目次

  1. 1. 株式の名義変更はタイミングで手続きや税金が異なる
  2. 2. 上場株式の生前の名義変更とは
    1. 2-1. 名義変更の手続き内容
    2. 2-2. 名義変更に必要な書類
    3. 2-3. 名義変更時にかかる税金と株式の評価方法
  3. 3. 非上場株式の生前の名義変更とは
    1. 3-1. 名義変更の手続き内容
    2. 3-2. 名義変更に必要な書類
    3. 3-3. 名義変更時にかかる税金と株式の評価方法
  4. 4. 上場株式を相続で名義変更するときの手続き
    1. 4-1. 名義変更の手続き内容
    2. 4-2. 名義変更に必要な書類
    3. 4-3. 名義変更時にかかる税金と株式の評価方法
  5. 5. 非上場株式を相続で名義変更するときの手続き
    1. 5-1. 名義変更の手続き内容
    2. 5-2. 名義変更に必要な書類
    3. 5-3. 名義変更時にかかる税金と株式の評価方法
  6. 6. 株式の名義変更をする際の注意点
  7. 7. 株式の名義変更は税理士に相談すると安心

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たとえば、父親名義の株式を、父親から長男がもらうとします。このとき、父親が生きているのであれば、生きている人から財産をもらうので「贈与」となります。税金は「贈与税」の対象となり、一定額以上の贈与の場合は贈与税の申告と納税が必要になります。

一方、父親が亡くなったことによって、父親名義の株式を長男が引き継ぐ場合は「相続」となります。税金は「相続税」の対象となり、ほかの財産の状況にもよりますが、一定額以上の相続財産をもらう場合は相続税の申告と納税が必要になります。

なお、父親名義の株式が、東京証券取引所などに上場している上場株式か、上場していない非上場株式かによって、その株式の財産的価値の評価方法が異なります。また、手続き方法なども違ってくるので、上場株式か非上場株式かの確認が重要になります。

ではまず、上場株式を生前に名義変更し、贈与となるケースについて説明します。

具体例としては、父親が長男に対して、「ワシがいま持っている株式をお前にくれてやるから、名義変更をしてきなさい」といったようなケースが考えられます。

名義を変えるだけでも、父親(あげる人)から長男(もらう人)に財産が移転しますので、父親から長男への「贈与」に該当します。その株式の評価額によっては、財産をもらった長男が、贈与税の申告と納税をしなければならなくなる可能性があります。

名義変更の手続きは、上場株式の場合、取引をしている証券会社を通じて行います。たとえば、父親が楽天証券を通じて買っていたトヨタ自動車の株式を長男に贈与する場合、その名義変更の手続きは、株式の発行会社であるトヨタ自動車ではなく、取引証券会社である楽天証券を通じて行うわけです。

細かな手続き方法や必要な書類は、証券会社ごとに異なる可能性がありますが、楽天証券の場合では、以下の書類の提出(郵送)が必要になります。

  • 贈与契約書のコピー
  • 贈与者の印鑑登録証明書
  • 贈与手続依頼書

そして、1銘柄につき2200円、5銘柄以上は一律1万1000円の移管手数料がかかります(楽天証券、SBI証券の場合。手数料は、証券会社によって異なります)。手数料を負担するのは、贈与者(あげる人)です。

なお、名義変更の手続きをする際は、受贈者(もらう人)も贈与者と同じ証券会社に口座を持っている必要があります。

無事手続きが終わって名義変更が完了すると、まさに、贈与者から受贈者への贈与が完了したことになります。贈与税がかかるかどうかは、財産をもらった人が、1年間で合計いくらの財産をもらったかによります。

贈与税の課税方法には2種類あります。1つが「暦年課税」、もう1つが「相続時精算課税」です。

暦年課税は、年間110万円の基礎控除を超えた部分に対して贈与税をかける方法です。つまり、財産をもらった人が、1年間でもらった財産の評価額が合計で110万円以内であれば贈与税はかからないということです。

一方、相続時精算課税は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子や孫が贈与を受ける場合に使える制度を指します。贈与財産の種類や贈与回数に関係なく、合計2500万円までであれば、贈与の段階では課税せず、贈与者である父母または祖父母が亡くなったときに、相続財産に戻して相続税を計算し、相続の際に精算する制度です。

2023年度の税制改正大綱では相続に関連する課税ルールの大きな見直しがあり、相続時精算課税にも110万円の基礎控除が設けられることが決まりました。累計2500万円の特別控除とは別に、年間110万円以内なら非課税で申告不要となります。新制度は2024年1月以降の贈与から適用となります。

【関連】2023年度税制改正大綱を解説 相続時精算課税に年110万円の控除を新設 生前贈与の持ち戻し期間が7年に延長へ

暦年課税か相続時精算課税かは、受贈者が確定申告をする際に選択できます。ただし、一度でも相続時精算課税を選択すると、同じ贈与者・受贈者間では暦年課税に戻れなくなります。

どちらを選ぶにせよ、贈与税がかかるかどうかに関係してくるのが、贈与された株式の評価額です。上場株式の場合は、以下の4つの価格のうち、最も安い価格で評価されます。

  1. 課税時期の最終価格:贈与により株式を取得した日の終値
  2. 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額:贈与により株式を取得した月の終値の平均
  3. 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額:贈与により株式を取得した前月の終値の平均
  4. 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額:贈与により株式を取得した前々月の終値の平均

名義変更の手続きが終わった段階で、評価額がどの程度なのかを確認しましょう。その年にほかに贈与を受けた財産がないのであれば、評価額が110万円以内なら基礎控除の範囲内なので、贈与税の申告も必要ありません。評価額が110万円を超えている場合や、相続時精算課税を利用する場合は確定申告が必要になります。

【関連】贈与税は相続税に影響する! 贈与税の暦年課税と相続時の贈与税額控除

非上場株式とは、東京証券取引所などに上場していない(=株式を公開していない)企業の株式を指します。未公開株式とも呼ばれます。

大企業の中でも上場していない企業は少なくありません。知名度のある企業では、竹中工務店、YKK、サントリーホールディングス、エネオス、森ビル、日本経済新聞社などが挙げられます。これらの企業の株式は非上場なので、通常は一般の私たちは購入することができません。また、当然ながら中小企業の株式も、基本的に非上場ですから同様です。

したがって、非上場株式の名義変更をするというケースは、中小企業のオーナーや役員が保有している自分の会社の株式を、子どもなどに贈与するケースが一般的だと思われます。

その際の名義変更の手続きは、非上場株式なので、証券会社ではなく、その株式の発行会社で行うことになります。

中小企業などの非上場株式は、一般的に譲渡制限がついているため、贈与による名義変更もその会社(発行会社)の承認を受ける必要があります。手続き方法や費用については、会社ごとに異なる可能性がありますので、まずは発行会社に問い合わせるのが良いでしょう。

非上場株式の名義変更の手続きに必要な書類は、贈与契約書だけでなく、取締役会議事録または株主総会議事録などが必要になる可能性があります。上場株式よりも手続きに手間と時間がかかると思っておくべきでしょう。

非上場株式の名義変更によってかかる可能性のある税金は、上場株式の場合と同様、贈与税です。ただし、上場株式と非上場株式では、評価額の計算方法が異なります。

非上場株式の原則的評価方式は、評価する株式を発行した会社を総資産価額、従業員数および取引金額により大会社、中会社または小会社のいずれかに区分して、原則として次のような方法で評価をすることになっています。

(1)大会社
大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。類似業種比準方式とは、類似業種の株価をもとに、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」および「純資産価額(簿価)」の3つで比準して評価する方法です。なお、類似業種の業種目および業種目別株価などは、国税庁ホームページで閲覧できます。

(2)小会社
小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価します。純資産価額方式とは、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。

(3)中会社
中会社は、大会社と小会社の評価方法を併用して評価します。

このような評価方法は、贈与だけでなく相続の際も使用されます。ただし、事業承継の場合、2018年1月1日~2027年12月31日の10年間に行われたものには相続税や贈与税の納税を全額猶予できる「特例事業承継税制」と呼ばれる特例があります。

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贈与ではなく、相続の場合の名義変更はどうなるのでしょうか。上場株式の名義変更の手続きは、贈与の場合と同じで、証券会社を通じて行います。しかし、贈与の場合よりも手続きは少し複雑になります。

相続による名義変更に必要な書類は主に以下のとおり(証券会社によって多少異なる可能性があります)。

  • 株式名義書換請求書
  • 取引口座引き継ぎの念書
  • 相続人全員の同意書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 亡くなった人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続するもの)
  • 相続人の戸籍謄本・遺産分割協議書                 

贈与の場合に比べて、用意すべき書類が多くなっていることがわかるかと思います。その分、それなり時間がかかりそうなことは認識しておきましょう。

上場株式を相続で名義変更した際にかかる可能性のある税金は、相続税です。

相続税は、亡くなった人名義の財産(=相続財産)の評価額の合計が、基礎控除(3000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合に、亡くなってから10カ月以内に申告納税するものです。

上場株式の評価の方法は、贈与の場合と基本的に同じで、「課税時期」が「亡くなった人の死亡日」に変わるだけです。以下の4つの価格のうち、最も安い価格で評価できるようになっています。

  1. 亡くなった人の死亡日の最終価格
  2. 亡くなった人の死亡日の属する月の毎日の最終価格の月平均額
  3. 亡くなった人の死亡日の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
  4. 亡くなった人の死亡日の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額

非上場株式を相続で名義変更する際は、やはり非上場株式なので、手続きは証券会社ではなく、その株式の発行会社(その企業)に申し出る必要があります。

手続きに必要な書類は、株式名義書換請求書、取引口座引き継ぎの念書、相続人全員の同意書、相続人全員の印鑑証明書など、上場株式の場合と基本的には同様だと思われますが、その企業によってプラスアルファで用意すべきものがあるかもしれません。まずは発行会社、つまりその企業に問い合わせて確認するようにしましょう。

非上場株式を相続した際にかかる可能性のある税金も、相続税です。非上場株式の評価額は、贈与税の場合と同様です。大会社、中会社、小会社の区分による評価となります。ただし、一定の要件を満たす事業承継の場合は、先述のとおり、相続税や贈与税の納税を全額猶予できる「特例事業承継税制」と呼ばれる特例があります。

株式の名義変更に関する主な注意点をいくつか挙げると、まずは認知症リスクについてふれないわけにはいきません。認知症になると、原則として生前の名義変更ができなくなります。

それから、贈与税と相続税の申告期限にも注意しましょう。名義変更に期限はありませんが、申告納税には期限があります。贈与税は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までです。相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10カ月です。

なお、亡くなった人が、亡くなる前に株式などの売買をしていた場合は、亡くなってから4カ月以内の準確定申告(亡くなった人の所得税の確定申告)が必要な可能性もありますので、覚えておきましょう。

【関連】準確定申告の手続き、注意点をプロが解説 必要書類も

これまで述べてきたとおり、株式の名義変更は、贈与税や相続税の対象になります。上場株式の場合はそれほど複雑ではありませんが、非上場株式の場合はいろいろと難しい部分がありますので、株式の発行会社に問い合わせたり、専門の税理士に相談したりしたほうが無難です。

事業承継についても、事業承継税制を利用できるかどうか、中小企業庁による事業承継の支援策が利用できるかどうかも含め、早くから税理士などの専門家に相談しておくと良いでしょう。

(記事は2023年3月1日時点の情報に基づいています)

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