目次

  1. 1.不動産の相続税の計算ステップ
    1. 1-1. 【STEP1】相続人を確定させる
    2. 1-2. 【STEP2】相続財産を確認する
    3. 1-3. 【STEP3】相続税評価額を計算する
    4. 1-4. 【STEP4】相続税額を計算する
  2. 2. 不動産の相続税は正味の遺産総額が基礎控除額以下であればかからない
  3. 3. 不動産の相続税の負担を減らせる特例や控除
    1. 3-1. 小規模宅地等の特例
    2. 3-2. 配偶者の税額軽減
    3. 3-3. 未成年者控除
    4. 3-4. 障害者控除
    5. 3-5. 相次相続控除
  4. 4. 不動産の相続税の計算例
  5. 5. 不動産を相続する場合の注意点
    1. 5-1. 不動産の相続税は10カ月以内に申告
    2. 5-2. 相続登記は3年以内に申請
    3. 5-3. 不動産の相続では登録免許税もかかる
    4. 5-4. 不動産が賃貸用なら準確定申告や青色承認申請が必要
  6. 6. 不動産の相続税を支払えないときの対処法
    1. 6-1. 延納
    2. 6-2. 物納
    3. 6-3. 遺産の売却
    4. 6-4. 金融機関からの借り入れ
  7. 7. 不動産の相続税に関してよくある質問
    1. 7-1. 不動産の相続税に関して困ったときの相談先は?
    2. 7-2. 不動産の遺産分割の方法は?
  8. 8. まとめ 不動産の相続は事前の対策次第

「相続会議」の税理士検索サービス

まず不動産の相続税はどのくらいかかるのか、計算ステップを見ていきましょう。

不動産の相続税計算で最初にやることは、相続人の確定です。養子や認知された子がいたなど、家族も知らない相続人が実はいたというケースはしばしばあります。その場合、遺産分割や相続税額が違ってくるため、相続人確定は重要な作業です。

相続人を確定するときは、亡くなった人(被相続人)の出生から亡くなるまでのすべての戸籍謄本を、市役所の窓口で入手します。転籍で他県から本籍を移動している場合には、その移動前のすべての除籍謄本を入手する必要があります。なお、古い戸籍(制度改正で様式が変わる以前に保存されている紙媒体の戸籍)の場合、自治体の合併で取り寄せ先の市区役所が変更になっている場合もあるため、電話で問い合わせるとよいでしょう。

被相続人の戸籍謄本を入手するときは、同時に相続人の戸籍も取得します。

次に、相続財産を確認します。不動産の場合、土地や建物の固定資産評価証明書や名寄帳、登記事項証明書(いわゆる登記簿)、地図証明書、地積測量図の図面証明書などを入手します。固定資産評価証明書や名寄帳は都道府県税事務所あるいは市区役所で、登記事項証明書や地図証明書などは法務局で入手可能です。

不動産は相続時の評価額に対して課税されるため、不動産の相続税の評価額を適切に評価する必要があります。もし、実際よりも低く評価してしまうと、修正申告や延滞税などが発生する可能性があります。

不動産の評価は、土地と建物に分けて計算します。

■土地の場合
土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します。評価する土地に路線価が設定されている場合は路線価方式、それ以外は倍率方式で計算します。

・路線価方式
路線価方式は、土地の所在ごとに定められている路線価(路線〈道路〉に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額)を用いる評価方法です。路線価に奥行価格補正率などの補正率と土地の面積を掛けて、土地の評価額を求めます。

路線価は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。これは毎年公表され、2024年1月1日から12月31日までに発生した相続の場合、2024年分の路線価を使います。なお、路線価は千円単位で表示されています。

【路線価方式の計算方法】
土地の評価額 = 路線価 × 補正率 × 面積

例えば、路線価が300千円、奥行価格補正率1.00、面積200㎡の場合、評価額は300千円 × 1.00 × 200㎡ = 60,000千円(6,000万円)となります。

なお、接している道路からの奥行が通常よりも短い(長い)場合、土地の利用がしにくくなるため、奥行価格補正率で減額することができます。

・倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。その土地の固定資産税評価額(都道府県税事務所や市区町村で確認)に一定の倍率を乗じて計算します。倍率は、路線価同様、土地の所在ごとに国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認します。

【倍率方式の計算方法】
土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率

例えば、固定資産税評価額が2,000万円で倍率が1.1の場合、評価額は2,000万円 × 1.1 = 2,200万円となります。

倍率方式を用いた宅地の評価額の求め方
倍率方式を用いた宅地の評価額の求め方

■建物の場合
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。

例えば、固定資産税評価額が1,500万円の場合、評価額は1,500万円 × 1.0 = 1,500万円となります。

なお、不動産を賃貸している場合には評価方法が異なり、土地は貸家建付地として、建物は貸家として評価します。

貸家建付地の評価方法
貸家建付地の評価額 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合

例えば、自用地としての価額が6,000万円、借地権割合70%、借家権割合30%の場合、6,000万円 - 6,000万円 × 70% × 30% × 100% = 4,740万円となります。

貸家の評価方法
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 - 固定資産税評価額 × 借家権割合 × 賃貸割合    

例えば、家屋の固定資産税評価額1,500千円、借家権割合30%、賃貸割合100%の場合、150万円 - 150万円 × 30% × 100% = 105万円

次に相続税額を計算します。以下の①~⑤の流れで計算します。

①正味の遺産総額を算出する
不動産や預貯金、株、生命保険金などすべての相続財産の評価額を合計し、ローンや税金、医療費の未払いなどの債務や葬式費用を差し引いて、正味の遺産総額を算出します。

相続時精算課税制度の贈与や7年以内の生前贈与がある場合には、相続財産に加算します。

②課税遺産総額を算出する
②の金額から、基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を差し引き、課税遺産総額を算出します。

【課税遺産総額の計算式】
課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)

③各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額を計算する
課税遺産総額を、各法定相続人が法定相続分(亡くなった人の続柄で決まる相続割合。配偶者と子なら1/2ずつ、配偶者と父母なら配偶者が2/3、父母が1/3などとなる)で取得したものと仮定し、各法定相続人の法定相続分に応じた取得金額を計算します。

【各法定相続人の法定相続分に応じた取得金額の計算式】
各法定相続人の法定相続分に応じた取得金額(千円未満切り捨て)= 課税遺産総額 × 各法定相続人の法定相続分

④相続税の総額を計算する
各法定相続人の法定相続分に応じた取得金額それぞれに相続税の税率をかけたうえで、税額を合計して相続税の総額を計算します。

【相続税の総額の計算方法】
1.各法定相続人の相続税額 = 各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額 × 相続税率 - 控除
2.相続税の総額 = 各法定相続人の相続税額の合計

相続税の税率速算表
相続税の税率速算表の一覧。税率と控除額が一目でわかります

⑤各法定相続人の相続税額を計算する
各法定相続人の相続税額は、④で計算した相続税の総額を、各法定相続人の課税価格に応じて割り振る形で計算します。

【各相続人ごとの相続税額の計算方法】
各相続人ごとの相続税額 = 相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額

各相続人ごとの税額から、各種の税額控除額を差し引いた残りの額が各人の納付税額になります。

不動産を相続した場合、正味の遺産総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)以下であれば、相続税はかからず相続税の申告も不要です。

父・母・長男・長女の家族で父が亡くなった場合、基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 3(法定相続人数)= 4,800万円ですので、正味の遺産総額が4,800万円以下なら相続税はかかりません。

また、基礎控除額以上の場合でも、さまざまな特例を使うことで相続税を大きく減らしたり、結果として相続税がかからなくなったりする場合もあります。どのような控除や特例が使えるかしっかりおさえておきましょう。

【関連】相続税の基礎控除とは 遺産はいくらまで無税? 計算式から注意点まで解説

自宅や事業用の店舗や賃貸アパートなどの不動産は、残された家族の生活の本拠や今後の生活のために欠かせない財産です。しかし、相続税の負担が重ければ手放さなければならないこともあります。

このような事情を考慮し、国は相続税の負担を減らせる特例や控除を用意しています。

不動産を相続した場合、亡くなった方の自宅、事業や賃貸していた宅地等について、一定の要件を満たした場合、最高8割まで相続税の評価額が減額できる特例です。

この特例が適用されると、自宅の土地が5,000万円であっても、相続税の評価額は1,000万円となります。

【関連】小規模宅地等の特例とは? 適用要件から計算例、必要書類までわかりやすく解説

配偶者の税額の軽減とは、残された配偶者の今後の生活を守るための制度です。配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額であれば、配偶者に相続税はかかりません。

ただし、配偶者個人の財産によっては、配偶者が亡くなった場合の二次相続による相続税の負担が大きくなる可能性があります。

相続人が18歳未満(日本に住所があるなど条件あり)の場合、相続税から未成年者控除を控除できます。

未成年者控除は、未成年者が満18歳になるまでの年数(1年未満端数切上)1年につき10万円で計算した金額です。

例えば、未成年者の年齢が15歳6カ月の場合、6カ月を切り捨て15歳となるため、18歳までの年数は18歳 - 15歳 = 3年となり、未成年者控除額は、10万円 × 3年 = 30万円となります。

相続人が85歳未満の障害者(日本に住所があるなど条件あり)の場合、相続税から障害者控除を控除できます。

障害者控除は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年(1年未満端数切り上げ)につき10万円で計算した金額です。特別障害者の場合には、1年につき20万円となります。

例えば、障害者(特別障害者でない)の年齢が30歳10カ月の場合、10カ月を切り捨て30歳となるため、85歳までの年数は85歳 - 30歳 = 55年となり、障害者控除額は10万円 × 55年 = 550万円となります。

相次相続控除とは、10年以内に相続が続いて発生したときの控除です。8年前に父の相続があり、今回母の相続があれば相続税の負担は大きいものです。そうした事情を考慮した軽減策が、相次相続控除です。

相次相続控除は、前回の相続税額のうち1年につき10%ずつ逓減した後の金額を、今回の相続の相続税額から控除します。

税理士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な税理士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

不動産の相続税の相談が出来る税理士を探す

不動産を相続した場合、相続税がどのくらいかかるか見ていきましょう。

■条件
状況:父の不動産を妻と息子が相続(相続人は妻と息子2人、相続財産は不動産のみ)
家族構成:父母と長男は同居、次男は他県に居住
路線価:400千円
土地面積:300㎡
自宅家屋:固定資産税評価額1,000万円
非課税財産:先祖代々の墓
債務:150万円(未払いの税金や入院費など)
葬儀費用:200万円
7年以内に行われた生前贈与の額:550万円(暦年課税を選択)

■計算例
①正味の遺産総額を算出する
土地:400千円 × 300㎡ = 1億2,000万円
家屋:1,000万円 × 1.0 = 1,000万円
正味の遺産総額 = 土地1億2,000万円 + 建物1,000万円 - 債務150万円 - 葬儀費用200万円 + 生前贈与加算550万円 = 1億3,200万円

②課税遺産総額を算出する
課税遺産総額 = 1億3,200万円 - 基礎控除4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 3人)= 8,400万円 

③各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額を計算する
法定相続分は、妻1/2、長男1/4、次男1/4
妻  8,400万円 × 1/2 = 4,200万円
長男 8,400万円 × 1/2 × 1/2 = 2,100万円
次男 8,400万円 × 1/2 × 1/2 = 2,100万円

④相続税の総額を計算する
妻  4,200万円 × 20% - 200万円 = 640万円
長男 2,100万円 × 15% - 50万円 = 265万円
次男 2,100万円 × 15% - 50万円 = 265万円
相続税総額 = 640万円 + 265万円 + 265万円 = 1,170万円

⑤各相続人の相続税額を計算する
妻 1,170万円 × 4,200万円 / 8,400万円 = 585万円
  585万円 - 配偶者の税額軽減額585万円 = 0円
長男 1,170万円 × 2,100万円 / 8,400万円 = 292.5万円
次男 1,170万円 × 2,100万円 / 8,400万円 = 292.5万円

なお、小規模宅地等の減額適用ありの場合には、土地の評価額が1億2,000万円 - 1億2,000万円 × 0.8 = 2,400万円となります。

土地2,400万円 + 建物1,000万円 - 債務150万円 - 葬儀費用200万円 + 生前贈与加算550万円 = 3,600万円となるため、3,600万円 - 基礎控除4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 3人)= 0円となり、相続税は発生しません。

不動産を相続した場合には、以下の点に注意しましょう。

相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10カ月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に行うことになっています。

例えば、2025年7月1日に亡くなった場合には、2026年5月1日が申告期限です。遅れた場合、本来の税金とは別に延滞税がかかる可能性があります。

不動産を相続した場合、相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。正当な理由がなくその申請を怠ったときは、10万円以下の過料の適用対象となります。

不動産を相続した場合、不動産取得税は非課税ですが、登録免許税(0.4%)がかかります。ただし、2025年3月31⽇までの間は、申請により免税されます(申請書に免除について記載します)。

相続した不動産が賃貸用なら、相続が発生した日から4カ月以内に準確定申告します。

相続財産に現預金や上場会社の株など、すぐに現金化できる財産が少なかったり、遺産分割協議がまとまらず預金が引き出せなかったりすると、不動産の相続税を支払えないことがありえます。事前に対処法をおさえておきましょう。

延納は、相続税額が10万円を超え、納付期限までに金銭で納付することが困難な場合、納付を先送りできる制度です。なお、別途利息がかかります。

物納は、延納でも金銭で納付することが困難な場合に、不動産そのものでも納付ができる制度です。ただし、物納に使える不動産は、被相続人から受け継いだものに限定され、担保になっている土地などは物納ができません。

相続した不動産などの財産を売却し、その売却金で相続税を納める方法があります。ただし、「短期間で売り急いで思ったよりも値が下がってしまった」「売却で税金がかかり、納税資金が足らなくなってしまった」などのケースもしばしばあるため注意しましょう。

金融機関などから借り入れて、相続税を納める方法があります。借り入れは、通常、金融機関の審査後になり、時間がかかります。余裕を持って準備しましょう。また、相続で代が変わると借り入れがすぐには難しい場合もあるため、事前に納税資金が足りるか確認することをおすすめします。

不動産の相続税で困ったときは、税理士に相談するとよいでしょう。

相続税申告の場合、報酬は遺産総額の0.5~1%程度が一般的です。

ただし、不動産が多い、複雑な財産調査が必要になる、申告作業中に新たな財産が見つかるなどで追加の料金がかかる場合があります。初回の無料相談時に追加料金が発生するとしたらいくらになるのか、おおよその金額を提示してもらうようにしましょう。

不動産の遺産分割の方法には、現物分割、換価分割、代償分割、共有があります。

現物分割は不動産そのものを分ける方法(例:自宅は配偶者、賃貸アパートは長男が相続する)、換価分割は不動産を売却したお金で分ける方法(例:財産が自宅のみのため、自宅の売却金2,000万円を相続人で分ける)、代償分割(例:跡継ぎの長男が自宅を相続する代わりに、長男の預金から他の相続人にお金を払う)、共有(例:配偶者と長男が1/2ずつ相続)です。

なお、共有の場合、修繕や売却するときには、共有者全員の同意が必要になり、将来の相続トラブルが起きやすい可能性がありますので、注意が必要です。

不動産は一般的に評価額が高く、相続税の中でも大きな割合を占めます。そのために相続時にトラブルが起きやすいものです。

「わが家に限って、争いなどないと思っていました」という声は少なくありません。健康な今のうちから節税対策をすることをおすすめします。

(記事は2024年7月1日時点の情報に基づいています)

「相続会議」の税理士検索サービス