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事業承継で自社株を相続する場合の評価方法とは? 税理士が解説
日本経済を支える多くの中堅中小企業では、会社経営者が、会社株式の過半数を保有している、いわゆるオーナー社長であるケースがほとんどです。そのため、会社の事業承継を考える際には、社長職を継ぐだけでなく、自社株式という財産を、どのように後継者に移転するか、そのためにどの程度の税金がかかるかを検討することが重要です。今回は、自社株式に加え、その他事業に必要な承継すべき財産としてどのようなものが考えられるかを紹介します。そして後継者が自社株式を相続することを想定し、自社株式の評価方法について解説します。
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1. 事業承継に必要な財産のうち相続税の課税対象となるものは?
オーナー社長が後継者への事業承継を考えた場合、多くの場合、自社株式がもっとも評価の高い財産となるでしょう。
自社株式の評価方法については次の項目で解説いたしますが、「業績が好調」で、「内部留保が厚い」会社ほど評価額が高くなる傾向にあります。このような、一般に会社にとって望ましいといえる要素が、一方で評価額の上昇、言い換えれば税負担の増加につながるので、優良企業のジレンマとも言えます。
自社株式以外にも、会社事業に使用している社長個人の財産があれば、これらも後継者に引き継いだ方が、経営はスムーズでしょう。例えば、会社が自社ビルや工場などを建てている敷地を、社長個人が所有している場合などです。
他に、見落としがちな項目として、社長から会社への貸付金もあります。
社長個人の現預金を会社の運営に充てた場合や、業績が苦しい時に社長への役員報酬を未払いとした場合など、これらは会社にとって社長からの借入金、社長から見れば、会社への貸付金として処理されているケースが多くあります。
貸付金も相続財産ですので、相続税の課税対象です。
また、社長名義以外の財産が、時には相続税の課税対象となることもあります。特に注意が必要なのは、「名義株」といわれる、社長親族などの名義になっている自社株式です。
以前は株式会社を設立するために、発起人が7名必要だったので、実質は社長が出資しているにもかかわらず、他人の名義だけ借りて、株主名簿などに記載をしていることが間々あります。
このように名義は他人であるものの、実質は社長の財産である自社株式を「名義株」といいます。税務署は、形式ではなく実質的な所有者に基づいて税金を考えますので、「名義株」も、社長の相続税の課税対象と指摘されることがあり、注意が必要です。
以上のように、事業承継にかかる相続税を考える際には、社長名義の自社株式はもちろんのこと、後継者に移転すべき他の財産、精算すべき会社との貸し借り、整理すべき株主構成など、様々な財産に注意がいることも認識の上、自社株式の評価について見ていきましょう。
2. 自社株式の「原則的評価方式」について
上場企業の株式であれば証券市場における価額は明白ですが、多くの企業はいわゆる「未上場会社」です。未上場株式である自社株式は、相続税の計算上、どのように評価するのでしょうか。
相続税、および贈与税を考える上での、未上場株式の評価には、「原則的評価方式」と「特例的評価方式」という二つの方法があります。ただし、「特例的評価方式」は経営には関与しない従業員や社外株主など、極々少数の株式を保有される方に適用される評価方法です。そのため、通常は後継者の方に適用されることはありませんので、今回は説明を割愛します。
「原則的評価方式」は、「類似業種比準価額」と「純資産価額」という二つの評価額を算定し、それぞれを一定割合で組み合わせる折衷方式によって、自社株式を評価する方法です。よって、二つの評価額がどのような仕組みで計算されるのか、そしてどのように組み合わされるのかを知ることで、自社株式の評価額をイメージできます。
まず、「類似業種比準価額」は、同業種の上場会社の株価をベースに、自社の「配当」「利益」「簿価純資産」の3要素について、自社と上場会社を比較・調整して計算する方法です。
このため、自社の「高額な配当」「高い利益水準」「厚い内部留保」という要素が増すほど、評価額が高くなる仕組みとなっています。
なお、各業種の指標および株価は、国税庁より定期的に公表されています。公表される株価の基となる具体的な企業名は明らかにされていないものの、概ね日経平均株価の推移と同じような動きをしています。
一方、純資産価額は、会社の清算価値に着目した評価方法です。会社の資産を、相続税評価による時価評価をした上で、負債と、含み益に対する「法人税等相当額」を控除して算定します。
現在は業績が低調な会社であっても、何十年も前に取得した土地や、有価証券などで、多額の含み益がある資産を保有している場合、純資産価額が想定以上に大きくなることもあるため、注意が必要です。
最後に、「類似業種比準価額」と「純資産価額」を、自社の「会社規模」に応じて定められた一定割合で組み合わせることで、評価額を算定します(ただし、「純資産価額」のみによる評価も認められます)。
「原則的評価方式」を考える際の「会社規模」は、業種によってそれぞれ定められた、「従業員数」「総資産価額」「売上高」の要素によって、求める仕組みとなっており、これらの要素が大きくなるほど、会社規模も大きくなります。
多くの会社で、評価額は「類似業種比準価額」の方が「純資産価額」よりも小さくなる傾向があります。このような会社の場合、会社規模が大きい方が、「類似業種比準価額」の割合を、より多く組み合わせられるため、会社規模が大きいほど、自社株式の評価は逆に小さく計算されやすいと言えます。
なお、相続税・贈与税を考える際の評価は、会社の財産に占める土地や株式など特定の資産の割合が大きい場合や、連続して配当や利益がゼロである場合など、特殊な評価が必要なこともありますので、正確な評価は、税理士など専門家の方に相談されるほうがよいでしょう。
3. 相続税額の算出には、会社事業とは関係がない財産も把握が必要
自社株式の評価額が分かり、その他事業に関連する社長の個人資産を把握しても、それだけでは後継者にかかる相続税を計算することはできません。
なぜなら相続税は、事業に関連するか否かに関係なく、社長が所有する全ての財産・債務の評価額に基づいて計算されるからです。その上で、計算された相続税の総額のうち、後継者が相続した財産の価値に応じた部分が、後継者の負担すべき相続税として、割り当てられる仕組みとなっています。
例えば、後継者である子どもが同じ自社株式1億円だけを相続するとしても、社長の総財産が2億円の場合と5億円の場合では、後継者の相続税負担は変わってきます。
社長の中には、会社事と個人事を切り離して考えられる方も少なくはないですが、事業承継に係る相続税を把握するためには、会社と個人の財産を分けて考えることはできません。そのため、事業承継の相談をする専門家には、会社の税金だけでなく、相続税や、事業承継の分野に強い方を選択することが望ましいでしょう。
上記でも述べましたように、自社の業績が良く、同業種の上場企業の株価が高いほど、自社株式の評価は高くなる傾向にあります。
一方で、昨今の新型コロナウイルスの影響で、業績とともに、上場株価も下がる可能性があり、言い換えれば、税負担が少なく、自社株式の移転をできる状況にあるかもしれません。
大変な状況下において、今後の会社経営のために何ができるかの検討項目の一つとして、事業承継を加えていただくのも手かもしれません。
(記事は2020年5月1日現在の情報に基づきます)
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