目次

  1. 1. 株式の生前贈与は相続対策として有効か?
  2. 2. 贈与税の計算の仕組み
  3. 3. 贈与時の株式の評価方法と贈与のポイント
  4. 4. 株式を受け取らない親族や贈与後のことも考慮する
  5. 5. 株式贈与の手続き方法

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■株価は常に変動する
株価は常に変動するものであるため、何も対策を行わずに、将来、相続が発生すると、値上がり後の高い株価で計算された高い相続税が課税されてしまう可能性があります。したがって、値上がり前の株価で株式を子や孫などに生前に贈与することは、相続対策として有効であるといえます。

■配当金も将来の相続財産
株式に投資をすることで、配当金を受け取ることがあります。1年当たりの配当金額は小さくても、数年、数十年で考えると大きな金額になることもあり、将来、それらは相続税の課税対象になります。株式を生前に贈与することで、贈与後に受け取る配当金は株式の贈与を受けた人(受贈者)に帰属することになるため、贈与をした人の将来の相続財産の蓄積を抑えることができます。

■小分けにしやすい株式は不動産よりも生前贈与向き
土地や建物のように高額な財産を生前贈与する場合、将来の相続財産を大きく減らすことができますが、一方で、高額な贈与税の負担が生じます。また、複数の人に贈与したくても簡単にはいきません。確かに、不動産も「共有持分」という形で小分けにして贈与することができますが、共有となった不動産を利用するときや売却するときには、共有者の同意が必要とされるため、将来、共有者同士が不仲になってしまう(わずかながらの)可能性を考えると、あまりおすすめはできません。一方、株式は1株当たりの単価が低く、小分けにしやすいため、贈与税を低く抑えながら複数の人に贈与したり、何年かに分けて贈与を行うことも容易にできます。この点からも、株式は生前贈与に適した財産であるといえます。

株式を生前贈与した場合、受贈者に対して贈与税が課税されます。贈与税はどのように計算されるのでしょうか。

贈与には暦年贈与(暦年課税制度)と相続時精算課税制度の2つの制度があり、18歳以上の人が60歳以上の父母・祖父母から贈与を受ける際にどちらの制度を使うかは、受贈者が選択できます(選択がなければ暦年贈与が適用されます)。

<暦年贈与と相続時精算課税制度>

■暦年贈与
暦年贈与を活用する場合、1年ごとに多くの人に贈与を行うことで、1年当たりの相続税軽減効果が高くなります。例えば5人に110万円ずつ贈与すれば、年間550万円の財産を非課税で移転することができます。相続税の税率は資産内容や家族構成により変わってきますが、例えば将来の相続税率が40%と想定される人だと、1年当たり220万円(=550万円×40%)の相続税の軽減になります。

また、複数年かけて贈与を行うことで、効果はさらに大きくなります。ただし、贈与者が高齢であるときなど、対策にあまり時間をかけられない場合には、贈与税を支払ってでも各年の贈与額を増やし、1年当たりの相続税軽減効果を大きくすることも考えられます。将来の相続税率が40%と想定される場合、下の表のとおり、1500万円を贈与することで最も大きな軽減効果を得ることができます。

<暦年贈与による相続税の軽減効果>

暦年贈与を行っても、相続開始前3年以内に贈与した財産は、贈与者の相続財産に足し戻されて相続税の課税対象になります。なるべく早く生前贈与を始めることが有効です。

■相続時精算課税制度
暦年贈与に比べて非課税枠が2500万円と大きいため、高額な財産を一度に贈与する場合などに使われます。ただし、相続時精算課税制度を選択した後に贈与を受けた財産は、全て相続時に贈与時の時価で足し戻され、その他の財産と合算されて相続税が課税されます(贈与時に支払った贈与税は相続税額から差し引かれます)。

相続時に足し戻される価格が贈与時の時価で固定されることから、将来値上がりする可能性が高い財産(株式)や収益を生む財産(賃貸不動産)などは、相続時精算課税制度を使って贈与することが有効と考えられます。

一度、相続時精算課税制度を選択すると、当該贈与者からの贈与については二度と暦年贈与に戻ることができなくなるため、相続時精算課税制度の適用を受けるかどうかは、「かなり」慎重に判断する必要があります。

■上場株式
贈与を受けた上場株式の評価額(相続税評価額)は、以下のうち最も低い価格になります。

 1  贈与日の最終価格
 2  贈与月の最終価格の平均額
 3  贈与月の前月の最終価格の平均額
 4  贈与月の前々月の最終価格の平均額

値動きを読むのが難しい上場株式ですが、例えば株価が上昇局面にあり、株価が上昇した後に贈与を行ったような場合でも、3か月前の低い株価で贈与税額が計算されるため、贈与税額を低額に抑えることが可能です。「贈与日の最終価格>相続税評価額」であり、かつ、両者の金額に最も開きがある株式(値上がり幅の大きな株式)を贈与することが最も効果的です。所有する上場株式の評価総額が高額である場合などには、相続時精算課税制度を活用することが考えられます。ただし、一般的には、上場会社の大株主でない限り、議決権の割合を意識する必要性はないため、暦年贈与により、なるべく多くの人に、長い年月をかけて贈与を行うことが有効です。

■非上場株式
非上場株式の相続税評価額の算定方法は複雑であるため詳細な説明は割愛します。評価のポイントは以下のとおりです。

  1. 類似業種比準価額(上場会社の「株価」に、上場会社と対象会社の「配当」、「利益」、「純資産」をそれぞれ比較して計算した割合を乗じた価額)と純資産価額(対象会社の所有する資産・負債を時価評価して計算した価額)のブレンド
  2. 会社の規模(総資産額、従業員数、売上高により判定)に応じて上記のブレンド割合が変わる
  3. 株主の属性(少数株主である場合)や、会社の状況(対象会社における株式等の保有割合が50%以上である場合など)によっては、特別な方法により評価される

非上場株式の相続税評価額は、上場株式の株価、対象会社の決算内容、税制改正などによって、大きく変動することがあります。したがって、定期的に株価算定を行うことをおすすめします。また、一定の要件を充たすことで贈与税の全額の納税が猶予される制度(事業承継税制)もあるため、非上場株式を贈与する際には、税理士などの専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

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株式の評価額は高額になることもあるため、株式を特定の親族だけに贈与し、他の親族に渡す財産との間に金額の不均衡があると、相続後に「特別受益」や「遺留分侵害」の問題が生じる可能性があります。株式を受け取らない親族のことも考えて、その他の財産(現預金や不動産)を残すなど、手当てをしておくことが大切です。

特別受益
一部の相続人だけが被相続人から生前贈与などを受けた場合の、その相続人が受け取った利益のこと。相続人間の不公平をなくすよう、遺産分割の際に調整計算がされることがある。

遺留分
兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限相続財産の一定割合を取得できる法定の権利のこと。遺留分を侵害された相続人は、一定の期間、侵害者に対し遺留分侵害額請求を行うことができる。

また、受贈者が贈与により受け取った株式を売却する際の譲渡所得税の計算における取得費(原価)は、贈与者が当該株式を取得したときの価額を引き継ぎます。資料がなく取得価額が不明であれば、株式の売却金額の5%相当額(概算取得費)で計算するほかなく、高額な譲渡所得税の負担が生じる可能性があります。受贈者には株式取得時の資料も渡してあげましょう。

 譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)

■上場株式
証券会社ごとに所定の手続きが必要です。一般的には、贈与当事者間の株式贈与契約書や証券会社宛の移管依頼書などの提出を求められますが、証券会社ごとに必要書類が異なるため、詳しくは各証券会社にご確認ください。なお、同一銘柄を「特定口座」から「特定口座」へ贈与できるのは1回限りになります。贈与しようとしている銘柄と同一銘柄がすでに受贈者の特定口座内にある場合、特定口座では受け入れることができず、2回目以降は「一般口座」で受け入れることになりますので、注意が必要です。

■非上場株式
大半の非上場会社では、株式に譲渡制限が設けられています(非公開会社)。非公開会社の株式の贈与を行う場合には、会社から「譲渡承認」を得る必要があります。また、株券を発行していない会社の株式を贈与する場合、贈与時の法務書類(贈与契約書など)に不備があると、後日、株式の名義に関するトラブルが生じる可能性があります。法務書類をきちんと作成し、保管しておくようにしましょう。

(記事は2022年9月1日現在の情報に基づきます)

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