかかると、その持分を買い受けた見知らぬ第三者と相続人らが、不動産を共有する状態になってしまいます。そうした事態を避けるためには、早めに新しい所有者を明確にする相続登記をしておくことが大切です。
これまでは長期間にわたって相続登記が放置された不動産が多数存在していました。つまり、放置していても特段不利益がなかったというケースも多々あるわけです。相続登記をしなくてもできることは、主に以下の3つがあります。
不動産名義が亡くなった親のままであっても、相続人のうちの誰かが固定資産税の支払いをしている限り、不動産の登記名義に関係なく住み続けることができます。
相続した時点で建物がかなり老朽化しているケースもあります。取り壊しをするのであれば相続登記を経由する必要はありません。また、取り壊しの登記である建物滅失登記をする必要があるものの、これは相続人のうちの1人からでも申請できます。
ただし、建物の敷地である土地も亡くなった人の名義のままであれば、土地については相続登記をしなければなりません。
不動産の名義変更と相続税の申告や納付には直接の関係がありません。そのため、相続登記をまだしていなくても、相続税の基礎控除額を上回っていれば相続税の申告ができますし、その義務があります。
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相続登記の相談ができる司法書士を探す相続登記をするケースのほとんどは、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、その結果に従って登記をする方法をとっています。遺産分割によって相続登記を申請するまでの流れを説明します。
法務局で相続登記の対象となる不動産の「登記事項証明書」を取得して、現在の不動産の状況を把握します。登記事項証明書は、データ化されていない時代の名残りで「登記簿謄本」とも呼ばれており、種類や構造、面積といった不動産そのものの情報や、誰が所有者か、誰の担保が付いているかといった権利関係の情報を確認できます。
遺産分割協議を通して、誰が不動産を相続するかを含めた遺産の分け方を相続人全員で話し合います。その後、遺産分割協議の結果を書面にして、相続人全員が署名または記名と捺印(実印)をします。この書面は「遺産分割協議書」と呼ばれ、相続登記の申請に必要となります。
遺産分割協議により相続登記を申請する際に、法務局に提出する必要書類は以下のとおりです。
不動産の所在地ごとに法務局の管轄が決められているため、管轄法務局に必要書類を申請します。申請は直接窓口に持ち込むか、郵送でもかまいません。オンライン申請という方法もありますが、一度きりの申請のためにオンライン申請の環境を準備するのはかえって負担になるとも言えます。
登記が完了すると、権利の証明となる「登記識別情報通知」が交付されます。郵送で受け取る場合には、申請時に本人限定郵便用の返信用封筒を付けるなどの準備が必要です。
亡くなった人名義の不動産について、自分が相続人となっているものの、不動産を相続したくない場合には、遺産分割協議でその旨を主張する方法があります。ほかの財産は受け取る意思がある場合には遺産分割協議で話し合いましょう。
次に、不動産のみならず相続関係から完全に離脱したい場合には、「相続放棄」という方法があります。相続放棄は、期限があるうえにプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになるため、いらない不動産だけを相続放棄することはできません。また、法律上相続人となることを承認するような行為をしたあとで相続放棄をすることはできません。たとえば、相続財産である預貯金を解約して自分のために使ったり、不動産を売却したりする行為がこれに該当します。
相続登記をして名義人になったものの、売却もできず管理もできないから手放したい場合には「相続土地国庫帰属制度」という制度があります。これは、相続した土地の管理が厳しい場合に、国に所有権を帰属させる制度です。ただし、この審査の条件は厳しく、申請をしても認められない可能性があるほか、負担金もかかるため、容易に利用できるものではないと考えておきましょう。
不動産の登記名義人が死亡し、相続登記をしていない状態で相続人がさらに死亡すると、相続人が増えていき、関係性も変わってきます。
たとえば、祖父名義の不動産を父の名義に相続登記する前に父の兄が亡くなったケースでは、兄の奥さんや子どもも不動産の相続人となります。関係性が良好であればさほど問題とはならないものの、お兄さんが存命のうちに相続登記を済ませておくと話がしやすかったというケースも多いでしょう。トラブルをなるべく避けるには、早めに相続登記をしておくのが望ましいです。
相続登記を長く放置しておくと相続人が増えていき、収拾がつかなくなってしまいます。特に世代をまたいで亡くなった人が所有していた不動産の名義を相続人の名義へ変更する相続登記に際して、「ほかの相続人を把握する」「ほかの相続人へ連絡する」「ほかの相続人との交渉する」「登記手続きをする」という煩雑な作業が発生し、個人での対応は難しいのが実情です。
相続登記が義務化された今、たとえば不動産の名義が亡くなった人のままでないかなど、不動産の相続状況を確認し、問題があれば早めの解決をお勧めします。自分では難しい状況にいる場合は、登記業務のスペシャリストである司法書士に相談してみるのがよいでしょう。ほかの相続人との交渉は司法書士に依頼できませんが、司法書士を窓口として相談することにより弁護士を紹介してもらえるケースが少なくありません。
(記事は2024年8月1日時点の情報に基づいています)
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