目次

  1. 1. 不動産の相続で使える対策とは
  2. 2. 活用できる軽減策 配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、生命保険の活用
    1. 2-1. 配偶者の税額軽減
    2. 2-2. 小規模宅地等の特例
    3. 2-3. 生命保険の活用
  3. 3. 生前からできる不動産の相続税対策
    1. 3-1. 不動産の持分の贈与
    2. 3-2. 贈与税の配偶者控除

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相続税を計算する手順として、まず、現金、預貯金、株式、家財、不動産等の財産の評価額から、借入金等の債務額を控除して課税価格(純資産価額)を算出します。

自宅の不動産の評価額を知るには、土地は路線価から登記面積を乗じた金額で概算を算出し、建物は最新の固定資産税課税明細書(通常は4~6月頃に送付されてきます)の評価額に記載されている金額を確認します。

次に課税価格(純資産価額)から基礎控除として「3000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引きます。法定相続人が配偶者のみでしたら3000万円+600万円×1人=3600万円、配偶者と子供一人でしたら3000万円+600万円×2人=4200万円となります。

課税価格から基礎控除を差し引いた結果がゼロ以下の場合は、相続税は課税されませんので納税を考慮した相続対策は不要です。しかし、この結果がプラスであれば、相続税申告が必要となり納税も発生する可能性が生じますので、相続対策を検討することをお勧めします。

相続税の計算について具体的な事例で検討します。前提として、夫が都内に7250万円(路線価29万円/㎡・面積250㎡)の敷地に2750万円の建物を自宅として所有し、その他財産として4億円を所有するとします。

相続税計算の具体事例の前提条件

相続人は、【ケース1】が妻、【ケース2】が妻と子2人(1人は同居、もう1人は別居)、【ケース3】は子2人(1人は同居、もう1人は別居)とし、それぞれ、相続により各相続人が取得する財産の価額が全財産の価額に対して法定相続分の割合になるように分割します。

【ケース1】 相続人が妻のみの場合
相続人は妻のみですので、夫の全ての財産を相続する場合は、後述する「配偶者の税額軽減」の適用により、配偶者の法定相続分について相続税は課税されません。

【ケース1】 相続人が妻のみの場合

【ケース2】 相続人が妻と子2人(同居と別居)の場合
適用できる財産の評価減は何も考慮しないで相続税額を計算すると、配偶者は法定相続分の範囲内の取得ですので「配偶者の税額軽減」の適用により相続税はゼロですが、各子供には3277万5000円ずつ相続税が課税されます。

【ケース2】 相続人が妻と子2人(同居と別居)の場合

【ケース3】 相続人が子2人(同居と別居)の場合
適用できる評価減は何も考慮しない状態で相続税額を計算すると、各子供に7605万円ずつ相続税が課税されます。

【ケース3】 相続人が子2人(同居と別居)の場合

上記の3ケースを比較すると、同じ財産を相続しても、配偶者の有無、相続人の数、誰が相続するかによって相続税額は大きく異なることが分かります。

【ケース1】のように相続人が配偶者のみで全財産を相続するならば、相続税は課税されませんので相続税対策の心配は不要ですが、【ケース2】や【ケース3】のように多額の税額が発生する場合は、相続税対策が必要と考えられます。

活用できる相続税の軽減策として、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、生命保険の活用があげられます。各軽減策について説明します。

配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した純資産額について、次の金額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかからないという制度をいいます。

  1.  1億6000万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額

上記【ケース1】と【ケース2】については、配偶者に対してこの制度が適用されています。

小規模宅地等の特例とは、被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用または居住の用に供されていた一定の宅地について評価額の減額が認められる特例をいいます。居住用の宅地については330㎡(約100坪)までを限度に80%の割合で減額されます。

この特例は、【ケース1】のように自宅を配偶者が取得する場合は、無条件に適用できます。【ケース2】のように同居親族に適用する場合は、適用要件として、その同居親族が申告期限(相続発生日から10カ月)までその自宅を所有し、かつ居住することが必要です。

事例について、自宅の土地について小規模宅地等の特例を適用すれば、7250万円の80%、すなわち5800万円の減額となります。特に、路線価が高額な土地については、この特例の適用ができれば相続税額は大幅に減額します。

生命保険については、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となりますが、死亡保険金の受取人が相続人である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額に対して、非課税限度額である500万円 × 法定相続人の数について、相続税の課税対象から外れます。

下図のイメージのとおり財産額1億円で相続人2人の前提ですと、非課税限度額500万円×法定相続人2人=1000万円の生命保険に加入することにより、相続税額は150万円軽減することができます。

生命保険の活用で変わる相続税額

事例では、法定相続人は【ケース1】は1人、【ケース2】は3人、【ケース3】は2人ですので、非課税限度額は【ケース1】は500万円、【ケース2】は1,500万円、【ケース3】は1,000万円となります。非課税限度額の範囲内で預金等の財産を生命保険に組み替えることにより、相続税が減額します。相続税が心配という方にとって、生命保険の活用は相続税対策に欠かせない検討項目となります。

相続税がかかる【ケース2】と【ケース3】について上記(2)及び(3)の対策を適用すると、相続税額は次のとおりとなります。【ケース2】は、相続税の総額が841万6600円(6555万円-5713万3400円)、【ケース3】は3010万100円(1億5210万円-1億2199万9900円)の減額となります。

【ケース2】で控除などを活用した場合の相続税額
【ケース3】で控除などを活用した場合の相続税額

生前にできる対策として、年数をかけて現金や預金をコツコツ贈与することは、効果ある対策の代表例ですが、ここでは不動産に関して生前にできる相続税対策として、(1)不動産の持分の贈与、(2)贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)についてご説明します。

自宅の土地・建物の持分を生前に贈与を行う対策です。贈与税の税率は次の表のとおりで、18歳以上の者が父母や・祖父母から受ける贈与について適用される特例贈与とそれ以外の一般贈与の2種類の税率があります。特例贈与の方が一定の範囲で税率が低く有利になっています。夫が妻に贈与する場合は一般贈与が適用され、子に贈与する場合は特例贈与が適用されます。

なお、特例贈与とは父母・祖父母等から18歳以上(贈与年の1月1日時点)の子や孫等への贈与をいい、一般贈与とは、特例贈与以外の贈与をいいます。一般贈与は、例えば、父母や祖父母等から未成年の子や孫等への贈与、夫から妻への贈与、叔父から甥・姪への贈与、兄弟姉妹から受ける贈与、あるいは、義理の父母・祖父母から受ける贈与などです。

特例贈与と一般贈与それぞれの場合での受贈金額に対応する税額と税負担率
受贈金額に対応する税額と税負担率

相続税に適用される税負担率よりも低い税負担率の範囲で年数をかけて贈与することで、相続税の負担を軽減することができます。また、不動産の持分の贈与移転は不動産取得税(税額は1.5%~3%(減額措置あり)、相続の場合は非課税)と登録免許税(税額は固定資産税の2%(原則)、相続の場合は同0.4%)の課税もありますので、これらの税負担も考慮に入れて持分贈与の有利不利を検討する必要があります。

なお、贈与者が亡くなった日からさかのぼって3年以内に贈与された財産は相続財産に加算されて相続税の課税対象になります(その贈与財産に課税された贈与税額は相続税額から控除されます)。

配偶者に贈与する場合は、相続であれば、配偶者の税額軽減の適用もあり、小規模宅地等の特例の適用も考えられますので、相続時にその効果を加味してもなお、贈与の方が有利かどうかを検討することをお勧めします。

贈与税の配偶者控除とは、結婚して20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を贈与する場合、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除できるという特例をいい、「おしどり贈与」ともいわれます。  

なお、贈与者がお亡くなりになった日からさかのぼって3年以内に贈与された場合であってもこの特例を適用して贈与された財産は相続財産に加算されず、相続税の課税対象にはなりません。

配偶者の税額控除も(1)と同様に不動産の持分の贈与ですので、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、不動産取得税・登録免許税の負担を考慮して実行の有利不利を検討することが重要です。

【ケース2】について、軽減策適用に加えて、おしどり贈与の限度額2000万円と暦年贈与の基礎控除110万円の合計2110万円分の建物持分を夫から妻に贈与する場合、相続税は139万6600円(5713万3400円- 5573万6800円)軽減します。一方で、相続に比べて概算で不動産取得税が約63万円(贈与等の3%と相続時での税率差3%)、登録免許税は約34万円(贈与時の2%と相続時の0.4%の税率差1.6%)の税負担は増えますので、税額上は約42万6600円有利となります。

将来の建物の減価や追加で生じる登記に要する司法書士報酬も考慮すると、本ケースは税額軽減効果が低く、実行は見合わせるべきと判断する方もいらっしゃると思います。その一方で、現行の民法では婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与については、遺産分割の対象から原則として除かれますので、相続財産から贈与する建物持分を外すことで妻により多くの財産を相続できる余地を残しつつ、自分が亡き後も妻が自宅に居住できるように対策をして妻を安心させておきたいと考えるならば、実行しようと判断する方もいらっしゃると思います。

このように、具体的に金額で示すことで、対策の実行の可否を自分で判断することができます。

【ケース2】について、軽減策適用に加えて、おしどり贈与と暦年贈与の基礎控除を適用した場合

今回は、活用できる軽減策や不動産の相続税対策を相続税の試算に示しながら検討しました。ただし前提が変われば、効果の有無や程度は異なります。ご自分の前提にあてはめて検討してみてはいかがでしょうか。計算が難しいという方は税の専門家に相談してみることをおすすめしますが、自ら対策を考えて効果を知ろうとする気持ちが大切です。

上記は対策の一例で、例えば配偶者居住権の活用など対策は他にもあります。いろいろな対策を試行錯誤することで、予想以上の効果を知るときは嬉しくなります。効果を金額で実感できると、どうしたらよいだろうかとモヤモヤした不安が解消して、自信をもって相続対策に取り組むことができると思います。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)

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