目次

  1. 1. 遺産相続で所得税の申告が必要なことも
  2. 2. 亡くなった人の準確定申告が必要な場合と手続き
  3. 3. 相続人の確定申告が必要な場合と手続き
  4. 4. 相続のときの確定申告の注意点
  5. 5. 確定申告は税理士に相談を

遺産相続をしたときに申告すべきなのは、相続税だけに限りません。相続前後の状況によっては、被相続人(以下「亡くなった人」)​​や相続人の所得税の申告が必要です。

1-1. 亡くなった人の所得税の申告は「準確定申告」

亡くなった人の所得税の申告は、相続人が行います。この手続きを「準確定申告」といいます。準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内が原則です。手続きなどの詳細は後ほど説明します。

1-2. 相続人の所得税の申告は「確定申告」

相続人自身の所得税の申告手続きは、通常の確定申告と同様です。確定申告と納税は、申告すべき所得などが発生した翌年の2月16日から3月15日の間に行います。ただし、還付申告の場合は、翌年1月1日から5年行うことができます。

亡くなった人に家賃収入や事業収入などがあった場合、準確定申告や納税が必要となる可能性があります。また、年金生活者や給与所得者でも、準確定申告をすると還付金をもらえるかもしれません。基本的なルールを見ていきましょう。

2-1. 準確定申告をしなくてはならない場合

次のいずれかに該当する場合、準確定申告をしなくてはいけません。

  • 1カ所から給与所得を得ていて、その他の所得(退職所得を除く)の合計が20万円を超えている。
  • 2カ所以上から給与所得を得ている。
  • 給与収入が年2000万円を超えている。
  • 公的年金等にかかる納税が発生する(ただし公的年金等の収入が年400万円以下の場合は申告不要)。
  • 不動産収入や事業収入など、申告すべき所得がある。
  • 生前に株式や不動産などを売却し、譲渡所得にかかる納税が発生する。

2-2. 準確定申告をしておいたほうがいい場合

準確定申告をする義務はない人でも、還付金をもらえる場合は申告しておいたほうがお得です。たとえば、年金や給与などから所得税を源泉徴収されていて、医療費控除や雑損控除などの所得控除を使える場合が該当します。

このほか、特定口座で株式運用をしていて損失の繰越控除を使う場合や、配当控除を利用する場合など、準確定申告をしたほうがお得なケースがいくつか考えられます。

2-3. 準確定申告の対象となる期間に注意

所得税の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間をベースに計算します。準確定申告の場合、死亡した年の1月1日から死亡日までの期間までの集計となります。

ただし、1月1日から3月15日までの期間に死亡した場合は注意が必要です。たとえば令和5年(2023年)1月31日に死亡した場合、次の2パターンの準確定申告を行うべきかを確認しましょう。

  1. 令和4年分の準確定申告(令和4年1月1日〜令和4年12月31日の期間を集計)
  2. 令和5年分の準確定申告(令和5年1月1日〜令和5年1月31日の期間を集計)

2-4. 準確定申告の期限とは

準確定申告で納税が必要となる場合、相続開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に申告と納税を済ませる必要があります。還付申告の場合は申告期限はありませんが、5年で還付請求権が消滅するため、早めに手続きをしておきましょう。

2-5. 準確定申告の対象となる所得は

準確定申告の申告は、亡くなるまえに生じた所得を集計して行います。所得の計算は、所得の種類ごとに異なります。たとえば給与所得と事業所得では、計算方法が違います。亡くなった人の生前の確定申告書の控えなどを参考に、申告書を作成してください。

2-6. 準確定申告の対象となる控除は

準確定申告の対象となる所得控除や税額控除は確定申告と基本的に変わりません。ただし、死亡日以前に生じたものを申告する点に注意してください。たとえば医療費控除を使う場合、生前に支払った医療費を集計します。

2-7. 準確定申告を申告する人

準確定申告の手続きは、相続人全員で一つの申告書に連署して申告を行うのが原則です。ただし、別々に申告をすることも認められています。その場合、相続人同士で申告内容をお互いに通知しなくてはいけません。

2-8. 準確定申告で提出する書類

準確定申告書でも、基本的には通常の確定申告書の書式を使い、添付書類も同じです。ただし、確定申告書とともに「準確定申告書の付表」をつける必要があります。

また、準確定申告にかかる還付金の受領を相続人代表に一任する場合は、「委任状(準確定申告用)」を添付しなくてはなりません。

2-9. 準確定申告書の書き方

準確定申告には通常の確定申告書を使用しますが、亡くなった人の氏名や死亡日などを付記することを求められています。記載例は以下を参考にしてください。

出典:「死亡した方の準確定申告をする場合の記載例②​​」(国税庁)
出典:「死亡した方の準確定申告をする場合の記載例②​​」(国税庁)

2-10. 準確定申告での納税と還付

準確定申告の結果、納税になる場合、相続人全員で負担するのが原則です。ただし、相続人代表が1人で負担しても構いません。還付金についても同様です。

準確定申告については下記の記事でも取り扱っています。ぜひ参考にしてみてください。

【関連】準確定申告の手続き、注意点をプロが解説 必要書類も

相続後、遺産などを受け取った相続人自身が確定申告を行うケースがあります。代表的なケースを見ておきましょう。

遺産相続をしたあと、相続人の確定申告が必要な場合

3-1. 死亡保険金を受け取った場合

相続人が死亡保険金を受け取ったときは、その保険料を誰が払っていたのかを確認しましょう。相続人自身が保険料を負担していたのなら、死亡保険金は一時所得として取り扱われます。この場合、受け取った保険金や、それまでに負担した保険料などに基づき一時所得を計算します。

なお、保険料を負担していた人によって、かかる税金の種類が異なります。下の表を参考にしてみてください。

生命保険の被保険者と保険料を負担する人によって変わる税金

3-2. 相続した賃貸物件から家賃収入が生じた場合

賃貸アパートやマンションを相続したら、家賃収入が発生します。家賃収入は不動産所得として確定申告を行わなくてはなりません。

3-3. 亡くなった人の事業を引き継いだ場合

亡くなった人の個人事業主としての事業を引き継いだら、事業所得の申告が必要です。亡くなった人の生前の確定申告書の控えや契約書などから情報収集し、所得を計算しましょう。

3-4. 相続した財産を国などに寄付した場合

相続財産を国などに寄付すると、その財産が相続税の対象から外れる特例があります。また、寄付をした相続人が寄付金控除を確定申告することで、所得税の還付を受けられる可能性があります。ただし、不動産の寄付は「みなし譲渡」として課税対象になるケースがあり、事前にしっかり確認しておくことが大切です。

3-5. 相続した不動産を売却した場合

相続した不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、確定申告が必要です。このとき、譲渡所得の特例を使うことで税負担を抑えられる可能性があります。

たとえば亡くなった人の居住用財産を売ったときの「空家特例」や、相続財産を売ったときに使える「取得費加算の特例」といった制度があるので、これらをうまく活用するといいでしょう。

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4-1. 未払いの医療費や未納の税金は控除対象に

亡くなった人が生前に入院などをしていた場合、未払いの医療費があるはずです。また、未納の税金や社会保険料などもあるかもしれません。このような債務は、相続税の債務控除の対象になります。

また、亡くなった人から引き継いだ事業にかかった必要経費や、相続開始後に支払った医療費など、相続人自身の確定申告に関連する支払いもあるはずです。このような情報を整理することが節税に役立ちます。

4-2. 還付金は亡くなった人に、還付加算金は相続人に帰属する

準確定申告を行って還付金を受け取った場合、これは相続財産として相続税の対象になります。いっぽう、還付加算金については相続人自身に帰属するため、相続人の雑所得として所得税の対象となります。

4-3. ほかの手続きや消費税の確定申告にも注意

今回の記事では所得税の申告手続きについて解説しました。しかし、必要な手続きはこれだけではありません。亡くなった人が個人事業主や不動産オーナーだったなら、廃業届や青色申告の取りやめの手続きが必要です。また、消費税の課税事業者であれば消費税の申告も必要となる可能性があります。

所得税の確定申告は相続税と違って毎年あるため、「自分でできる」と思うかもしれません。

しかし、実際に申告手続きを行うことは簡単ではありません。特に相続と関連する申告の場合、申告義務の判定や情報収集、特例の検討など、難しい問題が多くあります。少しでも不安があれば、早めに専門の税理士に相談し、手続きを委任するとよいでしょう。​​相続会議では全国の税理士を検索できるサービスを展開しています。ぜひ頼れる専門家を探して円滑に申告手続きを行ってください。

(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)